「ごめん。待たせてしまったかい。」
「大丈夫・・・・やろう。」
ある日の放課後。教室で三玖に勉強を教えていた。
風太郎と決闘をしていた翌日に連絡が来た。驚くべき変化だ。
「フータローは・・・?」
「らいはちゃん・・・・・妹がどうのこうの言ってた。
今日はダメそう。週末の明日はちゃんと来るよ。」
「そう・・・・でも好都合、明日の予習・・する。」
予習だって。聞いたか今の。復習ならともかく赤点候補生と予習なんて水と油だぞ。
一体どんな手を使ったんだ風太郎。教えてほしい。
「平日の貴重な時間だし、短期決戦だ。兵は神速を尊ぶ。
集中力が続きそうな30分だけ頑張ってみよう。」
「うん・・・・おねがいします。」
「よし、始めよう。じゃあこのページから~」
「よし、ここまで。お疲れ様。」
「つかれた・・・」
「ゆっくりお休みー」
正確には30分ではなく20分で止めたが、まあいいだろう。
15分でギブかなと思っていた。継続は力なり。
これを繰り返して時間を少しずつ伸ばしていけばいい。
「昨日の風太郎との合戦は?どうなったの?」
「・・・・引き分け。」
「引き分けかぁ。」
負けたとはいわないんだ。だが引き分けでも大したもんだ。
どっちが落ち武者の役だったんだろう。前にいた三玖の方か。
「じゃあ今日はおしまい。また明日ね。」
「ばいばい・・・」
「あ、待った。あのマンションってどうやって入るの?オートロックだよね?」
「エレベータ前の部屋で部屋番号を入力すると、その部屋と通話できるの。
ついたらそれで通話して・・・・そしたら開けられる。」
「なるほどね。わかったよ。」
あんま行きたくないけど。風太郎に頼まれたからな・・・・。
「なんだこれ・・・!センサー、反応しろ!
クソっ・・・・あの五人だけでなく、お前も俺の邪魔をするのか!」
翌日。
先に到着していた上杉大先生はマンションの自動ドアと闘いを繰り広げていた。
カッコいい言葉だな。マンションの玄関口じゃなければ。声に出して読みたい日本語。
十中八九悪役のセリフだけど。
つか何やってんのこの子。恥ずかしい。ぼくこのひととしりあいじゃありません。
にしても、オートロック知らなかったのか。
「あのー?30階の中野さんの家庭教師をしている上杉と申します。
そこのドア壊れてますよー!」
「お疲れ、風太郎・・・・なにしてんの。」
「非常事態だ、凪。このマンションが俺を拒んでいる。」
「笑っちゃうからその言い回しやめて?
昨日開け方を聞いた。部屋番号を入力するとその部屋の人と電話ができるそうだよ。」
「でかした!後は任せろ!」
昨日聞いといて良かった。
玄関口にパネルがあるのは知っていたけど説明書きが何もないんだもん。
ある程度は予想つくけどさ。
知ってて当然みたいなのはやめてほしいなぁ。
「・・・・凪」
「んー?」
「部屋番号・・・・・何番だった?」
「部屋番号って・・・30階だろ?30なんとか。」
「30階は俺も覚えてる・・・・問題はそのなんとかの部分だ。」
「えーっと・・・・・・・・・・まずい。俺、覚えてないや。」
しまった。部屋番号を忘れた。部屋はエレベータのすぐ左だったけど。
部屋の場所だけ覚えていてもどうにもならない。
「こうなれば3001から順番にかけていくしか・・・・」
「やめて?怪しい訪問販売や宗教勧誘とやってること一緒だよ?」
「しかしそれ以外に方法がない!お前、5人のうちの誰かの連絡先知らんのか!?」
「・・・・・存じ上げませんなぁ。」
「クソッ!!」
「二人とも・・・・何してるの・・・」
二人でショートコントをやっていたら後ろから三玖が現れた。
・・・・・助かった。
「さあ!準備万端です!勉強を始めましょー!」
「わたしもまぁ・・・・見てよっかなぁ?」
「約束通り、日本史教えてね」
「・・・私はここで自習してるだけなので。」
「よーし!やるか!」
三玖に案内してもらい、追加で部屋から3人を連れ出しリビングに集めた。
反応はごらんの通り四者四様だが、形は違えど応じているあたり、
そこそこ進展していると言える。
もう一人。二乃が問題であるが、とりあえずいいだろう。
4人の成績が上がればいくらでも言い訳は可能だ。と、思っていたが・・・・・・
「まーだ居たの?また懲りずに家庭教師するんだ?
