青く透き通ったソラに、導きの星を 作:新人しくじり先生
地獄を見た
地獄を見た
地獄を、見た
「なに……これ……」
砂漠に次々と発着する軍用輸送機と未だ黒煙の燻るその残骸、半ば砂漠に飲まれた市街地に作られた臨時作戦本部と野戦病院には至る所に負傷者が並べられている。
死屍累々
敷地内を駆け回る者に誰ひとり無傷なものなどいない、前線に出ないオペレーターでさえ大なり小なり包帯を身体に巻いているその様はまるで戦時中──それも随分な負け戦にさえ思える。
「貴女……確か……」
「っ⁈」
呆然としていた少女に声を掛けたのは少女と全く異なった見慣れない黒い制服を着た少女。振り返った先にいたのは額に僅かに血の滲んだ包帯を巻き、血のように緋い瞳と白にも銀にも思える色の髪を腰まで伸ばした少女であった。
「これは……一体⁉︎」
包帯を巻いた少女に詰め寄る少女。白色の散弾銃を手に短髪で桜色の髪色をしたその少女に襟を掴まれながらも、包帯の少女は落ち着いたままその問いに答えた。
「ビナーによるアビドス侵攻です。現在我々の部隊の隊長とアビドス生徒会長の2名が最終防衛ラインにて交戦中……戦闘自体は終了したようですが、戦闘の影響で広域での通信障害が発生しており2人の生死は不明です」
告げられた答えに、ただでさえ顔色が悪かった桜色の少女の顔から血の気が引いた。
「そ、んな……嘘だ、ユメ先輩が……私、まだチラシのことも謝ることもできて……」
桜色の髪の彼女がアビドスを飛び出したのは今から3日前。1年生でありながらアビドス最高戦力でもある彼女は他の自治区から来た依頼を受け出稼ぎに出ようとしてこんな無愛想で気性難な自分に構い倒す心配症な先輩──アビドス生徒会長であるユメに呼び止められ、そんな彼女から告げられた彼女が抱いた夢──砂祭りの復活──を彼女が旧校舎で見つけたチラシと共に「現実を見ろ」と破って捨てた少女は、半ば少女からの一方的な喧嘩別れのようにしてひとり飛び出してきたこと。そして母校がこれほどまでもの一大事に陥っているというのに、知らずに今更のこのこ帰って来たことに後悔していた。
「落ち着いて、これから捜索隊を出します。貴女もヘリに乗って……「先輩っ!」…ッ、待って下さい!」
酷く青褪めた顔をした少女の姿を心配しながらも、酷い人手不足に故に彼女も捜索用のヘリに乗るよう言おうとした包帯の少女だったが、それより先に飛び出した桜色の少女は駐まっていた
「先輩……先輩……先輩……っ」
爆速で砂丘を駆ける軍用車両、万年金欠なアビドスでは絶対に手を出せないハイエンドモデルの車両に搭載された端末に記された「203砂丘仮設砲台」の位置情報へと向かっていた。
「見えた!」
月下の砂漠を駆けること十数分、体感では何時間と掛かったようにも感じた十分程であったが目的地に着いた少女は武器も持たずに車両を飛び出していた。
「酷い……」
砲台
余りの惨状、例えヘイローのあるキヴォトス人──キヴォトス最強の神秘と称される「暁のホルス」であってもタダでは済まない破壊の嵐に、少女の脳裏には最悪の想像が過っていた。
「違う!先輩はっ!先輩!何処ですか、先輩!」
そんな最悪を振り払うかのように走り出した少女。まだ謝れていない、まだ仲直りできていなんかない。こんな愛想も愛嬌もない碌でもない後輩を、めげずに構い続けてくれた先輩に感謝を告げることすらできていない。普段の冷静な態度など全てかなぐり捨てて探し回る彼女は、しばらくしてようやくソレを発見した。
「見付けた!」
とうとう見付けたユメの痕跡、少し離れた位置の砂丘の頂上に突き立った彼女愛用の折り畳み式防楯へと彼女は走る。
「先輩!先……輩………?」
“ごめんなさい、ユメ先輩”
“ありがとうございます、ユメ先輩”
“一緒に帰りましょう、ユメ先輩”
告げたい言葉は胸から溢れる程あって、急いで駆け寄った彼女が見付けたソレは、しかし直接ソレを見た彼女の口からこぼれ落ちたのはそのどれとも違う言葉。
「あ、ああ……ああぁぁあああっ」
砂に刺さった融解し砕けた防楯、砂丘の中腹を赤い赤い染みで染め上げた人型のソレ。あるはずの四肢の一部を失い、己の血に濡れながらも風に揺られる水色の髪の上には
「先輩!」
