ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

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何となく前後編


これで初ってマジ?・前

「それは……デートってことで良いんだよな?」

 

 テラコマリの口が開くまで五秒程しか経っていないのにも関わらず、スウェアの口の中はカラカラになり体感時間は三十分くらいになっていた。

 

「……そうなるな」

「そう、だよな……」

 

 スウェアに背中を向けたテラコマリは心臓の動きがいつもより早くなり、顔が少し熱くなるのを感じる。

 デートという物に憧れはあったし、そのせいだろうと決めつけてテラコマリは冷静になった。

 

「じゃあ、明日……午前九時に絶対来いよ」

 

 それだけ言ったテラコマリはレストランから出てきたヴィルヘイズを連れてその場を去る。

 背中を見せてから彼女がどんな表情をしていたのかはスウェアには分からないままだった。

 

「戻りました。何かありました?」

 

 少し遅れて出てきたサクナに声を掛けられ、仕事中だった事を思い出したスウェアが思考を切り替える。

 

「いや、何もない。そんなことより、サクナやっぱり凄いじゃん。上級魔法でアレだけ殺せれば十分だ」

「そ、そんなことは……」

 

 分かりやすくキルスコアを稼げば自信も着くと思ったのだが、サクナの自己評価は上がらないらしい。

 

「とりあえずさ。そんなことないとか私なんかとか、そういうの辞めよう。それこそ、一生前に進めないだろ」

「前に、ですか……」

 

 自己評価が上がらないのであれば、他者から評価されていることを分からせれば良い。

 それを実感して自信を着けて貰えれば良い。

 七紅天としてのサクナに対するスウェアの接し方は固まりつつあった。

 

「あ、もしかしてさっき俺が言ったこともお世辞とかだと思ってる? 俺がそういうこと言うタイプだと思う? ってまだ日浅いもんな……今日はここで解散しよう。お疲れ」

 

 事後処理はサクナとヴィルヘイズが大方終わらせていて、後は第七部隊の責任者としてテラコマリが書類提出に追われるだけである。

 テロリスト探しの件は今回は流れてしまったが、サクナとの関係の構築もやるべきことであるため、それに日数を割くのは悪いことではない。

 

「うーん……うーん……」

 

 そのまま自宅に直帰したスウェアは頭を抱えていた。

 

「どーしてノリでデートなんか誘っちゃったかなぁ!」

 

 生まれてこの方デートなどしたことはないスウェアはデートというものが何なのかが分からない。

 どのタイミングでどの動物を見に行ったりだとか、食事は現地の食堂で食べるのか外のレストランにでも行くのか。そもそも作ってピクニックみたいに食べるのか。

 全てが分からない。

 

「……余計なことせずにいこう……いつも通り、いつも通り……いつも通りってなんだ?」

 

 考えれば考えるほど坩堝にハマって行く。

 なんだかんだで朝から動き続けた結果、疲労も溜まっていたスウェアは制服を脱ぎ捨ててベッドの上で横になるとすぐに眠れてしまった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

(ガッツリ八時間も眠ってしまった……)

 

 翌日。一応立場が立場であるためスウェアはいつもの軍服ではなく、あまり目立たない服を着て伊達眼鏡をかけたファッションで動物園の入り口近くの広場でテラコマリを待っていた。

 初めてのデートで心がざわつくスウェアは目だけ泳がせてテラコマリを探す。

 まさか動物園に寝間着で来るわけがない。軍服も流石に場に適していない。

 そうなると珍しくというより初めてテラコマリの私服姿を見ることに興奮と緊張が入り乱れた感情が湧いてくる。

 

「先に来るつもりだったんだけど……待った?」

「いや、あんまり待って──」

 

 見ていた場所とは全く違う方向からテラコマリに声を掛けられたスウェアは彼女の方を見て定型文のような返事をしようとして、途中で口が止まってしまった。

 

「どうした? 変かな? ヴィルが着て行けって言うから着てみたんだけど……」

 

 清潔感を感じさせる肩出しの白いワンピースと麦わら帽子という美少女にしか許されないファッションのテラコマリにスウェアの脳ミソは焼かれていた。

 素材が一億年に一度の美少女なのだから、小細工する必要はないとでも言いたげなコーディネートがカレーライスにカツを乗っけるような無限のシナジーを生み出していた。

 

「変じゃない三兆点」

「どんな点数計算してんだよ……ほら、行くぞ」

 

 折角デートに行くのだからと、ヴィルヘイズに引き留められ小一時間ほどコマリンファッションショーをさせられたが、よく分からないが、よく分からないなりに喜んでくれているならそれで良いかと、上機嫌になりながらテラコマリはスウェアの手を引っ張って動物園に入場する。

