視える人   作:mk

4 / 8
case4.ここがあのイルカのハウスね

ぱかプチを抱えた二人のウマ娘が雑踏を歩いている。

 

「いや~、テイオーさんのぱかプチ貰えて良かった~。ゲームセンターを何件も回ったのにどこにも置いてなくてもう諦めそうだったよ~。ダイヤちゃんもマックイーンさんのぱかプチ貰えてラッキーだったね」

 

無邪気な笑顔で語り掛けるキタサンブラックとは対照的にサトノダイヤモンドは硬い表情で考え込んでいる。ふと立ち止まると口を開いた。

 

「やっぱりおかしい」

 

「ええっ!? まあ、あの人変な被り物してたし、頑なに私たちに目線を合わせようとしなかったけど、私の夢とサトノ家の悲願の話も『あんたらが駄目なら誰がやっても駄目なんじゃないかな……』って実質全肯定で後押ししてくれたし、ぱかプチもくれたし悪い人ではないと思うよ?」

 

おかしい人であることは特に否定してないフォローを聞き流すと、サトノダイヤモンドはスマホを取り出し通話を始めた。

 

「――はい、その店です。通路側の筐体を調べてください。ええ、ぱかプチの筐体全てです。それでは」

 

キタサンブラックは親友の唐突な行動に困惑気味に問う。

 

「ダイヤちゃん?」

 

「あのクレーンゲームはああも簡単に景品が取れるように作られてない」

 

「単純にすごく上手なだけじゃないの?」

 

「ううん、あの筐体は同じ物が家にあるから分かるの。店員のミスでテスト用の設定になってるか――さもなくば、メーカーが把握してない未知の不具合を利用されてる可能性がある」

 

もしそうなら全国的なリコールが発生するかもしれない。由々しき事態ね。

そう語る表情は、まるでいずれ訪れるサトノグループゲームセンター事業撤退の運命を覆す使命を背負っているが如き、小学生には似つかわしくないものだった。

 

 

 

 

「うぁぁぁ、ぱかプチを両脇に抱えた学生が歩道を練り歩いてる」

 

うーむ、ホイホイぱかプチが取れるから調子に乗って取り過ぎてしまった感ある。

入れ物がないからぱかプチを抱えて歩くアホの集団が出来上がってしまった。

その辺に居た人に配ってもこれだと流石にやりすぎたな。反省反省。

お菓子とか他の景品は全然なのにぱかプチだけ異様に簡単に取れたのアプリ版ゲームの仕様が適用されてる説あるのでは? もっと実用的なチート能力が欲しかった。

 

「それにしても全員が全員ゲーセンが視界に映った途端吸い込まれるように建物に入ってしまったの他人のことが言えないだろ」

「何故我々は東京に来てまでゲーセンに……」

「ゲーマーの性だよ仕方ない」

「イルカショーの時間には間に合うしへーきへーき」

 

乗るしかない、このドルフィンウェーブに!

というわけで本日のメインイベントは水族館だ。イルカと聞いて歩いてきました。

 

入場料を支払うと案内板に従って館内を進む。多種多様な魚が泳ぐ水槽がお出迎えだ。

うぉ、でっか……水圧とかヤバそう。こういうクソデカ水槽を見るとガラスが割れた時の事考えて若干不安になる。厚さ何cmあるか知らんけどウマ娘パワーで殴ったら壊せるんじゃないかとか考えてしまうな。たぶんカワカミならいけるし。

 

「おさかなさんがいっぱいだ~。海鮮丼食べたい」

「食料と飼育生物、どうして差がついたのか……慢心、環境の違い……」

 

海産物を鑑賞しながらイルカショーの会場へ向かっていると、ふとデジャヴを感じた。

なんだか初めて来た場所のはずなのに妙に既視感があるな。

ああ、そうか。ここは例の水族館だ。

なんというか前世にゲームで見た光景に触れると記憶に溺れそうになる。

前世でも実在した東京競馬場で実際にウマ娘が走っている姿よりも、ウマ娘が居ない架空だった場所の方が心にくるものがあるな。

俺にとってのウマ娘は、記憶の中にしか存在しないからな……

 

「ちょっと写真撮ってく」

「じゃあ先にイルカショーの場所に行ってるわ」

「あんまり遅くなるなよ」

 

少しセンチメンタルな気分になってしまった。普段は写真なんてゲームのリザルト画面くらいしか撮らないのにな。

先行する学友たちを見送ると、スマホの画面を見ながら構図を再現する位置を探す。

もうちょい後ろか。

後退ると背中にドンと軽い衝撃が当たる。

 

「きゃっ」

 

「ご、ごめんなさい!!! お怪我は、お怪我はございませんか!?」

 

ああああ!! 不注意で人にぶつかってしまった。こんな撮り鉄紛いの行為で他人に危害を加えてしまうなんて何たる失態か。どうして後方の安全確認をしなかったんですか?

振り返った先に居たこのスク水が似合いそうな女は……桐生院! 桐生院トレーナーじゃないか!?

おお、前世から知ってる顔、ウマッターで流れてきた乙名史記者エキサイト記者会見強制退場まとめ動画以外で初めて見た。

 

「大丈夫です。お気になさらないでください」

 

うーん? なんか沈んだ顔してんな。ホントに大丈夫なのか?

