視える人   作:mk

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ここからは読んでる人間を全員振り落としていくぞ。


case6.ロンド・ロンド・ロンド

「やっぱりさ~、修学旅行といったら木刀を買うべきだと思うんだよね」

「東京に来てまで何故木刀を……」

「剣道の道具とか売ってる店探せば地元でも買えるのでは?」

 

ちょっと調べてみるか(検索)

……こっちの世界でも秋葉原に武器屋とかあるんだ。

 

「流石東京、なんでもあるな」

「伝説の剣とか売ってるかな?」

「銃刀法に引っかかるだろ」

「ドラゴンソードキーホルダー辺りで妥協しない?」

 

Dragon Blade……いやちょっと待てよ。アレって剣に絡みつくサイズだと龍というより蛇だよな……つまりコブラ・ソードやんけ!?

 

おっと、修学旅行ありがちトークをしていたら目的地に到着したぜ。

眼前に鎮座するは、空にそびえる真っ赤な鉄塔。

 

「ここがトウキョウスゴイタカイタワーか」

 

「東京タワーな」

 

すごく……高いです……

 

「ここ階段で登れるらしいぜ」

 

学友が階段を指差しながらスマホを見せてくる。

 

「ジャンケンで負けた奴は階段な」

「乗った」

 

嘘だろ……前世でハンターハンターを読んでいたのにジャンケンで負けるなんて……

拳が開くのを見切ったのに全員揃って腕を切り替えてくるなんてお前ら汚えよ……

 

「ほら、水分補給を怠るなって公式サイトに書いてあるぞ。飲み物はこれを持っていくといい」

 

敗北に打ちひしがれていると学友が肩に手を置いて声をかけてきた。気遣いが染み渡るぜ。

差し出されたのは、コーラのペットボトル(1.5L)。

 

「そういえばレースで賭けてたな。ってデケェよ」

 

ちょっとまて嫌な予感がしてきたぞ。

 

「私も負けてしまったからね」

「勝者の義務だよ。ありがたく受け取れ」

「8本入りのを買ったからケースもあるよ」

 

押し付けられたのは、合計12キロの……砂糖水……

どこで買ったんだよこんなもん。

 

「さっき通りがかった葦毛の巨乳が売ってくれたぜ」

「じゃあ上で待ってるわ」

「お前も早く来いよ、こっち側へ」

 

コーラを抱えた俺を置いて皆がエレベーターへ向かっていく。

 

「お前ら人の心とかないんか?」

 

まあ負けてしまったから仕方ない。気を取り直してコーラをケースごと背負って紐で固定する。

うーむ、高低差150mの階段、直下から見上げると結構高いな。もっスラとか使いてえ。先に武器屋でクナイ・ダートの一本でも調達しておけばよかったか(有っても無理)。

 

「ま、一言で言うなら……本気にさせたな」

 

音ゲーマーは一曲で相手を倒す(stage failed)。

音ゲーマーとは奏者の事だ。

奏者とは走者、つまりRTAだね。

 

それではトウキョウスゴイタカイタワー外階段上りRTA、はぁじまぁるよー!

 

レギュレーションはシンプルに最初の一段を踏んだ瞬間にスタート、最後の段を踏んだ瞬間にタイマーストップです。

 

早速BGMを選びながら入口へ向かいましょう。

選曲タイムがこんなにも息吹を! 俺のパラノイアはレボリューションだ!!

 

「さて、RTA開始前に少しヒトとウマ娘の走る速度の話をしようと思います。

時速36kmで走るヒトスプリンターの1秒当たりの歩数はおよそ4.7歩。これに対して時速65kmで走るウマ娘はスパート時におよそ8歩弱に達します。ストライド走法やピッチ走法なんかがありますが概ね速度と歩数は比例するわけですね。

 

ところで、音ゲーマーは秒間16ノーツを足二本で処理します。

これが何を意味するか、察しの良い皆さんはもうお分かりですね? それは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――音ゲー譜面製作者は頭がおかしいということです(闇を裂き燈った激昂)。

 

それでは、よーいスタート。

 

初動は全身から力を抜いて重力に任せて倒れ込むように前傾し勢いよく階段に踏み込みます。

 

この時、"トリガーを閾値間際まで引いたところで一瞬止めてから引き切る"ように、踏み込みに刹那の溜めを作ってから一気に蹴り出すことで、速度と移動距離が大幅に上がります。

 

つまり、俺の一歩は威力二倍だ! 穴≡ドヒャァ!

