倒れた四葉のリカバリーを行う。
四葉本人にAEDの必要はなかったので、救急車に全部任せた。
最初に思い当たるのは昨日のカメラ記録、演劇部。女王エメラルド。
今日の演劇部はまだ辛うじて講演前だ。演劇中に倒れたりしなくて良かった。
「こんちわー」
「あら、あなたは?ここは関係者以外入ってこないでほしいのだけど。」
演劇部の控室にお邪魔する。
「お知らせです。中野 四葉が倒れて、救急車で運ばれました。」
「嘘!?」
「凪。ここにいたか。」
風太郎と合流した。
先程メールを出しておいた。今日一日ゆっくりしてほしかったが、こうなっては仕方がない。
「四葉の状態はどうなんだ。」
「わからない。多分過労だと思うから大事ではないはず。」
「そうか。・・・あの馬鹿野郎が。あいつに代わって
舞台に穴が開いた事を謝罪する。」
「い、いえ。……私達も気付いてあげられなかったわ。ごめんなさい。」
冒険のラスボスが空いてしまったからな。
かなり大きい穴だ。
「・・・公演は・・取り急ぎ、今日は中止かしら。」
「代役は・・・」
「待った。一人いるかもしれない。」
姉妹の誰かなら楽そうだが。前日の公演を見ていない。
見ている人に頼もう。電話をする。
四葉、キミのお人好しが日の目を見る時が来たようだ。
江場さんと喧嘩したあの時の俺は、何もわかってなかったな。申し訳ない。
君も君で、ちゃんと人間関係を構築していたもんな。
みんな、快く手伝ってくれるさ。特にこの人なら。
「もしもし。江場さん?」
「有坂くん?電話なんて珍しいね。どうしたの?茜くんの事?」
「いや、四葉がピンチでね。助けてほしいんですが。」
「中野さんが!!??何をすればいいの!!??私に何が出来るの!!!!???」
「……昨日の演劇の会場に来てください。」
予想以上の反応だった。耳が痛くなった。返事を聞く前に切った。
反応的に色々聞かれそうで面倒くさそうだったので。
「はい。手配出来ました。」
「え、江場ってだれだ?」
「駅伝事件の人。ただ、衣装が合うかな。ちょっと背丈が違うんだよな。」
「よし。俺の方から被服部の連中に声をかける。」
「風太郎、任せた。」
「江場……って誰?聞いたことないけど。その人、大丈夫なの?」
「大丈夫。昨日の公演でカメラを回してチェックしていたほどだ。」
筋金入りの中野四葉ファン。
元陸上部、江場部長その人である。
会話したのは昨日だが、今日も来ていた。
さっき来場者インタビューでカメラを独占して四葉にアピールしててちょっと引いた。
マイク取り上げられてたもん。引き剥がせ って言われてたぞ。
「風太郎、俺は四葉の仕事全てを把握してる訳じゃない。まだ何か仕事があるかわかるかい。」
「俺が聞いているのは……から揚げ屋台の宣伝と一部屋台の安全チェックだ。」
「了解。俺が」
「待て、凪。四葉ほどじゃないがお前もかなり働いている。
他に任せろ。俺から連絡をしておく。」
「……わかった。」
「明日のアンコールライブに余力を残しておけ。俺も見に行くからな……」
風太郎に任せることにした。
ゆっくり考える時間をやりたかったが……もう決めているかもしれんな。
借りは明日のステージで返そう。
風太郎に任せたので、ゆっくり休む。
これで他の仕事をしてしまったら意味がなくなる。噴水の休憩所で休んでいた。
「あー!凪センパイじゃないっすか!」
「茜。」
茜がぶらついていたようだ。何してんねん。お前は練習しろよ。
インターハイ近いんだぞ。
「今まで何処にいたんすか!うちの屋台よっていってくださいよ!」
「なんの屋台だ?」
「チョコバナナっす!」
「お前冷えてなかったらわかってんだろうな」
「そこは完璧っす!むしろ歯が折れるくらい固いっすよ!釘も打てます!」
「……それはそれで人が集まりそうだな。」
「そうそう!ライブ見たっす!センパイ大人気でしたよ!」
「なんで知ってるんだよ」
「何年の付き合いだと思ってるんですか!
