青く透き通ったソラに、導きの星を 作:新人しくじり先生
時と砂に埋もれた旧アビドス高等学校本館。かつてはキヴォトス有数のマンモス校として繁華を誇ったはずの数多の生徒たちの青春の跡は、今や拡大の一途を辿る砂漠に呑まれ廃墟と化し、本来ならば射撃演習場や弾薬庫となっていたはずのその地下室は黒服──いわゆる「悪い大人」──の手によって生徒の「神秘」を研究する悍ましい実験施設へと
「私の……せいだ、全部、全部。私の……」
そんな身の毛もよだつような施設の一室に、アビドス高等学校廃校対策委員会委員長「
失敗した
アビドスを蝕むおよそ7億クレジットもの借金、その内4億クレジットはいつの間にか細々と存在していた借入先が一本化され連邦生徒会預かりの債務となっていたが問題は残りの3億クレジット。借入先が土着の企業であるBAWS社やセイント・ネフティスはまだいい、本社や主要工場を置くアビドス全域の砂漠化は他人事ではないし、対ビナー戦を主目的とするアビドス解放戦線のスポンサーである彼らはそれ故に連邦生徒会やアビドス生徒会から与えられた
失敗した
キヴォトスでも有数の
失敗した
アビドス高校が砂漠化の影響で移転を繰り返していたこと、そもそも文書を管理する
失敗した
なくならない借金、止まらない人口流出、そして定期的に市街地へと襲い掛かる憎きビナーと今もなお拡大の一途を辿る砂漠。一向に好転しない事態に挫けそうになった日など、数え切れぬほどある。それでも──
「ごめん……ごめん、みんな……私のせいで……。シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん」
それでも、そこには希望があった。
そこで、かけがえのない絆を得た。
『歳下の共犯者と初めてできた後輩』
『新しく入って来てくれた新入生』
対策委員会の仲間たちを思い、ホシノはただ懺悔と謝罪を口にする。アビドスを守りたかった、ただそれだけなのに。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した
「ごめんなさい……ユメ、先輩。私、何も守れなかった」
その
ヴァルキューレ警察学校派遣留学生
かろうじて二桁の生徒数の廃校目前、限りある
そう、その筈だった。だがそんな彼女を受け入れたアビドスは、生徒会長であったユメは彼女に帰る場所を与えてくれた。
ヴァルキューレの中等部に入ったのもただ単に家が近くて推薦が貰えたから、正義感もなく任務達成以外には誰かを顧みることもなかった、「ヒト」でしかなかった彼女を「人間」にしてくれた。
しかしそんな「恩人」は、今もなお病院の病室にて未だ目覚めることなく眠り続けている。集中治療室を脱しながらも、利き腕と利き足を失い意識も戻らない彼女の病室への見舞いをホシノは欠かしたことはない。例えその行為が何の慰めにも謝罪にもならなくとも、それこそがロクデナシで恩知らずな自分が、大事にアビドスに駆け付けられなかった愚か者ができる償いだと思うから。
「ごめんなさい……
警察学校中等部時代の1年先輩、かつて憧れ、勝手に失望し、しかしその失望が余りに自分勝手なものだと理解してからは負い目と共に手を伸ばし続けていた、その背中。
連邦生徒会の白い悪魔
連邦生徒会長の
連邦生徒会最高戦力
学区を越えて、灰を降らせる黒い鳥
中等部3年生ながら後の「超人」と称される連邦生徒会長に見出され、その連邦生徒会長と並び立ちながら彼女が持つ真に最強の「矛」にして「盾」としてキヴォトス全土の平穏を守護する「
気付いていた、毎月アビドスに送金されてくる匿名の寄付。宛先は
───やっぱり、私は
自身の愚かさに嫌気がさし、後悔と自責の念で肩が震える。馬鹿な自分が、賢くなったつもりで足掻いたせいで事態をここまで悪化させてしまった。守りたいものを、アビドス廃校を阻止しようとして、そのために自分だけが犠牲なればいいと……なのにその行動も結果もすべてが裏目に出てしまった。これでは、みんなに合わせる顔がない。
「……ああ、でも……」
「恩人」にも、「憧れ」にも泥を塗った。助けに来てくれた「先生」も、「仲間」さえ信じ切ることもできず
「……みんな、ごめん。私──」
──最期に、みんなと砂祭りに行きたかったなぁ……
心が折れ、全てを諦めかけたホシノの頬からこぼれた涙の雫がその昏い色の床に落ちたその瞬間。
黒服と自分しかいないはずの地下施設に響いた猛烈な爆発音、目の前で豪快に吹き飛ばされ抉じ開けられた扉から差す光を背に現れたその姿に、ホシノは目を見開いた。
しばし時は遡って、3時間ほど前。先生がアビドスの訪れて初日に発生した不良生徒集団の撃退を筆頭に、
セリカ誘拐未遂
闇銀行襲撃
……etc
そしてそれらに続いて起こった小鳥遊ホシノの失踪──対策委員会の部室にある彼女の机に置かれていた謝罪文の付いた退学届と退部届を発見した先生と残された対策委員会の面々。そんな彼ら彼女らはホシノ奪還を目指し、情報収集と共につい最近出会った「とある便利屋集団」や成り行きでブラックマーケットで銀行強盗を共に行った「とある普通で平凡な女子生徒」に加え、アビドス解放戦線にも助力を得るために東へ西へと走り回っていた。
“……”
そんな中、たった1人で情報の整理のため部室となるアビドスの教室に残った先生は、机の上に広げられた連邦生徒会発行の
“……もしもし、リンちゃん?”
