ユメ?「何で分かるのかな」 パカ 作:パカパカメロンパンナちゃん
死滅回遊が始まったので気まぐれに
シャーレの先生の着任を見届けてから早数日。多くの準備と仕込み、そして趣味を大いに楽しんだ偽ユメ達一行は、穏やかな日差しの刺す海岸沿いの白い砂浜にて存分に体を休めていた。
「いやぁ、こんなにピッタリな場所があるなんてね。やはり物語を知っているというのは有利だね。真人に感謝しないとね」
「それはそうだが…あまり甘やかし過ぎるなよ?奴はただでさえ危なっかしいうえに悪辣だ。信頼はするが、依存し始めたら恐らく好きにするために嘘を吐くぞ」
「分かってるって。漏瑚は心配性だね」
ビーチパラソルにビーチチェアという王道セットに身を委ね、サングラスをかけて赤地のアロハシャツに身を包んだユメと、海水を嫌ってかその側で座る漏瑚が言葉を交わす。
そんな二人とは違って、花御、真人、陀艮の3人は水遊びをしている。……とは言っても、花御は2人に付き合って面倒を見ているような立場だったが。
ここは「ロスト・パラダイス・リゾート」。現在権利争いの真っ最中であり、多くの企業や事業の手が見えるリゾート地。
しかしその実態は連邦生徒会が所有している土地であり、争われているのは偽の権利書なのだが、連邦生徒会長失踪のごたごたのせいで連邦生徒会の手が回っていないためにこの様な争いが起こっている土地でもある。
本来ならばあまりそういった土地に居座る予定はなかったものの、真人からの知識でここ暫くは連邦生徒会も気を向けないということで、堂々とやって来たのだ。
「うぅ…」
「な、何だこいつら…」
「超強え……」
「痛え…!」
しかし、ここが連邦生徒会の土地だと認識しているのは権利争いをしている大人達くらいなもので、不良や下っ端達は知るものではないし、知っていたとしても不法滞在している。
当然彼女たち一行も居座っていたチンピラにちょっかいをかけられたが、難なく一蹴。死屍累々の惨状を作り上げた後、こうしてゆっくりと楽しんでいた。
「な、何なんだよお前ら…」
「あ、君たちもう帰っていいよ。っていうかまだいたんだね。その身体でも逃げるくらいは出来るんじゃない?」
いくらチンピラといえど、圧倒的な実力差で一方的に壊滅させた存在に対しての興味をまるで抱いていないその態度に、散々痛めつけられた彼らは戦慄する。
「君たちがいつまでもいるとこっちとしても話しづらいんだよね。ほら、わかる?プライバシーっていうかさ」
「ふ、巫山戯るな。先に俺たちがいたんだ。急にやって来て暴れたのはお前たちの方だろう…!」
「先にって、君たちだって土地の管理者でも客でもないでしょ。法を守らない者は法に守ってもらえないって知ってるかな?」
「さっさと摘み出してしまえばいいものを……」
ユメの態度は一貫して興味なさげに、視線を合わせることなくジュースを飲みながらの対応だ。その理不尽じみた様子に文句の一つも言いたくなったのだろう。痛む体を持ち上げたチンピラは、しかしてサングラスに隠されたユメの瞳と初めて目が合った。
「あ…」
それはつまらないものを圧倒的な立場から見下ろす冷たい視線。自身を害しうる存在でも、面倒な相手とすらも見ていない、まるで路地裏に放置されたガラクタを見るかのような人外の視線に射抜かれた。
「あのさ、私たちとしてはどっちでもいいんだよ?君たち程度敵じゃないし、聞かれた所で何もできないからさ。でもね。こっちからわざわざ追い出すのも可哀想だし、話を聞かれたら口封じしなきゃいけなくなっちゃうでしょ?」
指を弄びながら、まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるように吐き捨てる。
「気絶させたらその間身を守れないから、自分たちで出ていってもらおうっていう優しさなんだけどね」
「別に構わんだろう。こんな奴らがどうなったとて知ったことではない」
「まあまあ、そう言わないの。これでもまだ人を殺す気はないんだからさ。………まあ、正直どの程度で壊れるかっていう耐久実験はしてみたいけど、仮にも連邦生徒会の土地だしね。こうも大勢の行方不明者が出たらいくらヴァルキューレや連邦生徒会が愚鈍でも暫くは厳しくなるでしょ」
