五等分の花嫁 ~家庭教師の助手~   作:I-Ris

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「・・・・凪。凄いステージだった。」

「だろう?少しは見直したかい。ただ、もう喉は限界だ。たった1曲だってのに。」

「人気者になる理由がよくわかった。」

 

風太郎から最大の賛辞を頂く。この後はお前のターンだぞ。

じっくり見させてもらおう。

 

 

「ナギっちー!アンコールがやまないよ!」

「光栄だねぇ。でももう俺は無理だねぇ。喉が。」

「そっかー・・・・」

「時間もないし。」

 

会場からアンコールがやまなかった。

まあ、日の出祭の閉会式も控えてるからな。これ以上は厳しい。

 

「・・・そう簡単に終わると思っているの?有坂くん。」

「毛利さん。いや無理でしょ。俺の喉的にも。」

 

 

「それは残念だけど、きっと彼ら、あなたを離してくれないわよ。」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3分経った。

・・・・アンコールがまだ止まない。軽くブーイングが混じってきている。

先ほどの2組のバンドが3曲ずつやったからな。トリの俺たちが1曲というのが納得いっていないらしい。

 

「な、凪。これはマズいんじゃないのか。」

「・・・そうだねぇ?でもどうしようも・・・・」

 

 

「みんな、準備しなさい。予想通り必要になったわ。」

「もーりは流石だな!」

「よし、替えのギターを出す。あの動画を準備しよう。」

「ほらー!リンリン!あれに着替えるよ!」

「う~・・・・ホ、ホントにアレを着てステージに立つの?」

「リン、あれ似合ってたぞ?こっちは鍵盤ハーモニカをセットする。」

 

 

みんなが何かしらの準備を始めた。

俺なんも聞いてないんだけど。

 

「上杉くん?あなたにも手伝ってもらうわ。

ステージの横のスクリーンに電源を入れてきてちょうだい。

オレンジのボタンを一度押すだけで良いわ。」

「わ、わかった毛利。」

 

風太郎が毛利さんにパシられた。

なんだよ。何する気だ。

 

 

「有坂くん。もう1曲歌ってもらうわ。この場を鎮めるために最適な曲があるでしょう?」

「え?そんな曲知らないんだけど。つーか喉無理だよ?」

 

 

「この前、海で吹いていた口笛。あの曲の準備が出来ているわ。」

「・・・・・・・・・あれかぁ。」

 

あの曲なら、確かに今までとは違う。

高い声はいらない。今の状態でも歌える。

 

 

 

しかし、あれはみんなが乗ってくれるとは思えない。

古い曲だし、若者にそこまで知名度のある曲ではない。

 

 

「し、失礼するよ。仮面の人たちはここにいるのか?」

「あれ、先生。どうしたんですか。」

 

なんか先生が来た。

 

 

「なんでもいいからもう1曲やってくれ!これでは収まりがつかないぞ!」

「いやでももう時間過ぎてる・・・・」

「その辺の調整は何とかする!だから早く行ってくれ!頼む!暴徒化するかもしれん!」

「はい。わかりましたわ。先生。・・・有坂くん。そういう事よ。」

 

「毛利さんはここまで全部予想してたと言うのかい?」

「最初に練習を見た時からこれくらいは簡単に想像できたわ。」

 

 

恐ろしい。無理だろ普通。

 

そして4曲目の準備をひっそりと隠密に遂行していた。

隠さなくていいじゃん。なんで俺だけサプライズなんだよ。

 

 

「準備が出来たらステージに上がって頂戴。私も向かうわ。」

 

そう言いながら仮面をつける毛利さん。何してんの?

 

「なんだいその仮面。」

「私もステージに立つのよ。ピアノを弾くのは私。屋代さんには別の役目があるわ。」

「え?弾けるの?」

「昔、少しね。錆び付いた腕を、貴方の為に研いできたのよ。」

 

キーボード担当の屋代さんがどっか行ったと思ったら毛利さんが弾くらしい。

しかもステージ左端でひっそりとたたずんでいるピアノを。

 

 

「ステージ左のスクリーンを使って、歌詞を表示させるわ。

これなら、皆もついてきてくれるはずよ。

サビの歌詞、英語でもそこまで難しくないでしょう?」

「・・・準備がいいなぁ。確かに行けるかも。」

「私はそのあたりの技術がないから、片倉くんに作ってもらったわ。」

 

用意周到すぎる。やっぱこの人こえぇわ。

 

 

「さあ、これで最後よ。永遠に忘れられないお祭りにしましょう。」

「・・・・・わかった。行って来よう。」

 

満を持してステージに向かう。

伊達くん、片倉くん、毛利さんも後ろからついてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台袖から姿を現すと、アンコールとブーイングが歓喜の声に代わる。

主役は再び登場だ。中央のマイクを持ち直し、観客に向けて演説をする。

 

