QA1 水月 寺生まれの巫女と増殖する女神(叔母) 作:無体寿限無
5(単話)がいつまで経っても上手く書けそうにないので6を先に出すことにしました
読む上で支障はないのでご了承ください
また、投稿順序入れ替えにあたって投稿済内容を振り返り、4②の数学カリキュラム関連の描写等を修正しました
他にも、当時の投稿ペース維持やエタ回避のために何とか書き上げた結果、当初の想定と異なる展開や矛盾する描写、作者の意図しないニュアンス等がいくつか生じてしまいました
いずれも本筋には関与しない枝葉末節なので、ひとえに作者の実力不足ではありますが、以前の内容と整合性が取れない場合は最新のものを採用していただければと思います
投稿直後にお読みくださっている方々には大変ご迷惑をおかけします
何とぞご了承ください
6 物言えば唇寒し①
バレーボールをするたびに私は、トスだけしていたいな、と思います。サーブも得意なので好きですが、目立つ顔立ちをしていると一挙手一投足が注目を浴びるので、ネットすれすれを狙って失敗すると味方も観客もいたたまれない空気に包まれてしまい、やっぱりトスがいいな、という気持ちになります。
私がサーブを打つ番になり、これで延長か交代か決まる、と思うと緊張して、ついそんなことを思ってしまいます。ですが、たかが体育の授業なので、我が理数科H組の女子も、合同授業のD組の女子もなんなら、あんまり汗かきたくないなー、早く終わんないかなー、と考えているのが顔に出ていて、気が楽になります。
私は先ほど派手にフローターサーブを失敗したため、今回はアンダーハンド……に見せかけてもう少し高く弧を描く、天井サーブ風アンダーハンドサーブに挑戦しました。下から打ったボールはゆっくり無回転の状態でふらふら舞い上がり、滞空時間も長めにどこに落ちるかぎりぎりの状態をキープします。バレー部の女子が動きましたが一歩遅く、かろうじて相手コートの角に落ちて小気味よい音を立てました。
私が味方の女子に褒められるのを遮るように先生が笛を鳴らして、ゲーム終了の礼をして交代します。そのまま体育館の壁際に向かうと、味方だった子も相手側だった子も、それぞれ仲良しメンバーで集まって座ります。理数科は普通科に比べて女子比率が低いため、見学メンバーも見るからに少ないです。
運動大好きの赤血球ガールこと千道彩音ちゃんのプレイを尻目に、文芸部の女子たちはだらだらとお話を始めます。
「やっぱなっちゃんか千道さんと同じチームだと楽でいいわ。うちこういうのほんとダメ」
「ボクも球技嫌い。フルちゃんみたいに手足長くないし、なっちゃんみたいに体動かないし」
「オバはその分跳べるからスパイクの時フェイント行けるじゃん。うちはブロックすらヘロヘロでもうダメ」
「フルちゃんはレシーブできるからえらいよ。誰かやってくれないと私トスできないから」
古畑澪ちゃんと大林瑠香ちゃんのやりとりに私がフォローを入れると、また2人は話題を変えます。
「うーんそう? ……そういえばうちまだハロウィーン号のイラスト仕上げできてないわ。土日で何とかしないと」
「ハロウィーン日曜なのに月曜日にハロウィーン号出すって変だよね、もう何回も言ってるけど」
「そんなこと言ったら、文芸部なのに十年以上前にアニ研と統合したからって小説だけの部誌とイラストだけの部誌どっちも出す方がおかしいよ。部員には記念になるけど、ご自由にお取りくださいの分は紙資源の無駄じゃない? あれ」
「バックナンバーはデータより現物の方がいいし……」
「製本作業の時でもないと部員全員集まんないし……」
「確かに、ケドーくんとか昼休みも放課後も一切部室来ないよね。うちはイラストだけだからまだいいけど、小説の方はどう? 2人」