 

さて、階段ルートは折り返しのコーナーが繰り返し続くコースです。

そのため固定できない液体を背負っていると重心の移動が発生して制動の分ロスが発生してしまいます。

ロスを減らすためには液体を動かしながら固定するという矛盾を解消する必要があるわけですね。

そこで、バケツに入れた水を勢いよく振り回すと上下逆さでも零れないように、遠心力があれば液体を疑似的に容器の底に固定できます。

 

即ち、回りながら周って上るッ!!

 

 

 

~階段昇段中~ エレベーターよりずっとはやーい

 

 

 

「はい、タイマーストップ。え~、完走した感想ですが、上昇負荷(G)で喉が渇きました(KONAMI感)」

 

というわけで早速コーラを飲むか。

ボトルを取り出しキャップを捻るとプシュッと小気味いい開封音が鳴る。

早速飲……うわ、ちょっと炭酸キツイわ。

キャップを締め直しボトルを振って炭酸を抜く*1。コレデヨイ…

 

クゥ~ッッ!! 火照った体に染みこんできやがる……犯罪的な美味さだ……

勢いよくコーラを煽っていると横から声がかけられる。

 

「ほう……たいしたものだな」

 

おいおいおい、暑い死ぬわ。

振り向いた先に居たのは――

 

【ビワハヤヒデ】

 

なんでここにバナナ先輩が!?

髪は居る。そう思った。見えねえけど。

 

「異常と言っても良い程に体幹と荷重コントロールが安定している。ここまで階段を駆け上がって来たにも関わらず炭酸がほとんど抜けていない。一度開けたボトルを振ってまで炭酸を抜いたのがその証左だ。君は只者ではあるまい……しかし、何故コーラを……?」

 

おいお前持ちネタはどうした。そっちが振らないならこちらがネタを振るが。コーラだけにな。ガハハ。

 

「炭酸を抜いたコーラはエネルギーの効率がきわめて高いらしく、レース直前に愛飲するマラソンランナーもいるくらいです」

 

「博識だな。だが即効性のエネルギー食といえばバナナも負けてはいないぞ。バナナは分解酵素のアミラーゼが含まれ消化が良く――」

 

「甘くて優しくて栄養満点?」

 

「フッ、話せるじゃあないか……君も一本どうだい?」

 

仄かに甘い香りが鼻腔を擽る。

まって、俺が見えてなかっただけでずっとバナナ持ってたの!???

お前初対面の相手にババナの布教を始めるトンチキウーマンかよ!???

 

たぶん文脈的にバナナを差し出されてるとは思うんだけど、どんな状態か何も分からねえぜ。これでどうやって受け取ればいいんだ……

 

ここでチェス盤をひっくり返すぜ。

俺は赤のコーラで宣言する。

 

「一方的に物を貰うのは気が引けますね。貴方も一本どうです?」

 

右手にコーラを左手に無をを発動。

 

そちらがバナナを受け取らせようというなら、こちらはコーラを相手に見せることでトレードするか否かの選択権を押し付けるぜ。

左手がバナナを受け取るために手のひらを差し出しているようにも、「こちらがお渡しする品でございます」と提示しているようにも受け取れそうな曖昧な所作だ。

差し出されているかも分からない位置情報不明のバナナを受け取るのは厳しいが、交換の形に落とし込み受動的にコーラを渡しつつバナナを左手に置かせにいく。これでどうだ?

