学園祭は無事に終わり、平日の学校。
食堂で一人、昼食を取っていた。
今日はえび天そばにしている。あー、良いね。安い。やっすいツユの味。
これが良いんだよ。無性にカップ麺を食いたくなる時があるだろう?
あれと同じだ。
安いそばではよくある、コロッケそばの良さは俺にはちょっとわからないが。
揚げ物はサクサクが好き。茹でたり蒸したりしてじゃがいもを食えるのに、
揚げることで無駄に脂質となる油分を追加してるんだ。
それにより生じたプラスの食感、テクスチャーは大事にしたい。
だから本当なら、そばに浮かべるのではなく、天ぷらは別皿にのせて欲しい。
学校の食堂で安物なので、そこまで要求はしないが。
「あ、あの!有坂先輩!お一人ですか!」
「え?ああ・・・うん。キミたちは、久しぶりだね。」
「ご、ご一緒させてください!」
茜のクラスの屋台でサインを求められた後輩たちだ。
4人に囲まれた。リンチっすか?今は金ないっすよ?だから400円のそば食ってるんだもん。
「あの・・・・素晴らしいステージでした!」
「お、同じく!」
「普段からバンドをやっているのですかー?」
「男ですけど・・・・自分、ファンっす!」
「あ、ありがとう。声を抑えてくれるかい。
知らない人もいるんだ。仮面をつけた意味がなくなる。」
熱意が凄いんだが。
やべぇよ。皆にバレたらどうする。恥ずかしさで死ぬ。
「・・・俺はあの時、友達に頼まれて助っ人で行っただけだよ。
普段は他の4人だけだ。あの日限り。もう歌うことはないよ。
彼らも高校でバンドを辞めると言っていたからね。今やってるかはわからない。」
「そ、そうですか・・・残念です・・・・」
「や、やっぱりサインをください!」
「あの。大舞台で自信が出るコツとか教えてもらえませんか?」
「カメラを回しておいて正解でしたー」
「消せとは言わないけど・・・・・そのカメラは決して公開しないように。」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
後輩たちの相手をしていたら、一花と五月が昼食のトレイを持って通りがかった。
一花は時々長期ロケの合間を縫って、出席日数を稼いでいる。休学期間中の出席なんだが、
一花の今の知名度を考慮し、学校側もある程度融通を利かせてくれているようだ。
特に何も言われなかった。まあ、向こうからしたら見知らぬ後輩に囲まれているしな。
話そうと思えば、教室でも話は出来る。
放課後。
陸上部に来ていた。茜のインターハイが近い。
当日、俺はこいつに競技会場に誘拐されるため、
学園祭が終わってからは諦めてつきっきりで面倒を見ている。
いちおう俺は受験生なんだが。落ちたらどうしてくれんの?