「ボクは生徒会室で暇してる間こっそり文化祭号の続き書いて、一昨日終わったよ。なっちゃんなんて両方でしょ? 間に合う?」
「小説は書けたけどイラストは、演劇部が忙しくなっちゃってね。形にはなったけど描き直したくなっちゃって、もう前に描いた分あるからそっちの方がいいかなって」
「前に描いたのあるんだ。その勤勉さを全部くれ」
「全部!?」
「あ~、兼部とかうちならやってらんないね。演劇部も写真部もやってその上文芸部で小説とイラストもって」
「写真部は個人活動だからそんなでもないよ。演劇部は最近、ね……」
そう、我が演劇部では先週の火曜日に、年末に地元の小中高の部活動や団体が合唱や吹奏楽、ダンスなどを発表する会があるから、志場高校演劇部もなんかやれとのお達しで、急に決まってしまいました。
部長さえ説得できれば割とスムーズだったため、金曜日に企画会議を行ない、土日を挟んで部員5人が各々持ち寄ったあらすじをみんなで読み比べ、多数決で決まった案を
「演劇部は台本? ト書きだっけ? あれだから全部人力じゃなくてもいいし、ラク?」
「まぁね。でも採用されたミスターのは自分でがっつりプロット書いたから、あの情報密度でまとめるのも手間だったと思うよ」
「PerFEはアイデア出しとかプロット作るのほんと向いてないもんね。人格関数だけあって、キャラがないと何も出てこないし」
「あー、なっちゃん天女やるんだっけ」
「うん。私がやらずして誰がやる、って感じだしね」
話に出た『天女の帰る時』はミスターこと塚原影路氏の案で、着想としては禁断の果実と黄泉戸喫を難題婚で接着したものだそうです。要素としては竹取物語・旧約聖書・古事記のミックスと言えるでしょう。タイトルが示す冬至祭に関しても、ミトラ教やヴァイキング、古代ケルトなどが有名で、クリスマスやハロウィーンの原点だと聞くので、時代も東西も問わず神話伝承ごちゃ混ぜで、非常に私好みの仕上がりになっています。
ただ、お話自体はコテコテの古典童話風なので、前回体育の待ち時間に紹介した時は、彼女たちのノリは今一つでした。悪くないけどめちゃくちゃありがちだよね、という感じでしたが、私としては、そこがいいんだ、その無難かつベタな要素を詰め込んだまとまり具合こそが、ミスターの案の完成度の高さを物語っている、と語りたくなってしまいます。伝わらないのは惜しいなと思うのですが、こればっかりは何を重要視するかで判断が分かれるところでしょう。
彼女たちはどちらかというと、私が追う女役ではなく追われる女役であることに注目していました。舞台の上でなっちゃんが好き好きオーラ出してるところ見たかっただの、あの何考えてるかわかんない塚原君に追う男役合わなさそうだの、戯言はさておき、ミスターが原案と主演を務めるお話で、私に求婚する話を当て書きで出されてどんな気分か、と聞かれると返事に困りました。演劇部の話し合いで事前に決まっていたから、と訂正しても逆効果ですし。
実際にミスターが私に求婚するとは、期待していません。
何しろ私は、手を握っただけで相手の過去を夢に見る女ですから。
婿入りしてお寺を継いでくれるひとが見つかっても、その方の幼少期の思い出も初恋も、墓まで持っていく秘密ですら一晩で暴いてしまうのが私です。
だから本当は、あまりそういった話題は触れたくないし考えたくもないのです。いくら夢と理想を描いて欲張っても、襲い掛かる現実に押し潰されてしまうだけですから。
ボールが高く跳んだ分だけ、落下速度が大きなエネルギーに変わって地に叩きつけられるのと同じように、願望を抱いて舞い上がっただけ、私は自分の実情に傷つくことになるでしょう。