まるで世間話をするかのように、その両者の間では殺すという選択肢が存在しているかのような言い草に、チンピラの顔が青ざめる。
「何々、面白そうな話ししてるね。どうせ壊すんならさ、俺にも分けてよ。色々と試してみたいのがあるんだよね。もっと本質を見極めたいっていうかさ。……最悪、死体も有効活用できるでしょ?ゾンビとか作ってみても楽しそうじゃない?どうする?殺る?殺る?」
「ひっ」
ここでの会話を嗅ぎつけたのか、いつの間にか真人がチンピラの背後まで忍び寄って来ており、その頭を掴んでいた。
両者とは違って、明確に狂喜に満ち、殺人を待ち望んでいるかのような人物に掴まれているという恐怖に押し潰される。
「……で、どうするの?別に残ってもいいよ。その場合君たちは行方不明者として記録されることになるかもだけど……」
その脅しが最後の契機だった。恐怖に塗りつぶされたチンピラ集団は動けない仲間にも手を貸して一目散に逃げ去っていく。
情に溢れた美しい仲間愛という訳では無い。この地に残っていれば、確実に
そう考えてしまった彼らは、全てを連れて逃げ出すという選択肢しか取ることは出来なかった。
その後ろ姿を手を振って見送るユメへと漏瑚は苦言を呈する。
「おい、貴様あまり脅しすぎるなよ。ここでそのような言葉はとんでもない極悪人になるであろうが」
「めっちゃビビってたね!平気で銃を乱射したりするくせにそういうところに一般人みたいだねえ」
「えー、俺としては本当にしても良かったんだけどな」
「ほれ見ろ!真人がその気になるではないか!貴様はからかっているつもりのようだが、その度に真人が興味を示すのでは何れ本当にやらかしかねんだろうが!そうなれば最早弁明の余地もないぞ!?」
「ははっ、ごめんごめん。でも真人もそこは理解してるからまだ殺してないんでしょ。無為転変なら痕跡も情報も残さず消せるからさ」
「まあねー。俺もやりたい気持ちはあるけど、流石にみんなに迷惑かけるのは嫌だからね。よっぽどじゃなきゃやんないって」
「………よっぽどならやると言っているようなものではないか」
その言葉に頭が痛いというように漏瑚が溜息をつく。
今の一連の流れを見ていたのか花御と陀艮もやって来ていた。
5人が集まったタイミングにて、会話を切り出そうとした所にユメが「あっ、ちょっと待って」と声を上げる。取り出されたスマートフォンにはD.U.の街並みが広がっていた。
「どうした」
「いや、先生が動き始めたと思ってね。流石にシャーレの中にまで目を置くのはリスクが高いから、外からだけだけど…。うん。結構な物資を用意してから出発してるし、向かう方角的にもアビドスだと思うよ」
「始まったということか!」
そのスマホではディビジョンシステムで生み出した偵察用の烏型ロボットのカメラアイが捉えた映像を中継しており、内一羽を先生の監視用に当てていたものだ。
元々都心部では烏は気にもとめられておらず、加えてその全身黒一色ゆえに近くでまじまじと見なければロボットだとは気づかれない。
呪霊操術での視界情報の共有や、冥冥の黒鳥操術での中継を参考にしたものだが、これが中々使い勝手がいい。これのお陰で真人の言う「ストーリー」の様子や、各勢力の動きを知ることが出来るからである。
流石にミレニアムでは気付かれる可能性が高いので監視は緩いのだが、そこは仕方ないと割り切っている。
「まだ余裕はあるけど、今日中には戻っておこうか」
「それもそうだな。それで話の続きだがな。百鬼夜行連合委員会の自治区内に、黄昏の侵食を受けた地を発見した。怪書は知らんが、少なくとも同じリソースの元からなるのであれば、恐怖や呪術の理解の助けになるだろう」
「真人の言うとおりですね」
「ぶふー!」
「いやぁ、俺も存在は知ってたけど、どう行くかとか立地は分かんなかったからね。漏瑚なら見つけられると思ったよ」
「いいね…!色彩とかいうのは暫く待たなきゃいけないけど、そっちは直ぐにでも取り掛かれそうってことだね。……まあ、クズノハ様、だっけ?がいるのは注意しなきゃだけど……」
「儂としては怪書に唯一対抗可能な白蓮が気になるがな。幽霊に対抗可能な銃となると、存在としては呪術廻戦における呪具ではないか。……尤も、それを持つ人物が失踪しているために行方は知れんが……」
