ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

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しがらみ

「スウェア・エルヴェシアス。まぁ、皆知ってるか……今日付けでサクナ閣下の補佐として第六部隊に移籍することになった。これからよろしく頼む」

 

 サクナとの顔合わせを終えたスウェアは彼女の紹介と共に第六部隊の面々を前に自己紹介をしていた。

 

(ああ、めんどくさい。虚勢すら張らない将軍の補佐なんてよいしょの甲斐もありゃしない)

 

 同時に内心で文句も垂れ流していた。

 美少女だとしても、ピンと来なければ上司になったとしても嬉しくはない。

 しかし、これも仕事である。仕事である以上は真面目にこなして、上が納得行くだけの成果を出さなければならないのが辛いところだった。

 

「では、皆さんそれぞれ訓練に励んでください。私とスウェアさんは皇帝陛下に呼び出されてるのでしばらく留守にしますので失礼いたします」

 

 第六部隊は何も言わずに各々の訓練に必要な準備を始めた。

 スウェアは何かにつけて殺し合いを始める野蛮な光景を見慣れているせいか、口には出さなかったが、少し困惑していた。

 

「どうかしました?」

 

 数秒程その場で固まっているスウェアを不思議に思ったサクナが声を掛ける。

 

「他の部隊ってこんな感じなんだなって……ちょっとカルチャーショック」

「噂だと第七部隊は曲者揃いって聞きますし……それに、皆さん私がそんなに強くないことを知ってます。そんな私を支えようとしてくれる良い人達です」

「そんなもんか……」

 

 九割テロリストの第七部隊と違い、吸血鬼基準の常識を持ち合わせているのだろうが、皇帝の養子に対して何も反応を示さない第六部隊にスウェアは引っ掛かりを感じる。

 話してる分には良い子だとは思う。美少女センサーが鈍ってるだけなのか? 彼らからしたらそういう存在なのかもしれない。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「皇帝に呼び出されるとロクなことにならないから行きたくない……」

「行かなければ爆死ですよ」

 

 分かってるけどさぁ。とテラコマリは謁見の間の扉の前で盛大にため息を吐く。

 初対面とパーティーの時の二回程しか会っていないが、そのどちらでも良い思い出がないテラコマリは心底憂鬱そうな表情を浮かべる。

 

「ここでうじうじしてても本当に首が物理的に飛ぶだけだし仕方ないか……」

 

 七紅天は辞めたいが死ぬわけにはいかないテラコマリは渋々扉を開いて謁見の間に入る。

 

「やあやあコマリよ。今日も見目麗しいな」

「開幕からセクハラしようとしないでくれないか?」

 

 テラコマリが見えた瞬間にカレンは異様な速さで近づき、キスでもするのかという距離まで顔を合わせた。

 以前に寝込みにキスをされていたという認識のままであるテラコマリからしたら至近距離の彼女というのはかなりのトラウマになっていた。

 それに、スウェアを利用していたこと、彼が刺された時のことを忘れた訳ではない。

 

「ああ、そういえばコマリはまだキスもしたことない生娘だったな」

「は? 七紅天にする時にキスして契約したんじゃ……?」

「何、ちょっとしたムルナイトジョークさ。肉体的な接触などせずともやりようならいくらでもある」

 

 かっかっか。とでも擬音が出ていそうなカレンに何とも言えない気持ちにさせられながら、今回の呼び出しについて本題に入る。

 

「昨晩、キミの父上が何者かによってぶち殺されたらしくてな。今日中には再生するだろうが、問題は彼以外もここ一週間ほど政府高官が何人も殺されていてな」

「なんとなーくこの後の展開が読めた! 嫌だ! 私は犯人探しなんてやらんぞ! てか、お父さん殺されてたのかよ!」

 

 どうせ殺人犯探しをやれと指示されるところまで察しがついたテラコマリは頭を抱えてごね出す。

 そこから離れた位置にある玉座の背もたれを壁にする形でスウェアも頭を抱え、それを困惑した様子でサクナが見ていた。

 

「き、聞いてねぇぞ……! ハメやがったなあのバカ皇帝……!」

「あ、あのどうしてこんな所に隠れてるんですか?」

 

 先に呼び出され謁見の間で待機させられていたスウェアとサクナの二人はテラコマリが来るとは聞いておらず、スウェアは部隊を移籍した昨日の今日で顔を合わせるのは、流石に気不味い。

 サクナの方は、一方的にテラコマリの武勇伝を聞いていて、自分とそんなに変わらない歳の吸血鬼が活躍していることに尊敬の念を抱いている。

 そんな相手に何の準備もなく会うのは人見知りには厳しかった。

 

「サクナ・メモワール! お前達、そんなところで何をやっている! 早くこっちに来て顔を出せ」

 

 カレンに叫ぶように呼ばれた二人は渋々姿を表す。

 