 

「良いよなぁ。パンダは……食って寝て、誰にも怒られることなくだらだら出来るし、しかも変態メイドからセクハラも受けないし七紅天をやれとか言われないしなぁ」

 

 やっぱりパンダだろ。というテラコマリの発言でいの一番にパンダの檻を見に行く。

 元々吸血鬼らしくない性分であるものの、ニートの気があることも間違いないテラコマリからしたらパンダの生態は羨ましいものだった。

 

「一日に十時間以上寝てだらだらしてるの、ちょっと前までのテラ子だな……」

「……あの頃に戻りたい」

 

 引きこもりに戻りたい。というよりは爆死のリスクを背負った職場は嫌なだけである。

 むしろ今の環境は変態メイドやテロリスト紛いの部下ばかりではあるが、全員慕ってくれている恵まれた環境である。多少嫌なことがあっただけで逃げていたらキリがない。

 

「あのー……私までここに来させられたんでしょうか?」

「静かにしてください。気付かれます」

 

 少し離れたところで木の枝を持って隠れているヴィルヘイズとサクナがデート中の二人をストーキングもとい見守っている。

 サクナはテラコマリに送るオススメの本を選別して執務室に持ち運んだところをヴィルヘイズがやってきて半ば強制的に連れてこさせられた。

 スウェアを知るという意味では良い機会ではあるのだが、変装してまで彼らを尾行する必要があるのかは恐ろしくて聞けなかった。

 

「……お似合いな感じですけど、二人は付き合い長いんですか?」

「はい。コマリ様達は三年前から七紅天になるまで毎日顔を合わせていました。しかも、軍曹は毎日コマリ様の部屋に通っていました」

「え、それって……二人ってそういう……?」

「違いますよ。私も聞いた時は正直驚きました。さっさと結婚でも何でもしてしまえば良いのに……」

 

 新聞や中継を見て個人として知ってはいたが、二人の関係は全く知らなかったサクナは驚愕のあまり声が出そうになったところを手で抑える。

 女子の部屋に三年間も足繁く通うというのは男女の関係でないと起こらないのだが、そうではないらしい。

 

「何で付き合ってないんでしょうか……?」

「……そんなこと、私が知りたいです」

 

 そうこう話している間にスウェア達が移動を始め、それに二人も着いていく。

 

「ここでウサギと触れ合えるのか……ちょうど時間らしいし入ろう」

「テラ子って出不精の割にはこういうの好きだよな」

「可愛いものが嫌いな女の子の方が珍しいと思うけどな」

 

 小動物に囲まれてモフモフされたい。部屋でやれば体毛の処理が面倒であるし、草食動物に本を噛られても嫌だし、たまにならこうやって外に出るのもやぶさかではない。

 

「ほらほらー、こっちだぞー」

 

 係員に案内された二人はウサギが放逐された広場に通された。

 テラコマリは屈んでウサギに手招きをして近づいてきた数匹とじゃれあい始める。

 彼女がウサギに夢中になっていると手持ち無沙汰であるスウェアも真似をしてウサギとじゃれあいながら周りを観察する。

 

(割りとカップル客多いな……)

 

 端から見たらスウェア達も十分にカップルに見えるのだが、それを意識してしまったらまともに取り繕うことが出来なくなるため、一旦忘れることにした。

 

「うりうり。やっぱり可愛い小動物は良い……癒される」

 

 ウサギを抱っこして撫でて目を輝かせているテラコマリを見たスウェアは体温が上がっていくのを感じた。

 ただただ彼女のことが好きなだけではあるのだが、やっぱり七紅天として気を張っている時より、素の普通の女の子としての彼女の方がらしくて好きだと思う。

 

「そうだな……可愛いな」

「そんなにウサギとか好きだったっけ? スウェアもこっち来て囲まれれば良いじゃん」

 

 ウサギの話ではないのだが、テラコマリがスウェアの意外な一面もあるもんだなと思いながら彼と肩がぶつかりそうな距離まで近づくと、群がるウサギが二人分になった。

 

「お前、本当にそういうとこ……」

「ん? どうかしたか?」

 

 スウェアが頭を抱えているのを横目にテラコマリはウサギとじゃれあいながら頭上にハテナマークを生成する。

 

「うっせうっせ、知らん知らん!」

 

 本当にどうしていつもこうなのかとスウェアは自棄糞気味にウサギを持ち上げてわしゃわしゃと撫でる。

 何処かからヘタレめ……という視線を感じたが気のせいだと思いたい。




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