1学期の期末試験が終わり、もうすぐ夏休みを迎えようかという所、
珍しい人物からメールを受け、呼び出されていた。
学校から少し離れたところにあるライブハウスだ。
中間試験、期末試験があったが、五つ子達は当然のようにクリア。
もう卒業までの学力という点は問題ないだろう。
いよいよ、彼女たちも受験や卒業後を考えるステージまで上がったという事だ。
「久しぶりだな。有坂。」
「やあ。片倉くん。お招きいただき光栄だ。
結局初めてきたのが今日になってしまった。」
「有坂ー!久しぶり!」
「ふふ。私は修学旅行でちょっとだけ会った。」
「ナギっちー!会いたかったよ!」
俺をライブハウスに呼び出した人物。
2年の時にクラスメートだった、片倉くん、伊達くん、川村さん、屋代さんである。
そう、この4人。バンドを組んでいるのだ。ライブチケットを貰ったので見に来た。
今までも定期的に頼まれて買っていたんだが、
バイトが入るわ家庭教師になるわで行けてなかった。
今回はライブチケットをタダで貰った。最近結構客が来るらしい。
父さんな、バンド活動で食ってこうと思うんだ がリアルになりつつある。
多分お小遣い程度の収入ではないかと思ってるんだが。
「あら。有坂くん。あえて嬉しいわ。」
「よお、有坂。正月はわたあめありがとな。」
「毛利さんと葛城さんか。」
「二人は良く来てくれるんだぞー!」
「へぇー。」
「リンたち、結構上手いのよ。中学校からやっているから。」
「ああ。聞く価値、あると思うぜ。」
「良いね。楽しみにさせてもらおう。」
そんな話をしていたら、人がぞろぞろと集まってきた。
結構広い部屋だったけどな。すぐ埋まってしまったぞ。
しばらく待っていると、演奏が始まった。
屋代さんのキーボードのから流れるピアノに似た綺麗な音が特徴的なロック。
そこに、ギター二名。片倉くんと川村さんだ。
どっちがベースなのかはわからない。楽器は詳しくない。
ドラムは伊達くん。似合ってるな。乗ってきたらドラム投げて壊してそう。
歌はない。これはあれだな。
今からバンドの演奏が始まりますよ的なウォームアップの曲か。
そんな曲が終わってから、川村さんが口を開いた。
「みんな、集まってくれて、ありがとうございます。
じゃあ早速行きましょう!曲はーーーー」
「どうだった?有坂くん。」
「毛利さん。やるね彼ら。俺も乗ったよ。
相当うまいと思うんだけど。」
「そうでしょ?でも、高校でやめるらしいの。残念ね。」
「あらら。」
演奏したのは全て俺も知っているくらいに一般的に有名な曲ばかり。カバーと言う奴か。
オリジナルの曲は無かった。その辺も、続けない理由かな。
最初のBGMだけは聞いたことなかったが。
「有坂くん。どうだった?楽しんでくれた?」
「ああ。川村さん。有名な曲ばかりだったからね。俺でもよくわかる。
こんなに上手いとは思わなかったよ。もっと前から都合をつけて行っておくべきだった。」
「ありがと。・・・それでね。ちょっとお願いがあるの。
こっちの部屋、来てくれるかな。」
バンドの控室に案内される。
片倉くん、伊達くん、屋代さん。みんな居た。
「来たか。有坂。満足してくれたか?」
「勿論だよ。」
「そうか。川村から聞いたと思うが、頼みがあってな。」
「そーだぞ!大事な話だ!」
「ナギっちにしか頼めなくてさー。」
「要件、聞こうか。」
「今年は・・・・日の出祭があるだろう?
そこで、演奏しようと思うんだ。」
「おー。ステージね。」
日の出祭。夏休みが終わった後の2学期に開催される。
学園祭自体は毎年あるが、今回は3年に1度の盛大な学園祭。旭高校はかなり力を入れている。
メディアも来たりするらしい。
「うちら、高校でバンド辞めちゃうからさー。
良い思い出になると思うんだ!」
「うん。」
「そこでね・・・・・有坂くんにも、メンバーの一人として参加してほしいの。」
「は?」
え?バンドやんの?俺。
無理っしょ。シンバルでもやれって言うのか?オーケストラじゃないぞ?
「有坂、落ち着いて聞いてくれ。実はな、ボーカルが一人欲しい。
現状、私と川村で担当してはいるが、出来れば演奏の方に集中したい。
大事な日の出祭だ。クラスメートの前でミスはしたくない。」
「・・・うん。」
「ボーカルが欲しいんだけど、誰でもいいってわけじゃないの。
演奏する曲は、もう大体決めてる。私達が演奏に一番自信のあるバンドの曲。
それを歌える人じゃないとダメなの。」
「うん。」
「それがこの曲だぞー!」
「・・・・ああ。なるほどね。」
洋楽だ。とんでもなく有名な曲。
知っている人は多いし、歌える人はその辺にも結構いるだろう。
「ナギっちが洋楽めっちゃ上手に歌えるって聞いたんだー!