「サクナ・メモワール。七紅天です。

 ……七紅天なのに、テロリストに殺されてしまったので汚名返上するために私もテロリスト探しに協力させてください……!」

「この通り、七紅天に相応しい実力もあって、何より復讐してやるという意志に燃えている。

 それにスウェアも彼女の補佐に着く。四人で仲良くテロリスト探しに勤しんでほしい。お前もそれで良いだろう?」

 

 カレンの同意を求める仕草でスウェアは今回自身に求められる立ち回りを理解してしまった。

 スウェアには事前にカレンからサクナの補佐と調査を依頼されている。カレンもサクナをテロリスト候補の一人に入れていて、その上で今テラコマリ達の前で被害者としてサクナを紹介したということは、彼女以外のテロリストを探して、それごと捕まえろということである。

 

「嫌と言ってもやらせるくせに……」

「まぁ、そう言うな──」

 

 意図を理解してしまったせいで、嫌々という表情が隠しきれないスウェアにカレンが耳打ちをする。

 

「──コマリに一週間の休暇を出す。それにお前も付き合え。場所は……そうだな。リゾート地はどうだ? この季節であれば彼女の水着が見れるだろうなぁ?」

「──っ!?」

 

 一週間の休暇というのも魅力的ではあるが、それ以上にテラコマリの水着姿というのは年頃の男の子であるスウェアには魅力的過ぎる報酬だった。

 しかし、好きな子にそういう感情を向けることに対しての忌避感が無くはなかったが、気になるものは気になる。

 

「ま、そういうことだ。早速今日から頼むぞ」

 

 かくして、政府高官殺しのテロリスト探しが始まった。

 ひとまずは詳しい打ち合わせはまた明日となり、一度執務室へとスウェアとサクナは戻ってきた。

 

「テラコマリさん手紙読んでくれますかね……」

「手紙? あぁ、別れ際に渡してたやつか。そういうのはちゃんと読む子だし心配ないと思うけど」

 

 口で言うのは恥ずかしいとからという理由で自身のことを書いた手紙をテラコマリに渡していたサクナはそれの心配をしている。

 

「それで言うと俺もサクナのことは全然知らないんだけど」

「それは……」

 

 サクナがテロリストという前提で動くにはあまりにも情報が足りない。

 違和感を覚えてはいるものの、確信に踏み込めずにいるスウェアは一旦は警戒しつつも彼女のことを知るところから始めることにした。

 

「ま、話したくなったらでいいや」

「じゃあ……スウェアさんの話をしてくれますか? 戦争で敵の心臓生搾りジュースをその場で作って五リットル飲み干したって話は本当なんですか?」

「そういうのは大体六国新聞の作り話。あそこは話を誇張して喧伝するの大好きだから……」

 

 実際はラペリコ王国との戦争で百人殺しを達成する際、ワームスフィアで心臓をピンポイントに狙ったせいで辺りが血塗れになったという話なのだが、そこはいつもの六国新聞である。

 

「じゃあ一四三番地区でテラコマリさんのメイド……ヴィルヘイズさんと逢瀬を重ねてたというのも……?」

「知らない知らない! 一切記憶にございません!」

 

 一四三番地区で会ったことはあるが、それはヴィルヘイズ本人が設定したテラコマリとの密会であって、変なことは一切起きていない。

 少しだけ、ほんの少しだけヴィルヘイズが面白がって自ら六国新聞にリークしてそうなことが否定出来ない。

 

「……あとは、皇帝陛下とは仲良くないんですか? そのさっきはあまり良く思ってないような呼び方をしてたので」

 

 他人の家族の話だからなのか、他の理由なのか、少しだけ躊躇ったような間を作ったサクナがスウェアとカレンの関係性に踏み込む。

 それに対してスウェアは『家族』という物がサクナを知るキーワードになりそうな気がして餌を巻いた。

 

「仲良くない。というよりお互い興味ないんだよ。

 皇帝の方は俺という力を手中に収めておきたくて、そもそも同性愛者で男と子供を作る気もない女が分かりやすい後継者を用意しておくのは不思議なことではないからな」

 

 勿論、カレンもスウェアが皇帝の座を継ぐ気がないことは把握しているため、あくまでも表向きにはそういう存在が居た方が後継者争いをコントロールしやすいという意図もある。

 

「それは……家族なんでしょうか?」

 

 今のスウェアのアイデンティティーやモチベーションを維持している構成する要素にテラコマリが関わっていることは間違いないのだが、その原因になったエルヴェシアス家のことになると感情が空洞になっていく歪さがあった。

 

「うちはそうってだけ……って会って間もない相手に話すことじゃなかったな。ごめん……ちょっと外の空気吸ってくる」

 

 制服の中に忍ばせた通信用の魔石が震えに気づいたスウェアは席を外して、サクナは執務室に一人残される。

 

「……大丈夫、私は皆とちゃんとできてる……大丈夫」

 

 サクナはスウェアの歪みの一端に触れて胸が少し苦しくなりながらも、自分の『家族』はそうではないと行き聞かせる。




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