多分次の区切りの後に書きます。
「テロリストの捜索なんて私には荷が重たすぎるだろ……」
「何も問題はありませんよ。最悪コマリ様が烈核解放でテロリストをぶっ殺してしまえば良いのです。それで全部解決します」
「そんな力私に無いって……というか乱暴過ぎるだろ」
第七訓練場で部下の訓練を見物しながら今後の方針についてテラコマリとヴィルヘイズが話し合っていた。
今回の件で分かっているのは、被害者はアルマンを始めとした政府高官であること、その被害者は自身が腹部を貫かれて殺されたことを覚えていないこと。
殺された前後の記憶がないということは何らかの記憶操作を受けていることは間違いなく、魔力を隠蔽する魔法と習得難易度が高いとされる精神干渉系の魔法を同時に行使するか、烈核解放の二つの可能性がある。
「犯人が滅茶苦茶強い魔法使いでも烈核解放の使い手でもどっちでも良いけど。皆サクナみたいな心を持っててほしいよなぁ」
サクナから渡された手紙をテラコマリが、これを読めと手渡してヴィルヘイズに読ませる。
内容は能力に自信がないこと、今回のテロリスト探しに対するモチベーションや趣味だったり好きな動物だったりと大したことは書かれていなかった。
「コマリ様、これは美人局です。相手の好みに合わせてハニートラップでハメようとしている破廉恥者です。絶対に彼女に心を許してはいけません」
「お前だけは絶対言っちゃダメだろ! というか私は女だぞ! せめて男に対してやれよ!」
テラコマリに対する贖罪をするためにメイドになったというのは嘘ではないが、スウェアの好みに合わせてメイドになったというのも嘘ではない。
そんなヴィルヘイズが人のことを美人局だのハニートラップだの言い出したためテラコマリはツッコミを入れる。
「こんな手紙からでも伝わるくらい良い子なんだから……そんな罠だと思いたくない」
「……コマリ様。心配しなくても軍曹はサクナ・メモワールに靡くような男ではないと思いますよ」
「は? なんでそこでスウェアの話になるんだよ?」
「彼がオスだからです。考えてみてください。普段から美少女美少女とほざいている彼を部下にして、こんな手紙を送るのはハニートラップを仕掛けていますと宣言しているようなものです」
この期に及んでまだ自覚のないテラコマリに思わず溜め息が出る。
スウェアの移籍が決まった日も彼にそのことを伝えた後に執務室で一人で悶々としていたのをヴィルヘイズは忘れていない。
「確かにサクナは綺麗だし……絵に描いたような美少女だけど……」
いずれ第七部隊にスウェアが戻ってくるかはさておくとして、戦争において彼の戦力としての価値は高い。他の七紅天なら絶対に手放さないだろう。テラコマリだって戦力としてだけで見るのであればそう思っている。
いつも自分の能力のことになると少し曇った表情をしているスウェアにとって好ましくないことは付き合いの長さからテラコマリも分かっている。第七部隊に居てくれという無理強いも出来ない。
「サクナは私と同じで……テロリストを捕まえられなかったら爆死の運命が待ってて……そんなのはやっぱりダメだ。だからスウェアが近くに居るなら大丈夫だと思う。
それに私はもうひきこもるのは辞めたんだ。アイツが居なくてもなんとかやってみる。
……一ヶ月で約束を反故にされるとは思ってなかったけど」
多少のことなら我慢出来るし、手元から離れるのが嫌だとは言わないが、一緒に居てほしいという約束をして一ヶ月で移籍されてしまい、テラコマリは何とも言えない気持ちになる。
「約束? アレですか? 幼い頃に結婚を約束した二人が東西を隔てる壁が出来てから波乱万丈するタイプのコマリ様が執筆された小説の話ですか?」
「ちっげぇーわ! 何でヴィルがそれ知ってるんだよ!?」
少し前からヴィルヘイズが裸でテラコマリのベッドに潜り込んでいたり、風呂から出た瞬間に自分で用意した覚えのない際どいコスチュームが用意されていたりとテラコマリのプライベートは何処かに行ってしまったが、趣味で執筆している小説のプライバシーだけは守ってほしかった。
「リークがありましたので……」
「スウェアしか居ないじゃん!」
「彼を責めないであげてくださいコマリ様。私が彼を脅しただけなのです」
「なお悪いわ!」
ヴィルヘイズがセクハラや裏工作をする際にスウェアを使っていることがある。そういう時は決まってテラコマリがセクハラ紛いのことをされるか七紅天として大見得を切らなければいけない状況に持ち込まれ、その度にどっと疲れる。
「冗談はさておくとして、そうやって最終的には私のところに帰ってくれば良いみたいなスタンスで居ると痛い目を見ますよ?」
「そうは言ってないだろ……別にアイツがどうしてようと私には……」
しかし、謁見の間でスウェアが自分以外の隣に居るのを見て形容できない感情が無かったとは言わない。
