ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

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これで初ってマジ?・後

「そろそろ昼にするか」

「そうだな……流石にお腹空いてきた」

 

 なんだかんだで動物園をエンジョイしていた二人は時計が昼の十二時を指し示しているのに気づき、フードコートの方に足を運んだ。

 

「……サクナについてはどうなんだ? 上手くやれてるのか?」

「サクナ? あー……うん。良い子だけど、なーんか違うんだよなぁ」

「いつもなら美少女美少女って飛びつくのに……珍しい」

 

 注文した料理が届き、雑談しながら食事を進める。

 話題の半分くらいはテラコマリの愚痴で占めるのだが、今回は珍しく共通の話題でもあったサクナの話が多かった。

 

「何か違うんだよなぁ……そう言うテラ子は気に入ってそうじゃん」

「……良いか? どいつもこいつも乱暴者以上のテロリストもどきまみれの吸血鬼にあるまじき穏やかな心と触れたら壊れちゃいそうな綺麗さを持ってるサクナを平穏をこよなく愛する私が気に入らないわけないだろ?」

 

 歳も近いこともあって、まともな友になれるかもしれないサクナに期待感を隠せないテラコマリははしゃいでるように見える。

 今まで出会ってきた同年代の同性がヴィルヘイズとミリセントだと考えると、かなり極端な比較対象にはなるが、友達が出来て喜んでいる分には微笑ましい。

 サクナがテロリストかどうかは、スウェアが探ることであって、そうだった場合は、まだ考えないことにしている。

 

「じゃあ、テロリスト探し頑張らないとな。俺もサクナの補佐はするけど、直接探すのはあの子とテラ子になるんだし」

「……やっぱり、ちょっと頑張りたくないな」

 

 急に萎れるテラコマリを見て、おいおい。とスウェアが苦笑いしながらサンドイッチを頬張る。

 野菜の瑞々しさと肉の塩気を舌に感じながら、ふと視界に入った高速移動する木の枝を見ると、それは折れた物が風に吹かれている訳ではなく、ヴィルヘイズが両手に持って園内の木々を遮蔽にして動き回っているだけだった。

 ついでにその様子に振り回されているサクナも視認してしまった。

 

「……疲れてんのかな。俺」

「お前さ……」

 

 目を擦ってツッコミどころ満載の状況に困惑していると、テラコマリに呆れ果てたような表情で見られていて、何か地雷でも踏んだのかとスウェアは今日一日ボロを出していないかを思い返そうとする。

 

「遠足前の子供じゃないんだからさ……ちゃんと寝とけよ」

「ちっげーわ! むしろ八時間ぐっすり寝たって! というか後ろ後ろ!」

「はぁ? 何もないじゃん」

 

 テラコマリの後ろにある茂みを指差して彼女を振り向かせるものの、その瞬間にストーカー二人が姿を消してしまった。

 元々隠れていたヴィルヘイズはともかく、サクナは何処にどうやって消えたのか検討もつかない。

 

「本当に居たんだって! ヴィルヘイズとサクナ居たもん!」

「ヴィルはともかくサクナがそんなことするわけないだろ!?」

 

 出会ってまだ一日の相手に何を。とは思うが、そういうところもテラコマリらしいと言えばらしいので、何も言わなかった。

 ともかく、このデートが二人に見られていると思うと途端にげんなりしてきたスウェアはひとまず目の前の料理を完食することに集中した。

 

「お腹いっぱいになったら眠くなってきた」

 

 食事を終えたテラコマリが食後特有の眠気に襲われて目をしばしばしながらスウェアに寄りかかってきた。

 

「ちょいちょい……こんなとこで寝るな。どんだけ眠いんだよ」

 

 不安になる軽いテラコマリの体重でどうにかなる身体はしていないが、あまり素肌に触るのは色んな意味でよろしくない。

 

「昨日、朝の五時くらいに……ようやく、寝たから……」

「それは昨日とは言わねぇよ……たく。人に言ってた癖にお前が一番ガキみたいなことしやがって」

「ちがうもん……しょうせつ、かいてただけだし……」

 

 目蓋を閉じて段々舌足らずになっていくテラコマリを見て、今日はもう彼女が限界であると判断して家にまで送り帰すことにした。

 

「テラ子ー。歩けるかー?」

「……すぅ」

 

 スウェアがテラコマリの肩を揺すってみても返ってくるのは寝息だけだったため、諦めて彼女をおんぶして移動を始める。

 

「しゃあないか……よっこい──」

 

 問題はおんぶして運ぼうとすると、色んな部分がスウェアに当たることだった。

 普段考えることもないサイズとはいえ、実際に触れてしまうのは話が別である。

 

(考えるな感じるな。視界以外の感覚を閉じろ!)

 

 道中、テラコマリの顔が麦わら帽子で隠れているせいか、スウェアを遊び疲れた妹を背負って帰ろうとしている仲睦まじい兄妹を見るような生暖かい視線が向けられ、いたたまれない気持ちになりながら何とかガンデスブラッド邸まで辿り着いた。

 

「はぁ……はぁ……ようやく着いた。体感時間五時間くらいあった」

 

 ガンデスブラッド邸の正面入口で呼び鈴を鳴らして待っていると、何事もなかった様子でヴィルヘイズが出てきた。

 

「随分と戻るのが早かったですね。何なら朝まで帰ってこなくても良かったのですが……」

「良いわけあるか! というか、お前サクナまで巻き込んで……ああ、もう、いいや……流石に限界なんでこのお眠り姫を引き取ってもらって良いですかね?」

「仕方ありませんね……」

 