少女──小鳥遊ホシノの絶叫が、一足遅れて現場に到着したヘリのローター音と共に満天の砂漠の夜空に響いたのは同時だった。
アビドス自治区南部市街地 アビドス病院
厳粛な、静謐な空気を漂わせたICUの一室。
「…………」
心電図が告げる周期的な電子音の他には、完全に無音の部屋。魂の抜けたような無の表情をしたホシノはただただ集中治療室に寝かされたユメを見つめていた。
「……失礼します」
そんな、地獄のような空間に響いたノック音。続いてICUへと入って来たのは右腕を吊り、左眼や首元を筆頭に全身を包帯で巻いた空色の髪の少女──統星プラナだった。
「……貴女は、そう貴女も……間に合わなかった、のね」
魂の抜け落ちたホシノの姿を見たプラナがそう後悔を滲ませたような言葉をこぼしたのを聞いたホシノは、先程までの魂が抜け落ちていたのが嘘かのようにその瞳に怒り──否、それ以上に殺意を灯しプラナの病院服の襟を掴んだ彼女はそのままICUの扉をぶち破って廊下へとプラナを壁へと叩き付けていた。
「がはっ⁈」
「お前がっ!お前が付いていながら、何でっ!」
「ぐっ⁈」
「お前が!お前が、
叩き付けたプラナに砂漠に置き去りにしてしまった愛用の散弾銃ではなく、病室の一室に置かれていたブラック制式採用の大型フルオート散弾銃*1を突き付けたホシノはその凶悪なフラッシュハイダーをプラナの腹部へと押し付ける。
「殺す、殺してやる!お前がっ、お前が先輩をっ!」
無茶苦茶なことを言っていることも、ただの完全な責任転嫁だとはホシノも分かっている。しかし目の前にいる存在が、統星プラナという少女が一体どういう存在なのか。
「けほっ……ここじゃ、
豪快な横振りで振るわれた
「ぐっ⁈がぁっ⁉︎」
碌な受け身も取れず地面に叩き付けられたプラナ、そんなプラナの真上に飛び降りて来たホシノは下に向けた銃口に全体重を乗せてプラナに叩き付ける。
「お前がっ!先輩を、呼び捨てにするな!」
「かはっ⁈はっ……」
一眼見ただけでも人が殺せそうなほど殺意の籠った眼光に見下されたプラナ、しかしそれでもなおそれを受け入れるような視線を返されたホシノは狂ったようにその引き金を引いていた。
「クソっ、クソっ、クソぉッ、くそぉぉおっ……何で……どうして……お前が、お前が」
あらかじめ装填されていた散弾を全て撃ち切った彼女は、今度は馬乗りになってプラナを銃床や拳で殴り続ける。幾らプラナの神秘がホシノと同等かそれ以上に規格外の代物だとしてそれは万全の状態であってこそ、ビナーとの戦いで擦り切れていた今の彼女の神秘量ではどれも致命的と言わざるを得ない。だというのに、
「なんで、抵抗しないんだよ……なんで」
「……気にしなくていい、私は誤って窓から落ちた。それで……いいじゃない」
下敷きになったプラナの姿は包帯は解けて病院服もボロボロ、全身は血だらけで痣だらけ。地面に広がった血の海や銃弾の跡も誤魔化せないほどそこに刻み込まれている。それでも彼女は一切の抵抗をせずにホシノの激情を受け止め、ホシノはそんなプラナの姿に散弾銃を取り落とし地面に座り込む。ホシノの殺意が消えたのを確認したプラナは、ふらふらと立ち上がるとその場を立ち去っていた。
「……私は、私は……」
そして残されたホシノは、ただ何もできず手元に残った散弾銃を呆然と見つめその場に座り込んでいた。
連邦生徒会長直属特殊作戦部隊B.L.A.C.Kが制式採用している大型のフルオートショットガン。
全長800mm、重量約4.8kgという大型のショットガンだが、軽量化されたハンドガードやM-LOKレイルシステムの採用で扱いやすい重量バランスとなっている。また、光学サイトやフラッシュライト、フォアグリップなどを追加で搭載可能なため状況に合わせたオプションパーツを選択すれば暗所への対応やエイミング速度と操作性の向上といったさらなるアドバンテージを得ることも可能。
なにより特筆すべきはショットガンでありながらフルオート発射機能を備えている点であり、散弾やスラッグ弾をフルオートで発射する“面”や“点”の制圧力や衝撃力は、ヘイローによって強靭な耐久力を有するキヴォトス人にも1発で昏倒させることが可能な程絶大な効果が期待できる。
出典「バイオハザード:トールハンマー〈アルバート.W.モデル 02〉」