 

「では交換といこうか」

 

ヨシ! 良い感じの位置に手渡す感じであってくれ。頼むぞ。

たとえ stealth のオプションが付いていようと血気盛んな音ゲーマーが判定のタイミングに後れを取るということはない。若いビワハヤヒデのバナナを掴んでやろうという気概は当然持っていた。

相手がコーラに触れたタイミングでインビジブルバナナを掴みに行く。……今です!

 

エクスチェンジ!!

 

ノルマクリア成功!!

 

やればできるもんだな。対ウマ娘コミュニケーション術にちょっと慣れてきたかもしれない。

……冷静に考えたら「結構です」の一言でよかったじゃねえか。やっぱ駄目だわ。

 

「ところで一体何をしていたらそれほどの体幹を手に入れることができたんだ? 一競技者として興味がある」

 

「遠心分離機に振り回されてたらこんな感じに。憑依する事が出来るかどうかが勝負の分かれ目」

 

「君は宇宙飛行士の訓練でも受けていたのか?」

 

空を飛ぶ3つなり7つなりの方法を探してはいたな。

 

「そちらはこんな所で一体何を?」

 

本当になんで階段でバナナを構えてたんだよ。

 

「探しものをしていたはずなんだが……何を探していたのだったか……」

 

おいおい、まだ若いのに大丈夫か?

 

 

「ハ~ヤ~ヒ~デ~!!! どこぉおおおおおおお!!???」

 

 

下界からここまで届く大声が響いてきた。

うん、人探しだね。

 

「良ければついでにあと2本要ります? これ持ってても重いだけで邪魔なんですよね。喉の渇きに耐えられぬ時はこれを飲ませると良い」

 

「既に両手が塞がっているのだが」

 

「そうですよねすいません。では私はこれで失礼しますね」

 

だから見えてないから分からないんだって……

これ以上ボロを出す前に立ち去ろう。サラダバー。

 

 

 

「結局、何故コーラを背負っていたんだろうな?」

 

零れた疑問が虚空へ吸い込まれていく。

初夏の光が照らす鉄塔を消える飛行機雲が見下ろしていた。

 


 

「……勝負、しませんか」

 

合同トレーニングで競い合えば互いにいい刺激になる。

そう提案するハッピーミークと桐生院トレーナーの元へ影が差した。

 

「あら、私の誘いを袖にしておきながら随分と楽しそうにしてるじゃない。その娘が新しいお相手?」

 

「先約があっただけだよ。生徒会長たるもの全ての生徒を公平に扱うものさ。君であってもね」

 

現れたのはメジロラモーヌだ。

間に挟まれたハッピーミークは白目をむいている。

 

「おっ、なんだなんだ? 浮気現場に乗り込んできた本妻か?」

 

「カイチョーはボクのだよ! ってなんで居るのゴールドシップ!?」

 

ゴルシちゃんは急に空から降りて来たり地中から湧いて出ても何もおかしくないイイネ?

 

「ジェンティルから逃げてきた。たすけてくれ」

 

(わたくし)も御一緒させていただけませんこと?」

 

*1
音ゲーマーがコーラを振るだけ




どうやら異常言動の理由付けが「音ゲーマー異常者説」では納得しきれていない方もおられるご様子。
そんなみなさまのためにぃ~、ここで明文化しておきましょう。

主人公:前世ではタフの読者。

登場人物がタフを読んでたら何をやっても"猿展開だから"で押し通せる気がする。ワイはこれをモンキー・メソッドと呼んどる。これでどうだ。

主人公:真の能力はミーム汚染説浮上。

ビワハヤヒデ:頭脳派キャラが首に視神経通ってそうなガバガバ理論を語るわけがないので主人公から炭酸抜きコーラのミーム汚染を受けたことになった。そうでもないと勝利の方程式が「握力×体重×スピード=破壊力(バナナを握りつぶす)」並のガバ理論になっちゃうだろ。

通行人:「Wow, c'est un ninja ……」
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