ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

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明けましておめでとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
勢いオブザ勢い


クオリアサイト

「──ヴィル!」

 

 帝都下級地区に広がるスラムであるラ=ネリエント地区の廃墟に辿り着いたテラコマリは扉を開けると同時に、祭壇に磔にされているヴィルヘイズが視界に映り名を叫ぶ。

 そこにはミリセントの姿は勿論、以前決闘でテラコマリが不正に不正を重ねて打ち負かしたヨハンの姿があった。

 

「あら、ちゃんと来たのね。安心なさい。さっき神具でこのメイドを刺して遊んでたんだけど、まだ殺しちゃいないわよ」

 

 ま、後で殺すけど。と付け加えたミリセントはわざとらしく笑ってテラコマリを煽る。

 今まで記憶に蓋をして思い出さないようにしていたが、学院時代の彼女も取り巻きを連れて分かりやすい性格の悪い女みたいな仕草をしていたのを思い出した。

 

「お前、可哀想なヤツなんだな。三年前と何も変わってない。さっさとヴィルを返してもらおうか」

「どうやら、このメイドと心中したいようね」

 

 三年前は純粋に誰かを害さないといけないくらいにはメンタルに余裕がない彼女を哀れむ言葉だったが、今は三年の時が経っても似たようなイジメの延長線で殺意を向けてくる彼女に対しての皮肉だった。

 

「止めとけテラコマリ! こいつ、やばい! 神具を持ってる! 本当に死ぬぞ!」

「だから、どうした? 私はここに来るのが目的なんじゃない! お前は一旦……死んどけ!」

「ギャアアアアア!?」

 

 爆発の魔法石をヨハンに向けて投げると、彼の恐らく神具で刺されたであろう傷痕ごと爆風で彼を殺害した。

 これでミリセントに殺されることはなく、魔核で再生するまでは安全だろう。

 

「あらら、裏切り者とは言え元部下に容赦ないわね」

「悪かったな。私はこれでも血も涙もない将軍で通ってるんだ」

「まぁ、どちらにせよ。戦う準備をしてきたなら、そういうことで、良いわよねぇ!」

 

 最初からテラコマリを痛めつけることが目的だったミリセントは彼女がやる気だろうが何だろうが関係のないことである。

 ミリセントの光撃魔法『魔弾』がテラコマリの頬を掠め、戦いの口火が切られる。

 

「くそっ……あんな魔法使える癖になんで私に執着してくんだよ」

 

 魔法の発動を見てからではテラコマリの身体能力で避けられる訳がない。

 狙いを付けるための腕の動作を見た瞬間から全力で遮蔽物の長椅子の元まで走り出す。

 

「さっきまでの威勢はどこに行ったのかしらね? 隠れてないで出てきなさいよテラコマリ!」

 

 魔弾による怒涛の攻撃がテラコマリの周辺にある椅子や壁を破壊していく。

 ミリセントの狙いが甘い訳ではなく、姿が見えていない状況で殺しても面白味が無いからというだけでわざと外しているに過ぎない。

 

(多分……そろそろイラつき始めてる……なら──!)

 

 手に握った魔法石を長椅子の近くに投げ捨てて砕くと魔力による障壁が展開される。

 それに合わせてテラコマリが障壁の後ろに出てきて、攻撃用の魔法石を大量にばら蒔く。

 

「ちっ……」

 

 先程ヨハンを殺した物と同じ類いの物であれば、威力だけはそれなりの物であるため、魔法石が自身の近くで炸裂する前にミリセントは魔弾で消し飛ばして迎撃し、自身の範囲外で爆発させる。

 爆発の魔法石の中に、ただただ瞬間的に眩い光を放つ魔法石が仕込まれていたせいでミリセントは一時的な目潰しを食らう。

 

「小賢しい真似を……!」

「うああああああっ!! ミリセント・ブルーナイトぉ!」

 

 その爆発と閃光に紛れ、目を瞑り真っ直ぐテラコマリが突撃してくる。

 爆風の熱に肌を焼かれ、目が見えないながらにミリセントの放つ魔弾に肩や膝を貫かれ全身に想像を絶する痛みが走るも、ここで立ち止まれば、この戦法の意味が無くなる。

 

「このっ──!」

「吹き飛べ!!」

 

 魔弾の弾幕を痛みに耐えながら切り抜けたテラコマリは範囲は極小だが、人一人くらいなら余裕で吹き飛ばせる魔法石をミリセントの腹部に叩きつける。

 

「トドメ!」

 

