ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

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ジェラ……ジェラ……

 沃野の果実というムルナイト宮殿に併設された貴族御用達のレストランにスウェアとサクナはテラコマリ達とテロリストを捕まえるための会議と食事を兼ねて集まっていた。

 

「俺ここ好きじゃないんだよな……」

 

 ミートソーススパゲッティを平らげて口周りをナプキンで拭くスウェアが他の客から注目を受けてしまっていることに辟易としながらもなんだかんだでテラコマリとこういう場に来れたことで気分が良いのか、少しだけ浮かれていた。

 

「今話題の七紅天二人と皇帝の養子が揃ったら嫌でも注目されるかと」

 

 端から見れば両手に花で浮かれているようにしか見えず、根っこでは思春期の少年だということを感じさせる。

 そんなスウェアに対してヴィルヘイズがゴミを見るような眼差しを向ける。

 

「ごめんなさい……私、こういうとこ慣れてなくて……」

 

 サクナも人に注目されるのが苦手なのか、椅子の上で縮こまっている様子で食事中も静かだった。入店した際にテラコマリが移動を提案したが、自分のせいで面倒を掛けたくないと言われて断られてしまった。

 

「と言っても、ここでちゃんとした貴族の家の吸血鬼はテラ子だけだしな。俺もヴィルヘイズも出身は下級区だし……あんまり気負うこともないだろ」

「……そう、ですかね」

「そもそも事故だろうがなんだろうが七紅天になった人間に文句があるなら、下克上でもすりゃ良いんだよ。周りなんて気にすんな。あ、ウェイトレスさんおかわり御願いしていい?」

 

 後ろ向きの思考のサクナの背中をスウェアが押した。

 そもそも、期待の新人として話題になっているのでマイナスのイメージを持っている層は少ないためサクナの不安は杞憂ではあるのだが、良くも悪くもどうでも良さげに言ったのが効いたのか彼女の緊張が少し和らいだ。

 

「なんでちょっと私を仲間外れっぽくしてるんだよ……手紙を読ませてもらったが、私も読書が好きなんだ。オススメの本とかあったら教えてくれないか?」

「はい。今度持ってきます。趣味の話なんかより……私少し相談したいことがあるんです!」

 

 先程までもじもじしていたサクナが表情を一変させ意を決したような表情で自ら話題を振った。

 

「お、おう。なんだ? 私はこう見えても部下の相談にも乗ることがあるんだ。何でも相談してくれたまえ」

 

 急に声が大きくなったサクナの気迫に若干狼狽えながらもテラコマリは応えられる範囲で何でもは相談しないでくれと、心の中でお祈りしている。

 

「私──」

 

 と、サクナが言いかけた瞬間。

 爆発音がその場にあった音全てを掻き消した。

 

「は? 何?」

「どうやら第七(うち)の猿どもが野に放たれたようですね」

 

 テラコマリが驚愕のあまり呆けていると冷静にヴィルヘイズがレストランの外に見える状況を説明した。

 

「……そんなに動物園行きてぇのかよアイツら」

「私だって行きたいんです。そこらの有象無象からしたらまたとないチャンスでしょうね……ほら、早く行ってください」

 

 追加注文したスパゲッティを呑気に食べているスウェアにヴィルヘイズがアイコンタクトを送って第七部隊を止めるように指示する。

 

「んぐ……ごちそうさまでした。

 ……俺が行くのね。サクナ。ちょうど良いし手伝ってくれないか?」

 

 スパゲッティを完食したスウェアはサクナの方を見て彼女に協力を仰いだ。

 

「え、私ですか……?」

 

 今のスウェアはもう第七部隊所属ではないため、ヴィルヘイズの指示を聞く必要もないのだが、サクナの実力を見ることと周囲に実力を示すためにも、ちょうど良いサンドバッグだった。

 

「……アイツら、結局は特攻しか能がない奴らだから誘導して範囲攻撃でもしてやれば全員殺せると思うんだ」

「なるほど……」

「だから、俺が挑発して誘導するから頑張って俺だけ避けてアイツら全員一網打尽にしてくれると嬉しいんだけど……ま、お手並み拝見ってことで」

「なるほ──え、ちょっと待ってください! 私がやるんですか!? というかあの人達はテラコマリさんの部下ですよね!?」

 

 そりゃそうよ。とスウェアがレストランから出ていき第七部隊の前に姿を表す。

 ただ立ち塞がったところで物量で轢き殺されるため、ワームスフィアを複数打ち込んで、三人ほど手始めに殺して足を止めさせる。

 

「なんじゃい! この裏切りモンがっ! 俺らはなぁ! コマリンとのデートのために頑張ってテロリスト探してんだよっ!」

 

 すんでのところでワームスフィアに巻き込まれる前に足を止めることが出来たモヒカンのガラが世紀末な中年がスウェアを威嚇する。

 

「おう、てめぇら死にてぇんだってな?」

 

 ヴィルヘイズから事情を聞いた時は何も思わなかったが、いざ大盛り上がりされて世紀末おじさんとテラコマリがデートをすると思うと、彼氏でもないのに嫌悪感が湧いてきてしまい、自分から殺しに行くことしか考えられなくなっていた。

