ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

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ひっそり赤バー行ってて嬉しい。
評価ありがとうございます。


メイド服がコスプレTier1なんすわ

「……んー、あー、そうだった……休日出勤は流石に勘弁してほしいぞ」

 

 テラコマリの初陣から二日後、自宅のベッドで目が覚めたスウェアは今日の予定を思い出して少しげんなりした。

 非番の予定だったのに、今日は先日の戦争での功績を評価して褒美を渡すから七紅府に来いという通達で仕方なく身嗜みを整えてから軍服に袖を通す。

 

「……いや、まだはええよ」

 

 指定された時間は午後二時である。

 まだ時計の針が指し示す時間は午前八時、六時間ほど早い。

 この遅さはテラコマリが朝はゆっくり寝ていたからとかそういう理由で午前中は避けて、今度は昼に食事を摂ってからからが良いと言いだしたのだろう。

 日頃から働かずにだらだらと生きていたいと豪語するくらいには、テラコマリの怠惰な生活に三年間も伊達に付き合っていないスウェアにそれくらいの事は簡単に見抜けた。

 

(……暇だな)

 

 居心地が悪いということもあって、親元を離れて一人暮らしをしているスウェアは、テラコマリの部屋に向かって彼女を叩き起こすという労働もなければ、軍人としての訓練もない。半日とはいえフリーな時間があるというのは本当に久しぶりだった。

 

(朝食は……トースト食ったしな。洗濯物も済ませてあるし……昼の準備は──)

 

 溜まっていた読みかけの本の続きを読んだり、ちょっと凝った料理をしてみたり、色々趣味に時間を使える状況かのにそのやる気が起きない。

 結局この後、職場に赴くことと軍服に着替えてしまったことで仕事モードに頭を切り替えてしまったのが良くなかった。

 

(社会ってやっぱりカスだ……)

 

 十五歳にして趣味の時間を有効活用出来ないダメな社会人の習性に陥っているスウェアはかなり哀れな生物に成り下がっていた。

 とはいえ、何もしないというのも逆に辛い。

 気晴らしも兼ねて散歩に出ることにした。

 

(こうやって出歩くのも久しぶりか……)

 

 戦勝ムードもあって賑わいを見せる街へと繰り出した。

 一方、スウェアの予想に反してテラコマリはしっかりと朝に目を覚まし、ヴィルヘイズが用意したフレンチトーストで腹を満たしていた。

 

「そういえば、今日はなんでヴィルが居るんだ? 確か戦勝祝いで休み出してただろ」

「コマリ様のお世話をするのは呼吸をするのと同義ですし、この後コマリ様には七紅府に居てもらわなければなりません」

「なんでだよ! 部下が全員休んでるのに私が行く理由ないだろ!」

 

 引き籠り脱却の第一歩として、無理矢理七紅天になったもののテラコマリ本人としては良いことが何一つない。

 クソザコナメクジであることがバレれば即下克上で、七紅天辞任で爆発。

 そもそも三年も引き籠っていたせいで、顔見知り以外とは何を話して良いかも分からない。

 

「では、スウェア軍曹をそのまま帰らせるのも忍びないので、彼に茶でも振舞って親睦でも深めるとしましょう」

「ちょっと待て」

 

 何でしょうか? とヴィルヘイズが澄ました顔をしているが聞き捨てならない情報を溢していた。

 

「コマリ様は先の戦争で単騎で数十人屠った褒美として軍曹に対して、コマリ様直々に褒美をくれてやることになっています。まぁ、コマリ様が行かないというのであれば私めが一肌脱ぐしかありませんが……」

 

 仕方がないようで恥じらいを持ってないのか持っているのか分からない表情をしながらメイド服をはだけさせる。

 人前で軽々しく脱ぐなとか、うお……でっか……とか色々言いたいことがあるテラコマリはそれ以上に気にいらないことがあった。

 

「私が行かないんだから、お前も行くな変態メイド! アイツもアイツで結構変態だけど、そういうのは嫌がるぞ」

 

 精一杯の付き合いの長さから来る自分の方が知っているマウントを取ろうとしているテラコマリだが、ヴィルヘイズは戦争の後の夜に彼がおっぱいを揉むかどうかでかなり揺らいでいたことを知っているため、その話を持ち出しても良かった。

 が、それはそれとして、そんなテラコマリが可愛いので敢えて黙っておく。

 

「……ふむ。では、やはりコマリ様にも来ていただくしかありませんね。このカードはあまり切りたくありませんでしたが……」

「な、なんだよ……?」

「『いちごミルクの方程式』」

「……は?」

 

 テラコマリの背筋が急激に冷える。

 その題名だけは他人の口からは聞きたくなかった。だから、ビリビリに破いた後にゴミ箱に捨てて他のゴミを被せた筈なのだが、どんな技術か分からないがヴィルヘイズはそれを入手したということだ。

 

「『甘くてまろやかで、ぴりりと舌をいじめる刺激は少しもなくて、どこまでも温かく、穏やかな、陽だまりのような恋のことだ』……コマリ様も意外と乙女ですね」

「評論すんな! それ以上はやめろおおおおおおおおおっ!?」

 

 驚きのあまり座っていた椅子から立ち上がろうとして転び、その際に慌てて何かを掴んでしまったテラコマリは掴んだ物事を離さずに、そのまま引っ張ってしまった。

 

「いたたた……おでことか赤くなってないかな……」

「コマリ様ったら……大胆ですね」

 

 変態の熱っぽい声に恐る恐る顔を上げると、メイド服のスカート部を引っ張られ、先程はだけさせた上半身と合わせて扇情的過ぎる姿があった。

 

「では、参りましょうか」

「参るか!? お前恥らいとかないの!?」

「全く」

 