「センパイ!今日終わりましたよ!柔軟しましょう!」
「あいよー」
最近は茜の方から柔軟の催促をしてくる。
体は柔らかくなったし。正直飽きた。弄りがいがない。
勿論付き合ってはやるんだが。
「・・・・・・明後日っす。」
「そうだな。俺も先生に言われたよ。お前も行けって。
相当期待されてるな、お前。俺ほぼ無関係なのに。」
「もー!ここまで来たら他人事じゃ済まないっすよ!」
「センパイ。もし、私が優勝したら・・・自分の言うことを、一つ聞いてくれませんか?」
「・・・それくらいで良いのか?一つと言わず、五つくらいまでなら聞いてやるぞ。」
「ホントですか!?」
「ああ。勿論俺が出来ることに限られるが。・・・・まあ無理だろ。優勝は。
一人だけバケモン居るし。」
「ま、まあ、そうかもしれませんけどぉ。」
当然ながら地区ブロックのあの浅井選手も出てくる。
出場メンバーをチェックしたが、あの選手だけやはり頭一つ抜けている。
「まあ、今年は気負わずのんびりやれさ。次の年になればあの選手は卒業で消える。
今の中3に特に抜けた選手も聞いていないし、来年はお前の天下だ。」
「そうですけど・・・凪センパイと一緒にやれるのは今年で終わりですから。
来年よりも、今年、勝ちたいっす。」
「そら、今年勝ってくれれば俺も嬉しいがな。ケガだけには注意してくれよ。」
「はい!ちゃんとセンパイが最後まで面倒見てください!」
注意するのはケガ。道を繋げるのが最優先。
今までの柔軟はそのためでもあった。お前はまだ速くなれるはずなんだから。
「ナギ!ちょっとこの後付き合いなさい!」
「はい?なんすか姉御・・・・あれ。三玖も。」
「ナギ・・・・」
次の日の放課後。帰り道、二乃と三玖に誘われた。
またメシに付き合わされるらしい。
「この前のお店・・・連れてって。」
「あそこ?焼肉だけどいいのかい。」
「やけ食いする。」
「・・・・はい。」
殿はやけ食いしたい気分らしい。姉御も同様だろう。
二乃が家出した時に行った焼肉屋に行きたいようだ。
三玖に見られたんだよな。二乃を見送った後に。
結局二人して風太郎に振られたからな。たぶん今日高くつくぞコレ。
ありがとう中野父。あなたのバイト代がなければ致命傷でした。
折角稼いだのに結局姉妹に還元してるじゃないか。経済の縮図ですね。
金は天下の回り物。
「まさか四葉を選ぶと思わなかったわよ!あたしじゃないなら三玖だと思ったのに!」
「それは私も一緒・・・・二乃だと思ってた。」
焼肉をがっつきながらグチ聞き係に徹していた。
対象が二乃一人から二人に増えてしまった。出費も倍。
ホンマありがとう中野父。
勝者が四葉くんだったことに対し、二乃も三玖も中々ご立腹の様子である。
顏を赤くしてギザ歯で牙を向く二乃。こわい。
ほっぺたをプクーっと膨らませる三玖。かわいい。
「ナギ!アンタには予想ついてたって言うの!」
「まあ、可能性としてなくはないかなと思ってたよ。」
「ど、どうして?思いもしなかった・・・・」
「今まで一番長く風太郎と一緒にいたのは、四葉くんだろ。
二人で肝試しのオバケ役になったり、学級委員長として一緒に学園祭の運営をしたり。
そして・・・・四葉だけは、たった一人、最初から家庭教師に協力的だった。」
「そうだけどぉ!なんか納得いかないわよ!
私達がフー君を好きってことはわかってるでしょ!」
「そうかい?でもそれ、かなり大きいポイントだよ。
四葉が居なかったら、俺も風太郎も多分家庭教師を辞めてる。
いくら実入りの良いバイトとはいえ、相手に全くやる気が無いのは辛いからね。
俺もあいつも、無駄なことに時間を割く余裕はない。
少なくともその点、俺は四葉くんに感謝してる。だからきっと、あいつも同じさ。」
恩と感謝が恋愛と結びつくかどうかはまた別の話ではある。
風太郎は結びついたようだ。他にもいろんな要素があったとは思うけど。
「・・・・それを言われると、耳が痛い。」
「三玖はまあ、比較的早くから協力してくれたけど。それでも四葉くんの方が先だし。」
そう考えればやはり昔に会っているというのは得だな。もし風太郎がいなくて俺だけなら、
四葉くんと言えど最初から協力してくれていたかはわからない。
「まあ、潔くスパッと諦めてくれよ。わかってるだろ?