声と立ち振舞いでセンパイってすぐわかりますよ!
あと仮面があの時一緒に作った奴じゃないですか!」
「……そう。」
「アンコール楽しみにしてるっす!あれが自分のセンパイって自慢するんで!」
「お願いだからやめてください」
茜に連れられてチョコバナナを堪能した。とても固かった。アイスキャンデーかよ。
「センパイのとこは何の屋台なんですか?」
「パンケーキ。うちだけだな。」
「良いですね!連れてってくださいよ!」
「ああ。行くか。」
「ナギ、いらっしゃい……あ、茜ちゃん。久し振り。」
「お疲れ様です!三玖さん!」
「こいつにパンケーキを1つ宜しく。」
「うん。任せて。」
丁度店番が三玖の時だった。三玖の腕前はもう全く問題ない。
昨日はとても美味しかった。成長したなあ。専門学校いってらっしゃい。
「ナギは……決めたの?一花と五月の事」
「いやいや。まだ時間が欲しい。あれに嘘偽りはないよ。」
「何の話っすか?」
「一花と五月は、ナギのことが好きなんだよ。茜ちゃん。」
「!……こ、告白されたんですか?」
「……明確にはまだされてないな。今考えたら。」
一花には修学旅行の時に面と向かって言われてはいるが。
あれはまだ俺がまともじゃなかった頃のあっさりしたやり取り。
ノーカウントでいいだろう。
「センパイは……どうするんですか。」
「近いうちに答えを出す。そう言った。」
「き、決めてるんですか」
「今言ったろ。まだ気持ちの整理が出来てない。わからん。」
「……そうですか……」
「……できたよ。おまちどーさま。」
「ほれ。食え。」
「ありがとうございます……」
パンケーキを渡したがいまいち元気がない。
「なんだ。凪センパイが告白されたことがショックだったか?
お前の自慢のセンパイはこれでも結構モテる男なんだぞ。」
「一花と五月の二人だけだよ……」
「……そうですよね。センパイですもん。モテますよね……昨日も大人気だったし……」
「茜?」
「……パンケーキ、ありがとうございました。今日は失礼します……」
そのままパンケーキを持ってとぼとぼと帰っていった。そんな嫌かよ。俺がモテるの。
これからはお前に付き合ってばかりではいられんぞ。つーかもうすぐ卒業だし。
「茜ちゃん。もしかして、ナギの事好きなんじゃ。」
「茜が?俺を?……遊び相手って感じだけど。あれこそまさに、手のかかる妹だ。」
「……」
「遊び相手が一人減るから残念なんだろう。中学からの付き合いなんだから、
俺に告白するチャンスは幾らでもあったはずだ。だが、してこなかったからね。」
茜が俺をねぇ。
もしそうだとしたらなんで今の今まで黙ってる。わからん。
少しモヤモヤを抱えたまま、俺の2日目が終わった。
日の出祭3日目。最終日となる。
風太郎が結論を出す日。
俺のアンコールライブは夕方となる。あいつの告白前に、盛大に祝ってやろう。
「よお!有坂じゃないか!」
「有坂くん。来たよ。」
「北条さん。佐野さん。こんちわ。」
バイト先の二人が居た。おてて繋いでる。二人はなかよし。
作戦成功。佐野さんそっから先はあなたの仕事ですよ。
「お前のとこはどこなんだ?」
「うちはパンケーキっすよ。」
「あ。さっきの屋台だったんだ。美味しかったよ。中野さんが焼いてた。」
ご満悦のようだ。そらもううちの三玖さんに任せとけば安心よ。