それに似たものなら感じたことはある。その正体に気づいてしまったら二人の間にあるものが変わってしまう気がして、それが怖くて考えるのを辞めた。
「コマリ様も難儀な性格をしていますね」
「……それより、テロリストどうやって探すかなぁ……そういえば……」
強引に話を切り替えたテラコマリは制服のポケットに乱雑に突っ込んだ動物園のチケットを取り出した。
先日テラコマリの妹ロロッコが彼氏とのデートのために用意してテラコマリを自慢していたが、ドタキャンされて使い道がなくなってしまったためにテラコマリに「どうせコマ姉には誘う人もいないだろうけど! ……え、本当に居ないの? アレだけのことがあって? 本当に言ってる?」という挑発は効かなかった。
そもそも休日に外に出るというアクションが嫌いなテラコマリには無用の長物を掲げた。
「お前らー、テロリストを捕まえたら休暇と動物園のチケットをくれてやろう」
自分で探したくないのなら、部下を使えば良いじゃない。テラコマリは訓練中の第七部隊に休暇と動物園という餌をぶら下げて、やる気を出させようと軽率に考えた。
「──っ!?」
第七部隊に電流が走る。
「閣下! それはもしかして閣下と共にということでお間違いないですね?」
「ん? まぁ、それがお望みなら構わんが」
カオステルがいつになく神妙な様子でテラコマリに確認をする。
それに対して面倒ではあるが誘う相手も居ない隊員のことも考えた安易にテラコマリが頷いてしまった。
「デートだ」
「逢引じゃん……」
「神に感謝」
訓練場に流れる空気が一瞬にして変わり、雄叫びまで上がったその様子にテラコマリは困惑する。
殺戮が生き甲斐のほぼテロリストの第七部隊に動物園に行くという趣味でここまで盛り上がれる連中だということは流石に予想外だった。
「コマリ様。やりすぎです」
「いや、動物園でこんなテンションになるとは思わないじゃん! しかもこんな厳つい奴らが狂喜乱舞してるのは軽くホラーだよ!」
既にライバルを減らすために乱闘騒ぎにまで発展している現状にドン引きしてこの場から離れようと、ヴィルヘイズの方を見ると彼女の姿が消えていた。
「ヴィルー! 私をこんな地獄に置いて行くなーー!!」
テラコマリは血が重吹く訓練場に取り残されてしまった。
『そっちで何かあったのか?』
訓練場から離れたヴィルヘイズは通信用の魔石でスウェアを呼び出す。
サクナとでも話していたのか、少しだけ間が空いてから通信が繋がった。
「コマリ様がバカなのでデート権を安売りしました」
『いや、なんて?』
わざわざ魔石を用いた通信を日中に掛けたせいで心配していたのか、スウェアの安堵の息が聞こえてくる。
それだけテラコマリのことが心配なのであれば、自分がいくらでも近くに居れるように出来る程の立場である癖に、面倒臭い男に惚れ込んでしまったものだと、ヴィルヘイズが溜め息を吐く。
「テロリスト探しの褒賞に休暇と動物園のペアチケットを出したのです。このままではどこぞの馬の骨とコマリ様がデートすることになりますが、どうします?」
『それは一大事だし、滅茶苦茶嫌だけど……第六の俺がどうこうできることじゃないだろ』
少し前までなら第七部隊として勝ち取れば問題のない話だったが、今はサクナの部下として第六部隊に席を置いているスウェアに出来ることはない。
「簡単な話です。ムルナイト帝国では勝った者が正義です」
『今、すんごい嫌な予感してるんだけど……』
「テロリストが見つかる前に何らかの方法であの猿どもを皆殺しにしましょう。そうすれば第七部隊は私とコマリ様以外は行動出来ないのでその間にテロリスト探し放題です」
『過激すぎんだよ! その思想がほぼテロリストなんだよ! というかそんな内ゲバしてる余裕ないっての!』
「合法的に内ゲバする方法ならあるじゃないですか。七紅天闘争で全員殺せば良いのです。切欠は……まぁいくらでも作れます」
既にテラコマリのデート権を賭けた内ゲバが始まっていることは第七訓練場から聞こえてくる爆音で七紅府に居るスウェアからも把握できているが、あんまりにも過激過ぎるヴィルヘイズの提案に渋い表情をしながらも、スウェアは一つ思い付いたことがあり確認を始める。
『なぁ、テロリストが逆さ月のメンバーだとして、一番欲しがってる情報ってなんだと思う?』
「藪から棒な話ですね。彼らの目的は魔核の破壊なのですから、各国が秘匿している魔核の位置ではないでしょうか? それがどうかしました?」
『……いや、あんまりやりたくないな。本当にそれしかなくなったら声掛ける。一旦忘れてくれ』
スウェアから一方的に通信を切られ、問いの意味は教えてくれなかったが、ヴィルヘイズのやることに変わりはない。
「さっさと告白してしまえば良いのに……そうすれば諦められるのに」
ヴィルヘイズの独白は誰にも聞こえることもなく、何処でもない何処かに消えていった。
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