可逆式TS魔法少女おじさんは魔法少女を恨んでいる   作:エテンジオール

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 隔日投稿と言ったな、あれは嘘だ(╹◡╹)


その2

 魔物とは一体何なのか。単純に世界の敵として認識されている存在だが、その実情は何も知られていない。ただ、突如現れるそれの割れ目から現れることと、人間をさらってそこに帰ろうとすること、魔法少女以外の存在では対処がほぼ不可能なこと以外には、何もと言っていいほど情報がないのだ。一部、もう少し事情を知っていそうなものたちもいるにはいるが、何も語られない以上情報は無いと言っても過言ではない。

 

「グラビティ、なんでずっと無視するプル!酷いプルっ!」

 

 そろそろ返事をしてくれないと、アップルンは泣いちゃいそうプルっ!とやかましい声を聞きながら、元の色に戻った空を眺める。魔物が現れた時の彼誰時の空、それが元に戻るのは、全ての魔物が消えた証拠だ。もう目に見える敵がいないことがわかり、張っていた気を緩める。

 

 ひとまずすぐに対応しなければならないことは終わったので、あとは急がずに一つずつタスクを解消していけばいい。ToDoリストの内容は、人目につかないところで変身を解く。元の姿、男の状態に戻れるかを確認する。なんてものを飲ませてくれたんだと友人を問い詰める。すぐに思いつくのはこれくらいだろうか。

 

「グラビティ、聞こえてないプルっ!?アップルンの声が届いていないプルっ?お願いだから返事をしてほしいプルっ!」

 

 けれどその前に、このやかましいものを黙らせないといけない。先程からずっと大きな声で叫んでいるせいで、このまま変身を解けば嫌でも人目に付くだろう。自己紹介もしていないはずなのに、聞き覚えのない一人称と二人称で話すコレとは、お話が必要だろう。

 

 聞こえているから静かにするようにと伝えると、それならなんでずっと無視してたプルっ!酷いプルっ!とまたうるさくなる、デフォルメしたリンゴに手足や顔をつけたような妖精。僕が変身した際に、齧り付いたそのリンゴだ。

 

 静かにならないので、喋るその顔を掴む。妖精とはいえ口を動かせないと喋れないのは人間と同じなのか、モゴモゴとくぐもった音を出すだけになったアップルンに顔を近づけて、再度黙るように伝えるとようやく静かになった。

 

 元の体のままであればきっと、掴んだまま握り潰せたのだが、この体には筋肉が足りていないようだ。もっと肉体系の魔法少女であれば、華奢な細腕でトラックを持ち上げたりする例もあるのだが、僕は魔法しか使えないタイプらしい。その分強力だから、まあいいか。

 

 もっとも見た目、モチーフになっているものがリンゴだからといって、このアップルンの強度がリンゴと同じとは限らないのだ。もっと丈夫かもしれないし、掴んだ手にやわらかさを感じることから、案外中身はナマモノかもしれない。

 

 少しだけ知的好奇心を刺激されながら、やりすぎて機嫌を損ねられても面倒なので諦める。たとえ気に食わなかったとしても、この妖精という生き物の協力がなければ魔法少女は変身できない。一時の衝動に任せてスッキリすることと、今後継続的に魔物の退治ができること。その二つを比べれば、後者を選べるくらいの理性は僕にでもある。

 

「まず、大きい声で喋らないこと。僕は、いや、私はうるさいのは好きじゃあないんだ。次に移動するから周囲に見られないように付いてくること。魔法少女の正体はなるべくばれないようにするものだからね」

 

 それさえ守れるのであれば、顔をつかんでいる手を離すと伝えると、アップルンはこくこくと頷こうとした。これ以上は話が進まなくなるのでここらで切り上げて、まだ変身を解かないまま静かになったアップルンと家に帰る。幸い、ここは僕の家から近いところで、不幸なことに今の姿を見られて困る人は、もう家には残っていなかった。

 

 

 家に着いて、静かな声ならもう話してもいいとアップルンに伝える。これまでの扱いで十分に学習してくれたのか、アップルンは僕の言葉に逆らうことなく、静かな声で話すようになっていた。

 

 わりと酷い対応をしている自覚は、ある。それこそ真っ当な大人がするべきでは無い対応をしている。けれど、僕は知っているのだ。この妖精が、必ずしも善良とは限らないことを。そして、善良な妖精であれば、無垢で幼い妖精であれば、僕のした扱いに対してもっと不満を態度に出しているはずなのだ。

 

