ユメ?「何で分かるのかな」 パカ 作:パカパカメロンパンナちゃん
―――ふと、目が覚めた。
いや、その表現は適切ではない。私という意識が覚醒した。そう表したほうがより合っている。
どっちも同じ意味だろうって? 違うんだよ。私という意識が浮上したのは確かだが、 さりとて外界の情報を取得することはなかった。
夢の中でもあるようで、でも確かに自分の存在を自分自身で証明しているような…。まあ伝わらないかもしれないけど、そこは感覚で分かってくれるだろう。
そして私は瞬間的に理解したんだ。
「このままでは、私は死んでしまう」と。
理屈がどうとか、そういうのじゃない。もっと深い本能。全霊の悪寒と共に死神の足音が迫るような感じだ。動きたくても動けない。死が迫っていることを理解しているのに取得できる情報も抵抗するために藻掻くことも出来ない。
流石にあの感覚には慣れないね。
でも、私は全力で抗った。
例え感覚がなくとも、何から逃れようとしているのかを認識していなくとも。……芋虫が、無意味に這いずるだけだとしても、必死でこのまま死ぬわけにはいかない、と。
考えることだけが出きる頭で、伝わっているかも分からない信号を発信し続けた。
暗中模索だ。感覚がないだけもっと酷いかもしれない。
無様でも足搔き、足掻いて、足搔き続けて、ふと、光明が差した。
これまで何者もなかった私の意識に、その他の何かが引っかかった。それが何かは分からなかったけど、少なくともここで初めての変化だ。
人間は必ず変化を求めるとは言うけれど、それは確かに救いをもたらすものであろうということは分かったよね。
まあ、そんな変化を感じた私は、直感的にその何かへと飛び込んだ。まあ、意識のみでだけれど、それで何か新たな変化が訪れると考えて。
―――そして、ようやく私は覚醒した。
音だ。ごうごうともびゅうびゆうともつかない風が耳朶をうつ。そして、肉体の反応によって何かが手に、足に、体中でサラサラとした感覚を受け止める。
唐突に与えられた感覚に戸惑いながら、与えられすぎた情報に脳が軋む。けれど、己はようやく体の支配権を取り戻したのだと認識して、ようやく閉じていた目を開けた。
砂、砂、砂、砂、砂。
見渡すかぎりの砂の海。吹き荒れる風が砂煙を纏ってどこかへ飛ばされていく。
さて、どういう事かな。あの状態では考えられなかったが、私はこのような砂漠に行った覚えはないし、周囲にこんな場所があるような地域にも来てはいない。
倒れ込んだままの肉体を起こしかけ、ザリ、と鮮烈な痛みと不快な触感が神経に流れ込んだ。
「痛っ」
(―――何だ?)
咄嗟に左腕を引っ込めて、その原因を目でとらえる。
それは、手首から先が存在しない左腕。中途半端な肉に砂が付着して痛みを訴えている。
何故、こんなことになっている?
私は左腕が吹き飛ばされるようなことなどしてはいない…。
いや、待て。そもそもこの服は何だ?