この前みたいに途中で寝なきゃいいけど?」
問題児登場。二乃だ。
そういえば一服盛られたんだっけ。風太郎。俺は未体験だが、やはりマジなのか。
「・・・・・どうだい!二乃も一緒に!」
お、大人になった。えらいぞ風太郎。
「死んでもお断り!」
しかし無慈悲。
「それじゃ今日は俺達だけでやるか!」
「そうだぁ四葉、バスケ部の知り合いが大会の臨時メンバーを探してるんだけど
今から行ってあげれば?」
「い、今から!?」
「5人しかいないメンバーの1人が骨折しちゃって、このままじゃ大会出られないらしいわよ。
かわいそうに」
「・・・・・」
非常に嫌な予感が。
「上杉さんすみません!私、困ってる人をほっといておけませーん!」
「・・・・行っちゃったよ」
絶賛困っている人がここにいるんですけど。
「一花も2時からバイトって言ってなかったっけ?」
「あ、いけない!忘れてたぁ!」
「五月もこんなうるさい所より図書館とかの方がいいんじゃない?」
「・・・・それもそうですね。」
「三玖!間違った飲んだあたしのジュース買ってきなさいよ!」
あれよあれよと1人ずつ退場し、三玖だけが残った。
まあバイトはしょうがないけど。他二人、何とかならないのかよ。
何か五月ちゃんこっちをチラ見した気がするけど。
そして三玖も退場させるつもりらしい。
「・・・・もう買ってきた」
「え?」
お。
「授業・・・・始めよう」
「風太郎、鎌倉時代から始めてやって。」
「わかった」
しかしなにもおこらなかった。二乃の妨害は空を切る。
「ちょっとこれ抹茶ソーダじゃない!」
「面白いよソレ。一回飲んでみる価値はある。」
「じゃああんたが飲みなさいよ!」
「二回目はもうちょっと間隔を開けて飲みたいなぁ・・・・」
今でも思い出せるもん。抹茶ソーダの味。しばらく飲まなくて良い。
炭酸の抹茶とか未知の感覚で脳が壊れて一瞬思考停止するんだ。
知恵熱とか出た時に飲むのは良いかもしれない。強制シャットダウンみたいな感じ。
でも初回限定かな。
「あんたら・・・・いつからそんなに仲良くなったわけ?こういう冴えない男がシュミなの?」
「いま酷いこと言われた」
風太郎くんは二乃目線では冴えないそうです。
「二乃は面食いだから・・・・」
「お前も中々酷いな・・・・」
「外見気にしないからこんなダサい服着るんだ?」
「・・・この尖った爪がオシャレなの?」
「お前ら、姉妹なんだからもう少し仲良くしろよ!
外見とか中身とか今は関係ないだろ?」
あーあ。姉妹喧嘩始まっちゃったよ。
確かにこの2人相性が良くない。見かねた風太郎が仲裁に入るんだから結構なもんだ。
しかし結局残ったのは三玖だけかぁ。二乃は勉強しないし。1人を2人で教えるのって良くないし、俺帰ろうかな。
姉妹の言い争いの途中、風太郎の腹の虫がグーっと鳴った。
13時過ぎだぞ。昼飯食ってなかったのかよ。さてはまた何か作っていたな。
「・・・じゃあ勝負よ!どっちが家庭的か、料理対決!