 そうではなかった以上、この妖精、僕の魔法少女としてのパートナーになる、アップルンはまともな妖精ではない。魔法少女と共にお互いを高めあって成長していくような、何も知らないオーソドックスな妖精ではないのだ。

 

「……何かおかしいと思ってはいたけど、グラビティは真っ当な少女じゃないプル。普通の子なら、もっと素直に話を聞いてくれるし、優しく接してくれるはずプル。これじゃあなんのために猫かぶってたのかわからないプル」

 

 僕が直球に疑念をぶつけると、アップルンはため息なんかしながらやれやれと言わんばかりに、先程までのキラキラ妖精モードをやめる。見るからに態度が悪くなって、短い足で器用に足を組んだりしだした。本人の申告通り、だいぶ猫を被っていたらしい。

 

「妖精にとっての語尾はアイデンティティプル。やめろと言われてやめられるようなものじゃないプル」

 

 どうせ猫をかぶるのをやめるなら、その鬱陶しい語尾もどうにかしろと伝えると、アップルンはそう言って拒否した。これがないとアップルンはカワイイマスコット妖精じゃなくなっちゃうプルっ!との事。マスコットじゃなくてカスコットの間違いじゃないかと思ったが、そう言うにはまだ僕はアップルンのことを知らないので我慢する。スレた妖精で魔法少女のパートナーをするのなんて十中八九性格がカスだろうが、最初から決めつけるのは良くない。先入観も同じくらい良くないかもしれないが、そこに関してはこれまでの先人たちが悪いので諦めてもらおう。

 

「それで、仲良しごっこをしなくていいのなら逆に気が楽プル。グラビティは利を優先できるタイプみたいだから、ビジネスライクな関係を築くプル」

 

 妖精の口から出てくるとは思えない現実的な言葉をなげられて、納得したくないという反骨心のようなものは抱くが、そんなものに身を任せたところでろくなことにならないのはわかっているため、受け入れる。利を優先できるといわれたからといって、わざわざ利を捨てるような行動をとるほど、僕は子供ではない。

 

「とりあえず、アップルンはグラビティの要望は基本的に飲むプル。いくらグラビティがまっとうな少女じゃなかったとしても、魔法少女のことを助け、支えるのが妖精の役目プル。変身も、人生相談も、メンタルケアも、必要であればなんでもするプル」

 

 その代わり、グラビティは表面上だけ、人目につくときだけでいいからアップルンと仲がいいふりをするプル。と続けて言われたアップルンの要望に、僕は少し考えてから問題ないと判断する。そもそも人目につくようなことを積極的にするつもりはないし、好ましくない相手とも最低限良好な関係を築くのは社会人としてはできて当たり前のことだ。それにしては先ほどまでのアップルンへの扱いはひどいものだったが、そのあたりは気が動転していたということにしよう。

 

 そのままいくつかアップルンと会話をして、約束事を決める。普段の生活でどこまでかかわるかとか、魔法少女として活動する際の基本的な方針とか、そのようなものだ。それだけ話せば、アップルンは妖精の世界に帰っていった。呼べばいつでも来るから、何かあったらすぐに呼ぶようにとは言われたが、たぶん変身するとき以外で呼ぶことはないだろう。

 

 アップルンが妖精界に帰ると、ずっとそのままになっていた変身が解ける。身に纏っていた真っ黒な衣装が光に変わって、僕の姿は元の物とは親子ほども年が離れているであろう幼い少女のものになった。魔法少女としての姿よりも幾分か幼く見えるのは、気のせいか。

 

 ひとまず押し入れの中にしまい込んであった女児物の服に着替えて、この事態の元凶ともいえる友人に連絡を取る。もらったお守りを使ったことをメッセージで伝えると、すぐに話を聞かせてほしいといわれ、直接会いに行くことになった。

 

 

 普段であれば車で向かう友人の下に、今の姿で運転なんてできるはずもないので公共交通機関を使って向かい、着いたのは魔法少女管理局と書かれたビル。その名の通り魔法少女を管理・運用するための機関で、同時に魔法に関する研究を行っている場所でもある。一般成人男性を少女に変えてしまうようなお守りを作れることからもわかるように、僕の唯一の友人は魔法に関係する研究者だった。それも、政府機関でかなりの権限が与えられているくらいには大物である。

 

 そんな大物研究者と面会するべく受付に向かい、話は通っていたようですんなりと通される。こんな姿になる前であれば職員として中に入ることができたのだが、ティーンと言えるかもわからない少女見た目で元の入構証を使うのはあまりにも無茶だ。

 

