「そういえば、ヨハンが追放されたってことは特攻班の班長が居なくなるのか……代わりに誰か配置しないといけないな」
決闘から二日後、テラコマリは執務室で三日後に控えている彼女の初陣の対戦相手だったラペリコ王国との再戦向けての準備をしていた。
初戦で部下の特性も把握していない状態での指揮だったこともあり、ガンガンいこうぜという作戦もへったくれもない指示を出して勝ってしまった。
が、今は違う。五百人の部下の名前と得意魔法を全て把握した上で作戦を考えることも可能ではある。
「……でも、連中基本的に連携もなければ個人個人が勝手に人殺ししたいだけのやベー奴らだし……」
「それであれば、軍曹で良いのでは? 他の班長以外では彼が一番戦果を挙げているので妥当かと」
ヴィルヘイズの言うことも尤もで、抜けた者より優秀な者を入れて穴を埋めるというのは理に適っているが、特攻班の役回り的にスウェアが良い顔はしないだろう。
「でもなぁ……うーん」
「そこまで悩むのであれば、面談でもすれば良いのです。この時間なら、軍曹も暇していると思いますよ」
「……なら、呼ぶか。ヴィルちょっと行ってきてくれないか?」
「かしこまりました」
書類仕事がまだ残っているテラコマリはヴィルヘイズを使いに出してスウェアを待つ。
待っている間に仕事の片手間に、配置転換に必要な書類も用意しておく。
(そういや、アイツの家ってどこの貴族なんだ? 今まで聞いたことなかったけど……気になる)
一旦作業の手を止めてスウェアの経歴書くらいには書いてあるだろうと隊員の経歴書が入っている棚を開けようとするのと同時にヴィルヘイズがスウェアを伴って戻ってきた。
「コマリ様、軍曹をお連れしました」
「お、おう、ご苦労。入りたまえ」
本人が居るのだから、直接聞けば良いのだが、そのスウェア自身が名乗っていないことを聞くことに抵抗があったテラコマリは二人の入室と同時に棚を閉じてしまった。
「閣下。本日の御用件とは?」
「スウェア、お前を特攻班の班長にしたい。先日の決闘を挑んできた謀叛人を追放してまったせいで、穴が空いてしまってな……君の意志を聞きたい」
「なるほど……」
スウェアの家絡みの都合で、隊内で役職に就くのはあまり好ましくない。
それを正直に話してテラコマリに伝わるのもあまりよろしくはなく、適当な言い訳を考える必要が出てくる。
「軍曹程度の階級の人間が班長になったところで……というのは建前として……責任者になんてなりたくない!」
「お前なぁ……」
相手がテラコマリだからというのもあり、本音を言うスウェアに彼女も半目を返す。
テラコマリとしては純然たる本音であることは分かっているのだが、親の勝手な決定で七紅天をやらされている彼女からすれば、気楽で羨ましい限りである。
「……とにかく、なる気はないんだな。じゃあ他のやつにするから戻っていいぞ」
本人にやる気がないのなら、これ以上無理強いをする理由もない。そのまま退室を促す。
では。と執務室を出ていくスウェアにヴィルヘイズが何か言いたげにしていたが、彼はそれを無視して訓練場の方へと向かっていく。
その日の夜。スウェアは自宅で通信用の魔法石から指令を受けていた。
『……そろそろ頃合いだろう。三日後ラペリコ王国との戦争で名乗りを上げておけ』
「仰せのままに……母上」
スウェアは声の主を母と呼ぶが、その母に対しての念や何か思うところは何もないのか、ただ了承の返事をするだけで、その声音は人前では絶対に彼から発されないような冷たい声で、第三者が聞いたら、とても親子の会話とは思えないものだった。
そして、三日後。ラペリコ王国との再戦が始まろうとしていた。
ムルナイト帝国軍側の陣地に記者が開戦前に両陣営の様子を映しておこうという目論見の人員として配置されている。
「……なぁ、戦友。俺が今日一人で百人は殺すって宣言したらいくら賭ける?」
「出来ないに四桁の昼飯三回分賭ける」
「じゃ、俺は出来る方に同じ分賭けるわ」
待機中にスウェアが急に戦友に賭けを持ち掛けて、ランチにしてはかなり高額な賭けが始まった。
それが出来て当たり前という自信もないが、スウェアはそういう風に自分の尻に火を着けて無理矢理やる気を起こす理由がある。
「そこの記者少し良いか?」
「あ、はい。何でしょう?」
「それ、ラペリコ王国の方にも繋がってる?」
六ヶ国全てに対して新聞を発行して届けている六国新聞という出版社の人間を一人に声を掛けたスウェアは、その記者が持っていた高性能大型カメラの電影カメラを指差して、対戦相手のラペリコ王国軍にもこちらの映像が見えているかの確認を取る。
