この世界における戦争とは、エンタメである。
魔核という神具が六ヶ国にあり、それが形成する領域ではその国に属する者が、どれだけの重傷を負ったとしても、どんな死に方をしても、完全な形で蘇生してしまう。
そんな領域が全て重なる場所で戦争が行われている。
誰も死なない。傷を負わない。
故に、スポーツやエンタメの類いとして扱われている。
スウェアはそんな戦争を嫌う。
殺しや暴力に抵抗はないが、それを娯楽に変換している世間が嫌いで仕方がない。
それなのに第七部隊の一員として戦争に参加している辺り、はぐれ者の多い第七部隊所属している吸血鬼らしくもある。
「クソッタレめ」
その日は出陣が第七部隊だったため、必然的にスウェアも参戦していたのだが、殺し合いの中でも彼に目立った外傷も衣服の乱れもなく、終結まで戦い抜いていた。
サボっていた訳でも、敵前逃亡していた訳でもなく、しっかり戦闘を行って敵兵も討ち取っている。
『聞け! このテラコマリ・ガンデスブラッドが他国の将軍を血祭りにあげてやるから、鉄分多めの食生活でも心掛けておくことだな!』
「……何言ってんだかな」
テラコマリの勝利演説を聞いてスウェアは肩から力が抜けて呆れる。
彼女の抱えている事情は理解していて、ほぼそれが理由で今の立場に居るが、無理矢理将軍らしく振る舞っている彼女の姿はそれはそれで可笑しく見える。
「今日もお前は無傷か。相変わらずだな」
領地に戻る途中、スウェアと腐れ縁で学院時代から付き合いのある男が半端に利き腕が再生された状態で近寄ってくる。
再生するとしても普通に怖いので、半歩ほどスウェアは彼と距離を取る。
「こんなことで怪我なんてしてられねぇっての……どうせ、そっちはこの後婚約者とイチャイチャすんだろ。腹立ってきたな? 戦友?」
「黙れ。俺は! 敢えてちょっと傷を残すことで激戦をくぐり抜けて五体満足では無いけど、感動の再会に浸るプレイに癒されたいんだよ!!」
「きっっっっっしょっ」
学院時代からその手の話題をしてはいたが、婚約者とそういうことをしていると思うと素直に気色の悪さしか感じ取れない。
「そう言うスウェアの方は?」
「今日も無傷で勝利したことを讃えられながらメイドさんに背中流してもらいてぇ」
「冗談と性癖キッツ」
煽ったら煽り返される。
そして、互いの性癖は気色悪がっても否定はしない。
そんな奇妙な友情が二人の中にあった。
「ところで、テラコマリ閣下のメイドについて、どう思う?」
「えっちぃ」
「そうだけど! そうじゃねぇよ! もっとこう、ないわけ?」
戦友にヴィルヘイズのことを聞かれたスウェアは率直な感想をノータイムで返した。
だが、それは彼の求めていた答えではないらしい。
「エッチだろうが!! ノースリーブ巨乳メイドに抱く感想なんてそれしかねぇよ!!」
「……お前がそこまで言うならそれでいいわ」
何か言いたそうな表情の戦友は、スウェアはそういう人間であることを思い出して諦めた。
そうこうしている内にムルナイト帝国領に到着し、その日は解散となった。
各々勝利を祝いに酒場に向かっている者もいれば、もう身体を休めている者もいる。
戦争に勝利してお祭りムードで夜の街が賑わいを見せる。
エンタメ戦争に勝利するということは、その国の経済が動く、敵も味方も等しく死ぬ筈の戦争はただの娯楽に成り下がっている証拠である。
そんな中一人だけスウェアはムルナイト宮殿七紅府にある第七訓練場にて、訓練に励んでいた。
(人の命をあんな風に扱う戦争なんか……)
手のひらを的に向け、細く息を吐く。
「誰だ?」
狙いを定めて魔法を放とうとした瞬間に誰かが背後から忍び寄ってくる気配を感じたスウェアは手を降ろして振り返ると、そこにはヴィルヘイズが普段より若干柔らかい表情をして立っていた。
