五等分の花嫁 ~家庭教師の助手~   作:I-Ris

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「お、来たねー?有坂くん。」

「あれま。遅刻だったかい。しつれい。」

「気にするな。まだかなり早い。皆、落ち着かなくてな。」

 

ステージ脇に来た。まだ時間があったが、もうみんな集まっていた。

毛利さんと葛城君もいる。

 

「期待してるわ。有坂くん。」

「武田くんのたこ焼きは美味しかったかい。」

「ええ。・・・でも、あなたの焼いたたこ焼き、結局食べそびれたわね。」

 

そういやそんな話してたな。俺も忘れていた。

 

 

「葛城君?準備してね。」

「ああ。わかった。」

 

毛利さんが葛城君に指示を出す。

これからやる曲は1つのみ。その曲に鍵盤ハーモニカは使わないんだが。

ステージ前の左側に何かをしに行った。

 

「凪。もう居たのか。」

「おや、相棒。応援しに来てくれたのかい。」

「俺も暇になったからな。それにしても大トリか。

エースというのは大人気だ。」

「・・・・俺もさっきそれを実感した。」

 

 

 

「・・・・前のバンド、もうすぐ終わるぞ。かなり時間をオーバーしている。」

「仕方ないっしょー。1曲入魂でよかったね!」

「片倉の予想が的中だな!」

 

2日目と3日目の担当バンドがライブをしていたが、ちょっと時間が押している。

屋代さんの言う通り仕方ない。ここはアンコールライブ。

観客から演奏してくれと言われて演奏してるのだ。

 

自信を持ってやっている。そのため調子に乗ってしまう。後ろの事も考えて欲しいが。

やられっぱなしは性に合わないので、ちょっとステージ上で毒を吐かせてもらおう。

 

 

「・・・・終わったみたいだね。みんな、行こう!素早くね!」

 

川村さんの合図で出て行く。

もう5人メンバーという事はバレているので、俺もステージ上の準備に向かう。

 

 

 

「もう少し右かい?伊達くん。」

「おー!その辺だ!」

 

ドラムの位置調整を終え、準備完了。

観客席の方を見る。・・・・初日より多い。生徒はほぼ全員いるんじゃないかコレ。

 

 

中野姉妹は・・・・後ろにいた。5人勢ぞろいしている。また社長いるし。帰ってくれ。

 

ウチのクラスの連中も。北条さん、佐野さんも。

 

あれ、パン屋の店長とケーキ屋の店長もいる。んだよ。仲良しじゃないか。妬ましい。

 

上杉父とらいはちゃんも。らいはちゃん髪目立つねー。

 

あれ。下田の姉貴まで。なんでいるんすか。

 

中野父・・・うお。パツキンの江端さんまで。いつ辞めるんだあの格好。

 

・・・・茜。お前もやはりいるのか。練習して来いよ。

 

 

多くの人が来てくれたようだ。・・・無様なところは見せられんな。

 

 

 

「ナギっちー!始めるよ!戻って!」

「よし。やろうか。」

 

ステージ裏に俺だけ引き返す。

やることは一緒。少しだけ変える。

 

俺には切り札がもう一つあるからな。

 

 

 

 

♬~~~~~

 

 

始まった。まずはウォームアップ。

今までの曲とは違う。ギターのソロから静かに始まった。

 

と思ったら、急に全ての音が重なる。そしてしばらくして、またギターソロ。

ギターメインのメリハリの効いた渋い曲だ。

既に歓声が上がっている。実績があるからな。最初から観客がみんな期待している。

 

 

2分30秒程度と聞いている。また終わり際に登場する。

一番自信のある蹴り技を用意した。マイクは既にスタンドに刺さっている。

スマートに決められるかが勝負。

 

 

曲の終わり際、観客席から向かってステージ右側から、まず普通に歩いて出てくる。

ゆっくりとマイクスタンドに向かうが、観客に向かって、素早くアレを決める。

 

時計回りに回転し、右膝を畳んだ状態で右足を腰から素早く回す。

そして左足を思いっきり弧を描くようにぶん回す。

今はヒーローショーの時と違い、着ぐるみを着ておらず軽い。

失敗などしないし、スピードもこっちの方がある。

 

そう。実践では使い物にならないビジュアル型旋風脚。バイトでの俺の必殺技だ。

 

 

着地した後、その回転を生かしてマイクを取る。

そしてそのまま、バレエのように両手を上げ、更に回転する。

 

クルクルと、軽々しく。飄々と。自由に。つかみどころがないように。

 

曲の終わりと同時に観客席の方を向き、右手を振り上げ、降ろしながら深くゆっくりとお辞儀。執事のように。

 

・・・・よし、良いだろう。下を向いていてもわかる。大歓声だからな。

三半規管が少しツラい。少し足がもつれてしまったんだが、客にはバレていないから良い。

足はX字のようにクロスさせてバランスを取る。

 

 

 

 

「・・・お待たせしました。アンコールにお呼び頂けて光栄だ!

