視える人   作:mk

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case2.俺は面倒が嫌いなんだ

というわけでやってまいりました。

 

☆ 東 京 レ ー ス 場 ☆

 

いや~、人間もウマ娘も蠢いていらっしゃることで。人がゴミの様だ。

是非ともバスの中で待機していたかった。

 

「修学旅行でレース観戦とはウチの学校も分かってるよな」

「とはいっても今日は重賞とかない日だけどね~」

「知ってる東京レース場と違う。思ってたより人が疎らだ」

「地上波で中継してるのはGIだもんね。重賞でもないとこんなもんだよ」

「それでも地元基準だと人口密度高いな」

 

俺はな~んも楽しい要素がないけどな。お前らという駄弁る相手がいることだけが救いだよ……おっ、この焼きそば美味いな! 東京レース場最高!!

 

観戦のために事前に生徒の人数分座席を確保しているということもないので、各員が散らばって好きな場所に陣取ることになる。俺達はとりあえずパドックへ向かった。

 

パドックでは出走ウマ娘達が交代でパフォーマンスを行っているらしい。何してるか見えねえけど。

おお、急にジャージが現れた。もしかしてこれアニメでやってた羽織ってるジャージを投げる奴か!

装備品は一定範囲内までは本体と同一判定っぽいな。人背負ったりしたらどう見えるんだろ。

 

「ダメだパドックの見方何も分からん」

「調査の結果、ウマ娘がカワイイという情報しか得られませんでしたぁ……」

「良いんだ、それこそが最高の成果さ」

 

大仰に芝居がかったリアクションをどうも。お前らが楽しんでるようで何よりだよ。

 

「それで早速だがお前はこのレースどう見る? 」

 

逃げ1、先行3、差し5。ハードコントロールが序盤からハイペース気味に逃げで引っ張り、フリルドベリー、プリスティンソング、ミニデイジーが間を開けて先行集団を形成。残りは後段で構える。短距離適性が低いミニデイジーは中盤辺りから怪しくなって、終盤ガス欠で失速したハードコントロールと一緒に先行と差しを巻き込んで沈む。マヤノトップガンはマークしていたジュエルエメラルドに垂れウマを押し付けて潰しつつ回避するも適性が低いからスペックのゴリ押しでは差し切れない。プリスティンソング、フリルドベリー、マヤノトップガンの3連単だ。てかどうしてマヤノトップガンはダートの短距離に来てるんだよ。あいつの適正芝の中長距離だろ。あ~、脚に問題抱えてるから負担の少ない馬場と距離を走らせてんのか? これもう分かんねえな(早口)

 

「だからなんで初見で脚質まで予想できるんだよ」

 

なんで分かるかってステータス画面さんに表示されてるからとしか。

アプリの時から謎だったんだが、出走前から他の出走者の作戦分かってるのは何なんだろうな。事前に「私は先行策で行く」とか「差し切って勝つ!」とか宣言する風習でもあるんだろうか。そうでもないと相手の性能だけでなく作戦含めて手の内全部露わになってる解析能力とか怖すぎではなかろうか。トレーナーはすごいなあ。ぼくにはとてもできない。

 

「私は4番の勝利にコーラ1本賭ける。なぜなら顔が好みだから」

「では9番のぶっといフトモモに1本賭けよう」

「ブルマに乾杯!」

 

お前らもうちょいまともな理由はないのか。

 

「だって事前情報何もないし」

「知ってる名前が一人もないもんな」

「よりにもよって未勝利とオープン戦以下のみの日だぜ? もうちょい何とかならなかったのか」

「盛り上がりに欠けるよね」

「そこはあれだよ。GIの日とかだと人が多過ぎて集団観戦なんて現実的じゃないし、ホテルとかも便乗値上げするから予算とか大人の事情がですね……」

「修学旅行は我々クソ田舎の住人に、地元に住んでたら一生縁がないようなことを経験させるためにやるものだからね。GIとかTVで放送してるから自分達だって見てるし、わざわざ宿取って観戦に行く人だってそれなりにいるでしょ? でも、こういった日は近隣に住んでもないと来ないから、むしろこちらの方が理念としては適してるとも言えるのかもしれない」

「出生地による文化資本格差を感じる」

 

いいかお前ら、お前らは重賞だのなんだの言ってるが、そもそも重賞は特別なレースなんかじゃない。俺達がゲーセンでコインを入れたら、目の前の相手に勝つことだけに全力を注ぐように、どのレースも負けられない特別な戦いなんだ。全てが特別であるが故に、逆説的にGIだろうと特別でないただの1レースに過ぎないんだよ。つまり毎日がエブリデイ。

 

「クソ音ゲーマーと神聖なレースを一緒にするな」

「お前ウマ娘に興味が無いって言うくせに急に意識高い正論吐く時あるよな」

「つーかお前ウマ娘の誰を見ても名前間違えたこと一度もないよな。レースでも番号じゃなくて名前で呼ぶし。これで興味ないは絶対嘘だろ」

 

不味い。認知フィルターでゼッケンが見えないから名前で呼んでるだけなのに勘違いが発生している。誤解を解かねば。

 

「前にも言ったが小娘に興味はない! 俺は年増のデカ乳が学生服や体操服を着て限界感を醸し出してる姿に興奮を覚えるんだ!!!」

 

周囲から音が消えた。

全方位から針のような視線が注がれている。

冷汗が噴き出す。

ヤバイ、やらかした……

 