その辺どうなのどうなの?」
「このバンドはもちろん知ってるよ。歌える。
しかしステージで大勢に向けてやるとなるとなぁ。ちょっと無理だ。」
「お前なら、そう言うと思っていた。だからこれを付けよう。」
「・・・・・お面ね。」
「・・・・お前にはピッタリだろう?」
「片倉くん。面白い事言うね。」
片倉くんが手渡してきたのはお面。林間学校の伝説再び。
あのお面を使う気はない。他の物を用意した方が良いだろう。
「有坂くん。お願い。一緒に歌ってくれない?
もちろん、私と片倉くんでコーラスはするよ。」
この4人には世話になったし。
ちょっと頑張ってみようか。お面付けてるなら良いや。バレないだろ。
「わかった。良いよ。ただ、俺の歌を聞いてから判断した方が良い。」
「ナギっち上杉くんと中野さんからめっちゃ上手いって聞いたよ?」
「あの二人が発信源か・・・・・」
中野さんは・・・一花だろう。一花の前でしか歌ってないからな。
「でも確認は大事だぞ!早速1曲やってみよう!」
「うん。」
「じゃあ、行くよ?準備良い?」
「ウォームアップしたかったけど、良いよ。一発で行こう。」
「有坂くんの歌声が聞けるのね。感動的瞬間だわ。」
「ほー、有坂かぁ。」
「二人とも、まだ居たのかい。まあ、キミたちなら良いか・・・・」
「始めるぞ!」
この曲はドラムから始まる。伊達くんの合図で始まった。
♬~~~~
『ガキだった頃、君が唯一の友達だった・・・・・・・・・』
~~~~♬
「どうだい。合格だったかい。」
「有坂。想像以上だ。もうお前しか考えられない。
短い間だが、よろしく頼む。」
「そりゃ嬉しいね。けど俺より上手い奴は結構いるんじゃ・・・」
「有坂は歌い方が良いんだぞー!聞いてる人も楽しくなるんだ!
それってバンドでは重要なんだ!」
「ははは。褒めても何も出ないよ。伊達くん。」
「ナギっちはやっぱエンターテイナーだわー」
「有坂くん凄いねー。なんでもっと早く教えてくれなかったの?」
「有坂くん。もう一度歌ってほしいのだけど。カメラを回すのを忘れていたわ。」
「絶対やらねぇ。」
「やるなぁ有坂。日の出祭、楽しみにしとくぜ。」
こうして日の出祭のライブボーカルの助っ人が決まった。
これからは度々こっちの練習に参加することとなりそうだ。
「修学旅行も終わり、高校生活も残すところ半年。
お前らの学力も上がり、5人でそろって笑顔で卒業できるめども立ってきた。」
図書室。上杉先生による演説が行われている。
今日は五つ子全員がいる。もうすぐ、みんな大好き夏休みに差し掛かるという時期だ。
「そこで・・・・夏休みの間は家庭教師のバイトを休むことにした。」
「そ、そうですね。上杉くんも受験勉強があるでしょうし。」
「凪。お前はどうする。」
「行ける時にはいくけど。頻度はかなり落ちるね。
ついこの前新しい仕事を頼まれちゃって。
俺はまあ、行ける大学にしか行かないからねぇ。勉強はそこそこで。」
「上杉さん。たまには遊びに来てくださいね?」
「それとも一緒に海に行く?同級生の水着が見られるよ~。」
「い、一花ぁ!」
「フータロー・・・・?」
「ま、まあ。暇があればな。」
「上杉くん!受験生にとって夏休みは勝負の季節ですよ!ナギくんも!」
「すいません。」
五月に怒られた。でも背伸びする気はないし。
その後苦労するだけですよ。
「ていうか、お前こそ大丈夫なのか?受験勉強・・・・」
「・・・・う。」
その反応よ。
五月はやっぱり模試の調子が良くなかったらしい。
「あと、これは俺からの誕生日プレゼントのお返しだ。」
「これは・・・・アルバム。」
「凪や班の連中に頼んで、作らせてもらった。
お前ら5人の・・・思い出の記録だ。」
俺と前田くんが撮影し、風太郎がそこから写真を厳選。
武田くんがシーンや人物に応じて写真の順番を整理し、毛利さんが仕上げたアルバムを渡す。
姉妹の写真のみだ。通行人を除き、そのほか一切の人物は映っていない。
俺も、風太郎すらも写っていない。
「ナギくん。上杉くん。・・・・これ隠し撮りですよね?」
「自分パパラッチなんすよ。」
「盗撮なんかしなくたって、言ってくれれば撮らせてあげるのに。」
「でも、素の私達って感じで良い写真です!」
