ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

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とりあえず今月から復帰です。


宣言前日・彼の場合

 サクナから流れ込んで来る記憶の濁流は、スウェアにクオリアサイトでの意思共有時に流れてくる負の感情と同じタイプの不快感を与えてくる。

 事情は大方理解は出来たが、それ以上に結局は彼女が本当に犯人で、こんな手段を取られたことに対して、失望やら怒りが沸々とスウェアの中で渦巻く。

 

「……どっちにしてもスウェアさんを殺して洗脳をするか、そのまま逆さ月に協力してもらうか……選ぶのは私です……」

 

 合理的に考えるのであれば、選ぶ必要などない。

 皇帝の息子で、単体の戦闘力としては悪くはない駒を手中に収められるなら、出会い頭にノータイムで洗脳すれば良い。

 それなのに、今ここで自分に選択肢を与えることにサクナの中に躊躇いがあることをスウェアは見抜いた。

 

「なぁ、サクナ。本当にお前はそれで良いのか? 今見た記憶の全部は俺には分からないけど、家族が殺されて辛い目にあって……それに耐えられないなら──」

「分かった様なこと言わないでください!」

 

 蹲って悲鳴のような叫び声をあげるサクナの言葉を咀嚼するまでもなく、頭に来たスウェアも声をあげる。

 

「そりゃわっかんねぇよ! 一方的に記憶見せつけてきて、良い人そうだから利用しますって! お前こそ俺の何を知ってんだよ! 俺が可哀想な女の子見りゃ誰彼構わず助けるってか!? そうだよ! 助けるよ! でもな、こんな騙し討ちされて怒らないとでも思ったかよ!? それにな、一方的に記憶を見たからって相手を理解出来ると思うなよ!」

 

 一息で言いたいことを全部言ったせいか、スウェアは精神世界なのに肩で息をしていた。

 目の前で泣いている誰かが居るのであれば、可能な限り手は伸ばしたい。

 けれども、それを悪意を以て利用されることは許せない。

 

「じゃあどうすれば良かったんですか……! 自分が持ってる力のせいで家族を殺されて……! 精神が似た人にその家族の記憶を植え付けて……失敗したら、目の前で殺されて……こんな繰り返し、もう、嫌です……私ももう許されないのなら……」

 

 何をどうしたらサクナが救われるか、スウェアには分からない。

 家族になることも、逆さ月に殺されてしまった彼女の家族を蘇らせることも出来ない。

 

「俺にはお前の兄にも父親にもなれない。家族になんてなってやれない……だから──」

 

 スウェアが言い終わる前にマインドリフレインが解除される。

 現実ではマインドリフレインを発動した際に意識を失ったサクナがスウェアに寄り掛かられていてお互いにずぶ濡れになっていた。

 意識を取り戻した彼女の瞳に生気はなく、その様子に一瞬狼狽えたスウェアが声を掛ける前にふらふらと歩いて街の中へ消えてしまう。

 

「……ああ、くそ、テラ子ならもうちょい上手くやったんだろうな」

 

 サクナの中の歪みを一方的に見せつけられて、言葉で心を救うことは出来なくて、ただ力で解決しようにも、黒幕を誰か特定しなければ倒すも何もない。

 勢いのまま色々言ってしまったが、いつの間にか傘が手から落ち、雨に打たれていたせいか頭が冷える。

 

(そもそも、犯人は誰だ?)

 

 冷静になって闇雲にサクナを追っても今のスウェアにはどうしようもない。濡れた服を脱ぎ捨ててシャワーで身体を暖める。

 

(……まぁ、簡単な話だよな)

 

 結局やることは前とあまり変わることはなく、そういう手段に出るしかない自分の不器用さに溜め息を吐く。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

(誰かに監視されてるな)

 

 翌朝、ヴィルヘイズがスウェアのストーキングをしている同時刻。

 スウェアは何者かに監視されていることに気づく。勿論相手は言わずもがななのだが、何となく彼もその正体に気付きつつはあるものの、それは問題ではない。

 

(誰が何のためにしてるか知らんが……まぁ、いつも通りにするのが良さそうだ)

 

 ある理由でカレンに用事があったのだが、普通に出勤をする振りをして昼までは特に行動を起こさないでいた。

 それはそれとして、サクナと顔を会わせないといけないので、よろしくないことにはなりかねない。

 

「……あんなことがあったのに、ノコノコと出勤してくるんですね」

「いや、まぁ、仕事だからな……そういうサクナこそちゃんと来てるじゃん」

 

 少し窶れている気がしないでもないが、いつも通りの様子のサクナを見て、一先ずは安心して、ほっと息を付く。

 昨日のことがある以上、後ろから殺されかねないのだが、あの場面になってもスウェアを殺せなかったサクナに対して警戒することもない。

 

「……私は貴方のことを殺そうとしたんですよ?」

「殺せなかったじゃん。それに、あの時ちゃんと言えなかったけどさ。泣いてる子が居たなら……相手が誰だって手を伸ばしたいかな」

 

