「ナ、ナギくん。模試の結果はどうでしたか。」
「見ますか。はい。」
「・・・・・・A判定・・・・」
「まあ自分選んでますから。」
放課後の学校。五月から声を掛けられる。
例の志望校への判定結果を見せた。こちら側は見せたので、俺も見せてもらう。
「そっちは。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・Dか。」
A~FでD判定。
志望校合格確率35%という意味になる。Aは80%以上。
「まだよかったね。Dで。」
「え?」
「だってコレ1学期が始まった直後の統一模試を反映したものだからね。
夏休み後の成果が考慮されてない。そんな気にしなくても良いんじゃない。」
俺なりのフォローをする。
なんだかんだ夏休みも家庭教師をしていたが、殆ど五月のみだった。
他3人は風太郎が居ないせいか自分から進んで勉強して身に付けていた。
一花は仕事。ただ、一花も現場で空き時間に問題集をやっているらしい。
まあ、五月は教員職を狙っているため、教育大学を志望している。
ハードルが他より高い。仕方ない。
「ぜ、全力で取り組んでいるのですが。」
「大丈夫。気にしなくていい。今、もう一度模試をやれば結果は違うはずだ。
前だけ見ていてくれ。俺も付き合うから。」
「そ、そうなのですが。いつまでもナギくんに頼っている訳にもいきません。
近日、特別講師による教室が、塾であるんです。それに参加してみようと思っています。」
「そう。それでいい。やるべきこと、そしてやれることをやろう。」
「はい。」
あくまで俺は素人。本職がいるのなら、そっちにお任せするのが良いだろう。
「当日の屋台はこの配置で・・・・」
「そうか。なら噴水周りに休憩所がいるんじゃ・・・・」
「イスの調達はこちらで・・・・」
教室内。
風太郎と四葉と学園祭の打ち合わせをしていた。
俺は普通に実行委員の輪に入れてもらっている。自然すぎて誰も気が付いていない。
まあ、向こうも人出が足りないのはわかっているし、突っ込まないでいてくれるんだろう。
「上杉くん!」
クラスメートの女子3人組が風太郎に声を掛けてきた。誰だっけこの人。知らん。
「なんだ。」
「ちょっとこっちいい。あ、居るなら有坂くんも。」
「はいはい」
階段、屋上近くに呼び出された。
風太郎と俺でクラスの女子3人の話を聞いている。名前は知らない。初めましてですか?
「二乃ちゃんの好きな人・・・わかる?」
「「はぁ?」」
「だ、だって・・・・女子一人なのにたこ焼き派だよ?おかしくない?」
「毛利さんもいるよ。」
「あの人は置いといて。」
置いとかれました。毛利さんごめんね。俺、ちゃんと主張はしたよ。
「・・・クラスの中に、誰か好きな男がいるんだよ。
そうじゃなかったらあんな態度考えられない!」
へぇ。この子よくわかってるな。しかし少しピントがずれている。
フー君はたこ焼き派ではなく中立だから。
けどさ、好きな男が居たからなんだって言うのさ。
「・・・・うん?それに何の問題が?」
「い、いや、もしその相手が祐輔だったら・・・わたしに勝ち目、ないよ・・・」
「さ、サクラ。元気出して!」
ん?
ああキミ、武田くん好きなの?武田くんの本名は武田 祐輔。
そう繋がるのか。二乃は私の好きな武田くんを狙っていると。
だからたこ焼き派に肩入れをしているのだと。そう言いたいわけだ。
なんとかしてくんない と。正々堂々戦ってほしいものですけどね。
まあ二乃は別に武田くんの事は何とも思ってないから、勝負にすらなってないんだけど。
懐かしいな。ライバルだと思ってた武田くんとお前誰だよと言った風太郎を思い出す。
これどうしましょう。ネタ晴らししても良いんですけど。
流石に上杉大先生に一回預けましょう。風太郎に視線を送る。
「勘違いだ。」
「え・・・?」
「二乃の意中の相手はたこ焼き派にいない。
それだけはわかってる。安心してくれ。」
「し、信じらんない!なんで上杉くんにそんなことわかんの!?」
「・・・学級長は中立維持のためどちらにも投票をしていないんだ。」
「はぁ?どういう意味?わかんないんだけど。」
「二乃が好きなのは・・・・・お、俺、だからな・・・・!」
言っちゃったよ。良かったのか言って。
しかし相手の反応がある程度予測出来る。どっちだろ。
「上杉くん・・・・妄想はやめよう?