始めよう!私達は、マイナーロール・マスカレード!日食の時はまだ終わらない!」

 

 

声援が上がる。大人気だな俺。まあほとんど一人でステージ進行役やってるからな。

めっちゃ練習したんだよ。嬉しいわ。

 

 

「・・・・しかし、残念なことにこの時点で既に時間がなくてね!1曲しか披露できない!

聞き逃さないでくれよ!今回もまた、君達は主役の1人だ!」

 

 

ブーイングが上がる。しょうがねぇだろ。文句は他に言え他に。

後でさっき演奏してたバンド2組は大ひんしゅくだと思う。

 

キミたちも盛り上がってはいたけれど。

どう聞いても俺たちの方が歓声大きいもん。どんまい。

 

 

君達は所詮、自分たちメインだからな。観客に聞かせるだけだ。自己満足。

観客を盛り上げるのがメインの俺たちとは方向性が異なる。

だが、思い出作りとしてはそちらが正解だろう。

 

一長一短、どちらを優先するかというだけの話だ。

自分たちがやりたいことをやるのか、それとも他人から認められることをやりたいのか。

それだけの違い。どちらを選択しても、得られるのは満足感だけだしな。

ライブハウスのようにチケット代なんてない。

 

 

「今回も、また皆様ご存じの曲を用意したよ。

またご協力を願おう!サビのタイミング、みんなで声を上げ、拳を突き上げろ!

 

大丈夫!今回はガイダンスはいらない!聞けばわかるさ!君達は太陽だからね!」

 

 

わけのわからない理論であるが問題なし。

観客たちは1日目の期待値を持っているため、

開始前から既に最高潮までボルテージが上がっている。

もう何でもいい。勢い。ノリ。テキトー。水を差さないことだけ考える。

 

 

「K!タイミングは任せる!」

「わかった。諸君・・・・期待しているぞ。」

 

片倉くんノリノリ。まあいつもこんな感じだけど。

ウォームアップと同じように、ギターの音から曲が始まった。

 

 

 

 

♬~~~~~

 

 

この曲を聞いてから和訳を見ると、ギャップにびっくりするだろう。

ノリノリでこんな事を言っていたとは そう思うに違いない。

 

 

『これは 遠いどこかの国の あったかもしれない昔話』

 

片倉くんの低いコーラスが先陣を切る。温まったころ、満を持して俺の声が響く。

 

 

 

 

『彼は今日もまた トラックを飛ばしていた』

 

 

『だがある日・・・・ とても不幸な事故を起こしてしまい』

 

 

『相手にケガをさせてしまい 仕事をクビになっちまった』 

 

 

『彼は悪くない 運がなかったんだ』

 

 

『厳しいな ・・・・だがきっと なんとかなるさ』

 

 

この歌詞。

しかしこの曲は正真正銘、まぎれもないロック。

このギャップが良い。知る人は知る。それでいい。

 

 

しかし、このコーラス。男が少なくとも2人いる。

ステージ裏から葛城君が歌っているのか?

 

 

『彼女は昼夜問わず 必死にあちこちを走りまわっていた』

 

 

『逃げることも出来ただろうに 彼の為に逃げなかった』

 

 

『彼を許してもらうために なんでもしたんだ』

 

 

『小さな希望である 二人の愛が壊れてしまわないために』

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼女は言った 大丈夫よ』

 

 

『きっと 何とかなるわ 私がついてるから』

 

 

『だから あなたも元気を出して』

 

 

『失敗しても 頑張って取り返せばいいのよ』

 

 

『ほら 私の手を握って』

 

 

さあ、サビだ。お前ら。景気の良い叫び声を頼むぞ。

この曲は英語だが、みんな知ってるだろ。

 

 

 

『二人で一緒に 歩んでいきましょう』

 

 

 

観客に喋っておいて俺が何もしないのでは示しがつかないし、ノリも悪くなる。

叫ぶときは大きく。そして誰よりも高く、右手を突き上げる。

 

 

 

 

 

