明日は大晦日ですね。皆様、良いお年をお過ごしください。
「終わったな、有坂。ご苦労だった。」
「片倉くん。お疲れ。」
「有坂は凄いなー!」
「伊達くん。良い仕事だったよ。
ギターメインだけど、そのドラム無くしてあの盛り上がりはなかった。」
「ナギっちお疲れー!楽しかったー!」
「よく似合ってるよその格好。川村さんもね。」
「ふふ。最初は恥ずかしかったけど、
途中から楽しくなってきちゃった。みんなノリがいいから。」
「緊張したぜ・・・・いくつかトチっちまった。」
「初めて聞いてる分にはわからないよ。心配しなくていい。葛城君。」
「私もそれなりには緊張したのよ?」
「そうなの?毛利さんからそんな素振りは感じなかったけどなあ。」
バンドメンバーと挨拶を交わす。
完全燃焼という感じだ。元気もあまりない。
アンコールも起きていないし、良い幕引きだ。
「後処理は私達で済ませるわ。有坂くん、行かなくてはならない場所があるのではなくて?」
「そうだね。相棒の様子を見に行かないと。」
「そんな貴方の友愛の心に、惹かれたのよ。」
風太郎の姿が見えない。姉妹と既に決着をつけにいっているかもしれない。
辺りを探すことにした。
「聞いたか?浅野の奴、他のクラスの子と付き合いだしたんだぜ。」
「へー」
「ははは。モテそうだもんね、彼。」
「お。仲良し3人組じゃないか。」
噴水の休憩所が大活躍。
風太郎、前田くん、武田くんの3人で椅子に座り、雑談をしていた。
風太郎の隣に腰かける。
すっかり暗く、日は落ちている。雲一つない星空が祝福をしている。
「ようギタリスト。良いステージだったぜコラァ。」
「全くだね。初日を見逃してしまったんだよ。もう一度やる気はないかい?」
「こいつのショーは高くつくぞ。あの大歓声だからな。」
「1万円までなら出せるね。」
「ははは。光栄だ。ギターを弾いていたのは俺じゃないけど。」
軽口をたたきあいながら3人の輪に入る。
「まあ・・・・明日からまたいつもの日常に戻ると思うと、少し落ち込むな。」
「なんでだい?僕は明日からまた授業を受けられることに、ワクワクしてるよ。」
「同じく」
「お前ら異常者には俺と有坂の気持ちはわかんねぇーよ・・・・」
「勉強の鬼だからね・・・・」
勉強大好きすぎるだろ。変態かよ。
理解できん。やっぱ天才だわこいつら。
「ただ・・・そうだな。終わっちまう寂しさはあるな。」
「僕的には十分楽しめたよ。上杉くんは違うのかい?」
「裏方の手伝いばかりしていたからな。凪、巻き込んで済まなかったな。」
「いいよ。俺はいつもとやること変わらないから。裏方の気持ちは味わえたかい。
まあ・・・2日目くらいはお前をフリーにしたかったけど。」
四葉が倒れちゃったから仕方ない。
特にトラブルもなく各所を回し切れたので良しとする。
「満足してねーなら、行こうぜ。座ってないで、屋台行くぞコラァ」
「そうだな・・・腹減ってるし、行くか。行けずじまいの店もあったしな。
ただ、それが終わったら俺は・・・・
会う約束をしてる奴が、いる。」
「なるほどね。あの姉妹の事なら、さっきのステージで見かけたよ。」
「一花さんも居た。5人勢ぞろいだったぞ。」
「へぇ。前田くん。あの人込みの中で一瞬見ただけなのに、
よく一花さんがわかったね。みんな似た顔をしているのに。」
「・・・なんつーか、おかしな話なんだが・・・
前から一花さんだけは、なんとなくわかんだよ。」
「も、文句あっかコラ!」
「へー。なんでだろうね。」
「・・・・・さぁな。」
「俺も一花と五月だけは自信あるよ。」
「有坂くんも流石だね。」
愛さえあれば 見分けることが出来る。
四葉がいつしか言っていた。お母さんの言っていたことです と。
あの林間学校の告白の時から既に、前田くんは一花だけは見分けがついていたのだろう。
「上杉くんは当然見分けられるんだろ?」
「・・・・そう言われると自信ないな・・・・
やったことはないが、出来ると思う・・・・が・・・・
最初はかなり戸惑った。そもそも俺は人の顔を覚えるのが苦手だ。
その上、あいつらはその顔をフル活用してきやがる。何度騙された事か・・・・
ーーーーーー本当に、最後まで、困った奴らだ。」
「よく言うぜ。これまで散々付き合ってきたくせによ。」
「ちょっと気になったんだけど・・・・
一体彼女たちの誰から見分けられるようになったんだい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし。屋台行くか。」
「待ちたまえ。何だい?今の間は?」
逃げようとした風太郎を武田くんががっちりとホールド。