 関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉をいくつか超えて、辿りついたのは一つの部屋。こんなビルの中、それも関係者以外立ち入り禁止としきりにアピールされた奥にあるとは思えないほど、広い部屋だ。大きな机があって、一角だけが乱雑に積み上げられたもので散らかっている。

 

 その山の前で、何やら作業をしていたのは一人の男。こんなに広い部屋に一人っきりでいるのが不釣り合いなくらい若く見える彼はユウキ。僕の唯一の友人で、この研究部屋の主だ。

 

「おやおや、これはずいぶんとかわいらしいお客さんだ。君、知らないかもしれないけどここは関係者以外立ち入り禁止だよ。いい子だからお家に帰りなさい。帰り方がわからないのなら、僕が送ってあげようか」

 

 ユウキは僕のことを見ると、まるで幼い子供を職場で見つけた親切な人みたいなことを言う。上出来な面のせいで、嫌に違和感がないことが腹立たしい。

 

「悪いけど、今はそんな冗談に付き合えるほど余裕がないんだ。早く説明をしてくれ」

 

 まともなことを言っているふりをしてふざけているユウキを、僕は急かす。他の人であればもう少し気を遣わないといけないのだが、この友人に対してであればそんなことはしなくてもいい。そもそも、メッセージの時点で少女になってしまったことは

 伝えたのだし、この部屋は偶然知らない子供が迷い込んでしまうような場所ではないのだ。

 

「ははっ、(しげる)はつれないなあ。せっかく少女になったのだから、もっとお約束のやり取りを楽しめばいいのに。現実でこんなことなんて、そうそう起きることじゃないんだよ?」

 

 体が変わって余裕がなくなったのかな?まあ、ひとまず座るといい。としょっぱなから真面目に取り合わないこの男は、これでも魔法に関する研究の第一人者である。そして重というのは僕の名前だ。今の少女の姿にはこの上なく似合わないが。

 

「まあいい、三行で説明してあげよう。

 重は男だったが魔法少女の才能があった。

 もったいなかったから少女にした。

 これからは魔法少女として戦うといい。

 以上だけど、何か質問はあるかな?」

 

 逆になぜこれで質問がないと思えるのかが疑問だが、こいつがちゃんと理解したうえで僕のことを少女にしたことだけは確定した。そうでないと少女になんか変えられるはずがないので、言質を取ったところでなにが変わるでもないのだが。

 

「冗談だ。だからそんな目で見ないでくれよ、ゾクゾクしちゃうじゃあないか。聞きたいことは、ちゃんと元に戻れるのかだろう?安心してくれ、これを一錠飲めばすぐに元に戻れるし、逆にその姿になるのも同様だ。一言言ってくれればいくらでも用意できるから、気兼ねなく使ってくれ」

 

 少し身の危険を感じるような前置きの後に、ユウキは僕に対して褐色瓶を一つ投げる。ジャラジャラと鳴るソレを覗けば、中身は大量の錠剤。なんでこんなに準備しているのかとか、どうして魔法少女になる前提なのかとか、気になることや言いたいことはいくらでも出てくるが、それを口にしたところで意味がないことは、ユウキとの長い交友関係で理解していた。

 

 この男は、そういう人間なのだ。こちらに対して友好的な様子を見せるのに、こちらの望みをそのまま叶えたりはしない。困ったときは助けてくれるのに、そのことに関して説明してくれることはない。知っていることを全て話したりはせず、何を知っているのか、どこまで知っているのかも教えようとしない、つかみどころのない人間。僕個人に対してのみそうというわけではなく、相手が誰であろうと、どんな事情があろうとその態度を崩さないのは問題児でしかないのだが、それでも許されるのはこの男が俗にいう天才だからだ。

 

「薬の副作用、少女化することのデメリットとしては、一部の人間に対する感情の制御が困難になることくらいだから、あまり気にしなくていい。もともと不自然に制限されていたものが正常な状態に治るだけだから、あながちデメリットともいえないかもしれないね」

 

 僕から伝えることは以上だよと言って、さっさと帰れと手を振るユウキ。こんな扱いだが、これでも僕の唯一の友人だ。気に食わない相手なら相手がどんなお偉いさんでも会話すらせず、興味のない相手ならたとえ命の危機であったとしても自分の爪いじりを優先するような奴なので、これでもユウキにしてはこの上なく友好的なのである。

 

 これ以上留まっても意味がないので言われた通りおとなしく部屋を出る。そのまま管理局を後にしようとすると、ふたりの少女の姿が視界に入った。

 

 どちらも、見覚えのある少女だ。二人ともこの街を守る魔法少女で、僕が変身した時に関わりたくないと思った二人である。

 