「・・・・・本来なら、本当にこれで終わりだったのだがね。戻ってきたよ。」

 

拍手で返事が返ってくる。

余程待ちわびていたのだろう。悪い気はしない。

 

 

「・・・・全く。4曲目など聞いていない。

私も罠にかかってしまった。喉がもう限界だというのに。

 

私以外の皆は準備が出来ていたよ。気になる子にイタズラをするのはよしてほしいもんだね。」

 

 

 

両手を上げて首を左右に振り、大げさにやれやれというポーズ。

大きな笑いが起こる。

 

 

「本当に、この曲で最後だ。皆々様、理解しているかい。

光栄ではあるんだが、もう日の出祭の閉会式が近いんだ。よろしく頼むよ。」

 

歓声のない拍手。うん。次は大丈夫だろう。

 

 

「さて・・・・・今から披露する曲は今までと少し方向性が違う。

知らない人は多いだろう。しかしながら、これは一人で歌う曲ではないんだ。

大勢で、豊かに、楽しく歌う曲。」

 

 

「この曲・・・歌詞の変わらない短いサビが4回もある。

聞いてるうちに覚えるだろう。歌詞も英語だが、そこまで難しくない。

 

曲のクライマックス、最後のサビはアナウンスするよ。

是非、皆で今一度、声を上げて欲しい。

勿論、歌えるのであれば最初から歌って構わないよ。

 

この曲は、皆で騒ぐ曲。ワイワイガヤガヤ、楽しく行こう。」

 

 

スクリーンの方を指さす。

最後はアナウンス。キャンプファイヤーの時と一緒だ。

歌詞と和訳を見せるのも、一花の時と一緒。

 

 

「歌詞と和訳を用意した。これなら、知らなくても大丈夫。

サビの部分だけ、覚えて欲しい。

あなたもメンバーの一人だ・・・みんなで最後のライブを、創り上げていこう!」

 

 

大歓声で返答を受ける。演説はここまで、

曲の入りを紹介しよう。

 

 

「・・・・・ここは、ある外国の場末のバー。

・・・・・私は売れないギタリスト、皆様はそのバーを訪れた客・・・・・・」

 

 

毛利さんのピアノが始まった。

 

♬~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

ピアノのソロから始まり、ハーモニカの音色、静かなドラムと親しみを感じるギターの音。

聞いたことがない人でも、この曲には懐かしさを感じるだろう。

 

ゆったりとした曲。フォークロックというジャンルらしい。

 

この曲、ダンスはいらないだろう。歌に集中する。

 

最後に一発決めるくらいか。

 

 

 

 

 

『ある寒い月の 金曜日の夜』

 

 

『今日もまた 様々な客が姿を現す』

 

 

『ハットをかぶった見知らぬ老紳士が 僕の隣に座る』

 

 

『彼は のんびりと アプリコット・フィズを嗜んでいた』

 

 

 

曲の間奏で鍵盤ハーモニカが主張する。

葛城君やるな。じょうずじょうず。

 

 

『彼は言う もし そこのお方 郷愁 という曲は弾けますかな』

 

 

『失礼ながら 私もはっきりと覚えていないのですが』

 

 

『切なく 甘くもあり 恋しくもある でも 完全ではない そんな曲なんです』

 

 

『私も あなたぐらいの年の時に 聞いたっきりなのですよ』

 

 

 

 

初対面との老紳士とのやり取りを終え、1回目のサビに入る。

ここは紹介程度。まず観客から声は聞こえない。それでいい。

 

この曲こそが郷愁なのだろうか?歌っていてそう思わずにはいられない。

郷愁の意味すら分からないが。もっと本を読んでおくべきだったな。

 

1回目のサビを終え、2番に入る。この曲は長い。5分30秒もある。

高い声は必要ないので、楽でいいが。

 

 

 

 

 

『ここには バーテンダーのダチがいる』

 

 

『格式高くはなく 気取ってもいない フランクで親近感のある奴だ』

 

 

『今日もまた 小粋なジョークを飛ばし グラスの水滴をサッとふき取る気配りを披露する』

 

 

『贔屓目なしでも優秀だ こんなところにいるような奴ではないんだが』

 

 

友人のバーテンダーが登場する。

この人物、ぜひ一度会ってみたい。絶対面白い良い人。

 

この曲の登場人物は全て実在の人物をネタにしているらしい。

ただし、かなり古い曲なので、今その人物が生きているかもわからない。

 

 

 

『彼は僕に言う おい 聞いてるか? 俺、これからどうすりゃいいかな!?』

 

 

『そんなジョークを飛ばしながら 彼は周囲に笑いを振りまく』

 

 

『いいか その気になりゃ 俺は大統領にだってなれる男なんだぜ?』

 

 

『まあ この店が俺の事 離してくれねぇんだけどな!』

 

 