ただでさえミスターは、PerFEの開発者であり不可逆性理論の発見者でもある塚原進路のクローンとして有名で、自分と同じクローン7人を研究所ごと焼かれた生き残りの片割れで、もう1人のクローンは育ての両親殺害の汚名を着せられた薬物中毒という有様です。天才青年失脚のために製造され、失脚回避後は文字通り命を狙われ、保護された寮内ですら同胞の冤罪で自分も好き放題囁かれていながら、善良で賢明であり続けることでしか信用を勝ち取れないという、壮絶な少年期を歩んでいます。
私はそれらを覗き見る許可を得られるほどミスターの信用を得られるとはあまり思えませんし、分が悪い賭けのために血筋の秘密を告白するほど愚かでもありません。
体育でクラスメイトとストレッチ中に接触してその子の夢を見てしまうことですら、知られたら殺されても文句は言えないのですから。
「ボクそういう類型詳しくないんだけど、天女と人間の結婚って異類婚姻譚でいいのかな。雪女みたいに人外女性パターンは有名なのあるけど、人外男性パターンってなんか生贄系しかぱっと出てこない」
「キューピッドとプシュケーは人外男性じゃない?」
「あー…………。でもあれも結局神になる美人だよね」
「むぅ……。美女と野獣とかかえるの王様も人外男性だけど、そっちは逆に人間に戻るし、難しい」
「やっぱり主役は美人だよねー……」
「それを言ったら相手が王子様か神様だったオチ多いし、美人でもないとバランス悪くない?」
「そこは逆に、相手のために苦労したんだから、王子様か神様でもないとバランス悪くない?」
「その開き直り方は図々しくない?」
「くないがゲシュタルト崩壊してきた」
私が仕切り直そうとすると、フルちゃんが話を戻してきました。
「結婚がご褒美パターンは、神話の英雄とか勇者がお姫様と、も定番だから、図々しいっていうか、様式美でいいんじゃない?」
「話がこの前まで戻ってない? また難題婚大喜利するの?」
「おお、ほんとだ!」
「…………結局のところ、選ぶ側になるなら抜きんでる武器はあった方がいいよ、って話だね」
「ラブコメ市場がインフレし過ぎておもしれー巨乳美少女で溢れたのがそれだよね」
選ぶ側になるなら、で思い出しましたが、そういえば前回の体育では話の流れで、追われる女と追う女についてだらだらお喋りもしました。追われる女に憧れるけど実際傍から見てると弄んでる感じでめちゃくちゃむかつくとか、興味ない相手に追われても疲弊するだけとか、追う女は素直であればあるほど強いとか、美人に好かれると相手は調子に乗って浮気しがちとか、そういう雑談です。
最後の話題を出してきたのは今プレイ中の、一応それなりに仲がいい子ではありますが、以前別の子から同じことを忠告という体裁で言われたことがあり、私を非常に憎んであることないこと言い触らしていた子のうちの1人だったので、なんかもう思い出してげんなりしています。
今日は金曜日なので写真部の活動日なのですが、お昼だけでも顔を出そうと思う度にその子の顔が浮かんできて心が萎れてきてしまいます。金曜日の放課後は私が演劇部を優先している後ろめたさもあって、彼女の当てこすりがイキイキとして聞こえるのです。でも彼女の場合それ抜きにも、私がミスターや生徒会のメリーさん、2人と同じクラスで文芸部一年生唯一の男子であるケドーさんなんかと話す機会があると、何かと私の陰口を聞こえよがしに話したり、わたし草凪さんに嫌われてるみたいでさ~などと言ってきたりで、とにかくうんざりしてしまいます。3人ともわざわざ何度も窘めるタイプではないので、一度注意してやめないならもう見放しモードなんですよね。私が言うと角が立ちますし、参ってしまいます。
「創作に限らず、おもしれー女ばっかりになると結局埋もれて捻り過ぎてつまんねー界隈にしかならなくなるから難しいわ。早く次の流行り来ないかな」
「じゃあ……寺生まれの巫女とか」