「……さっきハルピュイアにさらわれていた人。無事でよかった」

 

 変身していない状態、より正確に言えば元の男の姿の時に、それなり以上には深い関わりのある二人。最近少し理由があって顔を合わせにくい二人だが、今の僕は少女になっているのでバレないはずだった。少なくとも、本来の僕としては認識されないはず。それであれば向こうから積極的に話しかけては来ないだろうという予測は、何を考えているかわからない方の少女、香揺(かよう)伽羅(きゃら)によって覆される。

 

 普段は、そんなにおしゃべりするような子ではない。無表情と平坦な声が特徴的な、どちらかと言えばダウナー系に近い少女だ。そんな少女が話しかけてきたのは、僕がハルピュイアにさらわれていたのを見ていたからだろう。どこからともなく飛んできて、ハルピュイアの頭を消し飛ばした棒状のもの、それを使って戦うのが、伽羅さんの変身する魔法少女、イノセンス・インセンスだ。

 

「魔物に拐われるの、こわい。伽羅も何回かさらわれたことあるからよくわかる。助けられてよかった」

 

 ところで、新しい魔法少女のことを何か知らない?と僕に尋ねてくる、僕が変身するほんの少し前に僕のことを助けた少女。普通に考えれば、変身した姿を把握していて、もう正体はわかっているんだから白状しろという圧力なのだが、ことこの少女に関して言えば、それは余計な勘ぐりになってしまう。伽羅さんはドがつくほど天然で、抜けているのだ。そんな頭を使った質問なんて、してくるはずがない。

 

「いえ、わかりません。何かわかったら教えますね」

 

 そう言うと、予想通り伽羅さんはありがとうと言って無表情のまま満足そうにする。そのままそれじゃあ連絡先を交換しようと言って、携帯電話を取りだした。

 

 携帯電話は、普段使っているプライベート用のものと、仕事で使うためのもののふたつしか持っていなくて、プライベート用の方は既に伽羅さんの連絡先を登録しているため、使おうものならすぐにバレてしまう。なので携帯は持っていないフリをしてその場をやり過ごすと、伽羅さんは無表情のままこちらをじっと見つめて、そう……残念、と言った。他の子が相手なら、下手な嘘が見破られたのではないかと焦るところだが、この子ならそんな心配はない。たぶん、本当に残念だな、くらいしか考えていないのだ。

 

「伽羅ちゃん!二井(ふたい)さん待ってるから早く行こう!」

 

 僕と伽羅さんが話していると、もう一人の魔法少女が伽羅さんを呼ぶ。二井さんというのは、少し前まで魔法少女の補佐官をしていた女性で、今は上のポストが空いたので繰り上げで指揮担当をしている人だ。

 

 そんな彼女のところへ行くとなると、やはり今日の分の報告だろうなと一人納得して、僕に対してじゃあねと手を振る伽羅さんに対して手を振り返す。当たり前だが、姿が変わった僕のことを僕としては認識されなかった。

 

 そのまま自宅に戻って、ユウキに渡された薬を飲むと、全身が極彩色に光って、そのままにゅるんと輪郭が変わる。薬と言うにはあまりにもマジカルな変化だが、毎度内側から溶かされるような感覚を味わうのに比べればいくらかマシなので、気にするほどのことではない。ユウキの作るものに、科学的な理屈なんて求める方が間違っているのだ。

 

 元の男の体に戻ったことで、目線の高さがいつものものになる。死にかけたこと、魔法少女になってしまったこと、いろいろと現実感のない、日常離れしたことを経験したせいで、思いのほか疲労が溜まってしまっていたらしい。

 

 重たい体を引きずって、ベットに向かう。戻った途端にこんなに辛くなるならギリギリまで少女の状態でいるべきだったなと考えながら、けれど僕の頭の中にあったのは喜びだけだった。

 

 これまでは、力がなかったからなにも出来なかった。人並み以上に頑張って身体を鍛えても、技術をみにつけても、魔物を相手に戦うには、何もかもが足りなかった。僕ではただの足止めしかできなかった。

 

 もちろん、それも大切な仕事で、役割だということはわかっているのだ。魔法少女の数が限られている以上、どうしても手の周り切らない部分がある。その部分を少しでも救うのが僕たち対応部隊の仕事で、その事には誇りすら持っていた。

 

 けれど、ずっと考えていたのだ。もし自分にもっと力があればと。自分が魔法少女みたいな力を持っていて、戦うことが出来れば。その時は、僕の復讐をなせるのではないかと。

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