ライブステージの舞台袖。
今は前のバンドが演奏中だ。各々準備をする。
「ナギ、来たわね。」
「二乃?……君たちは。」
オープニングユニットの面々がいた。
サンライズだ。この人達が毛利さんの読んだ協力者か。姉妹ではなかった。
「アンタ頭良いわね。あたしもマスク被れば良かったわ。」
「綺麗所が仮面を被ったら意味がないだろう。しかし、5人全員で協力してくれるのかい?」
「そうよ。アンタ、結構人望あるのね。」
「有坂くん、肝試しの時、格好よかったよ?」
「そうそう。まさかあんな伝説になっちゃうなんてねー」
「私、あのキャンプファイヤーから彼氏と付き合い始めたんだー!ありがとー!」
「陸上部、有坂くんのお陰でいつも楽だった。楽しかったよ。茜ちゃん元気?」
二乃以外の4人も協力的だった。
意識していないところで俺は色々やっていたらしい。
今までの積み重ねが帰ってきている。これぞ美しき人間関係。
「よし。では頼んだよ。毛利さんから聞いてるとおりに。」
どんなことをするのか詳細はしらないが、聞かない。
毛利さんがそんなヘマをするはずはない。聞くのは野暮。
「いよいよだぞ!」
「素早くいくぞ。熱を切らすな。」
「有坂くんはサプライズだから、じっとしててね」
「あれ?ナギっち、そっちの仮面にするの?」
「うん。気が変わった。テストは済んでるよ。」
「かっこいいね、それ!……ん?どこかでみたような……?」
肝試しの白鬼の仮面を出す。今なら、ピエロじゃなくてこいつが必要かな。
ブラインドは外してある。2年生連中はまだ林間学校に行っていないし、
同学年だろうがステージ上からこの仮面の詳細までは確認できないだろう。恐らく問題ない。
まあ、もし伝説の仮面と認識されてしまったら、それはそれで構わない。
今の俺はそれくらいの心の余裕がある。盛り上がってくれるだろう。
ステージの上でメンバーが準備をすすめている。俺は途中から出現するので今は何も出来ない。
緊張は・・・・特にしてない。別にミスしたって死ぬわけじゃないしな。
後で片倉くん達に平謝りすりゃいいだけだ。平常運転で待たせてもらおう。
と思ったが大事なチェックがある。マイクだ。
「そこの人、あのマイク、しまってくれないか。」
「え?」
「俺はステージ上でダンスをする。あのコード付きマイクだと邪魔なんだ。ワイヤレスを貸してくれ。」
「あ……はい!」
「こちらで良いですか?」
「充電は?」
「充電済みのものです!」
「テストしよう。」
マイクの電源を入れ、ポンポンとたたく。問題なし。
「完璧だよ。ありがとう。」
「いえ!申し訳ありません!」
「抜かりないわねー。」
「当然。ちょっと失敗できない理由が増えた。」
「なんかあったわけ?」
「……キミは知らないのか。」
「何が?」
二乃はさっきの一件を知らないらしい。
風太郎と一花と五月と片倉くんたちかな。……やってくれたもんだ。
2学期中に片付けるといっていたが、多忙な今とは。想定してなかった。
彼女は、俺によって良い方向へ変わっていた。……謝罪もされた。
そして俺に、変わって欲しいと言った。変われると言った。
・・・あんなに希望に満ち溢れた君に言われたら、断るわけにはいかないね。
俺も……変わらなければいけないだろう。
だから、見ていてくれ。この舞台を。見届けてくれ。
今の俺だって、これくらいはやれるんだよ。
「では、次のバンドの演奏です!」
始まった。
あのライブハウスで聞いた最初の曲。ウォームアップの曲だ。……良い曲だ。
こんなBGMを作れるんだから、センスがある。自信持って歌を自作すればいいのに。
「……何よ。結構やるじゃない。あたしたち必要あるの?」
「絶対に要る。観客を盛り上げるためにはね。」
「……そ!悪い気はしないわね。」
「始まったわね。遅れてしまったわ」
「毛利さん。らしくないね。」
「色々後処理があったの。ごめんなさいね。」
「なんか一言、頼むよ」
「信頼してるわ。だから、あなたの好きにして頂戴。」
「わかった。……そろそろ主役の登場だね。」
行くぞ。