聞くまで逃がさないという雰囲気だ。俺もそれは聞きたい。
「有坂くんは?誰から見分けがつくようになったんだい?」
「俺は・・・五月だね。ちょっとしたきっかけがあったからね。
あの正月の福笑いがなかったら、ちょっと怪しいな。」
「福笑い?・・・・めちゃくちゃむずくねぇか?あの5人だろ?」
「前田くんもやるかい。一花の顔だけなら合わせられるんじゃないかな。」
「・・・・今度持ってきてくれ。」
「構わないが、あの人の前でやっちゃだめだよ。」
あの何の気もなしにやった福笑いが、大きなヒントになった。
眼が特徴 という事に気づいたからな。
今までは漠然とそれを感じ取ってはいたものの、特別に意識していなかった。
「上杉くん?キミはどうなんだい?僕よりも成績がいいんだ。教えてもらおうか?」
「どうでもねーって!」
「水臭いじゃないか上杉くん!僕らの仲に秘密は不要!」
「うっせー!黙秘黙秘!!」
「好きなのか?五つ子の誰かが。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
前田くんの剛速球。火の玉ストレート。
無言の肯定。沈黙は金。
「ま、待ってくれ。冷静になろう。僕もその可能性は考えた。
彼らの友情については認めざるを得ないが、家庭教師の延長線上だろう?
今は受験シーズン。この佳境でそんな余裕が生まれているのかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「武田先生、生まれてるそうですよ。」
「なんと!上杉くんは意外と、煩悩にまみれているんだね?」
「わ、悪いか!」
「・・・・よっしゃ!!俺は今から告白しに行く!!」
「は?」
「なんでだよ・・・・」
前田くんが急に大声を上げた。
これは。彼らしくもないハッタリ。しかしこの二人は知らない。
前田くんと松井さんが付き合っていることを。仲が良いなとは思っているだろうけど。
「だって、今しかねーだろ!明日から日常に戻っちまうのなら、今しかねーよ!
・・・・だから、上杉! お前も覚悟を決めやがれ!」
「ははは。急に何を言い出すんだい?学生の本文は学業にあって・・・」
「武田先生は意外と頭固いんすねぇ。」
武田くん困惑気味。なんだかんだ結構堅物だね。
「お前の言うことは良くわかる。同じだったからな。学生の本分は学業。
それ以外は不要だと信じて生きてきた。だが・・・・
それ以外を捨てる必要なんてなかったんだ。
・・・・・それを教えてくれたのは・・・・・あいつらだ。」
そう。五つ子にあって風太郎は変わった。
俺でもこいつを変えることが出来なかった。
「きっと、昔のままの俺なら・・・・今この瞬間も、俺と凪の二人だけだったかもしれん。」
「上杉・・・」
今は前田くんと武田くんが居る。
確かに、考えられないことだな。昔では。
「何かっこつけてんだコラァ。」
「僕はかっこいいと思ったよ?」
「劇場版、上杉風太郎、ご期待ください。」
「お前ら茶化すんじゃねぇよ・・・・・」
「・・・・よし。屋台行くか!金持ってねーけど。」
「金がねぇーならなんで屋台に行くんだよ。」
「決まってる。・・・・最後まで、この祭りを楽しむためだ!」
「風太郎。中野父からバイト代を貰ってないのか?」
「は?何の話だ?」
「・・・もらってないのか・・・・・」
3人と一緒に屋台を巡った。
もう運営している屋台は残り少ないが、一つ一つ時間をかけて回った。
金は俺のバイト代から出した。
「凪。では・・・あいつらに、いや・・・・あいつに会ってくる。」
「ああ。わかった。祈っているよ。」
前田くん、武田くんと別れた。
いよいよ、風太郎の決断の時が来たようだ。
「・・・情けないことに、あいつらに背中を押されてな。
学校内の教室、一つ一つに、一人ずつ待っているらしい。」
「へぇ。格好いいね。それ。・・・・当然ながら、俺はついていかないからな。
・・・・・・・自分の心の声に従いたまえよ。相棒。俺はお前の味方だ。」
「ああ。もう決めているからな・・・・・・では、行ってくる。」
風太郎は校舎に向かい、歩き出した。
さて、成り行きを外から見守ってやろう。
玄関前のベンチで出待ちをする。
貴重な待ち時間。俺も自分の事を考える。
中野 一花。
長女。いたずら好きだが、姉妹の事を考え、時にはバランサーとして動く気配り。
その眼は、今でも脳裏に焼き付いている。優しさと決意に満ちた女性。
例えるなら、実子を抱き、守る聖母。
世間の誰もが認める女優。スクリーンのマドンナ。
クールで知的なイメージ。なお実際は真逆。
