視える人 作:mk
この世界がゲームだと俺だけが知っている。
ネット小説でよくあるテンプレ転生だ。
手違いで人を殺した畜生神に会う事も無く、何の説明もないままに、生まれた時からウマ娘のステータスが見える能力が備わっていた。
しかしながら、ウマ娘も居なければレース場もない糞田舎に生まれた俺は、死んでも治らない生来の陰キャ気質と怠惰さも相俟って、ウマ娘にもレース業界にも特に関わりの無い人生を歩んでいた。
ウマ娘世界に転生してステータスも見えるなら当然トレーナーを目指す?
バカを言うな。あんな努力だの限界を超えるだの言う連中が蔓延るトレセンの空気なんて吸っただけで具合が悪くなるに違いない。それにトレーナーなんてものは、担当ウマ娘の夢を叶えるために私生活の全てを捧げて寄り添うハイスペスパダリみてーな奴がやることだ。んなもん物語の主人公様にでもやらせておくもんだろ? いや、何でトレーナーが主人公なんだよ。ターフの主役はウマ娘だろうが、トレーナーはすっこんでろ(唐突にキレる十代)
そもそもお前なんかにゃ難関資格なんて取れないとか女児に関わると通報されそうだとか色々言われそうだが、そんなことは言われなくても自分が一番わかってる。それよりも重大な要因があるのだが、まあ、今はよそう。どうせすぐに分かる。
そんな俺は家から近いというだけで選んだ高校に入学し、毎日ゲーセンに入り浸り音ゲー三昧の日々を過ごし、学業では理数系で人生二周目のアドバンテージを生かして好成績を確保し、再履修の地力でそこそこの点を取って、大学は地元の国立に潜り込めれば万々歳といった雑過ぎる高校ライフを送っている。
チート能力と競馬知識なんぞ持っていたところで学友とのレース予想の賭けでジュースを巻き上げるくらいしか使い処さんがない。
ギャンブルさえあれば、馬券さえ売ってればそれで生計が立てられたのに。許せねえぜURA!!!
そんなこんなで俺は、現在、修学旅行の東京観光とやらでバスに揺られているのだった。
「見ろよ、流石東京! ウマ娘だ!」
「あの子もトレセンの子かな」
「すげえかわいい!!」
学友達が窓に張り付いてエキサイトしている。
自分も釣られて窓の外を見遣ると、歩道を移動しているウマ娘のアニメで見慣れたネームプレートが見える。
ネームプレートだけが見える。
……通行人や街路樹に隠れているとかではなくネームプレートだけが見える。
生で見てもダメかよ畜生!
そう、俺にはウマ娘が人型ではなく、アニメでウマ娘の横に表示されていたネームプレートに見えていた!!
オ、オブジェクト表示バグぅ~~~ッ!!!
この認知フィルターの所為で生まれてこの方ウマ娘の姿を拝んだことがない。
ウマ娘に興味が無いのはおかしいだぁ? 外見表示枠のSCPにどんな感情を抱けって言うんだ。
レースを見た所で勝負服? 服を着てるかも分からん。声だけしか分かんねえよ……ウチの学校にウマ娘が居なくて本当に良かった。居たら絶対にどこかで事故が起きて村八分にされる原因になってたと思う。
初めてレース中継を見た時の衝撃は未だに忘れられない。
ネームプレートだけがターフの上をスライドしていくレイヤー設定ミス感しかないシュール過ぎる光景に人々が熱狂している絵面といったら、ネットでバズった動画を無断放送する質の悪い番組がMADを垂れ流してるとしか思えなかった。
俺が頭を抱えているとバスが減速し駐車場に停車する。
「休憩時間だ、トイレに行きたい奴は今のうちに行っておけ。1時間後の集合時間までには戻ってくるように」
引率の教師が気だるげに指示すると生徒たちがぞろぞろと降車していく。
自由時間か。ならば音ゲーマーが成すべきことは一つ。
「ちょっと抜け出してゲーセン行ってくる(使命感)」
「東京に来てまで何故ゲーセンに……一体何がお前を突き動かしているんだ……」
「ENDYMIONが俺に逃げるなと囁いている」
⏱
Foo~、満足したぜ。
都会は同じゲームの筐体が何台もあって待ち時間が少ないのは素晴らしかった。地元だと並んで待ってるだけで時間切れになってたかも分からん。
「ウマ娘人口0の糞田舎と比較するのもアレだが、府中は其処等中にウマ娘が居るな。こわ、今後は近寄らんとこ」
画面を通さないリアルの視界にネームプレートが蠢いてると思いのほか精神衛生上よろしくない。SAN値削れそう。
それにしてもウマ娘がDDRやると筐体の上でガタガタネームプレートが揺れてたのシュール過ぎたな。
プレーを見た感じだと割と視覚情報と当たり判定がズレてるから近くに居たら物理的に距離を取らないと危なそうだ。事故のリスクファクターを確認。ヨシ!
さて、集合時間まであまり余裕もないし早く戻らないと。
「ぅおっと、アッ、スイマセン」
考え事をしていたら早速通行ウマ娘とぶつかりそうになってしまった。慌てて避けて謝る。なにがヨシだ。
「待ってください! 貴方、見えるんですか!?」
どことなく聞き覚えのある声に振り返ると、其処にはネームプレートが居た。つい名を小声で読み上げてしまう。
「サンデー、サイレンス?」
「今、何て言いました?」
迫真の声色と共にプレートの脇からもう一枚のプレートが現れる。
影になって二人居たのが見えてなかった。こっちが声の主だ。
そのウマ娘の名は――
【マンハッタンカフェ】
「貴方絶対におともだちが見えてますよね!?」
「すいません集合時間に遅れるので」
俺は全力で逃げ出した。
⏱
何とかバスまで逃げ込むことができたぜ。
ありがとう都合のいい信号。お前がいなければウマ娘相手に逃げ切ることはできなかっただろう。神に感謝。信号 is god.
クソっ、なんということだ。ヤバイ奴に眼を付けられてしまった。それもただのヤバイ奴じゃない、トレセンのオカルト担当、マンハッタンカフェだ。
まさかおともだちとかいうオカルト存在も普通のウマ娘と同じに見えるなんて想定してねえよ。どうなってんだよこの目はよぉ。
オカルトは、まずい……なんといっても対処の手段がない。
リスク管理の観点からすると物理だけ警戒して防御すればコントロール可能な分、あの狂気のメァッドサイエンティスト、アグネスタキオンの方が遥かにマシとしか言いようがねえ。
アプリだと命の危険がマッハな怪異とか出てたじゃねえか。俺は巻き込まれたくねえぞ。
私事で旅行に来たんなら今すぐ逃げ出せるんだが、学校行事だから勝手に帰るわけにもいかねえ。どうすんだよこれ。誰か助けてくれ。
「……逃げられましたが……制服は覚えました……絶対に捕まえてみせます」
次回、『田舎民は地元に店が無いから都会に来るとチェーン店に行く(ラーメン屋編)』に続かない。
主人公のヒミツ:本人も知らないが世界でただ一人人型に見えるウマ娘がいる。
その娘はハリボテエレジーっていうんですけど。