「ピンポイント過ぎて無茶だよなっちゃん以外いないって」
「だよね。神社生まれの女神の後追いって感じだし」
「まぁなっちゃんは見るからに神々しいよね、ありがたやありがたや」
「それなんか違う」
ミスターが有名人であることと同じくらい、あるいは私はそれ以上に、有名な顔をしています。母方の叔母、榊詩織は夢の追体験と規格化を可能にした功績を称えられ、DRの象徴たる夢の塔<BABEL>の女神、<R.E.M.>の外見モデルに選ばれました。そして私は、性格はまるで違うが顔かたちは叔母に生き写しだとよく言われます。
そういう意味で私とミスターは、生まれた時から縁があると強弁出来なくもないでしょう。DRテクノロジーの最先端で共同研究開発をしていた天才男女の、クローンと姪です。
まぁ、それがロマンティックな縁かと聞かれると、答えに困るのですが。
私が促すと、2人はそれぞれ語り出します。
「じゃあ<BABEL>で何見るかの最終確認でも聞かせてよ」
「うちは前にも言ったけど、家族で国境巡りツアー行くのがメインかなぁ。父ちゃんが過保護だからアルには行くなってうるさくて」
「へぇ。ボクアルカディアしか行く予定ないや。パノプティコンの方が怖くて行けない」
「いーなーオバ」
2人が言ったパノプティコンとアルカディアというのは、<BABEL>を始めとするレイヤードプラットホームにおける、現実を再現する階層としない階層のことです。DR観光や遠距離恋愛などの代替手段として用いられるパノプティコン層と、ゲームや非現実的世界を体験するアルカディア層、と主に区別されます。アバターが生身を再現する・しない、アカウント情報が他ユーザーに照会される・されないの違いでもあるため、パノプティコン層には観光に行く、しかし身元バレするので怖い、という感じですね。
ちなみに、パノプティコン層とアルカディア層は、私が愛読する漫画『似姿のデュナ』のウー共和国とトーレフ独立政府のモデルでもあります。一方の階層に帰属意識を持つ過激な人々にとっては、もう一方は断絶した異文化であり、移民お断り、というところも同じです。何しろ20周年ですからね、独自文化も濃縮されています。
それにしても、世界初のレイヤードプラットホームとして世界に展開した、かの<BABEL>20周年記念の一大記念イベントだけあって、世界各国の大使館や企業がパビリオンやブースを出展し、新製品のお披露目や観光体験、コンサートや密室殺人ミステリ体験など、あらゆる分野のプログラムを体験できる3日間です。普通に体験したのではとても回りきれないので、高速世界様々ですね。夢は情報量を制御できるので、ご飯を炊く間に人生を丸ごと体験できますから。
大人が本気で金と時間を費やして作り上げる、欲望に満ちた魅惑の文化祭。体感時間を調整すればいくらでも回り放題なので、その分経済効果もすごいぜ! というわけです。
「なっちゃんもアルカディアなんだっけ。まー意外っていうか当然っていうか、<R.E.M.>の仮装だと思われたくないよね」
「そーなのよーぅ。そっくりさんも楽じゃないんだよ」
「でも美人なのは羨ましいよ。ボクなんかコラ画像みたいな顔って言われたことあるし」
「それはどういう形容なんだろう」
「さぁ。三世代くらい前の顔なのかな。それよりボク、大海原永遠のコンサート、天井裏席だったんだけどどう思う?」
「え、重力制御して屋根の内側で見るあれ? ウケる」
「ひどくない? そもそも多重階層空間なんだから満席でも1こ階層ずらせば倍入れるのに」
「ステージからは全階層見えてるって思うと、お客さんが何重にもなって見えるのは精神衛生的に避けたいんじゃないかな」
「あー…………。そっか。確かに永遠ちゃん、あれらしいもんね」
「あれ言うな」