時には俺が彼女を導き、俺も彼女によって、一時救われた。
林間学校の倉庫の件だ。
あのフォークダンスは、最高に心地が良かった。
修学旅行ではっきり、好き と言われている。
答えてやりたいが・・・・ここで重要なのは。彼女ではなく俺。
中野 五月。
末っ子。母親に憧れており、亡き後はそのポジションを守ろうとした。
その眼は、今でも脳裏に焼き付いている。素直で真っ直ぐな女性。
例えるなら、陰りのない水平線。
教師の道を歩むために、勉学を頑張っている。
現状を鑑みるとハードルは高いが、今もまだ諦めていない。
あの件については、無理やり聞き出すことは一切しなかった。
自分の事ではなく、俺の事を一番に考えてくれていた。
姉妹の件もそうだ。二人で、四葉の事を一緒に考えあった仲だ。
思えば、姉妹の中で一番長く一緒にいたのは、五月かもしれない。
一番勉強を教えた時間が長いのは、五月。だから最初に見分けられたのかもしれない。
この二人。俺は、どちらを選ぶのか。
まだ、自分の気持ちがはっきりわからない。
選ばないという選択はあるが・・・・現状維持はダメだ。
選ばないというのならば、どちらも切らなければいけない。その覚悟が必要だろう。
もう少し・・・・もう少し、考える時間が欲しい。
後悔はしたくない。ライブステージが無事に終わった今ならば、ゆっくり頭を休められる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁ・・・・はぁ・・・・」
思いふけっていたら、玄関から四葉が走って出てきた。
・・・キミか。やはりな。だから言ったのに。
息を切らしている。何かから逃げているようだ。
らしくないな。普段のキミならその程度、軽々走ってみせるだろう。
断ったのか、それとも返事をしなかったのか。
「四葉・・・・・いや、四葉くん。」
「ふぅ・・・あ、有坂さん!」
「何をしているんだい。会ったのだろう。風太郎に。」
「・・・・そ、そうなんです。ど、どうして・・・・」
信じられないと言った表情をしている。
こちらとしてはそんなに驚くことではない。
「まあ、俺から深く言うことはないよ。ただ・・・・
これを持っておきたまえ。今のキミには必要なものだろう。」
財布の中に入れていたものを渡す。
・・・・清水寺で買った、恋愛のお守り。
決して自分用に買ったわけではない。こんな日は来ると思っていた。
「い、いえ。これは!」
「持っていろ。俺には不要だ。こんなものには頼らない。夢は見ないからな。
今、風太郎の話を真正面から受け止めるには、何かが必要だろう。
・・・・・逃げてはいけない。逃げるくらいなら、全てを受け止めたうえで、断れ。
でなければ、あいつに失礼だよ。いったいどれほど悩んだのか。どんな葛藤があったのか。
もう少し考えた方がいい。」
「・・・・・・・・・」
「・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・コ、コラ・・・・逃げるな・・・・」
息も絶え絶えの風太郎が現れた。
悪いこと言わないから体力付けとけって。
「上杉さん・・・・・・」
四葉は止まってくれた。
説得の甲斐があった。
「よ、四葉・・・・俺は・・・・・」
「待て、風太郎。30秒くれ。今から俺はどこかに行くから。」
「な・・・・凪・・・・すまん。」
「息を整えろ。大丈夫だ。・・・言っただろう、祈っているよ。・・・四葉くんもね。」
風太郎と四葉くんの二人きりにして、そこから離れた。
学園祭は無事に終わった。俺は帰路につくとしよう。
「ナギ君。」
「ナギくん。」
「一花と五月?どうしてここに。」
帰り際、二人に話しかけられた。校舎を出た直後だ。
「教室で待っていたんじゃ?」
「あはは。フータロー君なら私達を選ぶわけないよ。だから、出てきちゃった。」
「そうですね。3人の誰かだと思っていました。」
この二人は最初から居なかったらしい。
まあ、そうだろうな。風太郎は俺をあの子に引き合わせてくれたくらいだ。
もしも風太郎がこの二人が好きなのであれば、そんなことをする必要はない。
「フータロー君は、決めたよ。」
「次は、ナギくんの番ですね。」
「勿論。重々承知しているよ。・・・・心が決まったら、連絡するよ。
すまないね。優柔不断で。」
「いいんだよ。でも、女の子をあまり待たせちゃダメだよ?」
「私は、いつまでも待っています。」
「・・・・・変わらないなぁ。では、今日はさようなら。」
「うん。また会おうね。」
「また、学校で会いましょう。」
二人と別れ、帰路についた。