 確かに、殺されかけたり、善意を利用されたりするのは腹立たしいことで、サクナのやったことは悪いことである。

 それ以上に泣いてる女の子が目の前に居るのに、何もしない方が嫌だった。

 

「そんな無責任なこと……」

 

 サクナの言う通り無責任だとスウェアも自覚している。でも、そうしたいと思ってしまったなら仕方がない。

 本当に必要がないことならブレーキを踏むが、今回はその理由もない。

 

「……私は、面会があるので外に出ます」

「いってらっしゃい」

 

 何処に行くのか、何をするのか。気にならない訳ではないが、スウェアもスウェアでやらなければならないことがあった。

 七紅府から出て謁見の間へ向かう。面会の予約などしていないが、スウェアの立場を考えれば顔パス当然で受付を通れた。

 スウェアが謁見の間の扉をノックし、一言入れてから中に入ると先客が居たらしく、露出度の高い紫色のドレスを着た女性がカレンの前で跪いていた。

 

「不良息子の子供が来るべきところではないと思いますが、そうでしょう? 陛下?」

 

 七紅天の一人、フレーテ・マスカレールが謁見を邪魔されたのが、余程気にいらないのか不快そうな視線をスウェアに向けていた。

 

「マスカレール。貴方は今の七紅天に不満があるんじゃないか?」

 

 先日、またしても暴徒と化した第七部隊の吸血鬼を鎮圧したという話はスウェアの耳にも入っていた。

 その際に、テラコマリと少し揉めた。ということをヴィルヘイズから聞いている。

 だから、フレーテがこの場に居るのはスウェアにとって好都合だった。

 

「特に、テラコマリ・ガンデスブラッド。強さも見せずにふんぞり返る七紅天には。な」

 

 わざとテラコマリを悪しざまに言うスウェアを見て、カレンは狙いを察した。

 そして、その狙いが自分を退屈させないことも。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「お前さぁ。いつ告る訳?」

「……いや、告るとか告らないとかそういうアレじゃないというか」

「はー、これだから童貞のお坊っちゃんは」

 

 月に数回、スウェアと戦友は城下町の酒場に来て食事をしている。

 二人とも未成年で酒は飲まないが、大衆向けの酒場特有の喧騒に囲まれながら、時間を無為にする行為は嫌いではない。

 

「お前の家もボンボンでしょうが……」

「それはどうでもいいが、最近の閣下めっちゃ第六気にしてるっぽかったけど、何か進展あった?」

「いや……特に……」

 

 テラコマリと動物園デートをしたと言えば、第七部隊からリンチにされ命はないだろう。

 何故かストーキングしていたヴィルヘイズとサクナにはバレている。特にヴィルヘイズはそれを脅しの種にすることが用意に想像出来る。

 

「失敗出来る恋愛なんて、大人になる前にしか出来ないんだし、今のうちに色々試しておけば良いのに」

「……俺は、別に……失敗したくないというか」

「あっそ……シメのラーメンでも行こうぜ」

 

 ナメクジみたいなメンタルで恋愛をしているスウェアに半目を向けて会計を済ませて二人は酒場を出る。

 歩いて数分の場所に城下町には似合わない提灯をぶら下げたラーメン屋台があった。

 

「なんでだよ」

「暖簾の中にサキュバスかナースが居たらワクワクしてこねぇか……?」

 

 戦友の胡乱な妄言に冷静にいないと否定するのは簡単である。

 しかし、そういう夢を忘れないものこそが、過去の伝聞に残る伝説の存在に巡りあった筈なのだ。

 

「確かに、間違いない」

 

 スウェアが勢いよく暖簾を開いてみると、見覚えのある青い髪の店主が半袖のシャツを捲って良い汗を流しながらてぼを振って麺の湯切りをしていた。

 

「いらっしゃいませ」

「何してんの……!?」

「ラーメン屋の店主、ですが?」

 

 何を気にしているかまるで分からないと言いたげな表情の店主が首を傾げていた。

 戦友も続いて長椅子に座ると冷や汗をかきながらもなんだかんだでラーメンは食べたいらしく、手書きのメニュー表を眺めている。

 

「……血液ラーメンしかないじゃん。大将、二つ」

「頼むんかい! 食うけどさ……食うけども!」

 

 頼んでしまった以上はキャンセルするのも嫌なスウェアはスープが文字通り血に染まっているラーメンを戦友と共に待つことにした。

 

「……なぁ、これってちゃんと食用の血だよな?」

「普段慣れてるから気にしてなかったけど、食用の血って字面面白いな……」

「当店は麺もスープも自家製ですので……安心して御賞味ください」

 

 のほほんと麺を啜り始める戦友と、淡々とやたらと気合いの入ったラーメンの説明をしている店主にスウェアは頭を抱える。

 

「力の入れ方どうなってんだよ! はあ……とりあえず食べるか」

 

 諦めて麺を啜ってスープを口にすると店主が背中を向けていた。

 一瞬だけ店主の目が紅く光っていたのは気のせいだと思いたい。




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