話は百鬼夜行における怪異や黄昏などの超常現象へと移行する。真人から聞く限りでは、神秘などといった存在よりもより呪術に近いために、全員が興味を持っていたのである。
特に、元の存在と同様に呪具の類いの蒐集が趣味である漏瑚と、怪異を生み出し操ると言う式神使い、或いは呪霊操術に近い現象にユメも深い関心を抱いていた。
「そうそう、今日の分がまだだったね」
そしてユメが差し出した手に真人が手を重ねると、躊躇なく術式を解放する。無為転変によってユメの肌が泡立ったかのように見えた直後。一旦静まりかえって静寂が訪れる。
その光景に眉尻を上げたものの、その緊張を破壊する様にユメの腕が内側から爆ぜる。
まるでスナック菓子の袋を開けるのを失敗したかのような勢いで飛び散る肉片と血液。
漏瑚はそれを掌から出した炎で蒸発させ、花御は取り出した植物に血を吸わせ防ぐ。陀艮は花御に庇われ直撃を受けず、ユメと真人は血の雨をモロに被る。
「今回も失敗だね」
「今日はいけると思ったんだけどなあ」
ユメの右腕は骨が露出し、奇妙な盛り上がり方をした肉と破れた皮膚が辛うじて繋がっている有様だ。
異常な壊れ方をした腕は最早通常の医学では治すことができない域に達していたが、ユメは痛みに絶叫するでもなく、残念といった様に軽く息をつく程度の反応だ。
身内の突然の凶行にも見えるかもしれないが、これは彼らの中では既に日常になりつつある光景だ。
許可無しでの殺人や自身以外への術式の行使を強く禁止されている真人は、一度死を体験しているためか自身への術式の行使は問題なかったが、他人の魂を弄るということに慣れていなかった。
特級呪霊の真人が多くの人を実験台にして経た経験や感覚といったものを、彼女は持っていなかったのだ。
故に、他者へかけた場合の練度は呪霊真人に比べてかなり劣り、また魂に作用し神秘を反転させるという実験も未だ感覚を掴めないでいる。
しかし、無為転変による反転や肉体の変性は有益なので、練度は上げておきたい。かといって無差別に実験台にするわけにもいかないので、妥協案として、一日一回だけユメの身体で感覚を掴ませる様にしているのだ。
「じゃ、直すよ」
「はーい」
ユメが言うと、みるみる内に腕は肉をつけ、皮が塞いで傷を癒していく。
反転術式……ではなく、内包する神秘を利用した再生能力の極端な活性化。
意外に感じるかもしれないが、この中で再生能力が最も高いのはユメである。今の彼女たちはあくまで生徒であり呪霊ではない。故に傷を負った場合はユメと同じ手順で治さなければいけなくなるが、やはり純粋な神秘の扱い方はユメが頭一つ抜けている。
加えて、反転術式と異なるのは、同じ練度、量であってもその治癒能力には個人差がかなりあるということだ。それが内包する神秘の大きさによるものか、はたまた質によるものかは分からないが、ユメの肉体はどうやら再生への高い適性を示している様だ。
そういった理由から、ユメが立候補したのである。
「ま、神秘の反転ってのは出来ればってだけだからね。可能ならゲマトリアへの交渉もしやすくなるだろうけど、向こうもアプローチの方法は持ってるんだったよね。そっちを試して感覚を覚えてみるのもいいさ」
「まあそうだけどさ。でもいいの?あれこれ口出しされるかもよ?」
「いやぁ、別にスタンス的に邪魔はしてこないんじゃないかな。あっちは観測と検証が目的なんだろう?それなら、私たちという存在は結構見ていて面白いんじゃないかな。少なくとも私だったら、変に干渉して敵意は買わないけどね。面白い玩具は長く楽しみたいでしょ?」
「ちぇっ、玩具か…」
からからと笑うユメに対して、拗ねるような態度を見せる真人だったが、すぐに別のことでも考えたのか「ま、いっか」と割り切った。
その後、ビーチの浜辺には持ち主のいないパラソルとビーチチェアが残され、この場にいたはずの5人はいつの間にか姿を消していた。
あれ?普通に殺すって選択肢浮かんでない?ヤバない?
って思った読者へ。脅しとは言え、本気でしつこいなら(真人が)殺ってたぜ!!
悪辣さと悪意オミットって話は?とも思うかもしれないが、今一度思い返してほしい!
羂索って渋谷事変も、死滅回遊も、悪意とかで動いてたっけ?