「戦いが終わってもまだ戦い足りない愚か者の顔を見に来たのですが、貴方でしたか……意外と真面目というにはナイーブだとは思いますが」
「テラ子のメイドの……あー、いや、失礼。少尉殿も閣下のところに居るものかと思ってました」
先日テラコマリの部屋で話して以来で、ろくに顔を合わせていなかったが、ヴィルヘイズが一応階級上は上官に当たることを思い出して、敬語に切り替える。
「……慣れないのであれば、敬語は不要です。同い年ですし、初対面の時もタメ口だったじゃないですか……それに、元は平民の出なのでしょう?」
スウェアの今更な敬語にヴィルヘイズは呆れる。
テラコマリの七紅天就任時のミーティングでタメ口で性癖バトルを申し込んでいるため、不敬度も考えれば本当に今更である。
「そうだけど、よくそんなこと……調べればすぐ出てくることか」
「はい、すぐに分かりました。話は戻りますが、こんな時にこんなところで訓練ですか? コマリ様が会いたがっていましたよ」
些か話が逸れた。
テラコマリ初陣の祝勝会は、彼女本人が今日はもう疲れて寝てしまったため別日に予定されている。
それにスウェアも出席する予定があるものの、この数日で急に顔を合わせなくなった彼と話したいことがある様子だった。
ヴィルヘイズとしてはテラコマリの従者として、主の要望にはなるべく応えて点数稼ぎをしてあわよくばペロペロしたいという願望もあった。
「今はちょっと、会いたくない」
「……おっぱいを揉ませると言ったら?」
おっぱいを揉む。それは夢にも見た、夢では何度かあったかもしれないスウェアの願望だが、そもそも相手は誰か言っていないことが罠である気もする。
三十秒位悩みに悩み、スウェアが口を開く。
「…………ちょっと揺らぐ」
股間に正直だった。
大きいも小さいも貴賤はない。ただそこにあるということが年頃の少年にとって何より大事なのである。
「そんなことはさておくとして、貴方は余程自分自身の魔法が嫌いなのですね。
……空間の捩れを発生させる球体の魔法……ワームスフィアでしたか」
「おくなよ! ……本当に色々調べてるな」
ヴィルヘイズはいつものクール顔のまま話が強引に変えられていく、どうしてもここに居ることについて話したいらしい彼女にスウェアは折れることにした。
そもそも魔法のことについて調べがついているのなら、ここに居る理由も知っている癖に、とスウェアは口には出さずに悪態を心の中に隠す。
「……そこまで知っているなら、俺から言うことはない。
俺はこの魔法とあの能力も好きじゃないし、エンタメ戦争は嫌いだ。
だから、あんな魔法で人の命を奪った直後に、あの子と会う気分にはなれない」
ワームスフィアに接触し捩じ切られた物は空間ごと無に帰る。
人を傷つけた痕跡すら残らないこの魔法をスウェアは忌み嫌っている。
それもヴィルヘイズには調べがついていた。
「……今の形の戦争の中で、誰かを傷つけることに対して真剣に考えてる貴方が持ち得た力ならば、それは貴い物だと私は思います」
「……昔似たようなことを言われたよ。それが今この軍服を着ている理由だ」
彼女のその言葉に、スウェアは少しだけ懐かしい記憶を思い出す。
自分の中でもまだその言葉に納得はしていない。だけど、そう言ってくれる人が居る。それがほんの少しだけ嬉しい。
「……また戦う理由が増えた。少しだけ気も晴れた。ありがとう」
「礼など不要です。その気持ちがあるならコマリ様の執務室に来てください。それで十分です」
今の会話でスウェアの中で自分のことを知りすぎているヴィルヘイズに違和感は感じるものの、男とはチョロいもので、美少女メイドが良い感じに肯定してくれるのであれば、それも悪くないと思ってしまった。
「……我ながら本当にチョロいな」