 ダメだコイツ。どうにかして即刻クビにしないと……。

 テラコマリは心の中で決意したは良いものの、終始ヴィルヘイズにペースを握られたまま七紅府へ向かう。

 

「……何話したら良いんだろう」

「いつも通り以外に何かありますか?」

「そうなんだけど……アイツ結構アレで生真面目なとこあるからちょっと悩んでそうだと思うとな……」

 

 スウェアの使う魔法のことはテラコマリも知っている。

 それを行使することが必要になってくる戦いで数十人も屠っているということは、大なり小なりコンプレックスを刺激されているのではないかと、テラコマリは推測する。

 

「……昔馴染みの勘というやつですか」

「そんな大層な物じゃないけど……うーん」

「先日、最近彼に会えなくて寂しそうにしていたのはコマリ様じゃないですか」

 

 素直に会いに行けば良いのに、何かにつけて動こうとしないテラコマリに対して業を煮やしたヴィルヘイズが今日のセッティングを勝手に行った。

 そんなことはテラコマリ自身にも分かっている。

 だけど、彼にどんな言葉を掛けて良いか。それが未だに見えてこない。

 

「そんなこと言ったってなぁ……日を開けて会うのなんて初めてだし……」

 

 なんだかんだと不安を口にしても、七紅府の執務室に備え付けられた座っただけで高品質なことが分かる椅子に座っている以上はもう逃げようもない。

 決して、黒歴史恋愛小説を脅しに使われているからという理由ではない。

 

「『いちごミルクみたいなピンク色に染め上げられてしまった』ですものね」

「引用すんなっ! 泣き喚くぞ!」

「……到着したようですね」

 

 コンコン。と、執務室のドアをノックした音を聞いたヴィルヘイズがドアノブに手をかけると同時にテラコマリは姿勢正す。

 一応上司としての威厳を気にした方が体裁上よろしいといえばそうなのだが、色々事情を知っているスウェアにそれはあまり意味はない。

 

「お待たせいたしました。テラコマリ閣下、スウェア軍曹、召集に応じ参りました」

「……に、似合わね~」

「おい」

 

 畏まっているスウェアはテラコマリの目にはどうにも可笑しく映る。

 そのせいもあって、思わずノータイムで口に出てしまったが、いつもの感覚を思い出すにはちょうど良かったかもしれない。

 

「いや、似合わないって。どうせ今は私とヴィルしか居ないしさ。

 それに……何かスウェアに敬語使われるのはむず痒い」

「あっそう。じゃあ、この休日出勤の用件の褒美って何?」

「あー……それか、それはな……」

 

 迂闊な事を口走るとヴィルヘイズが『コマリ様がスウェア軍曹に会えなくて寂しがっていたので……』とか言いそうなのは読めているため、テラコマリはしっかりと褒美をくれてやる流れにしようと思うが、本題からは逃げ続けている。

 

「逆に聞くが、何が欲しい? 言っとくけど、数時間に及ぶ写真撮影を乗り越えた私に出来ないことはない!」

 

 上司と部下。そういう関係に憧れ的な物がないと言えば嘘になるテラコマリは、スウェアにそれっぽいところを見せたくなってしまった。

 その様子を完全に調子ぶっこいてるなコイツ。とでも言いたげな目でスウェアは見ている。

 

「言ったな?」

「言いましたね。ありとあらゆる願望、酒池肉林、満漢全席を叶えてやると」

 

 スウェアがアイコンタクトを送り、それを即座に理解したヴィルヘイズが彼の発言に乗っかる。

 ジャンルは違えど、変態同士通じ合うものがあるのかもしれない。

 

「言ってねぇよ! 私に可能な範囲でしかやらんぞ! お前とスウェアのご機嫌取りしたってどうせ私が雑魚なのはバレてるからな!」

「となるとな……うーん……」

「一応言っとくけど、ヴィルに何かするのも禁止だからな?」

 

 ヴィルヘイズに何もせず、写真撮影レベルの褒美となると、思春期真っ盛りのスウェアには中々厳しい条件だった。

 そもそもテラコマリにそういう類いの感情はない。

 血を飲めず身体が成長しない彼女に劣情を抱くロリコン趣味でもないし、三年間ずっと引き籠り生活を補助してきた身としては何も感じない。

 

「あぁ、なるほど……名案を思い付いた」

 

 その思い付きを口にした数分後、一度廊下に出て待機していたスウェアはヴィルヘイズから準備を終えたと告げられ、改めて執務室に入る。

 

「……」

「……何か言えよ」

「神よ……」

 

 スウェアを出迎えたテラコマリはヴィルヘイズと似たようなデザインのメイド服を身に纏っていた。

 なんだかんだで美少女であると思っているテラコマリがメイド服を着ていることに謎の感動を覚え、心が打ち震えているスウェアは声を絞り出した。

 

「あっ……ありがとうございます! ありがとうございます! 美少女のこう、不満気な表情とフリフリのメイド服が滅茶苦茶可愛いです! 俺、貴族で良かった……!」

「お前元々平民だろうが! というか結局こういうのじゃん! うわっ、泣きながら地面で悶えるな! おい、ヴィル──」

「……ふへ、へへっ」

 

 気持ちの悪いことを言っている変態にドン引きしながらテラコマリがヴィルヘイズに助けを求めようとすると、彼女は彼女で恍惚な表情を浮かべながら鼻血を垂れ流していた。

 

「今世で一番引いたっ!!!」 

 

 ちょっとだけスウェアの心配していたり、自分から動けないところを無理矢理でも背中を押してくれたヴィルヘイズに対する感謝とかそういう物はテラコマリの中から霧散した。

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