大海原永遠さんといえば、巷の注目を浴びる天才ヴァイオリニストにして中学生歌手です。言語障害があり、意味のある言葉を発することができない代わりに、音楽で気持ちを表現する、と聞いたことがあります。音楽と感情には密接な関係があるので、よほど技術があれば可能ではあるのだろうと思います。
苗字でもわかるように、<BABEL>のGONS社、ひいては大海原一属を取りまとめる大海原杳乎会長の孫娘にして社長令嬢でもあり、お兄さん2人共々その活躍はしばしば耳にします。壮業大学に首席入学した長兄の悠誠氏も、高校2年で壮大の放課後飛び級プログラムに在籍している次兄の流真氏も、万才養成所では知らない人はいなかったと聞きました。せんどぅーこと千道彩音ちゃんとD表こと鴾野聡正氏に言わせると、兄は社交的書類主義で弟は友好的開発職気質、そして妹は深窓の時報令嬢だそうです。
言語能力と引き換えの凄絶な表現力、と聞くと、なんとなく別のことを考えてしまいます。
詩織叔母様は生前『人はなぜ夢を見るのか』という本を著しました。その続刊として、テーマを引き継いだ『人はなぜ文字が読めるか』という著作の構想が見つかっています。膨大な数の覚え書きと断片的な草稿を遺してこの世を去ってしまったため、塚原進路氏が編纂して大量の注釈と共に出版されました。その本によると──。
「ねぇなっちゃん、聞いてる?」
「あ、ごめん聞いてなかった」
「えーひどーい。だからさ、塚原くんとはパノとアルどっち行くの? 一緒に回るんでしょ?」
2人は露骨ににやにやしていました。
もう再三言っているのですが、あんまりミスターとの関係を冷やかされたくないんですよね……。私は結婚前提でないとお付き合いする気はないと知れ渡っているはずで、ミスターが婿入りしてお寺を継いでくれるとは期待していません。仮にミスターがその気になったとしても、私の力を知れば、手を繋ぐことすらおぞましく思うのではないか、と考えると、夢想なんかできません。他人のプライバシーを侵害する力なんて、自分が被害者でなくてもいい気はしないでしょうから。
なのにここ最近冷やかされることが増えて、先週の木曜日には早く目が覚めて5分くらい泣いてしまう始末でした。誇張じゃないんですよ、こっちは将来どころか最悪、生命の安全が懸かってるんですから。
結局、その日の夕方にミスターに愚痴を聞いてもらって、お寺に勧誘したという既成事実を取り付けたり片想いごっこの合意を得させてもらいましたが、せっかくの友情を不純なものに貶めてしまった気がして結局落ち込んでいます。
人として、一個人同士としての親しみや仲のいい関係を、立場や環境の圧力で既成の型に押し込められてしまうのは、興ざめですから。
私が周りの女子にはっきりやめてと言えたらミスターに余波が行くこともなかったと思うとただただ申し訳ないのですが、本気で怒ることないじゃんとか冗談通じないやつ扱いされて孤立した挙句冷やかしだけは加速していくのが一番恐ろしいので、ダメージコントロールという名の保身を図ってしまった次第です。
私がミスターを友達だと断言してしまえば、また私を恋敵扱いする誰かが現れて、恨みつらみをばらまき始めてしまうでしょうから。
私がろくでもないデマをばらまかれて周りを信用できないばかりに、私の都合と苦しみを押し付けられたミスターの都合と苦しみは、想像するのも怖くて、もうミスターにすらどう接していいかわかりません。
仲良くなってごめんなさいなんて、今更、言えませんし言いたくもないのに。
私がその話題に触れないと態度で示すと、2人は顔を上げ、視線を女子バレー、ネットの向こうの男子バレー、と巡らしました。
「あー、男子ちらちらこっち見てるじゃん」
「やっぱ男子の方が迫力あるよね」
私が話を逸らすと、フルちゃんも乗ってくれました。
