ムルナイトスラングみてーな名前の女   作:効果音

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節穴

「久しぶりにこういう場で血なんて飲む……ん、稀血だ……」

「コマリに気でも遣っていたか?」

 

 立食パーティーが続くなか、スウェアは血液のジュースで乾いた喉を潤す。

 テラコマリの前では飲むことは極力避けていたためカレンの言う通りではあるのだが、言葉に出されると微妙な気持ちになった。

 

「そりゃ目の前で嫌いなもの出すわけにいかないだろうに……」

 

 スウェアにも吸血鬼特有の吸血衝動はあるし、吸血鬼としては何よりの栄養にもなる。

 完全に断つことは出来ないこともあって血を飲むのは基本的にテラコマリが居ないところでしていた。

 

「学院に籍を置いていた時は、メイドが、美少女が、と宣っていた割に美少女の前では随分奥手なことだな」

「やかましい……あの仮面恥女」

「とんでもない名前を付けるな。一応来賓だぞ」

 

 もう一杯血液のジュースを手に取ろうとすると、先ほどスウェアのところにも来ていた仮面の女がテラコマリと歓談していた。

 何となく、何処かで見た覚えがあるのだが、どうにもスウェアの記憶の中には存在しない人物であるらしい。

 

「気になるか?」

「……ちゃんとした同年代の友達くらい自力で作ってほしいな。と、少しだけ」

「それはもうただ肉親の心境ではないか?」

「それはそう……まぁ、心配しなくても勝手に一人くらいは出来るだろ」

 

 学院時代の同期にヴィルヘイズも居るには居たが、二人の様子をスウェアが見る限りではお互い見知った仲ではないことは分かる。

 ずっとそうだった訳ではないけれど、テラコマリが寝ている時に魘されて泣いているところも見たこともあるスウェアにとっては、立ち直りつつある彼女の姿が嬉しい。

 

「……いや、違うな。テラ子っ!」

 

 仮面の女が仮面を外すと見覚えのある顔が出てきた。女の名はミリセント・ブルーナイト。三年前にテラコマリのイジメの主犯で、公的には学院襲撃事件を引き起こした犯人とされている人物。

 そんな彼女が銀色のナイフをテラコマリに突き立てようとしていた。

 ナイフが目に入ったスウェアの行動は迅速で、進路上にあるテーブルを飛び越え、テラコマリを突き飛ばして無理矢理身代わりになる形で庇う。

 

「ぐ、っぎ……っ!?」

「あーらら、皇子様に当たっちゃったわね? まぁ、でも、六国新聞で雷帝の再来とか言われてる位に強いんだからこんなもんで死ぬわけないでしょう?」

「いってぇ……それ、神具、だな?」

 

 腹部にナイフが刺さっているが、逃がさぬようにミリセントの服を掴むものの、彼女がナイフを傷口を広げながら抉るとその痛みで手を離してしまう。

 傷口がすぐに再生される気配もない。スウェアはその特性からナイフが何らかの神具であることを見抜く。

 そして、そんな物を皇帝主催のパーティーに持ってくるような組織の名前は自然と絞られてくる。

 

「逆さ月……だっけ、か……あー、昔お前のことかわいいとか言ってた、俺、見る目、ねぇな」

 

 出血によるショックで意識が飛びそうになるのを気合いで耐えるが、その場に座り込んでミリセントを睨むことしか出来ないスウェアは、ラペリコ王国兵百人を相手にした時以上に命の危険を感じていた。

 

「……ぁ、ぇ……す、スウェ、ア?」

「コマリ様、離れてください。危険です」

 

 すぐにでも死んでしまいそうなスウェアと三年の時を越え、また自分を傷付けようと現れたミリセントのせいで、テラコマリは恐怖と絶望で頭がおかしくなりそうになり、震えることしか出来なかった。

 そんな動けないテラコマリと死にかけのスウェアの前に立つヴィルヘイズも死ぬつもりはないが、無傷のままこの場を切り抜けられる自信はない。

 

「……つまらないわね。聞きなさい、テラコマリ。呆気なく終わらせるつもりはないわ。アンタの全部を奪ってやるから……そうやって震えて待ってなさい」

「──ちっ、空間魔法か……時を稼がれたな」

 

 カレンが遠距離から放った雷撃がミリセントの眉間を貫く前に、空間転移の魔法で逃げ切られてしまった。

 二次被害で何人かの死人が出たが、気にしている場合ではない。

 

「立てるな? ドラ息子よ」

「へ、スパルタ、すぎやしませんかね……? 母上」

 

 スウェアは口では悪態をつきながらも、傷口を手で抑えて立ち上がろうとするが、痛みに耐えきれずその場に倒れる。

 

「……い、いや……スウェア……おまえ……」

「……あぁ……やっべ……テラ子、居るんだった……」

 

 今になって自身がその身を挺して庇ったテラコマリの安否を確認したスウェアは、彼女が自分の血と突き飛ばされた際に頭から被ったパスタまみれになっているのに、深刻そうな顔をしているのを見て、なんだか可笑しくなって笑おうと瞬間に吐血してしまう。