「ありがとう。フータロー、ナギ。」
アルバムには満足いただけた。
良かった良かった。
「では今日の家庭教師はこれまで!解散だ!」
「上杉くん。今後について相談があるので、少し残ってもらえますか。」
「ああ、あれか。わかった。」
五月は風太郎に用があるらしい。
大人しく帰ろう。五月だからな。進学先についての話ではないだろうか。
さっきもあの反応だったし。
いや……四葉絡みという線もあるか。
「どう?なんかいい案ないかしら?」
「いやー・・・・ねぇ。相手があの風太郎だからねぇ。」
その日の帰り。二乃とラーメンを食べに来ていた。
今となってはなんかもう普通に友達。悪友。姉御。
毎回恒例となったフー君の恋愛相談である。今日は普通の店。博多豚骨です。
やっぱきくらげっていいよね。
「なにかサプライズがないとダメだな。
三玖の告白の時もそうだった。」
「サプライズねぇ・・・やるのは良いけど、考えるの苦手なのよね。」
「そこが俺の仕事だと。うーん・・・・・
そうだな。たまには冷たくして見たらどう。」
「冷たく?」
「そう。押してダメなら一旦引いてみよう。
まだ家庭教師を始めたばかりの時みたいに。上杉呼びで。」
「えー!?難しいわよそれ!今更フー君じゃなくて上杉呼びなんて。
・・・・できるかしら。不安だわ。」
呼びかけた自分を想像したんだろうか。
憂鬱そうにため息をつく二乃。物憂いげに悩んでいる。まさに恋する乙女である。
こんな事になるとは。家庭教師を始めた頃は・・・・全く。
「効果があるかどうかはわからないけど。
向こうにインパクトは与えられるはずだ。最近マンネリ気味だろう。
いい刺激にはなると思うが。」
「マンネリはしてないけど・・・・そうね。
これからバイトでフー君と会えるのはアタシだけだし。
ちょっと冒険してみるのはいいわね。考えとくわ。」
「ああ。・・・・ふふ。」
「どうしたのよ。急に笑いだして。」
「いや・・・つい昔のキミを思い出したら、ちょっと笑えて来た。
凄い変化だからな。」
「なによ!そんなに変わってないでしょ!」
「最初の中間試験の時、俺と風太郎をストーカーだって言って
ビンタしたじゃないか。あの時言っておけばよかったね。あたしの彼氏よって。」
「ぐっ・・・・・確かに。今考えれば惜しい事を・・・・
いや、あれはしょうがないわ。フー君が変なことを言うから。」
2年の中間試験前のくだりである。
「そうやってすぐ前を向くことが出来るメンタル。俺、好きっすよ。」
「なによまた急に。あたしはアンタなんかにはなびかないから!」
「わかっておりますとも。」
「アンタは一花と五月の相手でもしてなさい。応援はしてあげるわ。」
「あざっす。」
本当に見習いたいよ。サバサバしてるって言うのかね。これが。
俺は引きずってばかりだからな。
「ちなみに一花からははっきり聞いたんだけど、五月って俺の事好きなの?」
「あれ?聞いてなかったの?・・・でも、確かに。
あたしもはっきりとは聞いてないわね。ただ、いつも家でアンタの話ばっかりするから。」
「照れるなぁ。」
「・・・・あんた、もう決めてるの?どっちを選ぶか。」
「ああ。事情があってね。どちらもノーセンキューと伝えたんだが。」
「はぁ!?マジで言ってんの!?」
「本当だよ。そう言ったにもかかわらず、俺の事を諦めないんだとさ。
なかなか酔狂だよね。」
「まるで他人事みたいに言うわね・・・・・
ただ、最近・・・・・・いや、なんでもないわ。」
「気になる止め方だなぁそれ。」
「男らしくしなさい!乙女の秘密は探るもんじゃないわ!!」
「うっす姉御。」
付き合う気はないと言ったら怒られるかと思ったんだが。
そんなことは無かった。意外とこちらの事も考えてくれていたようだ。
ありがてぇっす姉御。
「おまちどーさまです」
「「いただきます」」
二乃とラーメンを食べて、その日は終わりとなった。
3年の夏休みではあるが、俺は進学についてそこまで背伸びする気はないし、
今の成績は全く問題が無い。のんびりやるつもりだ。
いつも通り家庭教師とバイトをかわるがわるやって、
たまにライブメンバーと打ち合わせをするくらいだろうな。
風太郎が受験勉強で家庭教師に出れない分、そこはこちらで頑張ろう。