何か…何かが可笑しい。
思い出せ。思い出せ。私の記憶と、その前後関係を。
「何、だ?」
何やら脳内の処理と妙な齟齬が起きていることを認識し、頭を抱えたそれ。
突如脳内に溢れ出した、覚えがある筈なのに、
『じゃーん!ホシノちゃん見て見てー!アビドス砂祭りの昔のポスター!やっと手に入れたよー!この頃はまだ、オアシスが湖みたいに広がってたんだよねー。あ、このポスターは記念にあげる!えへへ、すっごく素敵でしょー?もしなにか奇跡が起きたら、またこの頃みたいに人が沢山集まって──』
『は、はうう……うええ、だってホシノちゃーん……ご、ごめんね?』
『ねえ、ホシノちゃん。私ね、ホシノちゃんと初めて会った時、これは夢なんじゃないかなって、何度も頬をつねったの。ホシノちゃんみたいな、可愛くて強くて、頼れる後輩がそばにいてくれるなんていう夢みたいなことが、本当に嬉しくて……。うーん、上手く説明できてないかもしれないけど……。ただ、こうしてホシノちゃんと一緒にいられることが、私にとっては奇跡みたいなものなの』
『ううん、私はそうは思わないよ。ねえ、ホシノちゃん。いつかホシノちゃんにも可愛い後輩ができたら、その時は──』
―――
「……ホシノちゃん?」
誰だそれは。いや、知っている。彼女は私の、アビドス高等学校の可愛い後輩であり―――。
いや、違う。これは私の記憶ではない。何より、その記憶の中での私は全くの別人のような思考をしている。
………と、いうことは。考えられることは一つ。
「……成程ね」
この肉体は、私の、少なくとも私だと認識している者のそれではない、ということか。
そう理解してからは、すっと頭が冴え渡った。
まず、状況把握のためにこの体の記憶を絞り出す。とはいえ、一体化しているようなものなので、特に支障もなく思い出すことが出来た。
ここに来た理由はアビドス高校の哨戒中、不穏な動きをしたカイザーを気にかけて来てみれば、現れた大型の蛇のような存在に遭遇。
かなりの被害規模を誇るそれから学校と後輩を守るべく、休むことなく交戦を続け―――
孤立し、補給もない中では粘った方だとは思うが、緊張が途切れた瞬間に腕ごと盾が吹き飛ばされたらしい。
あとは、攻撃を防ぐ手段を失った体は為すすべもなく攻撃を食らい、そのまま
そのまま、興味を失ったのかそれは引き返していき、その砂煙の中に呑まれて肉体はどこかへと投げ出された―――。
そういうことだ。
中々数奇なものではあるが、そもそも学生の身で銃器や盾を持っており、更に砲撃を食らっても五体満足なことには疑問しか抱かないが……。ヘイローや生徒。この肉体の記憶のお陰で理解に遅れることはない。……とはいえ、あの謎の存在のことまでは知らなかったようだが……。
まあ、いい。私がこの肉体に憑依しているという事実は揺るがない。
名前はユメ。アビドス高等学校の生徒会長。数少ない生徒の後輩である小鳥遊ホシノを特に気にかけている3年生。
今はそれでいい。
ふむ、記憶では知っているけど、やっぱり実際に見たほうがいいかな。
自分の新しい肉体。奪ってしまったという罪悪感はあれど、私とて必死だった。それに、既に死亡していた肉体にたまたま乗り移ったのだとすれば私も被害者―――?
待て、
最初は、あのデカブツとの交戦によるものだと思ったが、違う。
妙に気になって、近くの廃都まで走り抜け、姿を写せる鏡面を見つける。
「これは…」
そして、愕然とした。
私は意識がこの肉体に宿った。即ち憑依のようなものだと考えていたけど、その推測がこれによって一気に無意味なものとなる。
「額の…縫い目…」
額から上を囲う、その縫い目は、とある作品で馴染みがあり、それと同時に荒唐無稽で信じ難いものだった。
普通に考えれば、あの戦闘によるものだとか、知らぬ間に処置されていた、という可能性もあった。だが、私の意識がそのまさかという可能性を肯定し続けていた。
スー。と、不思議と慣れた手付きでその縫い目の終端を解く。
傷口を開く自殺行為。だが手は止まることなく最後の繋ぎ目を解き終えた。
パカ
私の頭の上部が蓋のように外れる。
妙な解放感がありつつも、常識ではありえないそれに……不思議なことに何の疑問もなく受け入れた。
謎の液体が溢れだし、顔を伝っていく。
そして、その上に鎮座する。口の付いた脳みそ。
瞬間、私は理解した。
時に、話は変わるが呪術廻戦の
強力な呪霊と手を組み、かつての親友であった五条悟を含めた高専を襲撃した夏油傑。