そう。今から俺は伝説のアーティストになる。この伝説の仮面の力を借りてな。
オープニングが終わりに近い。ここが、今日一番大事なポイント。掴みだ。
塾で恋愛相談をした時と同じ。客を惹きつけたいのなら・・・
こいつらのステージは面白そうだ。見ないと損をするかも。
そう思ってもらわなきゃいけない。第一印象が大事。
今、ステージにはマイクが刺さっていないマイクスタンド。
観客はメンバーの4人しか見えていない。ボーカルなしか。そう考えているはず。
そこに、必殺の動きで颯爽と俺が登場する。
マイクまでの道すがらにケーブルやコードが落ちていないのは、確認済み。
転ぶ心配はない。
曲の終わりを見計らってステージ袖から登場。
観客席から見て、ステージ右から俺が出てくる。ムーンウォークをかましながら。
左手にマイクをもち、体で隠す。
観客からは見えないように。
客席がちょっと湧いている。いいね。
大事なのはこの後。曲が終わるタイミングと同時に決めなければいけない。
曲が終わる瞬間。左足を軸にして、右方向へ1と1/4回転。
回転の終わりにマイクを持った左手を自分の右肩の前へ。
右手を左腰の前へ出し、手を開いてポーズをビシッと決める。両手をクロスさせる形に。
するとあら不思議。いきなりステージにボーカルとマイクが現れた。
よし、成功だ。歓声と拍手が混じっている。歓声が良いね。拍手は控えめな称賛。さあ、ここからだ。
「どうも、皆様。俺達5人は、マイナーロール、マスカレード。……脇役たちによる仮面舞踏会を御見せしましょう!」
自己紹介と共に歓声が上がる。うーし。今日調子ええわ。
大事なのは思い切り。勢い。それはいつものバイトで学習済み。
転倒や言葉に詰まったりと、決定的なミスさえしなければいい。
「皆さんもご存じであろう有名な曲を2つ、披露させて頂きます。
1曲目は……必要なタイミングで手拍子が欲しい。……観客の皆様も主役の一員だ!」
少しざわつく。どんな曲なのか、不安に思っているのだろう。
「大丈夫!みんなも知ってるある有名人をお呼びした!その人達が皆を導いてくれる!」
おおっとという声を上げて、観客が驚きに包まれる。
サプライズを楽しみにしときな。みんな大好きレッドちゃん達です。
「……早速始めよう!D!」
「あいよー!」
「君のドラムが開始の合図だ!」
「よーし!楽しんでってくれよな!……1.2.3!」
ドラムの音を皮切りに、1曲目が始まった。
観客が湧いている。やはり、この曲は知名度がある。
♪~~
『ガキだった頃、君が唯一の友達だった』
『君がなにもかも 教えてくれたんだ』
『この 古ぼけた機械が 僕の全てだった』
最初は声量を小さく。綺麗に歌う。この曲は盛り上がるポイントが明確にある。そこでぶち上げる。
パフォーマンスも控えめに。マイクスタンドで遊ぶくらいで良い。
『僕だけじゃない みんなが君を求めてた』
『ありとあらゆる物語で』
『みんなが笑い 悲しみ 喜び 熱狂した』
『まるで君は 世界の中心のようだった』
もう少し。
……ステージ脇から二乃達が歩いて出てきた。
そのまま、5人がステージ中央で歌う俺のサイドにつく。
次の歌詞で少し声量を上げる。
『だから まだこれからだろう?』
『すっかりうるさいだけになってしまったが』
『それでも いざ君が危機に瀕すれば』
『どうせ誰も彼も 黙ってはいられない』
『立ち上がれ 友よ 君にはまだ力があるはずだ』
さあ、サビだ。
いい手拍子を頼むよ。
『みんな聞いてくれよ こいつを』
二乃達が手拍子を始めた。
ここは俺も手拍子に参加する。ステージが一丸となって、観客を引っ張る。
『今はこうして雑音だけど』
客席も乗った。よし。完全にこっちのペースだ。
やはりガイダンスがあると良いな。やりやすくなる。
『もっと やれるはずなんだ』
『……友よ 気分はどうだい』
『僕はまだ 君を諦めていないんだ』
1番が終わった。
サビが終わったので、二乃達は休めの姿勢。堂々としている。
動きに迷いがない。プロだな。さすが毛利スパルタ指導。
