青く透き通ったソラに、導きの星を 作:新人しくじり先生
シャーレへと赴任して以降、「先生」の存在は認知されていても個人名──例えそれが
“…………”
故に沈黙を保っていた先生だったが、それに対して自らを「オールマインド」と名乗った声の主はそんな疑惑の沈黙を物ともせず話し続けていた。
《オールマインドは全ての傭兵のためにあります。
我々の目と耳はこのキヴォトスの数多の場所に点在し、全てを網羅し、集積された記録情報はオールマインドに所属する傭兵たちが適格かつ適性のある依頼を受理し生還できるよう活用されています。そして、それらをもって彼ら──全ての傭兵を支援することが我々の使命です》
つまるところ、キヴォトス全域で発生している事象はほぼ全て把握しているとでも言いたいのであろう。なんとなくこのオールマインドなる存在?少女?が言いたいことは理解できた先生は、そもそもこの連絡先が
“レイヴンに依頼を出したい、依頼は「アビドス防衛」と「小鳥遊ホシノの奪還」。報酬は5000万クレジット、達成報酬でもう2000万クレジットを出す”
オールマインドが傭兵
“足りないなら足りない分補填する、だから……”
当然、キヴォトスの外から来た外側出身の先生が独立傭兵の雇用に必要な相場など一切知る由もない。とはいえ、傭兵を
《いえ、残念ながらレイヴンは現在別の依頼を受け遂行中です。おそらく、今から依頼を出したところで開始時刻までには間に合わないでしょう》
しかしそんな先生の覚悟を察してか、オールマインドが答えたその返答は酷く残酷であっさりしたものであった。
“……そうか”
レイヴンは間に合わない。
そもそも彼女は連邦生徒会からも信頼され依頼を受ける新進気鋭の独立傭兵なのだ、当然他の依頼を受けている事態も考えるべきだった。
《クレイドル先生、何か勘違いなされているようですが独立傭兵はレイヴンだけではありませんよ》
潰えた希望に、小さく嘆息を漏らしそうになった先生だったがそんな先生を見かねたかのようにオールマインドが伝えてきたのはごく当たり前の選択肢──その他の傭兵の雇用──であった。
“……そうなのか”
《はい、勿論です。ではまず「傭兵ランク」についてご説明しましょう》
発想にもなかった
《傭兵ランクは企業専属や独立傭兵を問わず、オールマインドに登録された全ての傭兵に対しその任務達成率や難易度・戦闘力等々を独自の選定基準で審査し格付けしたものとなります。
ランキング*1は最も上位のランク【1】から最下位のランク【13】、そしてその更に下となるランク外の【uR】まで……つまりランク【1】こそ「キヴォトス
傭兵ランクとは読んで字の如く「傭兵を格付けたもの」である。その基準は任務達成率やら任務毎の請求弾薬額、修理費や依頼人からの評価などなど様々だが、ここで最も重要な点はそれらが
“……つまり基本的にランク【1】は雇えない?”
《ええ、傭兵ランク1位は「
とはいえ、
《ですがご安心下さい。たった今、現在カイザーPMCがアビドスに展開している戦力と先生側に付くと予想される「便利屋68」「トリニティ」「解放戦線」を含めた戦力を参照した比較検証が完了致しました》
そんな先生の思惑を他所に、オールマインドはいつの間にかカイザーPMCの戦力配置諸々を何処からか引っこ抜いてきた挙句、今残された廃校対策委員会の面々がそれぞれ助力を頼みに行っているはずの相手の情報を含めその分析を裏で行っていたらしい。
《ランク【1】の動員は不用です。また先生の提案頂いた先の依頼内容はそのままに、依頼料は半額となる︎
淡々とした無機質で無感情に思えてやたら感情的で分かりやすい、そんな独特な声色でオールマインドはそう宣言する。
《おすすめする傭兵は──
────
紫電が迸る雷光により豪快に抉じ開けられた拘束室の鉄扉の先、現れたのは
“良かった……見つけたよ。ホシノ”
「せ、先生……それに貴女……は?」
《初めまして「暁のホルス」小鳥遊ホシノ、私の名前はケイト・マークソン。貴女の救出依頼に
曲線が多用された鈍色の装甲に幾つかの緑の蛍光ラインが奔った人型の機体。その中央に組み込まれるようにしてソレを纏ったパイロットスーツ姿の少女は、扉をぶち破るのに使ったのであろうその右手に持った歪な設計の連装小銃を下ろしつつマイク越しに簡単な自己紹介を行った。
──傭兵ランク13「ケイト・マークソン」
傭兵ランクの
《ふむ……「救出対象」小鳥遊ホシノ、暁のホルスと名高い貴女と親睦を深めたいところですが……その時間はないようです》
先生が触れた先からあっという間に解除されていく拘束具の電子錠、並のハッキング技術では解錠できないはずのソレを瞬く間に解除していく謎の技術、そしてソレを成し遂げているであろう先生が持つ「
ただそんな視線もケイト・マークソンが告げた言葉と、彼女が敢えてホシノにも聞こえるように流されたその無線通信の内容によって中断させられた。
《こちらイーグルアイ、カイザーPMCと交戦開始。部隊識別……対
