ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

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テラ子誕生日おめでとうって思ったら一日過ぎてました。


すれ違い

「……ぜえ、はあ……! こんなことなら毎日ジョギングくらいしておくんだった……!」

 

 テラコマリは土砂降り雨の中を全力で走っていた。

 理由は本人からしたら尊厳の危機レベルの重大過ぎるものであった。

 それは先日サクナに渡した小説を書いた原稿用紙に自分の名前を書いてしまったことに気付いてヴィルヘイズの制止も無視し、飛び出して今に至る。

 

「……ぜぇ、ぜぇ……これでサクナ居なかったら疲れ損だぞ……」

 

 帝国軍女子寮のポストの投函口を見てサクナの住んでいる部屋番号を確認してから、呼び鈴を鳴らす。

 

「……アレー? 居ないのかなぁ……?」

 

 三十秒くらい待ってもサクナが出てこず、ずぶ濡れになって冷えていくのとは別の理由でテラコマリの身体が冷えていく。

 不味い。あの小説を自分が書いていることがバレてしまったら大変良くないことが起きてしまう。

 

「居ないかぁ……居ないのかぁ。終わった」

 

 三分経った頃に流石に今寮に居ないことを察したテラコマリの表情が青ざめる。

 執筆した新作には作劇上の都合で四回はキスシーンが挿入されていて、そういうのが好きだとサクナから誤解されたら、恥ずか死してしまう。

 

「仕方ない……一旦帰ろ」

 

 サクナが奇跡的に世界に一人だけの良い子である可能性に賭けて、ここは一度退くことに決めた。

 それはそれとして、折角外に出てきたのだから寄り道と濡れた身体をどうにかするために、とある住所までの道を辿った。

 

「確かスウェアの家ってここら辺だったよな……」

 

 数日前にヴィルヘイズを使ってスウェアの住所を聞き出しておいた。いつかタイミングを見計らって居候でもしてやろうかと思っていたのだが、濡れたまま帰って風邪を引くよりかは、ここで雨が止むのを待って身体を拭いた方が良い。

 

「──っ」

 

 しかし、テラコマリがスウェアの自宅前で目にしたのは、彼に抱きついているサクナの姿だった。

 それを見て異常なほどに胸が苦しくなる。三年の付き合いがある自分よりサクナを選んだのか、そもそも自分だって気付いたのはつい最近のことではあるものの、それでも、失恋という二文字が頭を過る。

 

「っ、っ、バカ……!」

 

 それしか言葉が出てこなかったテラコマリは走ってガンデスブラッド邸に戻った。

 道中転んだような気もするし、目頭から何か出てきた気もするが、記憶がなく、気がついた時には浴槽に浸かっていた。

 

(やっぱり、そういう関係なのかな。明日うっかり会った時に彼女出来たわとか軽いノリで言ってきそう……でも、まだ確定じゃないし……)

 

 意識がハッキリしてきたテラコマリは、考えたくなくとも先程の光景が脳裏をちらついてしまう。

 ならば真っ正面から考えてみても、やはり苦しい。

 少しマナーがよろしくないが、どうせ一人だけの空間である。身体の力を抜いて浴槽にふよふよと浮かんでみる。

 これで多少リラックスしながら考えごとに没頭してみることにした。

 

「コマリ様。はしたないですよ。しっかり肩まで浸からないと風邪を──はっ!? むしろ風邪を引いて弱ったコマリ様を記憶に焼き付けながら看病のためにあんなところやこんなところをフキフキプレイをさせてくれるというご褒美ぶふっ……!?」

 

 気が落ち込んでドロドロとした気分のテラコマリの横にいつの間にか現れたヴィルヘイズが邪なことを口走りながら鼻血を吹き出した。

 

「きゃぁぁ!? お前いつの間に入ってきた!? というか鼻血がお湯に入っちゃってるだろ!」

「心配ありません。ちょっと頭の中のコマリ様がえっち過ぎて……」

「そんなの偽者だよ!? ええい! 鼻血サラサラになっちゃうから出るぞ!」

 

 何食わぬ顔で入浴を続ける気でいた欲情したヴィルヘイズを無理矢理連れ出して浴場から出る。

 ヴィルヘイズに処置を行ってから自室に戻り、ベッドの上でイルカの枕を抱き締めて、またあの光景を思い返す。

 

「なぁ……男ってやっぱり胸の大きな子の方が良いのかな……」

 

 鼻の穴にティッシュを詰めて鼻血を止めているヴィルヘイズに声を掛ける。

 テラコマリの中で胸が大きい女性の代表例の彼女に聞いてみる。

 ことあるごとに、スウェアに雑に胸を揉ませようとしているせいでそういう印象があった。

 

「軍曹に関してはそうだと思います」

「誰もスウェアとは言ってないだろ!」

「軍曹と言っただけで、彼とは言ってませんよ」

 

 しまった。という顔をしていたテラコマリに対して、そんなことだろうと思ったという表情で彼女の近くに腰を降ろしたヴィルヘイズが溜め息を吐く。

 

「まぁ……毎日毎日第六訓練所を覗きに行ったり、書いた小説に露骨に彼をモチーフにした登場人物が出てきて、引きこもりのお姫様とキスしたりと、どうしてこれでバレないと思ったのですか?」

「ぎゃあぁぁあああっ!? お前何で鍵を三重に掛けたのに見てるんだよぉぉっ!? この世は生き地獄かよぉ……!」

 

 小説が読まれていた以上に、モチーフに関しても全てバレていた事実にテラコマリが身悶える。

 小説云々に関してはヴィルヘイズが勝手にテラコマリの引き出しの鍵を開けて知ったことでしかないが、挙動不審に関しては第七部隊の面々には裏切り者を粛清しに行っていると勘違いされている。

 

「……スウェアってサクナのこと、好きなのかな」

「好きでも嫌いでも。どちらでもないと思いますよ」

 

 多少はクオリアサイトの影響もあるとはいえ、三年間ストーキングを続けたヴィルヘイズからしたら、考えるまでもない話である。

 そもそも、本当に公言している趣味通りであるのなら、とうの昔にヴィルヘイズとくっついている。

 

「気になるなら告白してしまえば良いじゃないですか。どうせ砕けるなら殺す勢いでぶつかってから砕ければ後腐れもないでしょう」

「嫌だよ! 殺したら返事聞けないじゃん! それに……困らせたくないし……」

 

 ヴィルヘイズも人に言えたことではないが、恋する乙女というモノは面倒くさい生物だということを感想を抱いて、こっそりセクハラの隙を狙ってみたが、テラコマリにブロックされてしまった。

 

「……もういい、直接スウェアに聞く。どうせ私にそういうのは向いてない」

 

 顔をイルカの枕に埋めて、テラコマリがふて寝を始めてしまった。

 そういうことを隠すような性格ではないことは把握している。ヴィルヘイズに泣きつくのであれば、本当に失恋した後でいくらでもすれば良い。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「一人足りないがよく来てくれた。七紅天全員による殺し合いをしてもらう。皇帝陛下の許可も得ている。仲良く殺し合おうじゃないか。弱い七紅天なんていらん。なあ? テラコマリ・ガンデスブラッド?」

 

 二日後、血濡れの間にて、遠征中で出席出来ない一人を除いた七紅天全員をスウェアが呼び出し、殺意の籠った瞳でムルナイト帝国でトップクラスに血生臭いイベントの開催を宣言した。

 名指しされたテラコマリは、彼がふざけている訳でもなく、本気であることが嫌でもわかってしまった。




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