ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

14 / 25
章の始まりなので短めです。


アサインメモワール

「今回呼びつけたのは、サクナ・メモワールの件についてだ」

「……陛下、有給を消化したくなったので帰ってもよろしいですか?」

 

 ミリセントによる事件から一ヶ月後。

 カレンに呼び出され、少し前に魔法の練習中にうっかり自身の所属する部隊の七紅天を殺してしまった少女の名前が出てきてしまい、スウェアは壮絶に面倒臭い案件だと直感する。

 

「良いから聞け。七紅天に就任したサクナ・メモワールの内偵捜査及び補佐をしてほしい」

「補佐、はまだしも内偵捜査? 事故で七紅天に就任した小娘一人警戒する必要が?」

「言うこともわからんではないさ。しかしな、最近起きている要人暗殺もある。それに、お前は朕が個人として一番動かしやすい駒だからな」

「……義理だとしても親の言うことかよ」

 

 恐ろしく冷えているこの親子関係はスウェアがエルヴェシアスの姓を名乗ってしまったせいで義務感が増した。

 六国新聞からのインタビューに対応したり、以前よりは顔を会わせる回数が増えたものの、あまり改善はされていない。

 

「折角明かした身分だ。戦争以外での実績作りもしてもらわねば、な? しっかりと協力してテロリストを捕まえてくれよ」

 

 という会話を宮殿でしたのがつい先日である。

 そのせいでスウェアは部隊を移籍することになり、ヴィルヘイズからかなりのチクチク言葉で刺される羽目になった。

 テラコマリからは何も言われなかったのだが、それが却って怖い。

 

「なーにが、実績作りもしてもらわねば、な? だよ」

 

 支給された第六部隊の制服に袖を通したスウェアは、悪態を着きながら別件で待ち合わせ場所に指定されたカフェテラスまで来ていた。

 

「よっ、出世したじゃん。異動手当てで金持ってるだろ? 奢ってくれよ」

「これが出世なもんかよ……それに手当て出てたら少しは喜んでるっての」

 

 少し遅れて来た戦友がコーヒーを注文しながらスウェアに軽口を叩く。

 普通の感性を持っていれば、第七部隊に居るだけで異常者のレッテルを張られてしまうため、異動は閑職からの離脱を意味するのだが、スウェアの役割の中にテラコマリの護衛もあり、そこから外されたのは遺憾であった。

 

「この前の訓練でバトルロワイヤルした時、アレは酷かったな……」

「あー……最終的にテラ子が皆殺しにしてたやつな。俺がトイレから戻ってきたら文字通り死屍累々だったな」

 

 話の流れで胸か尻かの口論が始まり隊内での殺し合いにまで発展、最終的に流れ弾ならぬ流れ血を飲んだテラコマリが烈核解放でその場に居たヴィルヘイズ以外全員を殺してしまうという事故が起きた。

 その一件でテラコマリの無双を見た第七部隊はコマリンブームに火が着く。

 六国新聞の過剰報道で全国的にあったアイドル的人気に拍車が掛かり、第七部隊が無断でテラコマリグッズを販売し、それが資金源になるくらいには、世界はコマリンブームに浮かされていた。

 

「そういや、追放されてたヘルダース中尉が戻って来たけど、お前なんか聞いてる?」

「俺があの人の穴埋めで、特攻班の班長にさせられそうになったから……ちょっと、な」

 

 逆さ月に加担しているだけでも処刑されるには十分だが、ミリセントからテラコマリが弱いことを聞いてしまっていたヨハンを生かす理由は無いに等しい。

 しかし、そこに待ったをかけたテラコマリの計らいで部隊に復帰することになった。

 スウェア個人としては、一人とは言え人が死ぬよりはマシで、テラコマリ本人が良いと言うのだから言うことはない。

 

「んで、本題だけど、サクナ・メモワールについてはどうよ? 見た目は美少女じゃん」

「いや、まだ会ったことない……美少女偏差値は高いとは思うけどな」

 

 新聞にインタビュー記事が乗っていたため、サクナの顔は知っている。

 白銀の髪と蒼い瞳、肌も白く透き通っていて胸も服の上から分かる程大きい。性格も誰に対しても敬語で話す吸血鬼にしては気弱な少女である。

 非の打ち所がない程の美少女ではあるのだが、スウェアは何かの違和感を覚えていたせいで、手放しに美少女判定を出すことが出来ずにいる。

 

「……お前、さっさと告ったら?」

「うっさいハゲっ!」

「はいはい。ハゲても撫でてくれる婚約者が居る俺にはノーダメだっての」

 

 戦友は半目でこの一ヶ月も足踏みしたままのスウェアに呆れて溜め息を吐く。

 普段から猥談で股間に正直な話をするくせに好きな子のことになると初心な彼に面倒臭さを感じてはいるものの、見ていて嫌いではない。

 

「皇帝の養子で選びたい放題の中、選んだ子が普段言ってる趣味と真逆なのは才能あるよな」

「うっせうっせ……。そろそろ時間だから行ってくる」

 

 自分が注文した物の料金分の金を置いてカフェテラスを離れ、七紅府へと向かった。

 第六部隊の、つまりサクナの執務室で顔合わせを行う予定なのだが、廊下の曲がり角や階段でテラコマリやヴィルヘイズと鉢合わせたくないスウェアは警戒しながら普段彼女達が使うルートと被らないように移動してサクナの居る執務室に辿り着いた。

 

「あ、その……お待ちしてました。スウェア殿下!」

 

 執務室に入室したスウェアを出迎えたのは跪いたサクナだった。

 ああ、どうもと返事をしそうになったが、それは不味いとスウェアはサクナの肩を掴んで立ち上がらせた。

 

「上司はそっちだろ! てか、階級も佐官どころか尉官ですらないぞ!」

「でも……皇帝陛下の養子ですし、たまたま七紅天になっただけの私が、そんな烏滸がましいです」

 

 下を向いて自信無さげな表情のサクナを見たスウェアは前評判と実際の印象があまり相違が無かった。

 そもそも彼女の髪や肌は蒼玉種の母方の祖母からの遺伝らしく、そういう意味では見た目からして吸血鬼らしくはない。

 

「だからその補佐で俺が寄越されたわけなんだけどな……直属の部下になるし、元平民だし、畏まられても困る。名前も呼び易いようにしてくれればいいや……さん付けからでどう?」

 

 サクナに対しては部下なんだからと言いつつも、スウェア自身が上司になる彼女に対して敬語を使ってないことに気付いた。

 今となってはサクナがそうであったように、文句を言う者もそこまで居ないだろう。

 

「じゃ、じゃあ……スウェアさん。私のことも呼び捨てで大丈夫ですので……」

「おう、よろしく。サクナ」

 

 スウェアが手を差し出して、それを握ったサクナと握手を交わす。

 かくして、好きな子が居るからとかそういうことを抜きにサクナに対してのふわっとした疑問を持ったまま、第六部隊での彼女に対する内偵捜査が始まった。




https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=307658&uid=53306
評価値500と評価件数20越えたのでリクエスト何個か受けます。来なかったらかなしい。

宜しければ感想等お願いします。されると喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。