顔を見合わせるや否や脱出を急ぐ3人。道中の警備ドローンや警報装置は既にハッキングか物理的に粉砕されほぼ全てが沈黙済み、生身で1番足の遅い先生をケイトが抱えその背後を徒手とはいえ「
先進的ながらやたらと無機質な廊下を駆け抜けた先には、ホシノにとっては見慣れた光景であるアビドスの大砂漠とそれに大部分が埋もれてしまった旧本校舎の廃墟が広がっていた。
「やっと来たか、
そんな廃墟と化した校舎の一角、上手く隠蔽された地下室からの出入り口から程近い砂丘の頂上付近から聞こえた声──ついでにいえば先程無線で流れてきたのと同じ声──に先生やホシノたちは目線を向ける。
“……最初はまさかとは思ったけど、本当に狙撃銃一本でここを守り切るなんてね……”
軍用強化外骨格たる
──傭兵ランク11「イーグルアイ」
傭兵ランク11位、傭兵ランク内でも珍しいAC無しでかつ唯一個人でのランクインとなる独立傭兵のひとり。有効射程4.2km、その射程圏での
これまたホシノでも知っている傭兵の登場に驚くより先に、その雇用費用を思い浮かべて一瞬顔が青くなったのはご愛嬌。ケイトの時より冷静かつ余裕も戻りつつあり、いつも通りの彼女に戻ってきているだけである。
「砂漠での足止めは熟知している。勿論カイザーPMCの
そんなホシノの反応はさておき、ほぼ等間隔で射撃を続けるイーグルアイはその1発1発に素早くそして丁寧に神秘を練り込むや否や目標となるPMC所属のMTや戦車隊に向け発射。放たれた12.7×99mm弾は熱したナイフでバターを貫くよりも簡単にその装甲板をブチ抜き、2km先に設定された第一突破阻止線へ飛び込んだ時には600人超はいたはずの大隊は既に半分程削り取られていた。
“部隊の3分の1以上が倒れてもうとっくに壊滅状態なのにまだ士気が瓦解しないのか……”
「いや、そろそろ崩れる。既に電波妨害は実施中だし初めに指揮者は潰した、順番に偉そうな奴も潰したしそろそろその事実に気付いて崩壊する」
重MTや突撃砲を盾に第一突破阻止線を越え、第二・第三の阻止線を貫いて未だ砂漠を突き進む対デカグラマトン大隊だったが突如としてその足が鈍る。今まで一発必中を続けていた弾丸が突如として部隊ではなくその前方の砂丘を吹き飛ばし彼らの視界を塞ぐ。爆導索でも仕込まれていたかのような全長数十mの同時爆発に足を止めたが最後、我武者羅な進撃の熱に浮かされていた彼らとて一度でも冷静になればもう二度とは前に進めない。
“撤退し始めた?”
「逃しはしない。残り有効射程は3km、今ここで全滅させる」
かろうじて残った統制により三々五々に敗走を始めた対デカグラマトン大隊、だがその背後をボルトアクション式では考えられない超速の装填速度で放たれた12.7mm弾が襲う。
「
長大な有効射程に対し何故これほど敵を引きつけての突破阻止線の設置であったのか、狙撃手が誰かを隠蔽する意味合いもあったがそれ以上にここでPMCの最高戦力を文字通り
もはや戦闘でなく「虐殺*2」か「狩り」とでも形容できそうな戦況に若干ドン引きつつ、先生は彼女の進言に頷く。
“ありがとう、イーグルアイ。ここは頼んだ”
「了解。ケイト、作戦通りに」
《分かっています。
「うへっ⁈おじ……私も?」
何処か揶揄うような声色のイーグルアイとそれに少しばかりムキになったかのような声色で要請済みと答えるケイト、そんな合間に突然勝手に挟まれたホシノはいつものおじさん口調ではなく彼女の本来の
《無論、依頼とはいえ我々が働いているのに「暁のホルス」が働かないなど許されません。ついでにいえばそこまで余裕もありませんので》
「ぶっちゃけちゃったよ……この人(?)」
どの面下げて皆の下に戻ればいいのかと考えていたホシノに対し、働け手が足りんとぶっちゃける情けない傭兵の姿にホシノはそんな悩みを一旦横にしてでも頭を抱えたくなった。
“まあまあ……ホシノもそう言わずに……”
《というか元はといえばタイミングも資金力も悪いクレイドル先生の所為では?》
“ぐはっ……⁈”
そして言葉の流れ弾によって被弾する先生。もはや混沌としだした砂漠には、真面目に仕事中の人の背後でコントをやり始めたバカ3人にため息を吐くイーグルアイとヘリのローター音が響いていた。
1 フロイト/ロックスミス(アーキバス)
2 ヴァースキ/ナイトイェーガー(AE)
3 キング/アスタークラウン(独立)
4 便利屋68(独立)
5 シャルトルーズ/アンバーオックス(独立)
6 スネイル/オープンフェイス(アーキバス)
7 サーシェス/フルファング(カイザー)
8 オヴニル/グラーバク(グランダーI.G.)
9 レイヴン/ストライカー01(独立)
10 ツバサ/フラットウェル(解放戦線)
11 イーグルアイ(独立)
12 六文銭/シノビ(解放戦線)
13 ケイト・マークソン/トランスクライバー(独立)
ランク外
uR ジャブジャブヘルメット団
uR カタカタヘルメット団