ここで一番大事なのは、風太郎の気持ちだ。」
「う~~!悔しいわ!最初から手伝っていれば・・・!」
「後悔先に立たず・・・・」
「ほら、食いなよ。ここの肉はお支払いしてあげるから。」
肉をひたすらに焼く。
さっきから俺、一枚も食ってない。キムチでひたすら白米を食っている。
焼いてるだけ。焼いたそばから持っていかれる。
キミ達ひどくない?腹減ったんだけど。この二人めっちゃ旨そうに食うし。
こんな事なら石焼ビビンバかカルビクッパにしておけばよかった。
つーかこの店食べ放題じゃないぞ。やばいって。
キミ達もうマンションにいるんだからやっぱり払ってくれよ。
「もうやってらんないわ!三玖。振られたものどうし、あたしもあんたに付いていくから!」
「ほ、本当にくるの?折角B判定なのに。」
「なに言ってんのよ?アンタはA判定だったじゃない。」
「何の話だい。」
「あたしも!同じ専門学校に行くのよ!」
「え」
三玖の進学先は料理系の専門学校。二乃も同じ道に行くことにしたらしい。
振られたので投げやり・・・・では、ないか。
言っていたな。自分の店を出すのが夢だったと。
良いね。また一人夢を追い出した。
四葉くんどうすんだろ。他4人はやりたいことをやることになったけど。
そういえば将来の目標とか夢とか聞いていないな。
「良いじゃん。行ってらっしゃい。」
「アンタはどうすんのよ。ふつーに大学?」
「そうだね。フツーに進学。やりたいこともまだ見つからないし。」
「・・・・ミュージシャンになれば?」
「そうね。やろうと思えばなれるんじゃない?Aさん。」
「勘弁してください」
この二人までそのネタで擦って来るのかよ。
無理だって。仮面外したら終わる。羞恥心マッハ。
自分の世界に入るからね。歌ってる間は良いけどね。問題はね。終わった後がね。
「結局、ナギは二人のどっちを選ぶの?」
「わからない。まだ決められない。何かきっかけが欲しいな。
決定づける何かを探してる。」
「アンタなら酷いことはしないでしょうけど、
・・・・早くしなさいよ?2学期、もうそんなに長くないのよ。
振られた方は、あたし達で慰めておくわ。仲間同士ってね。」
「・・・よろしくお願いしよう。」
2人から催促を受けた。
俺も早くしたいが。もっと悩む時間が要る。
そのまま愚痴を聞きながら焼肉を堪能した。
結局俺はあんまり食えなかったのでその後ひとりぼっちでラーメンを食いに行った。
とてもおいしかったです。
「凪センパーイ。このバスですよー!」
「ホントか?間違えたら大変なことに・・・・あ、はい。すいません。」
インターハイ当日。
新幹線で移動をし、駅から会場へ向かうバスに乗る。
バスを間違えていないか心配だったが、乗客の格好を見て納得する。
皆ジャージだった。
「いよいよですよー。緊張しますねー。」
「ホントに緊張してんのかお前は?」
「してますよー?あたり前じゃないですか!これで最後なんですよ?」
「俺とやるのはな。しかし、正式なコーチでもないのにこんなところまで連れてきやがって。
俺陸上部ですらないんだぞ。浮いてる。俺もジャージ着て来ればよかった。」
周り女性だらけなんだが。男子どこ行った。
男子も同じ日に競技あるはずだろ。
バスが動き始めた。何分かかるかな。事前に調べてはいない。
こいつの緊張しているというのは・・・・冗談じゃないようだな。。
少しジョークでも喋ってやるか。あのバーテンダーのように。
「昨日はあまり寝れませんでした。」
「何時間寝たんだ。」
「7時間です!」
「・・・・しっかり寝てるじゃないか。俺なんかいつも5時間しか寝れない。」
「これでも少ない方なんですよー?」
「なら、今寝ておけ。ついたら起こしてやるから。」
「ダメっす!電気真っ暗派なんです!」
「なら俺が気絶させてやろう。」
「ちょっと!選手に何する気ですか!」
「疲労回復もコーチの仕事だろ?任せておけ。一瞬だ。」
「もー!!」
周囲に笑われているが、いい緊張ほぐしにはなっただろう。
表情が少し硬かった。アンニュイな感じだったからな。
そう時間も経つことなく、バスが停車した。
会場に付いたようだ。