 

 

『そう 私達はまだ長い旅の途中なの』

 

 

『まだこれから 私達は終わっていないわ』

 

 

素晴らしい。大歓声だ。みんなが声を上げてくれる。

知名度のある曲は素晴らしい。不言実行、説明しなくても、みんな一つにまとまってくれる。

 

 

 

『ねえ 私の手を引いて あなたがリードしてくれれば きっと良い未来が来るわ』

 

 

『二人で慎ましく 今は隠れるように 共に生きていきましょう』

 

 

 

2段階に分けて声を上げるので、腕を突き上げる時も2段階に。

1番が終わった。喉はまだ持つ。この1曲で全て使い切る。

 

間髪入れずに2番が始まる。休憩の時間がないのは辛い所だ。

 

 

 

 

 

 

『彼は 趣味だったキャンピングカーを売り払った』

 

 

『まだ新車のように新しかったのに 我慢するしかない』

 

 

『やはり キツイな  でも 仕方のない事なんだ』

 

 

 

 

 

 

 

『ある日 彼女は珍しく 弱音を吐いた』

 

 

『どうして 私達がこんなことを』

 

 

『彼は彼女に向かって呟いた すまない 僕のせいで』

 

 

『けど キミのお陰で 僕は立ち直れたんだ』

 

 

ここで立場が逆転する。この二人は支えあっている。

一人が辛い時は、もう一人が頑張る。

素晴らしい関係だ。二人が常に頑張らなければいけないなんていう決まりはない。

 

 

 

『彼は言う 僕は大丈夫 耐え切れなくなったら 逃げ出していいんだ』

 

 

『君が辛いのなら 気にせず 僕から離れてくれていいんだ』

 

 

『だから 何処かで君もゆっくり休んでほしい』

 

 

 

 

 

『だが もし 元気になるまで 僕の横で休んでくれるなら』

 

 

『いつかまた この手を握っても良いかい』

 

 

『再び 二人で共に歩いてゆくために』

 

 

2番のサビ。もうネタは割れてる。

1番でついていけなかった人もついてこれるだろう。

 

さあ。みんなで叫ぼうぜ。大きい声を出すとスッキリする。

この歌詞の二人を元気づけてやろう。

 

 

 

 

 

 

『そう 僕達はまだ長い旅の途中なんだ』

 

 

『君が教えてくれたんだ 挽回してみせるよ』

 

 

『大丈夫 僕が前を歩き 君を守る壁となろう』

 

 

『二人で助け合い 今は救いを求めるように 共に生きていこう』

 

 

 

サビを終え、クライマックスに入る。

ここから音程が一つ上がる。これがかなり厳しい。

今まで温存していた力をすべて使う。

 

 

 

 

『もう大丈夫よ 何とか耐えましょう』

 

 

『耐えて 耐えて 私達がまた光を浴びるその時まで 一緒に戦いましょう』

 

 

 

 

この先は叫び声も音程が一つ上がってしまう。

そこまでは付き合えない。コーラスと観客に任せる。

 

 

2番を聞いた限りは、問題ない声量だった。

俺は声を出さない代わり、叫ぶときのポージングはしっかりやる。

 

 

 

『そう 私達はまだ長い旅の途中なの』

 

 

『まだこれから 私達は終わっていないわ』

 

 

『ねえ 私の手を握って そうすれば きっとうまくいくわ 信じて』

 

 

『二人で慎ましく 神様に祈りながら 共に生きていきましょう』

 

 

 

 

 

 

『そう 僕達はまだ長い旅の途中なんだ』

 

 

『君が教えてくれたんだ 挽回して見せるよ』

 

 

『大丈夫 僕の手を握って そうすれば きっと光が訪れる 信じて』

 

 

『二人で助け合い 神様に祈りながら 共に生きていこう』

 

 

 

~~~~~♬

 

 

ドラムの音とともにバシッと終わった。

原曲はフェードアウトして終わるが、サビの繰り返しが終わるところできっちり止めた。

カラオケじゃないんだ。フェードアウトで終わっちまうのはなんかしらけるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大歓声が上がった。とても長く緊張した4分間だった。

 

喉は多分つぶれた。もう高音は出ない。

 

アンコールが鳴りやまない。お前らには悪いが、もう無理なんだ。

 

 

 

「・・・・・では、これまでだ!楽しかったよ!皆々様!」

 

 

5人揃ってステージから引き上げた。

 

 

全員やり切った顔をしている。今なら仮面越しでもわかる。

 

 

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