不意打ちなど不要。時代遅れよな。今のトレンドは真剣勝負。
剣豪三玖が自慢のパンケーキであらゆる客をバッタバッタと切り伏せる。
まさに大立ち回りだ。
「でも、有坂くんの作ったパンケーキを食べてみたかったかも。」
「そうかもな。お前、何でも器用にやれそうだし。」
「この前は不器用って言われましたけど。
俺は今日のクライマックスに向けて充電中ですよ。」
「何?屋台以外になんかやんのか?」
「ええ。ヒーローショーみたいなものやるんで。」
「え?プログラムにそんなのあったっけ?」
「このアンコールライブ、楽しみにしておいてください。お二人ならまあ、すぐわかるでしょう。」
「へー。楽器弾けたのか?」
「弾けませんよ。パフォーマンスだけです。」
「ふふ。楽しみにしとくよ?」
「・・・・五月が、来ていない?」
「そうなんです。マンションで勉強をしてて・・・・」
昨日は病院へ運ばれたが、今日は無事復帰している。
四葉からそんな報告を受けた。
・・・昨日の一件が影響しているか。
そういえば、無堂は他の姉妹へアプローチしているんだろうか。
昨日は五月と会っているところしか見ていないが。
「そうか。どうりで探しても見つからないはずだ。」
「・・・・無堂さん。」
いつの間にか、背後に無堂が現れた。
・・・・・五月の手がかりを探していたな。姉妹、もしくは俺の近くにいたわけだ。
「有坂さんの知り合いの方ですか?」
「・・・・ああ。知り合ったのは昨日だけどね。」
「とにかく。有坂さん、様子を見に行ってあげてください。これ、カードキーです。」
「・・・借りるよ。」
四葉は無堂を知らないらしい。接触していないようだ。
マンションに入るための鍵を受け取る。
だが・・・この男の前で今、そんなものを見せてはいけない。
「有坂くん。五月くんは自宅にいるようだね。私もつれて行ってくれないかい。」
「いえ、それには及びませんよ。
・・・・・・・・そうですね。後でここに連れてきます。それで宜しいですか。」
「君が呼んできてくれるのかい?すまないね。お願いしよう。」
昨日から考えてはいたが・・・・・・・一つ思いついた。
愛の証明。出来るじゃないか。簡単に。後でテストを受けてもらおう。
とりあえず、家に無堂を入れるという最悪のケースは回避した。
しかし、五月に会わせなければいけなくなってしまった。
別にこの約束を守ってやる義理は無いが・・・・
五月がこの件を引きずってしまうのも良くない。時間はかけたくない。
今解決できるなら、その方が良い。
さあ、五月をどれだけ回復させることが出来るか。それが勝負の別れ目。
責任重大だぞ、今から俺がやる仕事は。
マンションに到着。
カードキーを使用し、30階へ。部屋のドアを開ける。
五月がたった一人、リビングで勉強していた。
既にかなりの量をこなしている。しかしまだ止める気配はない。
「・・・・ご苦労様だね。五月。」
「ナギくん・・・・今、私がしていることは、意味のないことでしょうか。」
「そんなわけがあるか。自分の憧れ、夢に向かって進む。素晴らしい事だ。
一花も、三玖も同じことをやっている。
・・・・無堂のいう事を真に受けてはいけないよ。
訳の分からないことを言いだしたから、とりあえずテキトーに同調してやったがね。」
「いえ、そうじゃないんです。・・・・お母さんが・・・言っていたんですよ?