 

「やんのか! あぁ──!?」

「やるっつってんだよ! 分かれよこのハゲ!」

 

 スウェアはそんなことでキレてしまっている自分にも、さっさと告白する勇気もない自分にも嫌気が差して、世紀末おじさんの鳩尾を全力のボディーブローを叩き込む。

 

「モヒカンは……ハゲじゃねぇ……」

「じゃあこれでハゲだな」

 

 ワームスフィアの黒くて禍々しい球体が地面に転がる世紀末おじさんの毛髪だけを飲み込み無に返す。

 それをゴング代わりに第七部隊VSスウェアの火蓋が切られた。

 

「ええっと、本当にやって良いんですか……? というかテラコマリさんとデートとは……?」

「構いません。やってください。所詮は殺戮しかやれることのないテロリストです」

 

 本当に殺って良いものかサクナが困惑しているとヴィルヘイズが許可を下す。

 

「あんなでも私の部下だぞ! せめて私に許可取れよ!」

「コマリ様の指示など聞かなくても分かります。無能には死を。ですよね?」

「言ってねぇよ!? いや、あのまま大暴れされても困るけど!」

 

 勿論、テラコマリが抗議をする。大乱闘が起きて一般人に被害が及ぶよりは良いかもしれないがそれでも自分を慕ってくれる部下をそんなに気軽に殺すのはあまり気分の良いものでもない。

 

「……テラコマリさんとデート……ダストテイルの箒星っ!!」

「あ、本当にやるんだ……」

 

 何かに引っ掛かりを覚えたサクナの容赦のない上級氷結魔法が射出され、魔力光が伴った氷の星々が見物人を巻き込まないように第七部隊に精密に着弾し、大爆発を起こす。

 そんな爆発の嵐を掻い潜ったのはスウェアの他には二人しか居なかった。

 

「ちっ……第六部隊の七紅天ですか……!」

 

 しっかりとこの乱闘騒ぎに幹部のカオステルとメラコンシーが参加しており、爆発が止んだ後にはスウェアを含めた三人以外は死体しか残らなかった。

 

「アンタらまで揃って何やってんだよ……」

「いや、面白そうだったから」

「メランコシー大尉って普通に喋るの!?」

「悪いか?」

 

 ケロッとした表情でいつもラップ調でしか喋らないメラコンシーにスウェアは驚愕を隠せない。

 普段からちょっと会話にワンテンポ置かないと咀嚼しきれないのは喋り憎いなと思っていたので普段からそういう風に喋ってほしかったのだが、どうやら出来るようだ。

 

「じゃ、お前も第六で頑張れよ」

「あ、どうも……」

 

 素直に別の班だったとはいえ、元上司から激励を飛ばされるのは悪い気はせず、スウェアが会釈を返して顔を上げると二人の姿はそこにはなかった。

 

「って……逃げられたか。うーん、まぁこれで良いのか?」

「大丈夫でしたか!? 怪我とかしてませんか!?」

「あぁ、うん。この通り。大丈夫だから」

 

 サクナがスウェアに駆け寄り、身体を触らない程度に彼に怪我がないか調べて心配する。

 表情的にも演技でも何でもなく本気で心配してくれていることがスウェアにも分かる。

 

(いや、やっぱり美少女ではあるんだよなぁ……)

 

 最初の違和感は残ったままだが、今まで出会ったことのない蒼玉種の白銀色の髪や外から見ただけでもヴィルヘイズと同等かという大きさに、乳の重力に魂を縛られた吸血鬼のスウェアが思うところがないと言えば、それは嘘になる。

 しかし、スウェアには心に決めた少女が居る。

 

「……随分と嬉しそうだな」

 

 その心に決めた少女であるテラコマリが騒ぎが終息したのを確認して、ヴィルヘイズを伴ってスウェアの近くに来て半目を向ける。

 

「サクナ・メモワール。店主にも説明するためにもこちらに来てもらってよろしいですか?」

「はい。分かりました」

 

 テラコマリがスウェアに声を掛けているのを見たヴィルヘイズが適当な理由でサクナを一時的にこの場から離れさせた。

 

「嬉しそうって、何がだよ?」

「いや? なんだ、私ですらサクナは綺麗で可愛い美少女だと思うし、男からしたらさぞ嬉しいのだろうな。と」

 

 段々と不機嫌そうになっていくテラコマリを見て、第六部隊に移籍になってから焼き菓子を作りに行ったりプライベートで会いに行ったりしていないことを思い出し、これ以上は流石に不味いと感じ始めた。

 

「いや、テラ子もサクナのこと美少女って言ってるじゃん……お前一億年に一人じゃなかったか?」

「……そうだな」

 

 よっぽど一億年に一人というワードがお気に入りなのか顔を横に逸らしたテラコマリの様子に、後一押しで機嫌が直ると確信したスウェアが一世一代の賭けに出た。

 

「……動物園。誰かと行くくらいなら俺と行かないか?」

 

 もう、こうなったらデートしてデレさせるしかない。と。

 




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