2回目のサビ。途中から、少し声が聞こえてきた。

良い傾向だ。ただ、最後だけ決めてくれれば構わない。

まだ覚えていない人もいるからな。

 

サビは終わった。さあ、続きだ。

 

 

 

 

『あの客はいつもこの時間帯に来る ネタを探してる人気の作曲家だ』

 

 

『多忙なようで 飲み以外の趣味に時間を費やす暇もない』

 

 

『彼は友人である ジム勤めのマッチョマンと今日も話をする』

 

 

『いっつもこれだ あの二人 一生ああやって 

あーでもないこーでもないと喋っているんじゃないか』

 

 

今の歌詞を歌い終わったところで、ステージ両脇から二人のメイドが出てきた。

川村さんと屋代さんだ。・・・・そういう事ね。あれはメイド喫茶の出し物の衣装だ。

 

メイドは規則正しくもステージを自由に動き回り、ゆったりとしたステップを踏んでいく。

 

あらー。リンちゃんはお顔が真っ赤です。仮面越しでもわかる。

薄緑の髪に映える赤。

 

 

 

 

 

 

『メイドたちは この仕事に幾分か手慣れてきたようだ』

 

 

『働く大人たちを 素早く 手際よく酔わせていく』

 

 

『そう 連中は独り身どうしで集まって 寂しさ という名の酒を飲み交わしている』

 

 

『あまり見ていられる光景じゃないが 一人寂しく飲むよりはマシなんだろう』

 

 

恥ずかしがりのメイドな川村さんに対して、メイドな屋代さんはノリノリ。

眼が>< ってなってるもん。金髪げんきはつらつ娘。

 

 

 

 

ギターの主張が一層と激しくなる。

サビ前の盛り上がりだ。3回目のサビに移る。

メイド二人はジョッキを持っている。リズムに合わせて高く、左右に揺らす。

 

 

『歌ってくれよ ギター 弾けるんだろ』

 

 

『今夜は お前のギターが必要だ』

 

 

『みんな お前の演奏を聞きたがってる』

 

 

『そうすりゃ 俺たちはまた明日からも頑張れるんだ』

 

 

3回目のサビはかなり声が上がった。メイドのアシストが効いている。

やはり、ステージが楽しそうなら見ている側も楽しくなるものだ。

毛利さんの計画性には恐れ入る。

これなら最後のクライマックスは心配ないだろう。

 

 

 

『今日は客が多い なにかいいイベントでもあったのだろう』

 

 

『バーのマスターもご満悦だ こちらに満面の笑みを向けて 言う』

 

 

『みんなギター目当てなんだよ お前の演奏は 現実を忘れさせてくれる』

 

 

『非日常を求める 日常からの逃亡ってやつさ』

 

 

 

 

 

『嗚呼! ギターの音はまるでサンクスギビング・デイ』

 

 

『ステージの木製階段にはすっかり ラムコークの匂いが染みついている』

 

 

『見知らぬ一人の男性が 僕にチップを渡しながらこう言った』

 

 

『いい腕してんのに お前 こんなボロボロの店で 何してんだよ?』

 

 

 

 

さあ、泣いても笑ってもこれが最後だ。

皆で笑って歌おう。

 

「さあ、最後のサビだよ。皆さん・・・・ご一緒に!」

 

 

右手を振りあげ、リズムとともに左右に大きく振り回す。

振り子というべきか、アメリカンクラッカーというべきか。

 

 

そう、今の俺は大げさな2拍子の指揮者。

 

 

 

 

 

 

『歌ってくれよ ギタリストさん!』

 

 

『今夜は お前の歌に溺れたいんだ!』

 

 

『ここにいるみんなは お前の演奏を聞きに来たんだ!』

 

 

『そうすりゃ 俺たちはまた明日からも頑張れるんだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

大合唱。素晴らしい。100点だキミたち。これぞ俺の求めていたものだ。

曲の終わりに合わせて、また執事のようにお辞儀をした。

 

拍手と歓声が上がる。祝福を一身に受ける。

 

 

 

・・・そう。今の俺は昔とは違う。もう恐れない。

 

 

自分が傷つくことも。他人を傷つけることも。

 

 

傷ついたら休めばいいじゃないか、ゆっくり治せばいいじゃないか。何を焦る必要がある。

 

 

他人を傷つけた回数よりも多く、他人を楽しませてみせる。-よりも、+を大きくするだけ。

 

 

 

俺なら出来るさ。

・・・だって、見ろよ。この大観衆を。

 

 

 

 

 

・・・俺は今、こんなに大勢の人を笑顔にしているんだから。

 

 

 

 

 

~~~~~♬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。では、申し訳ないが本当にこれでおしまいだ!

最高のライブだったよ!」

 

ステージ上の全員でお辞儀をする。

大丈夫だ。皆納得してくれるだろう。

この曲は最後の締まりとしても良い。ゆったりとした曲だから。

 

 

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