渋谷における決戦にてようやく表舞台に現れた彼は、しかして夏油傑その人ではなかった。親友である五条悟に見抜かれた偽夏油は、頭の縫い目を解き、その正体を明かしたのだ。
そう、それこそが
その正体判明時には阿鼻叫喚の渦が巻き起こり、また、その特徴的過ぎるシーンからメロンパンと称されるそれ。
紛れもなく、私の姿はそれに瓜二つだった。
一瞬、呪術廻戦の世界に生まれ変わったのかと思考が巡り、ユメの記憶から瞬時に否定する。まるで常識も何もかもが違う。
ならば考えられることは一つ。
このキヴォトスという地にて、羂索に近しい存在になっていると考えたほうが有意義だろう。むしろ、今の私にはそれ以上の定義が思いつかない。
ギュリギュリギュリ、と頭を再び元に戻し、縫いながら考える。
どうしたものかな。このまま過ごすにも目的が必要だしね。知らない世界なんだから余計に。
私の常識とユメの記憶から要素を拾い集めて、色々と方針を決めていこう。
故意ではないとはいえこの死亡した肉体を使っていることは確か。
とすると、小鳥遊ホシノには近づかないほうが無難か。中々厄介に思われていたみたいだけど、それでも数少ない…というか唯一の先輩。思う所がないと断言できるほど人間性がないわけじゃない。
むしろ、小鳥遊ホシノは記憶から見る限りではかなり強い。それこそ、知っている限りでは間違いなく最強だ。井の中の蛙でこちらが強者に出会っていない…という線はあるが、それでも他校と比べても特記戦力とされる程度には恐れられている。そういう噂があるほどに。
ふむ、となると体の元の持ち主であるユメの無念でも晴らすべく、アビドスを復興させる、というのはどうだろう。
借金はかなりの額だが、まあお陰で当面の目標にはなる。
金は工面するとして、ホシノに出くわさず支援…というのが難しい気がするんだけどね。大体警戒心の強いあの子だ。顔も出さずに送られる金なんか不審に思って手を出さない。
うーん、困っちゃうよね。
ま、いっか。あくまで大目標。借金もかなりあるし、のんびり考えていけばいっか。ま、ホシノちゃんが卒業するまでくらいには…程度でいっか。何事も無ければだけど。
それよりも、私としてはこの世界特有の諸々に興味があるんだけどね。
ここの住民にとっては当たり前のヘイローの仕組みや不思議な現象。それに、あの蛇のようなクジラのような機械も気になる。
知識によると生徒以外にヘイローは存在しないはずだけど、あれにはあった。……うん、中々唆られるね。
それにここは中々面白い土地でもある。
長年から悩まされてきた急激な砂漠化に、あの奇妙な機械。そして態々土地を売り払ってまで……とはいうけれど多分あれそういう風に誘導されてたんだろう。
そこまでしてこんな砂漠を手に入れるメリットなんてハッキリ言ってないでしょ。
軍事工場とか、色々と活用法はあるけどあれだけの土地は絶対に無駄になる。
加えてセイント・ネフティス社による鉄道計画の頓挫も急すぎた。あれが現れたのは初めて見たけど、あれだけの土地を買っているカイザーがその存在を知らない訳がない。
ならば、あれという特異な存在に興味があるのか。はたまた、あれがいても尚入手するような付加価値があるか、だね。
うん、どれもありそうだけど、今の時点じゃ予測の域を出ないかな。
私、こんなに好奇心高かったか?ま、お陰で色々と頭を回すことが出来てるんだけど。
まあまあ、これらは私が独立して動けるようになってから、か。まずは腕を治さないとね。この世界の色々から見ても重傷だけど、ここの生命力を考えればまあ大丈夫なんじゃないかな。反転術式的な感じで。
ああ、それにしても、どんどん興味が湧いてきた。
銃器が普遍する状況が当たり前のこの世界、生徒にのみ存在するヘイローという器官。そしてそれによる加護の存在。その出力の差異もあるか。他校には不思議な力を持つ者もいるみたいだし、謎の機械も気になる。
それはそう、まるで呪術廻戦の呪いのような。
いや、これは表現がよろしくないな。
もっとこう、学生たちの青春を思い起こさせるように澄んで、それでいて悪い印象のない神秘的な力の根源…。
そう、神秘と呼称しよう。
彼女たちは本当に元の世界と同じ人類に属するのかな。小鳥遊ホシノに関して暁のホルスというあだ名やヘイローのウジャトの眼。やはりそういった超常的な存在に関係していると私は見ている。
物語のような規模の騒動もあるかもね。
―――どういう風になっているのかな、私は今白い画用紙の前でクレヨンを握りしめた幼子のような心持ちだ。
こいつの性格は羂索から悪辣さを抜いたような感じです。
これ曇らせタグって必要かな?