ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

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軽い後日談とイチャイチャ


もう付き合っちゃえよ

「さてさて、俺はお前に何だって命令出来ちゃうけど、どうする?」

 

 ヴィルヘイズ誘拐事件から数日。結局無理が祟って傷口が開いてしまったものの、数人分の生き血をクオリアサイトの副次作用で吸血していたこともあり、何日か眠って全快したスウェアは地下牢に捕えられているミリセントと面会していた。

 一番メンタルが心配だったのがミリセントというだけで、一方的に気不味さを感じてテラコマリを後回しにしている訳ではない。

 

「どうするも何も、装備を全て没収された状態で皇帝お墨付きの戦力相手に抜け出せると思う?」

「そりゃそうだ」

 

 ミリセントに関してもスウェアの思考を見た側の人間ではあるが、魔核による再生のおかげで一番惨たらしい死に方をしたのに一番傷が浅いという奇妙な状況だった。

 

「しかしなぁ。元学友がテロリストになってるだなんて、何が起きるか分かったもんじゃないな」

「アンタは別のクラスだったでしょうが……」

 

 当時のスウェアは家名不明の人間が位の高い貴族と仲良くバカをやっているということで有名だった。

 中退したせいで今では知る人ぞ知る怪異のような扱いも受けている。

 

「同じクラスには可愛い子あんまり居なくてなぁ」

「で、そんな下らない話をしに来ただけなら、声を上げて衛兵を呼んでも良いのよ?」

 

 学院時代の思い出話に耽るスウェアに苛立つミリセントが脅しをかける。

 例えそれが社会的効力を持たなかったとしても、過去にミリセントのことを可愛いと評していたスウェアがやってしまえば有らぬ噂が立つことは防げない。

 それはスウェアとしては大変よろしくない。

 

「女を良いように使うな……というか、それ出来る立場じゃないだろ」

「昔、アンタが家のコネで理想の体型のメイド服を私物として──」

「あーあー!! 聴こえない! 知らない! 覚えが無い!」

 

 クオリアサイトの思考共有の負荷に耐え切った者は相手の思考を記憶出来てしまう。逆に耐えられなかった場合はその間のことは覚えていないらしい。

 人間達磨状態であってもメンタルにガッツが残っていたミリセントは思考共有の負荷に耐えきっていた。そのせいでスウェアの思考を記憶してしまい、あんなものに耐えなければ良かったと後悔していた。

 

「ま、アンタ性癖以上に、あの烈核解放で心に触れられる方が気持ち悪いけどね。そりゃあんな力好きになる訳ないわね」

「遠慮ないなお前……」

 

 スウェアは基本的に相手のことを言いふらしたりはしないが、ここまで遠慮なくスウェアの内面を暴露してくる手合いも初めてでズタズタにされていた。

 

「……真面目な話。お前はまだ逆さ月か?」

「烈核解放で私の心を覗き見といて、改めて聞くなんて悪趣味なことね」

「だから聞いてるんだよ」

 

 意思の伝達をするだけなら、全てクオリアサイトで解決出来るが、そうしないのは人の心を勝手に覗き見るだけの能力でコミュニケーションを完結させるのはただの対話拒否である。

 過去に実験台としてクオリアサイトを受けた人物からは痛みが消えて心が穏やかになっていく感覚だと聞いている。

 それは人を傷つけることを根本から否定するように思えて、ワームスフィアと共にスウェアが自身の能力を嫌う一端である。

 

「はぁ……やっぱアンタのこと嫌いだわ」

「うっせ、答えは?」

「逆さ月とか、そういうのは今はどうでも良いわ」

 

 今回の一件で、結局自分の抱いていた物が自分自身から逃げて他人を虐げるだけの嫉妬でしかないことを自覚し、一人で考える時間が出来たということもあり、色々どうでも良くなっていた。

 

「更生の余地ありってことで……上にはそう報告しとくわ。じゃ」

「待ちなさい。勝手なこと言ってんじゃないわよ!」

 

 用は済んだと言わんばかりに、地下牢から去ろうとしたスウェアをミリセントが引き留める。

 今更処刑されるのは嫌だとか言うつもりもないが、ムルナイト帝国に何か貢献しようという気はミリセントにはない。

 

「いや、だから最初に言ったじゃん。俺はお前に何でも命令出来るって。バカ皇帝も言ってたしなぁ……『あのテロリストの小娘の処遇は任せた。処刑するなり飼うなり好きにしろ』ってな。

 そういう気はないけど、本当に人を殺すのは勘弁だし、飼われてみる?」

「ぶっ殺すわよ。アンタの性癖は付き合わされるのだけは絶対に嫌。死んだ方がマシだし、これから付き合わされる娘が出てきたら全力で説得するわ」

 

 スウェアもミリセントの心を覗き見たとはいえ、本当に容赦のない否定で少し目から汗が出そうになったが、男の子なので我慢してその場を後にする。

 

「結局コマリ様の部屋には行ってないと……とんだヘタレですね」

「ごはぁっ──!?」

 

