視える人 作:mk
というわけで今日はラーメン屋に来たぜ。
田舎と違って東京はラーメン屋も小洒落てるな。まるでテーマパークに来たみたいだぜ、テンション上がるなあ~。
「いらっしゃ……!???」
店に入るなり店員が二度見してきた。まあ無理もない。
タイガーマスク被った学生が突然来店すればなあッ!!
しゃあっ! 虎や、ワイは虎になるんや!!
これなら万が一マンハッタンカフェにエンカウントしても問題ない。顔を覚えられていても隠せばいい。実に完璧な作戦だ。
マスク被った奴がノリだけで仲間に受け入れられるのは学生ならではのテンションだな。
着席すると人数分注文する。ラーメンが待ち遠しいぜ。ククク、ラーメンはビタミン、ミネラル、タンパク質、そして塩分が含まれている完全食だァ。
待っている間に駄弁っていると俺が不在中の昨日のレース場の話になった。
「見ろよ昨日の写真、良く取れてるだろ?」
「ソウダネ」
その写真、ただのアップじゃねえ、ド級のアップ過ぎてネームプレートの『マ』しか映ってねえよ――チャンと撮れてるのか判断材料が全くない。流石に構図すら分からんと曖昧な笑みを浮かべる以外のリアクションが取れねえ。
「二名様来店です」
店員が来客を告げるのに続いて、控えめな声量なのに不思議と耳に通る声が店内に響く。
「ここよ、このお店に来てみたかったの」
「私も初めて来るわね」
こ、この高貴さと無邪気さを兼ね備えた御声と未婚の未亡人めいた声はもしや……
【ファインモーション】【メジロラモーヌ】
なんか普通に一般人が下手に関わったら危なそうな人たちが来てしまった。
やべーよ。変な事したら外交問題になりかねない人じゃん。
権力、怖いぜ。へへ、震えてきやがった。
「ラモーヌさまだ……」
「隣の人も上流階級のオーラを感じる」
「可憐だ……」
こいつら誰も気付いてないのか。その御方王族だぞ。
ニュースとかで報道されてないの?まさかまだお忍びで来日してるだけでトレセンに留学してないとか?
もしかして外にはSPとかいるんだろうか。怯えながら壁越しに外の光景を想像していると、突然床に生えた【ピッコロ|のネームプレートが店内を移動し始めた。えっ居るの!? 床下に??? ピッコロさん(仮称)が!???
「どうしよう、ラモーヌさまにサイン貰いたい」
学友が寝言を言い出しやがった。
声を潜めて警告する。
「おい、ジロジロ見るな。決して目を合わせるんじゃないぞ」
「お前はウマ娘が熊か何かにでも見えてるのか?」
熊相手に粗相しても外交問題に発展しないからむしろ熊の方がありがてえんだよなぁ。
お前があの二人に接近しそうな発言してから床下貫通したネームプレートがお前に重なって見えてんだよ。ぜってえマークされてるんだよ。あいつら学園の生徒相手でも容赦しないんだぞ。況や部外者の俺達をや。
近付くのを止めたいが、一般人に顔を知られてないっぽいのに自分だけ知ってるとツッコまれかねない。身分に言及せずに説得しねえと。
「ほら、あれだよ。モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか、救われてなきゃあダメなんだ。独りで、静かで、豊かで……」
「じゃあなんで俺らと一緒に店に来たの?」
今はそういう話してねえよ。
「でも確かに向こうも『分かってるじゃない……』みたいな頷き方してるな」
アカン、聞かれてた。俺は目を付けられたくないんだ。認知しないでくれ。
「ご注文の品です」
ナイスタイミングだ店員。これで自然に流れを断ち切れる。
「伸びる前に早く食べようぜ」
「おっそうだな」
カロリーに飢えた高校生の身体は貪るようにラーメンを胃の中に流し込んでいく。
「トッピングの野菜はシャキシャキとした歯ごたえと噛むたびに舌に沁みわたる味が素材の良さを窺わせる。たぶん洋物の知らない野菜だけど。スープに漂う香りはおそらくブーケガルニ。フレンチの手法だな。具体的に何の素材を使ってるのか分からんけど。麺のうどんの様な食感はヒトウマ娘を問わず顧客の幅広い食べる速度に対応できるように加水率を上げて伸び辛くしているのか? 知らんけど」
「食レポしてみたけどほぼ中身のあること言えてない悲しさよ」
「一般消費者は美味いということだけ分かれば問題ないさ」
確かに美味いけど貧乏舌にはちょっとお上品過ぎてパンチが足りてない気がしてきたな。味変するか。
「『マイ調味料! そういうのもあるのね!』って顔でこっち見てるぞ」
クソッ、どうして俺は殿下の前で鶏油なんか入れてしまったんだろうな……
地元で見かけないから勢いで買っちまったのが駄目だった。おまけに某インスタント麺めいた風味が調和を台無しにしている。本当に何で入れてしまったんだ。
思わず顔を覆う。そして気付いた。この手触り。
レスラーマスク被った不審者が居たらそりゃ目立つよなぁ~~ッッ!!
そっかぁ、マークされてんのは俺かぁ……
何が完璧な作戦だよ。副次的な被害が大きすぎるじゃねーか。今更外しても手遅れだし顔を見られるから外せねえ。俺はもう虎として生きていくしかないのかもしれない。
己の乏しい知性で保身を気にかけているような奴だから、こんな獣に身を堕とすのだ。
胸中では堪え得ざるが如き悲泣の声が洩れた。
主人公:アイルランド王室SP不審者リストに記録される。店内の二人に声を聞かれてしまったが顔は割れてないから今後出会うことがなければ大丈夫だろう。
メジロラモーヌ:主人公がSPの存在に気付いてることに気付いている。
ファインモーション:日本って面白いのね。