 ミリセントが吹き飛ばされ、壁に吹き飛んで行くのも確認しないほど間髪入れずに落石を降らせる魔法石を彼女の着地点である壁に向かってテラコマリが投げつける。

 

「なっ──!」

 

 落石がミリセントを下敷きにする。テラコマリは彼女が抜け出して反撃してくることも考慮して次の魔法石を持って警戒する。

 

「……はぁはぁ……はぁ……終わった……ヴィル!」

 

 しばらく待ってミリセントが動かないことを確認したテラコマリは磔にされているヴィルヘイズの元に向かう。

 彼女を逃がさないために手や脚を串刺しにされて血を流している。テラコマリの力では苦しいが無理にでも剥がして持ち帰るしかない。

 

「最悪魔法石で一部壊さないと──っ!?」

「ちゃーんと、死体確認しないとダァメじゃない? テラコマリ!!」

 

 ヴィルヘイズを連れ帰るためにアレコレ準備をしているテラコマリを背後からミリセントが神具で彼女の脚を滅多刺しにする。

 神具に付着した血を振り払うと、その血がヴィルヘイズの顔にかかった。

 死ぬ間際に主人の血がついていることで自身のせいでそうなったと分かれば、それも一興だろうと、ミリセントは特に気にすることもなかった。

 

「ひぐっ! あぐ!?」

「どうして? みたいな顔してるけど、あんな玩具で私を倒せるなんてとんだ思い上がりよねぇ!?」

 

 テラコマリの腹を蹴飛ばし、脚を負傷して立ち上がれない彼女の腹を普通のナイフで刺す。神具で急所を刺してしまっては苦痛に歪む表情を楽しめない。

 

「い、ぎっ……!」

「アンタごときが、私を殺そうだなんて何年経っても無理よ。

 グズで泣き虫でイジメられっ子で……昔から何も変わりやしない。変わろうと思ったところで何も変えられないヤツなのよ」

 

 全身が痛い。もう涙は流しているが、叫び声を上げてしまいたい。

 そうすれば誰かが助けてくれるかもしれない。でも、それではダメだということを分かっている。

 

「もう、たくさんだ……」

「はぁ……? 何?」

「もうたくさんだって言ってるんだよ! 私の力がないせいで誰かが傷つくのも! それで私がまた大切なモノを失くすのも! たくさんだ!」

 

 気合いだけでテラコマリは脚を振り上げてミリセントの腹を蹴り飛ばす。

 もう体力なんてない。絞りカスみたいな力しか残っていない。思考も発言もまとまらないが、それでも、その絞りカスで立ち上がる。

 

「往生際が悪いわね……良いわ、そこまで死にたいんだったらもう殺してあげる」

「私はスウェアに言ったんだ……! 頑張るって……背が小さくても、運動も出来なくて、魔法も使えなくて、よく泣くし、死ぬことが怖くても……お前なんかに負けていられない……!」

 

 魔核で再生しない傷のせいで力がまともに入らない。今にも脚の神経がブチブチと音を鳴らして二度と使い物にならなくなるかもしれない。

 あの日言った言葉を嘘にはしたくない。

 スウェアが肯定してくれた自分の言葉だけは曲げられない。その想いだけが今のテラコマリを立ち上がらせた。

 

「魔法一つ使えず、小賢しい石っころしかないアンタが勝つ? 笑わせないでよ」

「うっ゛!」

 

 糸のような細さの魔弾がテラコマリの膝を貫く。

 普通なら大した威力もないが、満身創痍のテラコマリに耐え難い苦痛を与えるには十分だった。

 

「頑張るだけで欲しいものが手に入るなら、こんな世界になってないわよ」

 

 何度か糸の魔弾を放っても気合いだけで倒れないテラコマリに不快に思うミリセントは彼女の膝を軽く小突いて倒す。

 

「不愉快。本当に不愉快だわ。

 弱いのに粋がらないでよ……メイドを殺して、アンタを殺した後にあのバカも殺しておいてあげるわ。あの世で一生慰めてもらってなさい」

「……あ、あ……ごめ……ヴィル」

 

 ミリセントが魔弾に込める魔力を徐々に大きくしていくのを見つめることしか出来ないまま、テラコマリは意識が朦朧としていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

「あの、バカ! どこまで遠出してんだよ!」

『そのバカのために走り回ってるキミも相当だがね』

 

 スウェアは全速力で走ってラ=ネリエント街の廃城まで来ていた。

 場所は当てずっぽうで走り回っても時間を無駄にするだけ。通信用の魔法石でカレンにテラコマリの居場所を聞き出したら案の定把握していたため、ナビゲートの為に通信を繋ぎっぱなしにしていた。