いいね。観客がどんどん増える。このステージは高校内で放送されているらしい。
観客数はリアルタイムに動くダイレクトな評価。やる気出てきたよ。
『君には 手強いライバルがいるけれど』
『きっと 負けないはずだ 信じてる』
『でも ありとあらゆるものが進化してる』
『君も 変わるべきなんだ』
余裕が出てきたので歌がないタイミングでちょっとしたダンスをする。
マイクを持ち、ステージを縦横無尽に動く。
ここまで盛り上がってきたら振付は別になんでも良い。
ただ、素早い動き、そして止まるときはきっちり止まる。これで良い。
リズムに合わせて動き、演奏の音と共に止まる。
今の動きには何か意図がある 見てる側がそう思ってくれればなんでも良い。
『僕を 見捨てないでくれよ』
『あの時は 君に助けられたんだ』
『また 君が愛される時がくるはずだ』
『だから まだここからだろう?』
『だって 君には力が残ってるから』
2番のサビに入る。この曲はここで終わる予定。
二乃達は一応ガイドをするが、まあ、もういらないだろう。
余裕があるので客席を見る。……人が多すぎるな。
あのカップルがどこにいるかはわからない。ただ、一花と五月を見つけた。やはり目立つ。
そうだね。俺も君たち二人と向き合うときが来た。
『みんな聞いてくれ こいつの音を』
『今はこうしてノイズメーカーだけど』
手拍子に合わせて力強く体を動かす。
右手を突き上げたり。
肘をおって、伸ばしたり。
左手を前に出したり。
素早くキックしてみたり。
なんでも良い。テンポに乗っていて、素早くきちっとした動きであれば。
『もっとやれるはずなんだ』
『みんな聞いてくれ こいつの声を』
『この程度で燻っている奴じゃないんだ』
『まだまだ 出来る奴なんだ』
『……ああ 君は変われているだろうか』
『旧友よ 君はこんなところじゃ終われない』
『だって 僕は今も変わらずに君を愛し 信じているから』
~~~~~~♬
ドラムの音を最後に、右腕を高く突き上げて、止まる。
1曲目が終わった。
大きな歓声が上がる。良いね。みんな乗っている。このまま、楽しくいこう。
一花と五月は……じっと見つめていた。うわ。隣に社長いるじゃん。
なんか隣にスタンド立ててる。あれカメラだろ。ふざけんな。
後ろを見てバンドメンバーを見る。完璧だ。
みんな親指GJマーク。仮面つけてて表情がわからないのが痛い。
「……と言うわけで、オープニングユニット、
サンライズにお手伝い頂きました。会場の皆様、拍手!」
大きな拍手。指笛を吹く人も。二乃達をここで退場させる。
ちょっとだけ主役の力を借りたさ。
「私達は、マイナーロール・マスカレード。脇役達による仮面舞踏会。
……ここにいる太陽のような皆様に比べれば、普段は脇役も良いところです。
そう。私達は月。太陽の皆様の後光によって、夜の間だけ、私達は輝ける。」
演説を続ける。大丈夫。観客は静かにしてくれている。
「しかし……そんな月がごく稀に、太陽に勝つ日がある。皆様、ご存じですね?……日食です。」
「たまには、皆様を差し置いて、私達が輝ける時が欲しい。……そんな思いを胸に、この名前を付け、今このステージに立っています。」
「私の仲間をご紹介しましょう!ギター担当、R!」
「皆さん!楽しんでますかー!」
「ベース担当、K!」
「宜しく。諸君。」
「キーボード担当、Y!」
「よっろしっくねー!」
「ドラム担当、D!」
「最高のライブにするぞー!」
「そして私がボーカルのA。エースとお呼びください!……私達は普段、脇役です。
だから、顔も名前も覚えて頂かなくて結構!
だから仮面をつけ、下らん名前をつけております!」
会場から笑いの混じった拍手が響く。反応は悪くないようだ。
たかだか学園祭のバンドでここまでノリノリでやれる奴はそういないだろう。
こちとらバイトでこういうのは慣れているんでね。十八番だよ。
片倉くんと川村さんはイニシャルが被るので、
川村さんは名前から取った。リンちゃんである。
さあ、2曲目。今日の所は、これで終わりだ。
次があるかはわからないけどな。