「ね。スパイクの音がもう違う」
「ねぇ、そういえばなっちゃんってさ、あの、今レシーブしたひと、前に告白されて振ったんでしょ?」
「え? んー、そういえばそうかも。運動中だから印象違うのかぴんとこないけど」
「桝渕だっけ? あいつなっちゃんに振られてすぐ、自分に告白してきた女子に馴れ馴れしくし出したんだって」
「うわー、露骨」
「ふぅん」
そうなんだ、と思いながら、私は彼について特に言及するべき理由も何か表現するほどの言葉も思いつかず、適当にスルーしました。私は無駄にモテるせいで恋愛トラブルにうんざりしているので、私に火の粉が降りかからず、誰かが泣くこともないなら、もうそれでいいのでは、と思うようになっていました。桝渕何某氏に告白した女子がそれで喜ぼうと冷めようと、それは2人のことであって、私がどうこう言うことではありません。
「なっちゃんってそういうのあんま言わないけどさ。実際どう思う?」
「あ、それボクもちょっと興味あるかも。ほんとはどう思ってる?」
「どうって言われても、別に……」
そういう質問は、やだなぁ、と思ってしまいます。
女子トークに限らず、『本当はどう思ってる?』はしばしば、あなたが悪口言う姿を見せて、というニュアンスを持つことがあります。それはさながら、あなたも本当は誰かを貶めるの好きだよね、あなたも実は穢れた魂の持ち主だと私を安心させて、という薄暗い願望の吐露のようでもあります。私は大抵においてその態度に抵抗するほどの反感もなく、ただ本心から、そこまで関心が持てない、と思うことがほとんどです。今回の件なら、客観的な印象はよくないとは思うけど悪し様に言うほどではないとか、うっすら距離のある女子相手のことなら、察してアピールして私に自主的に行動させようとするのちょっとめんどくさいなとか、その程度です。
自分も同じように思われてるかもしれないし気をつけよう、とお互いに思える関係や環境づくりこそ大事だと私は思うのですが、なかなかうまくは行かないものです。
「そういう話で盛り上がるのは趣味じゃないんだよ。お願いだから、一々聞かないでよ」
「えー、はーい……」
「ちぇー……」
「でもさ、たまにとかだったらどう?」
「お願いしてるうちにやめてね」
「あ、はい。ほんとすみませんでした」
土下座されました。
この後フルちゃんの土下座が先生に目撃され、何ふざけてんだ見学も授業のうちだぞとお叱りの声が飛んできましたが、語るまでもないでしょう。
♡♡♡
お昼休みになり、教室でお弁当を食べ終えた私は、写真部に何も言わないわけにもいかないので、挨拶だけ済ませてしまうことにしました。
写真部の活動は主に、式典や行事の時に生徒の列の外から、広報・記録用の写真を撮影したり、写真展やコンテストに出品するくらいで、普段出席しなくてもOKです。なので兼部歓迎ではあるのですが、金曜日の放課後は部員が外に出て市内の写真をあれこれ撮影するので、たまに顔を出しておかないとやっぱり何か言われるかな、と気になってしまいます。
活動拠点になっている3階の生物準備室のドアをノックし、返事を確認してスライドします。何となく顔を合わせたくない気持ちが反映されてしまったらしく、動かない方のドアに身を隠す形で立ってしまっていたため、誰が開けたのかわからないけどドアが動いた、と中の生徒たちが小さな驚きと不安の声を上げてしまいました。私が覗き込むように顔を出して会釈すると、目が合った皆さまは、なんだ草凪さんか、びっくりした、なっちゃんたまにそういうことするよね、など、やんわりと歓迎してくださったようでした。ちなみに写真部は男女ともそこそこ多く、お昼の常連は女子が多いです。
後ろを向いて同学年女子グループでお話していた、牧野箕郷先輩が大きな声で手を振ってくれました。