外見じゃなくて実力、中身の勝負!」
「「なんで?」」
「あたしが勝ったら、今日は勉強ナシ!」
「そ、そんな勝負・・・・やらないよな?」
「二人とも・・・・すぐに終わらせるから座って待ってて。」
「・・・・・お前が座ってろ!」
風太郎、迫真の声も三玖に届かず。料理対決が始まってしまった。
「なんでこんなに上手く行かないんだ・・・・」
「大変だねぇ上杉先生。まあ女子の手料理が食べられるんだから良いじゃないか。」
「それなら高頻度で食ってる」
「らいはちゃんを数に入れるなよ・・・・・」
何を作ってるか予想してみる。
三玖の方は・・・んー。何だろ。ごはんと玉ねぎ、にんじん。カレーかな。
いや卵とケチャップが出てきた。オムライスか。
二乃の方は・・・うわぁ全然わからねぇ。ご家庭に生ハムを常備してらっしゃる。
コンビニとかで売ってるアレじゃなくてお高いスーパーにあるちゃんとしたやつじゃん。
忘れた頃に中野家の金持ちっぷりが炸裂する。
あと小麦粉っぽいものと卵、牛乳・・・・パン生地的な何かなんだろう。
「じゃーん!旬の野菜と生ハムのダッチベイビー!」
「オ・・・・オムライス・・・」
へー。ダッチベイビーって名前は知ってたけどパンケーキなんだ。
鶏肉料理かと思ってた。ダッチオーブンのダッチかな。
オムライスは・・・・失敗だねぇ。そうなんだよ。オムライスって卵1個じゃ足りないのよ。
作りなれていない人は特に。
それにしても三玖は割と自信あるように見えたんだが、あの態度は何だったんだ?
「・・・上杉審査委員長、実食をお願いします。」
「・・や、やっぱいい!自分で食べる!」
「折角作ったんだから食べてもらいなよ~?」
二乃の方は余裕綽々だ。まあ見た目のレベルから違う。
ダッチベイビーの方は店で出てくるレベルだもん。写真撮ってSNSで上げるやつ。
皿じゃなくてスキレットで出してくるの良いね。雰囲気がある。
「い、いただきます。」
風太郎がスプーンを手に取り両方の料理を試食していく。
両方の料理に手を付けたが、特に何も言わない。
・・・食器音だけが響く。
「うん。どっちも普通に旨いな。」
「「「え?」」」
「本当だ。どっちも旨いぞ。」
そーなんだ。それは少し気になる。
「あ、有坂も食べなさい!上杉が決められないなら、あんたが決めるのよ!」
「え、食べていいの?やったー。いただきます。」
風太郎のハラペコから始まった料理勝負だったが、俺も食っていいそうだ。遠慮なく。
ダッチベイビーの方は、食事の為のパンケーキだ。甘さはない。
サラダと肉を巻いて食べる、おかずのようなクレープがあるが、ああいうのと同じ方向性だ。
あと昼飯にパンはあんまり慣れない。焼きそばでも挟まっていれば別だけど。
オムライスの方は・・・・見た目は良くないが、味は見た目ほど悪くなかった。
アラ探ししようと思えば一部のコメはちょっと焦げてるし、卵はこんなんなってるし、
ちょっと味濃いけど。
でもまぁ悪かない。食える。そこそこ旨い。見た目で下がった低いハードルを楽々上回ってくる。
不意打ちじゃ。これは不意打ちオムライスじゃ。あ、グリンピース。嫌いなので避ける。
ケチャップって偉大だね。慣れ親しんだ味。
ケチャップとソースとマヨネーズが大好きです。
「・・・・どっちもアリだね。」
「だろ?」
「ハァ!?何それ!?・・・・・もういいわ!」
二乃は怒って自分の部屋に戻ってしまった。
俺も食堂のやっすい蕎麦で満足するくらいには舌が貧乏だからな。
料理の感想について詰められたら面倒だったが、ラッキー。
一応勝ち負けの件が残っていたから。これで勉強妨害はナシだ。
「「ごちそうさまでした」」
「片付けはやっとく。二人は残った時間で勉強しててくれよ。」
一応家にまで来たんだ。少しだけでも勉強してもらおう。
「二乃の奴と分かり合える日が来るとは思えん。」
「よくわかんないけど敵扱いされてるよね。」
短い勉強を終えて風太郎がそう呟いた。
二乃を学校で見かけるときは友達とよく喋っているところを見る。
誰に対してもあんな態度はとるわけではない。
男嫌いなんだろうか。
「そんなことない・・・と思う。誠実に向き合えば、わかってくれるよ。」
「誠実って、どうすれば?」
「・・・・・それを考えるのが、二人の仕事でしょ?」
誠実。
辞書を引く気はないが、真心をもって人や物事に対すること。そのさま。
という感じだろうか。嘘をつかず、人を思いやる。それくらいしか浮かばない。
しかし向こうはそれを求めているのだろうか。