「えぇ、繋がってますが……何か?」
「言いたいことがあって……皇帝からも一発ぶちかませって言われてるもんで……な?」
「……仕方ありませんねぇ」
こっそりと記者に紙幣を数枚握らせて、中継の権利を数分間だけ融通してもらうことに成功した。
「あー、あー、聞こえるかチンパンジーども」
急に隊員の一人が中継を独占し、敵国に盛大な煽りを始めたことで、第七部隊全員の視線が集まる。
合法的に人を殺せるという理由で軍に居る半分くらいテロリスト染みたしそうの隊員の多い第七部隊の面々は面白いこと始まったなくらいの気分で見物をしていて、特にスウェアの邪魔はしなかった。
「我が名はスウェア・エルヴェシアス! ムルナイト帝国皇帝カレン・エルヴェシアスの継子!」
スウェアを養子に迎え入れたのは、ただただ彼の能力を欲しがったカレンの思惑で、血の繋がりは無い。
顔を会わせたのも一年に一度あるかないか。
このタイミングで名を明かすのは、今日から連日第七部隊が戦争に参加するということで、そのためのプロモーションの一つという面が強い。
「三年前に九十九人殺しのテロリストが居たが、百人以上の猿どもの屍の山を築いてやるからバナナをおやつにでもして待っていることだな」
ヘイトを稼げるだけ稼いで開戦時刻と同時にカメラの電源を切る。
三年前の事件はテラコマリが合計九十九人殺害したことが事実で、それを越える意味も込めて百人以上の殺害を宣言したが、スウェアにそれを達成する自信はあまりない。
カレンの指示もあったが、賭けもヘイトスピーチも全部自分を奮い立たせるための演技である。
「……はぁ、やるかぁ? 猿どもぉ!」
門が開いた瞬間に全速力で敵陣に突撃するスウェアに対して、先のヘイトスピーチで頭に血が登って軍勢の半数以上が彼に押し寄せたのを見て、流石に死を覚悟した。
◇ ◇ ◇
ラペリコ王国戦から約一週間後。
スウェアは四戦連続で一度も死ぬこともなく、毎回最低でも百人の殺害に成功していて、その最高戦力を上手く指揮しているテラコマリの戦果として、計上されていた。
「こういうの……嫌いだから家を出たってのに、たく」
スウェアはいつもの軍服より装飾が多く、儀礼用ではあるが腰に帯剣もしている格好をしていて、明らかに息苦しそうにしている。
今日はテラコマリの連戦連勝を讃えた立食パーティーとなっており、スウェアは彼女の部下枠として参加させられていた。
「お前、あの変態皇帝の子供だったのかよ」
「養子だけどな。あのバカ皇帝が欲しいのは力だけだ」
ガンデスブラッド家はそこそこ位の高い貴族ではあるが、テラコマリの性格上社交界には向いておらず、半分くらいスウェアの陰に隠れるように立っていた。
「あと、外なんだから、堂々としてろよ。じゃないとドカンってなるだろ」
人の目が無ければ特に気にすることもないが、テラコマリがクソザコ吸血鬼であることがバレた瞬間に爆発してしまう。
それではわざわざエルヴェシアスの名を名乗った意味がないし、目の前のご馳走が冷めてしまうのはシェフに申し訳がない。
スウェアはテラコマリの手を振りほどいて、肉料理や海鮮、特に好物のミートソーススパゲッティとエビガーリックピザのもとへ向かう。
「あ、ちょ……ヴィル」
「どうかなされましたか? 猥談の会話デッキなら無限にストックしていますので、大丈夫ですよ」
「するか! というかお前はなんの備えをしてるんだよ! お前ここでは口開くな!」
何かの波動を感じ、敢えて黙っていたヴィルヘイズに助けを求めるも、立食パーティーには相応しくない会話デッキを構築していたらしい彼女を黙らせる。
とはいえ、誰かと話す気にもなれないし、既に何人かの貴族に囲まれているスウェアの所に行く気にもなれなかったテラコマリは困っていた。
「やあやあ麗しのコマリよ。楽しんでいるかね?」
「うげ……」
自分の唇を奪った上に、スウェアがエルヴェシアス家だったことが判明して、知り合いの母親に寝込みを襲われ唇を奪われたという地獄のような事実にランクアップしてしまったテラコマリが今一番会いたくない人物ナンバーワンのカレンが上機嫌に両肩を掴まれた。
「今日は無礼講だ。堅苦しいことは抜きで話そうじゃないか」
「そ、そういうもんか?」
「そういうものだ」
気に入った相手にはとことん甘いというか、馴れ馴れしいカレンの気質もあって畏まって膝を着こうとしたヴィルヘイズもすぐに立ち上がっていた。
「ときにコマリよ。あのドラ息子との進展はどうかね?」
「はぁ? そもそもスウェアとはそういうんじゃないけど……」