そして思考を重ねていた先生は徐に「シッテムの箱」ではない、ただの携帯端末を取り出すと彼女──七神リン主席行政官の連絡先を
《先生、リンちゃんはやめてください。……直接連絡がきたということは、やはりアビドスは?》
数コールも響かずに出られた通信と場を和ませるために口から出た台詞だったが、あっさりと受け流された挙げ句、大真面目に聞き返された話に先生もまたその表情を引き締める。
“……うん、第一報であげた通りね。そっちは?”
《……お恥ずかしながら芳しくはありません。環境室経由で財務室を中心に行政委員会に根回しは済ませましたが、緊急支援のための補正予算が最速で通過してもあと1日。カイザー関連はともかく、治安維持部隊として連邦生徒会直下のSRTを送り込もうにも不知火防衛室長からの報告ではヴァルキューレと再編中なため戦力抽出と派遣にはさらに数日は掛かります》
“……そっか”
先生がリンに対し敢えて連絡を行ったその理由、それはアビドスの状況が本当に洒落にならないレベルで逼迫していたからに他ならない。しかし事前に第一報として情報が送られていたリンとはいえ連邦生徒会は腐っても*2民主政権、代行であれ連邦生徒会長の一存で全てが決められる独裁政権ではない。またその他にも様々な要因もあって、つまり連邦生徒会は動こうにも動けない状況だった。
《……ひとつだけ、方法はあります》
2人の間に流れた気まずい沈黙、しかしそれを破ったのはリンの方だった。
《特殊部隊「
“でもそれは……”
リンが出した提案は金で動く傭兵の雇用、特に
《越権行為、なのは理解しています。予算運用も含めて、前回護衛のため
資金面でリンが自腹を切るだけではない、いくらリンが生徒会長代行なのだとしても各行政委員会の室長たちの頭を飛び越えて独立傭兵を雇用し自治区に送り込むのは越権行為どころの話ではない。代行としての不信任案提出どころか下手すりゃクビ、連邦生徒会からの追放もあり得る決断に先生も待ったを掛ける。
《ですが先生、私とて連邦生徒会の一員、今は生徒会長の代行の立場にあります。ならばこそ、今の私には連邦生徒会の名代としてアビドスで発生している問題を解決する
確かにリンは性格は真面目でお堅く、丁寧な口調ではあるがキツイ発言をすることも多々あるし、それ故に他校の
“──うん、ならそこからは私が、
リンが示した「連邦生徒会としての責任」、だがリンが示したその責任と同じように先生もまた責任を背負っている。他でもない「大人の責任」という責任を、
“シャーレに届いたアビドスからの支援要請と超法規的権限、現地に居る「生徒から求められた助けに応じ、同時に所属や学籍によらず不特定多数の生徒の協力を仰ぐことのできる」「先生」からの至急の協力要請の下、手配できる場所と立場にいるリンが代理で無理矢理
権限が厳密に定められ、組織の内にいるリンではできない。まさに超法規的権限を持つ先生がアビドスに実際にいるからこそできる屁理屈。「サンクトゥムタワー」の一件もあって連邦生徒会にもある程度
《……屁理屈ですね》
“うん、でもそれでも理屈は理屈だよ”
また端末越しに頭の痛そうな顔をしていそうなリンの姿を思い浮かべ先生は笑う。
そして、何とか同意してくれたリンから教えられた仲介人への連絡先──
“……もしもし?”
《ようこそキヴォトス傭兵支援システム・
そして初めまして連邦捜査部「
先生、貴方の来訪を心より歓迎します》