 次にガンデスブラッド邸に側近として部屋を貰っているヴィルヘイズの元に訪れた。

 会って早々に半目のヴィルヘイズからのクリティカルパンチを食らったせいでスウェアは鋭いダメージを受けて椅子に座りながらフラフラになっていた。

 

「それくらいのこと言えるくらいには元気なんだな……烈核解放を使ったって聞いてたけど、後遺症とかないんだな?」

「ありませんよ。それより、見ましたよね?」

 

 この場合の見たというのは、クオリアサイトのことである。

 あの時は色々余裕がなく、スウェアの範囲調整が大雑把だった。ギリギリ入っていたりしたらヴィルヘイズの物も見てしまった可能性はある。

 

「えっーと、アレ、範囲入っちゃってた……?」

「ええ、私もガッツリ範囲内でした。心を勝手に暴かれました。恥部まで丸裸にされました。もうお嫁に行けません。責任を取ってください」

「いやいやいや! 肉体的な部分は見てねぇ!」

 

 わざとらしく顔を赤らめ、胸元を庇うように腕を抱いたヴィルヘイズの仕草に少し、本当に少し、頭がぐらつくような熱を感じてしまうが何とか耐えた。

 

「たく……人が心配して見舞いに来たっていうのに……」

 

 ヴィルヘイズの烈核解放は血を他人に飲ませると発動するのだが、スウェアも詳しい話を聞いたわけではないので具体的なことは知らない。

 烈核解放を発動すると、魔核との繋がりが一時的に途切れて恩恵を得られなくなるというデメリットがある。

 かなり深い外傷を負っていたヴィルヘイズがテラコマリに血を飲ませて烈核解放を発動したとなると、死んでもおかしくはない状態だったため、容態が落ち着いているのなら、いつも通り妙な言動でもそれで良い。

 

「私はこの通りなので、さっさとコマリ様の方に行ってください。私はその後で大丈夫ですので」

 

 ヴィルヘイズにそう言われて締め出されてしまったため、すぐ近くではあるのだが気が重い。

 テラコマリに会うのが気不味いというより、今回の件で少なからず彼女が怒っていることをクオリアサイトで知ってしまったため、すこぶる不機嫌なのは間違いない。

 

「……すー……ふぅ、テラ子ー。起きてるかー?」

「……朝からうっさい」

「昼だわ」

 

 数回部屋の扉をノックすると中からテラコマリの声が聞こえたため、そのまま中に入る。

 朝というには昼食時を越えて午後の三時で最早おやつの時間なのだが、テラコマリ基準では朝らしい。

 

(どうせ、正午くらいまで寝てたんだろうな)

 

 なんやかんやあってもテラコマリはテラコマリである。

 まだ怪我が治りきっておらず、ベッドの上で安静にしていなければならないが、それを口実にしてエンジョイしていることが分かるくらいにはベッドの上に本が散らかっていた。

 彼女もヴィルヘイズと同じような状態だったのに気楽なものである。

 

「……怪我は大丈夫なのか」

 

 ポンポンとベッドの端を叩いて自身の横に座るように促してくるテラコマリに一瞬抗おうとするも、普通の椅子に座ろうとした瞬間にほんのりとした殺気を感じたため素直に従う他無かった。

 

「テラ子よりは丈夫だからな」

 

 今回も。というと嘘になるが、孤紅の恤のことはアルマンからもう話しても大丈夫だろうと言われているものの、唐突に烈核解放のゴリラパワーでミリセントの四肢を捥いで殺しかけてましたと説明しても、テラコマリは信じないだろう。

 

「その……知らない間に、私がミリセントを倒したってことになってるけど……そういうの抜きにまたスウェアに助けてくれたって感じがしたんだよな」

「……」

 

 テラコマリの話を黙って聞いているのではなく、万が一、彼女が共有された思考を覚えていた場合、かなり都合が悪い。内心冷や汗が止まらない。

 彼女への好意をそういう形でバレてしまうのは不本意ではあるし、だからと言ってバレたならダイレクトに言ってしまうというのも、雰囲気やら色々微妙なことになるので嫌なことしかない。

 

「なんだろうな。三年前にも似たような感触がしたんだよな。こう、よく覚えてないけど、心が穏やかになって温かくなる優しい感じ……そういう時、お前が助けてくれてる時なんだよな。私は嫌いじゃない」

「──っ」

 

 本当に、こんな殺し文句をさらっと言ってのける彼女に心底惚れてしまっていることをスウェアは自覚させられる。

 コンプレックスに思っていることを肯定してくることを意識的にしていないのであれば、人タラシとしか言えない。

 

「なぁ、スウェア。これからも一緒に居てくれる?」

「……仕方ないな。居てやるよ」

 

 軍服の裾をぎゅっと摘まんで甘えてくるテラコマリにスウェアは一生勝てないのだろうと思い知らされた。

 その日は心臓がバクバクと鳴り響き、テラコマリを押し倒してしまわないか、スウェアの自分との戦いが続いた。




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