「時間だね」
特に感情を込めることもなく告げる彼女の言葉に、幸せだった時間から急に現実へと引き戻される。
「あ、はい」
夢見心地から現実へと強制的に戻されながらも無視をするなどありえない。
とはいえ、なんとか口を突いて出た言葉の陳腐さには我ながら呆れてしまう。
「それじゃあ振り込みの方は頼むよ」
そんな俺の様子など欠片も気にした様子もなく。
「対価を用意するならまた付き合うからね。じゃあ、お先に」
そう言って彼女は雑踏の中に消えていった。
「はぁぁ。楽しかったなぁ、推しが一緒に食事してくれるとかマジ神イベ」
先ほどまでの至福の時間を想い返しながら携帯を弄ってネットバンクから彼女の口座へと送金する。
夢のような時間だった。
高専に入学して数日後、会った瞬間に一目惚れしたあの人とデートが出来たのだ。
デートと言っても特別なにかをした訳では無い。待ち合わせをして食事をしただけ。
それでも、これまで生きてきた中でいちばん楽しい時間だったのは間違いない。
貯金――子供の頃から特に使うこともなかった小遣い含む――は全て吹っ飛んだが、今感じている多幸感の対価と思えば痛くも痒くもない。
幸福の余韻に浸っていく中で最後に思い出す。
そういえば別れ際に彼女は言っていた。
「対価があればまた会ってくれる…」
だとしたら金が必要だ。それも継続的な収入が要る。
とはいえ俺は高校生。一般的な高校生とは少し違うが金を得る手段には限りがある。
一番に思い付くのはアルバイトだが、俺の通う高校の特性上、予定を立ててシフトを組むような仕事は出来ない。
出来るとすれば飛び込みで出来る単発のもの……もしくは。
「高専なんて身を守る術さえ身につけばいいと思っていたけど…」
俺の入学した呪術高専は呪霊の祓い方を学ぶ学校。
授業の一環とはいえ任務をこなせば報酬を得られる。
前日や当日にいきなり任務が入ることがあるせいでシフト制のバイトに入ることが出来ないが、1日バイトするよりも任務の方が収入は多い。
そして当たり前だが強い呪霊を祓える方が報酬は高い。
つまり――
「強くなって術師としての等級を上げる。そして出来るだけ多くの任務をこなす」
これが推しと沢山会うための金を得る最適解だ!
そうと決まればやるべき事はただ一つ。強くなる。これに尽きる。
呪術師は強さこそが全てと聞くが、まさにその通りだ。
強くなって金を稼いで彼女とのデート代に注ぎ込む!それこそが俺にとっての呪術師の全てだ!
ちなみに彼女はいわゆるレンタル彼女とかではない。
彼女の名前は冥冥。俺の通う呪術高専の1つ上の先輩で――
お金さえ払えばなんでもしてくれるお姉さんだ。
筆者が推し活にハマった+推しが冥冥さん好き=本作爆誕
以上の浅い経緯で始まりました。
続いたらよろしくお願いします。