「へへ……久々にキレちまったよ……外に行こうぜ。修学旅行で浮かれるのは理解しなくもないが、公共の場で騒ぐのもレース前のウマ娘達の心を乱すのもNGだ。お前は説教な。こっちに来い」

 

俺は教師に襟首を掴まれ退場した。どうして……

 

 

やっと解放された。酷い目にあったぜ。

まあ俺がレースなんざ見ても仕方ねえから戻らなくても別にいいか。後はライブが終わるまで適当に人気もといウマ気のない所で時間を潰しておくか。

 

 

「×××××× ××××××××!!」

 

「ぬおわっ!」

 

手頃なスポットを探して辺りをふらついていると、急な怒鳴り声に驚き変な声をあげてしまった。

この声は聞き覚えがある。こいつの名は――

 

【ゴールドシチー】

 

なにやら一人でエキサイトしているゴールドシチー(エキサイトシチーと呼ぶべきか)がキレ散らかしてる現場にバッタリ出くわしてしまったみたいだ。うわめんどくさっ。

 

「……な、何よ」

 

周囲に人が居ない場所を選んでいるあたり、流石に他人に見られたくはなかったようだ。ばつの悪そうな声色をしている。俺だって見なかったことにして回れ右してえよ。リテイクしません? 無理?

間合いを窺いながらゴールドシチーを注視するとステータス画面さんが発動した。

 

【ゴールドシチー】絶不調 肌荒れ・夜ふかし気味・片頭痛・練習ベタ

 

なぁにこれぇ。

 

こんなバステの山、アプリでも見たことねえよ。たまげたなぁ。

 

「その……大変興奮しておられるご様子ですが、ひとまず落ち着いて保健室……病院に行った方が良いのではないでしょうか」

 

「アンタ喧嘩売ってんの!?」

 

シチー、キレた!!

 

バッドコミュニケーション!!

 

 

なんやかんやで先ほどのエンカウントから延々とコイツの愚痴を聞かされ続けている。ギャルは話が長いぜ。

 

「本当にどいつもこいつも容姿ばっかり見て、レースなんだから走りを視なさいよ!! レースも見ずにこんな所うろついてたアンタも連中の同類なんじゃないの!?」

 

そんなに顔で評価されるのが嫌なら勝負服にレスラーマスクを採用してみてはいかがだろうか。

 

「自分はレース場に来るのは今日が初めてなもので、ついレースが始まる前からエキサイトし過ぎて追い出されまして(嘘は言ってない)」

 

「アンタはアンタでなにしてるのよ……」

 

申し訳ないが本当はレースだけでなくライブも見る気が無いんだ。

この世で一番ウマ娘の顔に興味が無いのは俺だと思う。これだけは真実を伝えたかった。

 

ここで「そもそもウィニングライブ制定以降のトゥインクルシリーズは、ビジネスモデルからすると実質アイドル徒競走だから、主に容姿が注目されるのは仕方ないのではないか」などと言ってみたくもあったが、ハチャメチャに面倒くさいことになるのが目に見えているから自重する程度の自制心は俺にもある。これが社会性ってやつか。

 

こいつさっきからレースは顔じゃなくて走りを評価しろって繰り返し言ってるけどよぉ、お前それウマ娘ってデカい主語使って他人事みてえに言ってるだけで全部自分のことだろ。ゲームやってたから知ってんだぞ。俺は詳しいんだ。しかも話の内容が何周かしてループに入ってる。新年の集まりで酒に呑まれた酔っぱらいの親戚かよ。

 

いや、いくらなんでもこんなのゴールドシチーが初対面の相手にする事じゃないだろ。やべーよ、どんだけメンタル悪化してるんだよ。どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。トレーナー仕事しろ。教えはどうなってんだよ教えは。

 

でもまあそれはそれとして話を聞き流しつつ適当に相槌打つのも面倒になって来たな……なんか適当な事を言って切り上げるか。メンタルケアはトレーナーの仕事であって俺には何の関係も無いからな(カスの思考回路)

 

取り合えず意想外の不意打ちでSTAGGERを狙うか。

 

「――神話の御世にあって、神とは即ち力のことである」

 

「急に何を……」

 

「もはや言葉は不要。強いものが勝つ。強いやつは正しい。勝利という暴力で殴って黙らせるべき」

 

ヨシ。会話の暴投のスピード感に付いてこれてない。行けるぜ。リンクス怒りの決闘裁判。

 

「ウマ娘は走るために生まれてきた。誰もが生きるために戦っている。求めるものは最強という名の称号」

 

こういうのは勢いが大事だ。勢いだ、勢いで押し切ろう。

拳を掲げ、語気を強める。

 

「火をつけろ、燃え残った全てに。その意志が、全てを変える。この戦いの向こうに、答えは有る」

【ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON 大絶賛発売中】

一方的に言い終えると背を向ける。

相手が思考停止に陥っている間に立ち去ろう。身体は逃走を求める。

……頼むから追いかけてきたり質問とかしてくれるなよ。何言ってんのか聞かれても答えられねえから。

どうせ府中なんてもう二度と来ねえし今後の人生で会う事もないだろ。この場さえ抜け出せれば後から何と思われようと知ったことじゃねえぜ。アディオス!




主人公:音ゲーマーはほんもぁおかしいので当然こいつも異常者。能動的にウマ娘関係の情報を調べたりしないので今世のレースの戦績とかには疎い。

ゴールドシチー:『やめる』と言ってしまったゴールドシチー。今日はパーカーとコクーンスカートにサングラスとマスクの不審者装備。戦績と世評が原因でメンタルを崩し、レースから退いたら更に悪化した。まだトレセンに在籍している。
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