その設定、二乃ちゃんがかわいそう。」
引かれる方かぁー。キレられる方だと思ってた。
わけわかんない嘘つかないでよ! だと思ってた。
「違う・・・本当に・・・・」
「良い子紹介してあげるから・・・・やめよ?」
いたたまれないなぁ。俺も恥ずかしくなってきた。
嘘つき村の住人じゃないか。ちょっとだけ援護する。
「・・・・まあ、風太郎の言っていることは半分くらい本当だよ。
少なくとも、たこ焼き派に二乃の好きな人は居ない。」
「え?ホント?」
「うん。金髪のピアス開けたヤンキーみたいなワイルド系男が好きだからね。
武田くんは金髪だけど性格が真逆。
レディファーストの性格じゃ、二乃の姉御は惹かれない。
あんなナヨナヨした奴、こっちから願い下げよ!・・・・そう言うと思うけどな。」
「あははは!確かに、言いそうだね!有坂くんモノマネ上手!」
金髪でピアス開けたヤンキー。小学生時代の風太郎。懐かしの金太郎である。
武田くんと前田くんのいいとこどりをしたら丁度良さそうだな。
実際は武田くんはそんな頼りがいのない男ではないが。
ただ、じゃじゃ馬娘である二乃の手綱を任せられるかは怪しい。
手綱を持って制御できるかではなく、
打てる時に、鞭を一発打てるかが大事。普段は振り回されていても良い。
いざって時にバシッと決められるかが重要。
武田くんは前者は可能だと思うが後者が厳しい。
また前者が出来てしまうと後者のハードルも上がってしまう。
その点うちの上杉風太郎ってすげぇよな。最後まで漢気たっぷりだもん。
普段は無気力で二乃のパワーに振り回されがちだが、やれるときにはやるというギャップ。
二乃さんもそれにイチコロでした。決定打は多分アパートの前で二乃を川から引き上げた時だと思う。
二乃は風邪もひいてないのに顔真っ赤だったし。あの時は。
あと期末試験のバイクの時のなんか。俺はそれ知らない。二人だけの秘密。
シークレット・オン・ザ・バイク。短編映画のタイトルになりそうだ。
風太郎がバイクで二乃を迎えに行った時、二乃の顔が赤かった。
「有坂くんがそう言うなら、そうなんだろうね。わかった。ありがと!」
「はーい。おだいじにー。」
クラスの女子3人は満足そうに帰って行った。
「なんでお前の発言は信用されるんだ・・・?」
「いや言ってたじゃん。三玖が。」
「なんて。」
「人望。」
・・・・もう少し有坂スルーパス作戦を続けるべきだったかなぁ。
でもクラスメートも普通に覚えてきてたしなぁ。無理かぁ。
「ナギ・・・・相談が。」
「はいなんですか、三玖さん」
「こっち・・・・」
教室内に帰ってきた直後。
今度は三玖に呼び出される。廊下に連れていかれた。
「これ、模試の結果。」
「・・・A判定だって?凄いな。予想以上だ。」
三玖の志望校、まさかのA判定。
三玖ちゃんはやればできる子ってナギお兄ちゃん知ってた。
おめでとう風太郎くん。立派な生徒になりましたよ。
「それでね・・・・この結果なんだけど・・・・」
「うん。おめでとうございます。」
「お料理の専門学校・・・行きたくて。」
「・・・・・・ふむ。なるほど。」
専門学校と来たか。そうなるとこの判定、ほぼ意味なし。
対して学力はいらない。と言っては専門学校に大変失礼ではあるのだが。
専門学校なら入学時に試験があるところはほぼない。料理系であればまずないだろう。
何が言いたいのかというと、大学に入れる学力があるのに、
学力があまり必要ない専門学校にわざわざ入るのは損ではないか。そういう事だ。
・・・・しかし。
「いいんじゃない?料理、やりたいんでしょ?」
「・・・・うん。」
別にいいだろう。やりたいことがあるのなら。どっかのおねーさんと一緒。
その道に進むのが一番。やる気は行動に、結果につながる。
ちゃんとパンも出来たし。昔の三玖とは違う。
今もあの腕前だったら、やめた方が良いんじゃないって言うけど。
「フータローがどう言うかなって。」