 

『さてさて、そろそろテラコマリの方も限界か、あるいは……まるで、三年前の再現だな……至高の烈核解放に対抗し得る力、存分に見せてもらいたいな』

「……詳細は後日、報告する」

 

 通信を切って軍服の内ポケットにしまう。

 傷が開きかかっており、痛みもまだ引いていないが、躊躇っている暇もない。

 

「おう、やってる?」

 

 廃城に入ると、あまりそうなってほしくなかった状況が目の前に広がっていた。

 磔にされているヴィルヘイズは夥しい量の血を流し、四肢を失い、性格からは考えられないような怯えているミリセントと、恐らくその彼女の四肢を引き摺っているテラコマリの姿が、三年前を想起させる。

 

「……結局バカ皇帝の言う通りか」

 

 烈核解放。

 この世界で魔法とは別の系統とされる異能。その能力をテラコマリは生まれながらに保有していた。

 スウェアが聞いた話では、テラコマリが初めて家族と食事をした際に血を飲んだ途端にその場に居た全員を皆殺しにしたという。

 その名は孤紅の恤(ここうのとむらい)

 他者の血を摂取すると爆発的な魔力と身体能力を得ることが出来る。

 それが三年前も、たった今目の前で発動している力である。

 

「……す、うぇあ……」

 

 今のテラコマリは烈核解放のせいで自我がない。

 三年前の虐殺もそれが理由で起きて、ミリセントに押し付けられた。

 

「……なぁ、ミリセント・ブルーナイト。痛いか?」

「アンタ何しに来たのよ! 死ぬわよ! 今のテラコマリは普通じゃない!」

 

 スウェアにミリセントを助ける気など微塵もないが、彼女とテラコマリの間に立つ。

 孤紅の恤のパワーは上級魔法ですら素手で弾ける。まともにやりあって勝てる相手ではないことは、ミリセントの捥げた腕が物語っている。

 

「一億年に一度の美少女だからな、そりゃ普通じゃないだろ」

「馬鹿言ってないでさっさと逃げなさいよ! アンタが私を助ける理由なんて無いでしょう!」

「ねぇよ。自惚れんな……俺はそんな善人じゃない」

 

 この期に及んでスウェアは血塗れのテラコマリに見惚れていた。

 衣服は乱れ、顔に涙の跡も見え、鮮血を浴びた金色の髪に魅了される。

 

「……クオリアサイト」

 

 ならばこそ、あの日の再現を始める。

 違いはスウェアが発現させた力を自覚しているかどうかの違い。

 襲撃事件以降、スウェアはテラコマリを止めた能力が烈核解放であることを知った。

 

「……っぅ、いってぇ……」

 

 その能力は周囲の人物の思考を読み取り、自身の思考を相手に押し付ける。

 相手の思考に耐えれば、そのまま相手の思考を把握し続け戦闘を優位に進められるが、耐えられなかった場合は周囲に咲いた花に血を吸われ戦意を失う。

 孤紅の恤中のテラコマリは自我ないため抵抗出来ずに意識を持っていかれたが、それにはスウェアが彼女の思考に耐える必要もある。

 今回は当時以上に様々な感情が流れてくる。

 後ろに居るミリセントも含め、複数人の感情を請け負う羽目になった。

 

「……う゛ぇ゛……おお……」

 

 表現し難い気持ち悪さがスウェアの脳内に浸食してくる。

 負けられない。羨ましい。苦しい思いまでしたのに。理不尽だ。可哀想だ。到底許されないことをした。自分より不出来な人間を虐げれば何かが満たされる。弱いくせに。貴方のようにあれたら。苦しい。努力に意味なんてない。心の強いアイツが嫌い。何も出来ない自分が嫌い。

 

 ──だけど、頑張る。

 

 様々な感情のせいでぐちゃぐちゃになりそうになる。だけど、折れる理由ではない。

 ここで負ける訳にはいかない。

 

「──すうぇあ……」

 

 何とかクオリアサイトの負荷に耐えたスウェアは花が紅に染まっていることを確認し、テラコマリを止めることに成功した。

 孤紅の恤は解けていないが、辛うじて意識が残っているテラコマリの声を聞いたスウェアはやり残した事を思い出した。

 倒れそうになったテラコマリを抱き寄せ支えて、背後に居るミリセントの方に向き直った。

 

「ミリセント・ブルーナイト。一回には一回だ」

「まっ──」

 

 ワームスフィアをスウェアが神具で抉られた部位と同じ部位に叩き込み。ミリセントの絶命を確認した。




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