「ほう……意外や意外……あやつのことは好きにしたまえ」
スウェアがガンデスブラッド邸に通いつめていると聞いた時には、適当な貴族を宛がって縛り付けておく必要もなくなったかとも思ったが、テラコマリの発言を聞くにそういう所は奥手なことを知り、カレンはそれはそれで面白いことを知れて得をしたという表情をする。
「では、義母上……私がいただいても?」
「なんでそこでお前が出てくる……」
かなり本気の目付きをしたヴィルヘイズが名乗りを上げ、カレンの足でも何でも舐めそうなほどの気迫にテラコマリはドン引きする。
「よいよい、皇族といえどもただのオスだ。多少下がだらしない位がちょうど良い。それに朕が居る間は誰にも座は渡さんよ。
パーティーを楽しんでくれたまえ。朕はあのドラ息子を一発殴ってくる」
かなりの爆弾発言を残してカレンは発言に反して優雅な足取りでその場を去った。
「今のは何だったんだ……?」
カレンの質問の意図を汲めずにいたテラコマリは、彼女と歩きながら話している最中に無血料理が置いてあるエリアに誘導されたようで、その匂いに空腹を刺激された。
(でも、なんだろうな……さっきの、ヴィルにスウェアを取られると思うと……すごくチクっとした気がする……体調悪いのかな……五連勤もしてるし、平日連勤なんてやっぱり悪だな)
それとは別に初めての感覚に襲われたが疲れが溜まっているのだろうと判断して、テラコマリはヴィルヘイズに料理を取ってもらうように頼む。
一方、スウェアはというと。
「うめ、うめ」
ニンニクの効いた料理を立食パーティーに出すのはどうか? という問題はあるが、そこはスウェアが身分を濫用、もといリクエストを出して無理矢理作らせた。
「……アンタ、上司をほっといて呑気に飲み食いとは良い御身分ね」
「そりゃ、戸籍だけは皇子だしな。皇帝になるつもり無いけど」
仮面で顔を隠した女性がスウェアに近づいて声を掛ける。
視線は仮面のせいで正確に分からないが、彼女の目線の先では初めて会う貴族に話掛けられて、内心焦りながら対応している姿があった。
「力があるのに、その力を腐らせるのは、貴族としての義務に反するのではなくて?」
「ノブレス・オブリージュの話? 向いてねぇよ。顔の知らんやつのことまで気にしてる余裕は俺にはないよ」
貴族ではあるものの、カレンから力のみを評価されて養子に取られたスウェアは、貴族としての自覚はかなり薄い。
どちらかと言えば、人に正しい死を。というスローガンを掲げているテロリスト集団・逆さ月の思想に近いとまで友人に言われたことまである。
それはそれとして、人を殺したい訳ではないスウェアとは相容れない組織で、そんなことする暇あるなら農家にでもなっていてほしいと扱き下ろしたこともある。
「ほうほう、やはり肉付きの良い女子の方が好みかね?」
あんまり話していて楽しくないなという感想をスウェアが心の中で思っていると、有力貴族との歓談を終えたカレンが仮面の女の胸を見て水を差す。
カレンの発言のせいか、仮面の女はすぐにその場から離れた。
「げ、バカ皇帝」
「随分なことを言うじゃないか。半年振りの再会だぞ。家族水入らずで話すのも悪くはないだろう?」
「よく言うよ……あと、別に乳のデカさは関係ない」
実はチラチラと見てはいたが、だからと言って釣られるほどの軽いスウェアではない。
律儀に性癖じゃないことを否定してくる辺りは思春期の子供らしさを出してくる彼を少しからかってやろうとカレンは口を開く。
「そういえばな。コマリと契約した時、別にキスはしてないぞ。やり方はいくらでもあるからな。朕は合意のない行為は好かん」
「……酔っぱらいのおっちゃんみたいな話ばっか振ってくるな! あー、もう、だから、嫌なんだよ」
状況的に言えば、三年間面倒を見ていた相手が義理の母にキスされていると言われればそうなのだが、それを言ってくる辺り性格悪さを感じる。
「それにしてもコマリだがな。アレは美人に育つぞ。かつて朕と将来を誓ったユーリンと同じようにな……女の好みだけは似通っているな私達は」
「……いや、そういうんじゃないって」
実際に好みかと言われればノーとは言わないが、そういうところで家族アピールをされると今後カレンがちらつくのは悪いことしかない。
彼女の心中はスウェアには分からないが、こういったよく分からない歩み寄りの仕方が苦手でしょうがないと改めて実感する。
戦闘描写とかもう少し書き足そうかな。とか思いましたが文字数見てカット。
宜しければ感想等お願いします。されると喜びます。