・・・・・・知り合いのクラスの屋台で、焼きそば屋を手伝っていた。
ある、一組のカップルが、この屋台を訪れた。
カップルの片割れは・・・・俺も良く知っている。
あの頃とは、すっかり姿が変わっている。・・・・綺麗になった。
しかし君は・・・・今でもそうやって、よく笑う。
お陰で、誰だかすぐにわかった。
・・・その笑顔は・・・・今も変わらず・・・・・とても、眩しい。
「あの、すいません。」
「・・・・・・・・・・はい、焼きそばですね。1人前と2人前、どちらにしましょう?」
「どうする?」
「一つにしとこっか。一緒に食べよ?」
「そうだね。1人前で。」
「ありがとうございます。ちょっと今はストックがなくて。
今から作りますので少々お時間がかかりますが、宜しかったですか?」
「大丈夫です。やったね。出来立てだよ。」
「お、そうだな。確かに。」
「あのー、すいません。」
「はい。なんでしょう。」
「どうして、仮面をつけてらっしゃるんですか?」
「・・・・この後、ライブステージに上がるんです。その準備ですね。
私達は、こうしてマスクをつけて演奏をするので。」
「へぇー。面白そうですね。何時からなんですか?」
「ライブステージのプログラムはお持ちですか?」
「これですか?」
「・・・・このユニットです。」
「わかりました。おもしろそうなので後で見に行きます!」
「光栄です。」
「なんでマスクなんですか?」
「・・・・・・私達は普段、脇役なので。顔を覚えてもらわなくて結構です。
演奏だけ聞いてください という意味ですね。
・・・それに、人はみんな仮面を被っているものです。」
「脇役・・・なんですか?」
「ええ。この学校には輝かしい人たちが大勢いますから。
彼らの前では、私は霞んでしまう。」
「なんというか、凄い・・・大人ですね。同年代とは思えないです。」
「・・・よく言われます。年の割に、心が老けていると。」
「大人の余裕って感じ・・・・モテそう。」
「おま・・・・彼氏の前でそれ言う?」
「え~?いいじゃん。別に。」
「お似合いですよ。お二人とも。」
「俺たちはカップルなんですけど、誰かと付き合ってたりしないんですか?」
「私が、ですか?」
「はい。その・・・俺、男ですけど、良い人だと思うっす。」
「ありがとうございます。ただ、一度も恋愛をしたことはありません。」
「どうしてですか?モテそうなのに。」
「・・・・・・昔、大切な人を酷く傷つけてしまったことがありまして。
それがトラウマになっています。また、ああなるんじゃないかと。」
「大切な人・・・・ですか。」
「はい。マスクを御覧の通り、私は道化師。その方はよく笑ってくれる方でした。
そんな人に、酷い仕打ちをしてしまった。例え、子供のころの過ちと言っても、
それが頭から離れないんですよ。
私は他の人を笑顔にしたり、楽しんでもらうのが大好きなので。
・・・・とてもショックでしたね。
そんなことを大切な人に対して、繰り返したくないので、恋愛はしないと決めています。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そうだったんですか。やっぱり、人生経験っすね。」
「あの。・・・・私の事、見たこと、ないですか?」
「貴女の事をですか?・・・・存じ上げません。初対面だと思いますが。」
「そうですか・・・・別の人かあ。」
「どうした?急に。」
「いや・・・・私も、似たような経験あるから。」
「え!?何それ!聞かせてくれよ。」
「え~?知らない人の前だよ?」
「良いだろ!この人も喋ったんだからさ。」
「・・・・・・・・・・お気になさらず。聞いたことは忘れますよ。」
「そうですか?・・・・私も、昔おんなじことをしちゃったんです。」
「同じこと?・・・・貴女もまた、誰か他の人を傷つけてしまったんですか?」
「はい。隣の席に座っていた男の子が、とっても面白い子だったんです。
でも、子供のころの私って・・・・・その、今みたいな見た目じゃなくて、
もっとブスだったんです。」
「そうだったのか?いつか卒業アルバム見せてくれよ。」
「え~。心変わりしないでよ?で、そんなブスな私ですから。
同じ年の子にいじめられたり、話しても聞いてくれなかったりしたことがあって。」
「マジ?そこまですんの?」
「するよぅ。小学生だもん。・・・・・でも、その男の子は、そんな事を全く気にせずに
他の子に接する時と全く同じように、私と喋ってくれたんです。」
「その男の子、面白くて、人気者だったから。私も、嬉しくなっちゃって。
好きになっちゃったんですよ。」
「・・・・そうですか。」
「でも、私はブスだったから、踏ん切りがつかなくて。
出会ったのは6月くらいだったんですけど、
バレンタインの日にチョコを渡して告白したんです。」
「・・・・・・なるほど。結果は、どうだったんですか。」
「その。・・・・・振られちゃって。」
