元人間な覇竜の滅竜魔導師がオラリオに出戻るのは間違っているだろうか? 作:匿名さん
「---おー!」
〝18階層〟の光景に思わず声が漏れる。
〝17階層〟までの薄暗い洞窟とは一変し、まるで地上のように明るく広大な森が拡がっていた。
「光源は何だ??……成程。あのクリスタルか」
ダンジョンの天井を見てみるとそこには無数の輝くクリスタルがひしめき合っていた。
光が反射し合うことでこの明るさを生み出しているんだろう。
「たしかこの階層には冒険者達が作った街があるんだったな。せっかくだし今日は観光がてらその街で一休みしよう」
「『ようこそ同業者』、か。どうやらここがそうみたいだな」
木の板でつくった看板に防壁。
パッと見、街というよりは集落のような場所だな。
「建物も全て木製か。なんだか昔を思い出すな」
1500年前の当時はモンスターの襲撃もあって簡易に作れる木造建築が主流だった。
この街に来るまでにもモンスターをチラホラと見かけたから多分同じような理由なんだろう。
「となると物価も……おお!予想通りぼったくり価格だな!」
小石サイズの砥石が1万3000ヴァリスでボロいバックが2万ヴァリスと地上じゃ有り得ない価格設定だ。
「なんだ兄ちゃん。ウチの商品に文句でもあるってのか?」
「いやいやむしろ感動してる。いいものを見せてくれてありがとうな」
「か、感動って。……ここに住んでる俺が言うのもアレだが、兄ちゃんも大概変わってるな」
「おうおうどうした?何かあったのか?」
左目に黒い眼帯をした短髪の男がやってくる。
ここの店主の知り合いだろう。
「揉め事とかじゃねーよ『ボールス』。ちょいと変わった客が来ただけだよ」
「変わった客?……見たことねぇ面だな」
「今日初めてこの階層に来たからな。ところでお前は誰だ?」
「おう!このリヴィラの街を取りまとめてるボールスってもんだ。この街のことなら何でも聞いてくれ」
まさかのだ。
着いて早々幸先がいいな。
「それじゃあ1つ。この街では魔石を換金出来たりするか?」
「おう、できるぞ。まあもう分かってるとは思うが適正価格じゃあねーがな」
この街は価格設定が価格設定だから手持ちじゃ足りないかもしれないし、どうせこれからもっと深く潜るから魔石には困らないからな。
「そうか、ありがとう。これはほんの気持ちだ」
魔石が詰まった手のひらサイズの布袋をボールスに握らせる。
こういうのは最初が肝心だ。
「お?……へへっ、分かってんじゃねーか。なんていうんだ?覚えといてやるよ」
「『アカム』だ。縁があったらまた会おう」
「ん?」
街を観光しているとさっきまでの明るさが嘘のように暗くなってきた。
周りを見てるが誰も慌てた様子がないところを見るにこの街では当たり前のことなんだろう。
「ダンジョンの中で『昼』と『夜』とはな。本当に不思議なものだ。……宿はここでいいか」
「---ん?」
「この宿の店主か?1泊頼む」
「あいよ---と言いてぇところだが悪いな。あいにくアンタの前に来た客が全部屋貸し切っちまった」
「貸し切り?」
どこかのファミリアの団体でも来たのか?
「ああ。顔はよく見えなかったがエラいボンッキュッボンな女を連れた野郎の2人連れがな。迷惑料ってことで多めに金は払ってもらった上に部屋の掃除も楽でラッキーなんだけどな」
2人連れで宿を貸し切り?
なんだかきな臭い気もするが触らぬ神に祟りなしだな。
「そうか、変わった客もいるもんだな。仕方ない、別の宿に行くか」
「悪ぃな。代わりと言っちゃなんだけど代わりの宿屋を紹介するよ」
「---お、ちゃんと明るくなってるな」
窓から射す光で分かってはいたけどつい言ってしまった。
太陽他は違って暖かみはないけど寝て起きて明るいのは気持ちがいいものだ。
「さぁて!今日はどこまで……血の匂い?」
街中に相応しくない血の匂いに気づく。
モンスターや動物のじゃない。これは人の血だ。
「……あっちの方か」
意識して匂いを嗅ぎ発信元へと足を進めるが、何やら見覚えのある景色になってきた。
嫌な予感がする。
「あー」
辿り着いたのは昨日貸し切られた為に泊まれなかった宿屋だった。
流石にここまでくれば大体察しがつく。
「男の方か女の方か。はたまたま両方か」
「---あ。アンタは昨日の」
声のした方を向けば宿屋の店主がいた。
ある意味グッドタイミングだ。
「昨日ぶりだな店主」
「ああ。でもいったいこんな朝早くからどうしたんだ?2人で貸し切ったとはいえ掃除やら備品の確認やらしなきゃいけないから直ぐには案内できないぞ?」
「いやそうじゃない。単刀直入に言うがこの宿屋から血の匂いがする。匂いの濃さからして中ではとんでもないことが起きてるだろうな」
「……え?……血の匂い???」
「お前が良ければ俺も一緒に確認するが……どうする?」
「あ、ああ。頼むよ」
「---うっ!?」
コトがあったと思われる部屋に近づくにつれ、血の匂いが強くなる。
隣を歩く店主を見ると顔が真っ青になっていた。
「……この部屋だな。入るぞ」
「ッ!?」
「……こいつは」
部屋の光景は概ね予想通りだった。
ただ唯一予想外だったのは、床にうつ伏せに倒れている男の死体には首から上がなかった---