 ヴィルヘイズに眠ったままのテラコマリをパスする。

 ようやく解放されたスウェアが息を吐いて、膝を着いた。本当にキツかった。軽いとはいえしっかり固定しないと落ちてしまう彼女の位置を定期的にリセットする度に身体の何処かしらがぶつかってしまい、その時の感触を忘れることが出来ず顔を真っ赤にする。

 

「至高の烈核解放を止められる男に膝を着かせるとは……流石コマリ様ですね。今日はお疲れ様でした。貴方にしては頑張った方だと思いますよ」

「おう、お疲れ様」

 

 テラコマリをお姫様抱っこしたままヴィルヘイズが柔らかな声音でスウェアを労って邸宅へと戻っていった。

 身体を安売りしようとする割には恋路を応援はしてくれているらしい彼女が分からない。

 彼女の心は半分くらい事故で覗いてしまったものの、三人分の心をあの場で誰が何を考えていたか一致させる余裕はなかった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「ん……ぅぅ……すうぇあ……?」

 

 寝ぼけ眼で目が覚めたテラコマリの目に写ったのはベッドの天蓋だった。

 目が覚める前との記憶が一致しない。

 ゆっくり記憶を整理していく、昼頃にご飯を食べて眠くなったところまでは覚えている。しかし、外は夕陽が差していて、場所は自宅の自室。

 答えは眠ってしまった自分をスウェアが運んでくれたという以外になかった。

 

「……ヤバイな……私出掛けてる最中に寝ちゃったのか……悪いことしたな……」

 

 折角誘ってくれたスウェアに対する罪悪感がテラコマリの中に湧くと同時に別の感情も湧いてくる。

 目が覚めた時にスウェアの名前を口にしてしまったことに違和感を覚える。

 この罪悪感もやってしまったという後悔より、胸をチクりと刺す痛みの方が強い。

 

「まただ……」

 

 ほんのり甘くて酸味がある。

 こんな感情を小説家を志すテラコマリが知らない筈がなかった。

 スウェアにデートに誘われた時、感じたあの喜びの感触は間違いなく恋である。

 テラコマリ・ガンデスブラッドは恋を自覚してしまった。今まで会えないと寂しいことも、他の女の子と一緒に居るところを並んでいるところを見ると胸が苦しくなるところも、全部恋のせいだと理解してしまった。

 デートという些細な切欠のせいで、今までの理解していなかった感情に全て説明が着いてしまう。

 それに、スウェアが常々言っている趣味と自分を比べると箸にも棒にも引っ掛からないことに落ち込んでしまう。

 

「……確かに、そういうのに憧れた時期はあったけどさぁ」

 

 惚れた理由なんてモノは正直何でも良い。

 好きになってしまったモノはしょうがない。それはそれとしていつ頃からだろうかと三年間を振り返る。

 白馬の王子様とかそういうのに憧れが無いとは言わない。

 だけども、スウェアはそういうタイプの人間ではなく、いつも傍に居てくれて、気に掛けてくれたというのはあるかもしれない。

 

「じゃあアイツはどうなるんだよ……」

 

 問題はヴィルヘイズだ。

 少なくとも親であるカレンを義母上とすら呼んで跪いていた彼女がスウェアのことをどう思っているかなんて理解出来る。

 テラコマリよりも先にスウェアと出会っていて、その時に少なくとも救われたヴィルヘイズはセクハラ紛いのことをしていても、その心が本気であるのであれば、自分のために尽くしてくれているメイドに対して、横取りをするような真似はしたくない。

 

「でも、でも……私は……」

 

 それでも、諦めたくない。でも、ヴィルヘイズのことを考えると胸が締め付けられる。取られたくない。取りたくない。

 こんなに苦しいものであるのなら、恋心になんて気づきたくはなかった。

 

「コマリ様、食事をお持ちしました」

「……ごめん。今ちょっとヴィルとは会いたくないかも」

 

 タイミング悪く夕食の時間になり、食事を運んできたヴィルヘイズを見て反射的に口にしてしまった。

 

「──っ!?」

 

 ガッシャーンとわざわざ手に持ったクローシュを落とし派手な音を鳴らした。

 別に特に意味なんてないが、ショッキングなことに変わりはない。

 一日に十時間はコマリニウムを充電しないと稼働できないヴィルヘイズからしたら死活問題である。

 

「コマリ様! 私をこのまま解雇したら女盗賊として下着を一つを残してそれ以外全て盗んだ後、一ヶ月後位に熟成されたもう一枚を盗みます! それを転売……はもったいないからしないですね。安心してください」

「急に落ち着くな! というか盗むなら金目のモノ盗めよ! 一ヶ月もあったら洗濯してるだろ! それに転売すんな! 安心できるかこの変態!」

 

 急にゼロ距離まで接近してテラコマリの肩を掴み、声を荒げてまくし立て、また急に冷静になったヴィルヘイズにドン引きしながらもツッコミを入れる。

 過去のことやそれで忠節を誓ってくれることは理解しているが、感情の乱高下が激しい変態メイドのことを理解するのは難しいと思った。

 

「ふむ、問題無さそうですね。少ししたら食器を下げに来ますね」

 

 全部ツッコミを入れてくれて肩で呼吸をしている主人をいつも通りと判断した変態メイドはぎゅっと抱き締めて、ついでに少しだけ臭いを嗅いでから退室していった。

 

「いや、えっと……いや、明日どうしよう……」

 

 色々あったが、明日もテロリスト探しでサクナと顔を会わせる都合でスウェアとも顔を会わせた際に、どう謝ろうかを考えるテラコマリであった。




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