「あちゃー。マジか。」
「私もショックでした。ああ、やっぱり。この見た目がいけないんだ。って。
同じクラスだったんで、顔、見れなくて。ちょっと学校休んじゃいました。」
「・・・よく、そこから立ち直れましたね。尊敬します。」
「あはは。大したことじゃないですもん。それに、振られたおかげで、
かわいくなろうって思えたんです。・・・・むしろ、謝りたくて。」
「謝る?なんで?お前が振られたんだろ?」
「そうなんだけど。私が学校休んでる間、その男の子も来てなくて。
むしろその子・・・・バレンタインから卒業式までずっと休んだの。
私のせいで、学校、来れなくなっちゃったみたいで。」
「え?マジ?」
「うん。後でクラスの子に聞いてみたらさ。ナギが・・・・あ、言っちゃった。
その男の子、ナギって名前だったの。
ナギとお前が学校に来れなくなったのは、俺たちのせいだ。って。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「私がナギくんが好きな事、周りに筒抜けで。いっつもからかわれてたみたいなの。
ナギくん。それが嫌だったみたい。」
「あ~。弄られると切れるタイプか。」
「多分ね。悪い事しちゃったなって。
で、ナギくんのお母さんに電話して聞いたんだけど。
多分あの子は、あなたを泣かせてしまったから、そのことにショックを受けてるんだって。
家で勉強はちゃんとしてるの。どんな顔をしてあなたに会えばいいのか、わからないんだわ
って。そう言ってたの。・・・・振られたときの、私とおんなじだった。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「小学生だろ?その後はどうなったんだ?」
「学年上がって、私とクラスが別になって。それからナギくんは来たよ。」
「うわ。確定じゃん。」
「あはは。だよね。ほら、私がナギくんをここまで痛めつけちゃったから。
私も、時間が経ってからは、どんな顔をして会って、なんて謝ればいいかわからなくて。
クラスが別になってからは、それっきり。・・・・謝りたかったなぁ。」
「別に、謝らなくてもいいのではないですか。
あなたを傷つけてしまったのは、彼なのでしょう?」
「いやー。私もナギくんを傷つけちゃったので。
しかも私よりも深く。会って一言、話がしたかったです。」
「・・・・そうですか。
そんな酷いことがあったにもかかわらず、あなたはまた、こうして他の誰かと恋愛をしている。
強い方です。尊敬します。」
「そうですか?この事も、今では良い思い出なんですよ?
だって、ナギくんに振られたおかげで、このままじゃダメだ。かわいくなろうって思ったんです。
もう、好きになった人を傷つけないためにって。ナギくんに感謝です。
私は、ナギくんのおかげで、変わることが出来たんです。昔はもっと無口だったんですよ?私。」
「・・・・そうですか。」
「俺も、ナギくんに感謝っすね。お陰でこんな彼女が出来ました。」
「えーもう。やめてよー。」
「だから・・・・あなたも、恋愛しないなんて、寂しい事を言わないでください。
大丈夫です。傷つくことを、恐れちゃいけないと思います。傷つく経験よりも、
恋をすることで、楽しい経験の方が、絶対に多いんですから。」
「そうっすよ?こいつとよくケンカしますけど。その度別れたり拗ねてたらキリないっす。」
「もう!あれはあんたが・・・・」
「俺はまだ納得してない!」
「お待ちどうさまでした。1人前です。」
「あ・・・すいません。どうも。」
「お代は結構です。仲睦まじい二人に私からサービスしておきます。
面白い話をありがとうございました。」
「え?良いんですか?」
「勿論。・・・・私も、変われるでしょうか?あなたのように。」
「絶対、大丈夫ですよ。」
「・・・ありがとうございます。
ライブステージ、ぜひ見に来てください。道化師として、最高の舞台を御覧に入れましょう。」
「期待してます!楽器は何をやるんですか?」
「ふふふ。私は助っ人でして。ボーカル専門です。」
「えー!良い声してますよね!」
「ありがとうございます。恐縮です。」
「楽しみだな。じゃあ、ありがとうござました!」
「有坂、戻った。手伝いはもう大丈夫だ。クラスの連中も戻ってきている。
ステージの準備をしよう。あと、これは礼だ。」
片倉くんからこの屋台のタダ券を渡された。
相変わらず・・・律儀だね。
「ありがとう。・・・・・・片倉くん、これはキミの仕組んだ事かい?」
「・・・・なんのことかな。」
「大変な事をしてくれた。これから俺はどんな気持ちで歌えばいいんだ。
自分の感情がわからないよ。どうしていつも心がグチャグチャになるんだ。」
「何か・・・あったようだな。心配はしていない。
有坂、お前はやれる男だ。」
「・・・・・キミが認めてくれると気分が良いね。ありがとう。行こうか。」