「・・・・なるほどね。いや、大丈夫だ。あいつも納得してくれるはずだ。」
風太郎は頑固だけど、思考は割と柔軟。多分わかってくれると思う。
「そ、そうかな?」
「ああ。だって三玖のやろうとしていることは、一花と一緒だ。
大学ではなく、女優を目指す。大学ではなく、料理の道を歩む。全く一緒だ。
・・・・あいつが今まで、女優なんか辞めちまえなんて言ったことあった?」
「・・・あった。」
「え!?あんの!?」
ちょっと。上杉先生。
話が違うじゃないですか。
俺今良い事言ったと思ったのに。全部台無し。
知らないところで風太郎にちゃぶ台をひっくり返された。
「・・・くすくす。でも、本気でやめろっていったことはないよ。
そうだね。ナギの言う通り。フータローにも、そう言ってくるね。」
「うん。言ってきな。折角だから、口実にどこかでデートしてきなよ。」
冗談だったか。良かったわ。
相棒を説教しに行くところだった。すまん相棒。今の嘘ちょっと信じた。
時は過ぎ。日の出祭前日。
「・・・・よし!みんなお疲れ様!これでやめよう!」
「やりきったねー!ナギっち、ダンス良いじゃん!」
「いい家庭教師が居たからね。」
「明日だぞー!緊張するな!」
「・・・・最高のライブにしよう。」
バンドメンバーとの最後の練習を終える。
ウチのクラスの屋台は、結局決まらずに両立が決定した。
たこやきとパンケーキだ。パンケーキ側は俺が面倒を見ないといけないだろうな。
「有坂くん。お疲れ様。100点ではないけれど、良い出来よ。」
「どうも。100点ではないのは残念だね。」
「時間が足りなかったわね。もっと教えたいことはあったわ。私のスケジュールミスね。
テクニックは教えたから、パフォーマンスはあなたにすべて任せるわ。」
「そこが一番重要では?」
技術は教えたからあとは本番で好きに使え そういう事である。
予め言われていたので、計画はしているが。頭からすっ飛ばないか心配だ。
「有坂、すげーな。ここまでやると思ってなかったぜ。俺も3日目はやる気出すからな。」
「3日目に何かやるのかい?葛城君は。」
「ん?聞いてないのか?アンコールライブに」
「葛城君。何も言わないで頂戴?私の計画を台無しにしないで?」
「す、すいません。」
アンコールライブになんかあるらしい。そもそも俺たち出るかどうかわからんよ。
最終日にアンコール出来るのは、その1日で一番評判の良かったバンドのみ。
1日1組、3日間で3組だけだ。
「有坂、一つ忘れていたことがあった。誰でもいいから人員が数人欲しい。」
「・・・・あー。そうだったね。手拍子か。」
1曲目はサビで手拍子が欲しい。
しかしその曲を知っていないと手拍子のタイミングがちょっと怪しい。
だから観客へのガイダンス役が欲しい。ステージ上で手を叩くだけなので、誰でもいい。
「あら、その役なら大丈夫よ。適切な人員を用意出来たわ。」
「毛利さんがやるの?」
「あなたと同じステージに立つのは魅力的だけど、私は遠慮しておくわ。
5名の方に協力を依頼し、有坂くんの為ならと良い返事を貰ったわ。愛されているわね。」
5名?・・・・まさか。
・・・・いや、そんなはずはない。ライブステージの事は一花以外に喋っていない。
でも、共有されているか?
「わかった。なら、心配はいらないな。」
「当然、打ち合わせは済んでるわ。なんと、2曲目のバックコーラスもやってくれるそうよ。」
「何?それは頼もしい。いったい誰が。」
「当日までのお楽しみね。」
「凪。」
「なんだい風太郎。」
「俺は・・・日の出祭の最終日に、あいつらに対して、ある結論を出す。
お前も、日の出祭の間は、心の準備をしておいてくれ。」
「俺も?・・・・ああ、わかったよ。」
祭りの準備中。風太郎からそんなことを言われた。
ある結論・・・なんだろう。思いつかない。姉妹に対する何か。
準備をしておこう。
そして。日の出祭がやってくる。
きっとこれも、運命の3日間。