 

「その割には浮かない顔をしておられますが、もしかして器物破損とか」

 

「いえ……実は担当ウマ娘に何を贈ればいいか悩んでいまして。お恥ずかしながら、このような経験があまりなくどうすればよいかと」

 

これが若さか。普通に本人に直接欲しい物を聞けばいいのではなかろうか。駄目だから悩んでるのか。となると適当に好きな物から当たり判定がデカそうなものを用意する方向性が無難では。

 

「あの子はゆっくりした物が好きみたいで。でも具体的に何を贈るかとなると……もしよろしければ参考に意見など聞かせていただければ」

 

なるほど、ゆっくりしたものか……

 

「今日はゆっくり解説をしていくぜ」

 

 

 

 

「ナイスネイチャが勝ちパターンに入る条件の「レース終盤以降で順位が3位の時、後ろのウマ娘と約1バ身以内」はシンボリルドルフの「終盤に3回追い抜く」ほどガバ判定とは言わないが3位を後ろから抜いても成立するから狙って達成しやすいぜ。キングヘイローの「掛かり無く残り200m地点で順位が5位以下かつ全体の6割以内」とかいう面倒な条件に比べると簡単に感じるな。意識的に狙うなら先行策を取るよりは中団に構えて潤沢なマナソースでデバフを撒き盤面をコントロールして差しに行く戦術が望ましい。本人はパワーとタフネスに優れる大型クリーチャーで殴りたがっているのだろうがアイツは青黒コントロールとかパーミッションデッキを握るべきなんだぜ。つまりナイスネイチャをシンボリルドルフにするのが有効な構築なわけだぜ」

 

「あなたは一体何の話をしているんですか?」

 

何って、ゆっくりの話をしただけだが?

まったく、ネイチャ先生の何が不満なんだ。同意を求めて視線を横に向けると一般通過商店街もそうだそうだと後方腕組みで頷いておられる。

これだから良い所の箱入り娘は話が通じなくて困る。まあ、おまえじゃわからないか。この領域の話は。ん? ちょっと待てよ。

あああああああああ!! 忘れてたああああ!

悲報、異世界転生したらゆっくり解説が無かった件について。

これは俺が『東方を知らないゆっくり霊夢に東方projectを解説するゆっくり魔理沙』とかいう謎ゆっくり解説動画を作るところから始めないといけない系か? タローマンかよ……もう全てが面倒になってきたな。

 

「ゆっくりしたもの……なんかもうクラゲとかで良くないですか?」

 

へへへへ、牡蛎にはもう用はねぇ。カジキも必要ねーや。

 

「急になげやりになりましたね」

 

だめぇ?

 

「じゃあ逆張りで速いものを用意しましょう。シンボリルドルフとか」

 

「えぇ……?」

 

「贈り物と言っても物品に拘る必要はないと思います。スポーツ観戦や温泉のチケットなんかは体験を贈っているわけですし」

 

会長、誰も呼んでくれないだけで併走とか誘えば普通に来ると思う。

なんならゴルシが「今ナカヤマと砂場で山崩しやってんだけど面子が足りねーんだ。早く来てくれ会長!! 負けた奴は罰ゲームで今日一日鼻眼鏡な☆」とか言っても時間さえあればマジで来るんじゃないかな。エアグルーヴは切れ散らかすだろうけど。

 

「贈り物で大事なのは相手の事を考えて選択する過程です。結果が的を外していても、互いに思考プロセスを開示すればフィードバックを貰って相互理解が深まりますし、なんなら『では次は二人で選びに行きましょう』に繋げることができます。結局、こういうのは他人に聞くのではなくて自分で考えないと駄目だと思うんですよね」

 

「急に真面目になられると真っ当に参考になる意見をいただいているのに釈然としませんね」

 

『〇〇時よりイルカショーが始まります。観覧を希望のお客様は会場へお越し下さい』

 

む、アナウンスか。話し込んでしまったな。

 

「ではイルカが呼んでいるので失礼しますね」

 

(よし、楽しく話せたな)

音ゲーマーはクールに去るぜ。

担当ウマ娘を放置して他所のトレーナーと二人で温泉旅行に行く遠因になってしまった気がするが気のせいに違いないな。たぶん。

 

 

 

「言いたい放題言って去っていった。何だったんでしょうかあの人は……」




主人公:単語だけに反応して相手に伝わらない話を一方的に捲し立てるのは良くない仕草だよ。ゲームと同様にステータス画面で固有の発動条件を参照可能。ゲームと同じ種類の筐体でぱかプチを取る時にチートが発動することが判明した。

桐生院葵:新人トレーナー。育ちが良いのでレスラーマスクを被ってぱかプチを抱えた異常者が相手でも穏当な対応をする。アイデアロール失敗。

何も知らないナイスネイチャ:領域? 何それ知らない……怖……
何も知らないキングヘイロー:領域? 何それ知らない……怖……


桐生院「ミーク、今日は併走をしますよ!」
ミーク「……トレーナー、相手は?」
カイチョー 「やあ」
ミーク「(白目)」

ハッピーミークの逃げけん制のヒントLvが上がった
先行けん制のヒントLvが上がった
差しけん制のヒントLvが上がった
追い込みけん制のヒントLvが上がった

桐生院に足りない物:担当とのコミュニケーション << 合同トレーニングの相手
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。