私のようには絶対ならないでくださいって。
それなのに、私は諦められないんです。いまだに・・・・お母さんを目指している。
そう願う私は・・・間違っているんでしょうか・・・」
・・・声が震えている。静かに涙を流しているようだ。
昨日も言っていたな。
ただ、俺はその発言に思う所がある。
「その一言だと説明不足だ。俺はそう思う。
・・・私のように、教師にはならないでください と言ったのなら、別だけどね。
私のように、変な男と結婚しないでください と言いたかったんじゃないかね。たぶん。」
どのタイミングでの発言かわからないんだが・・・・
多分こうじゃないかな。
「・・・キミのお母さんは生徒から大変に慕われていた。
下田さんと今の中野父・・・マルオさんだ。
下田さんはその影響で塾講師になり、中野さんは恩を感じ、実の娘であるキミたちを引き取った。
少なくとも、周りから見れば、素晴らしい教師であった。
あらゆる人を幸せにしていた。そして、周りもその恩返しをしていた。」
「そんな素晴らしい人を目指すこと、それの何が悪いんだい。確かに教師は大変だろう。
・・・キミのお母さんも、そう言ってしまうほどに大変かもしれない。」
「だが・・・・日本人というのはそういうもんだ。
自分の境遇を楽観的に考えられる人は、あまりいない。俺も同じことを言った。
いつだったか言ったね。俺のようになるのはあんま良い事じゃないと。」
「そう・・・でしたね。あの図書室で勉強していた時に・・・・」
「・・・それを聞いて、今、どう思うかい。改めて確認しておこう。
俺はこう言った。俺のようになるのは、あまりいい事じゃない。
キミが、俺のように強く立派になりたい と言ったから、こう返した。
五月、今キミはどう思うんだい。
俺のようになりたいと思うかい。それともなりたくないと思うかい。
・・・・これは、さっきの問題と全く一緒だ。
キミのお母さんも、私のようになるなと言った。
俺もまた、俺のようにはなるなと言った。・・・・・どうだい。今の気持ちは。」
「・・・・いえ。私は今でも・・・・ナギくん。貴方に憧れています。
貴方のように、強く、立派になりたいです・・・・!」
「ありがとう。・・・・失礼するよ。」
イスに座っている五月の両肩に、優しく手を置く。
「・・・・俺を信じるのであれば、キミのお母さんも信じろ!
目標に向かって、迷わず進め。・・・・心配はいらない。
キミの憧れである、俺がサポートをしよう。」
「・・・はい!私は、お母さんのように、生徒に希望を与える先生になりたいです!
私は、私の意志で、母を目指します!」
「そうだ。それでいい。
キミが悩んでいるのであれば、俺も共に考えよう。
キミが喜んだのであれば、俺もその喜びを祝福しよう。
キミが俺を求めるのならば、俺はそれに快く答えよう。
これから、俺とキミは、一心同体。
運命を共にする、共同体だ。」
「我が運命の友が、夢の第一歩を歩むために、今やれることは何か?
・・・・迷わずにペンを持て。始めるぞ。」
「・・・・はい!」
「よし。良いだろう。お疲れさま。」
「ありがとうございました!」
大量の問題集をあっという間に片付けた。
今回の一件のおかげで、かなりブーストがかかったな。
これなら無堂に引き合わせても大丈夫だろう。
「さて。まだやらなきゃいけないことがある。わかっているね。」
「はい。あの人と決着を付けます。」
「それでよし。」
「無堂に関して、昨日はパッと浮かばなかったんだが、」
「ナギ君。私に考えがあります。」
「お。」
五月も何か考えていたらしい。同じかな。
「あの人は・・・愛によって動いたと言っていました。」
「・・・・・たぶん、俺と考えてること、一緒だね。」
「ふふふ。三玖に協力してもらいます。」
「自分なりの考えを言わせてもらえば・・・無堂の狙いは一花だと思う。」
「一花がですか?」
「うん。最終的には一花を狙ってると思う。もう本当に大女優だからね。
一花の父親に復帰できれば、金の面では困らない、じゃないかねぇ。
それでその足掛かりとして、キミに目を付けたんだ。」
「確かに・・・・一花をテレビで見たと言っていました・・・・
もう!許せません!そんなに私は簡単そうに見えたんですか!」
さっきまでの意気消沈はどこへやら。
完全に怒ってしまった。まあいいか。困るのはあのおっさんだし。
グッバイ無堂さん。君の運命の人は五月ちゃんじゃありませんでした。
また来世でお会いしましょう。
「この問題は、お父さんも含めて、私達家族で決着を付けます。
ナギくん。貴方は、手を出さないでください。」
「わかった。信頼しているよ。」
作戦は俺と同じだし、もう五月に任せていいだろう。