 

「スウェア! スウェア……! 死ぬな! 死んじゃ……いや……!」

 

 魔核が有る限りどんな傷を受けてもしなない。

 そもそも戦争でも大きな怪我をすることもなかったスウェアが、今、テラコマリの腕の中で命が冷えていく。

 自分の中で彼の存在が大きくなっていたことを感じる暇もないほどテラコマリは取り乱していた。

 

「やはり、内通者の線が一番大きいだろうな……まぁ、良いか……どちらにせよ──」

「お言葉ですが、養子だとしても、ご子息が死に掛けているのにえらく冷静なのですね」

 

 カレンはスウェアを放置して事の分析を始めていて、それを見たヴィルヘイズが無礼を承知の上で彼女の言葉を遮る。

 他人の家庭の事情ではあるが、流石のヴィルヘイズもここで黙っていられるほど冷血ではない。

 

「あぁ、君には朕とドラ息子の関係は説明していたけれど、こやつの役割は説明していなかったな」

「役割……?」

「テロリストの炙り出しだ。

 コマリを七紅天にし、新進気鋭の将軍として売り出した後に、ドラ息子が皇族として名乗りを上げさせる。

 それに刺激されたテロリストが尻尾を出したところをコマリが叩くことが目的でね。

 正直、こやつの生き死にはどちらでも良いのさ。安心してくれたまえ、これは合意の上の計画だ。生きていようが死んでいようが、話題性としては極上だ」

 

 これも、ミリセント・ブルーナイトが逆さ月に加入している前提だがね。と付け足して淡々と語るカレンの表情にはまるで息子を心配する色などなく、そこにはムルナイト帝国皇帝としての冷たい色しかなかった。

 

「……おい、どういうことだよ……スウェアは、スウェアは……」

「……一度お屋敷に帰りましょう」

 

 ここでカレンに異議を申し立てても意味がない。

 むしろ、下手に歯向かえば処刑することも可能な皇帝という立場は分が悪すぎる。

 立てそうにないテラコマリを抱えてヴィルヘイズはその場を跡にして、一度彼女を休ませるのが得策であると考える。

 

 四日後、ヴィルヘイズはガンデスブラッド邸のテラコマリの部屋を訪れていた。

 

「……コマリ様、失礼致します」

 

 今のテラコマリの部屋はあちこちに本が散乱していて、足場にも困るほど散らかっていたが、部屋の一角だけが綺麗にされたままだった。

 その場所にある物は、ヴィルヘイズとしても気になりはするが、主人の許可無しに漁る訳にもいかない。

 

「コマリ様、落ち着きましたか?」

「……ヴィル」

 

 ベッドの上の毛布がもぞもぞと反応していて、自棄になって家を飛び出していないことにヴィルヘイズは安堵しながらテラコマリに優しく語り掛ける。

 

「……軍曹、いえ、スウェア殿下……彼ならスウェアで良いと言いそうですね。彼は無事に一命を取り留めました。

 魔核がもたらされ衰退してから久しい現代の医療からしたら奇跡だそうです。一緒にお見舞いに行きませんか?」

「……いやだ」

 

 断られてしまった。

 未だに意識は目覚めず、絶対安静の状態が続いてはいたが、今朝から見舞いが解禁されたにも関わらず、カレンすら顔を出していない。

 少なくともテラコマリが顔を出すくらいはしても良いだろうと思ったのだが、彼女は気分ではないらしい。

 

「……三年前、私にその時の記憶はないけど、ミリセントに殺されそうになった所を、スウェアが助けてくれて……その後も、学院を辞めてまで私の面倒を見てくれたんだ」

 

 推定テラコマリの頭部をヴィルヘイズは撫でながら、弱々しく言葉を紡ぐ彼女の話を聞く。

 

「……だから、第七部隊にスウェアが居た時……結構嬉しかった……でも、それは私を持ち上げるために変態皇帝が仕組んだことで……私が引きこもりで、ダメな吸血鬼だから……あんな大怪我させる羽目になったんだ……あの時、すごく胸が苦しくて二度とあんな気持ち味わいたくない……だから、もう外には出ない」

「……はぁぁ」

「……嘘でも慰めてくれるとこだろ」

 

 三年間も一緒に居たのに、そもそも嫌いな戦争に参加している時点で気付いて然るべきなのだが、それにすら気付いていないテラコマリにヴィルヘイズは思わず大きい溜め息を吐いてしまった。

 

「前置きとして、私の話も聞いてもらってよろしいですか? まぁ、拒否しても聞かせますが」

「なんだよ……」

 

 弱音を吐くばかりのテラコマリの話を聞く気はないと言外に自分の話を始めるヴィルヘイズは今の今までずっと秘密にしてきたことを打ち明ける。

 

「私は実はストーカーをしていました」

「知ってるよ」

「……まさか、コマリ様も授業をサボって彼の着替えを物色しようと……?」

「ねぇよ!」

 

 先程までの重たい空気は行方不明になってしまった。

 




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