「やっほー! 心霊現象かと思った!」
「お騒がせしました。……ありゃ、部長さんお留守ですかね」
「どしたー? 用事なら伝えるよ?」
背筋を伸ばして入室し、教室を見回しますが見当たりません。黒髪のローポニーテール、眼鏡と白い肌の女子生徒がこちらを白けたような眼で見ていたので、堂々と会釈をした後、箕郷先輩に伝言をお願いすることにしました。演劇部で本格的な活動が始まり、金曜の放課後の集まりには当分来れそうにない、と伝えると、おっけー、がんばれー、と軽い返事が来ました。
何やるのー、と比較的友好的な同級生女子たちに聞かれ、年末に市民ホールで発表会をやることになったこと、天女と男性が出てくる童話系恋愛ものであること、急な話で人手が足りなくてだいぶ参っていることなどを簡単に伝えると、先輩男子たちから、草凪さん天女か、似合う似合う、俺もその役やりてー、などと野次が飛び、皆の気心知れた言い合いが始まります。
私はその中に混じっているふりを少しした後、それでは、と片手を挙げて挨拶し、ばいばいやらまたねやらお返事をいただきながら、部室を後にしました。
結局、私を白けた眼で見ていた戯津雪菜さんは、一度も口を開きませんでした。
私はそのまま3階の青空天井の渡り廊下を歩きながら、曇り空を見上げて伸びをします。
「あー…………何も言ってこないだけありがたいんだから参っちゃうね……」
私はそのままため息をつき、両腕をぐるぐる振り回し、前や後ろ、左右で逆回転などひとしきり運動した後、ふと振り返りました。生物準備室はカーテンが開いていて、私のいるいないに関わらず、楽しそうに話している様子が見えます。そして、戯津さんは今は、同じクラスのグループと楽しそうに笑顔で話をしているようでした。
私は目が合わないように前を向き、教室に戻ることにしました。
戯津さんが私を嫌っていることは、中学時代から知っていました。当時は接点がなかったので、彼女について判明していたことといえば、色白で整った顔立ちで、私をライバル視しているっぽいことと、彼女が仲良くなった男子が私を好きだったらしいという、その2点に尽きるでしょう。私はその男子とも縁がなく、告白どころか話しかけられすらしなかったので、友人から情報が回って来なければ知る由もなかったと思います。
ただ、私の想像以上に彼女の私に対する拒絶心と憎悪は強かったらしく、私が高校入学直後にばらまかれた男遊びがどうのという事実無根のデマに、彼女は加担していました。彼女の場合は間接的に、わたしあの子に嫌われちゃってるみたいでさぁ~、そういう噂があるからさ~、などと何食わぬ顔で印象操作したり蒸し返しつつデマを正当化して責任逃れするという、一歩引いた狡猾なものでした。
そういう噂があるとあちこちで言い続ければ、噂を無責任かつノーリスクで広められる、というテクニック自体は、『似姿のデュナ』で、私が一番好きなキャラクターがしばしば使ったものなので、すぐに気づきました。私が写真部に入部した時、丁度その手法で写真部で拡散されている真っ最中だったので、部員みんなのいる前で彼女に、もしそういうこと言う人いたら本人は嫌がっていたって言ってくれると嬉しい、無責任な嘘広める恥知らずな人私大っ嫌い、と伝えたので、少なくとも写真部で彼女がデマを蒸し返すことは封じましたが……。
結局デマは手段の一つであって、私を嫌い続ける以上、ネガティブキャンペーンは別の形でいくらでもできてしまうんですよね。
実際に私があの子を嫌っているかというと、私の人生の邪魔をしないでほしい、というのが率直な感想です。嘘ついたりしなきゃいいんですよ。他人を虚偽で陥れようとする行為が問題なのであって、それさえやめればもう水に流してもいいくらいです。いつまでも被害者面するのは好きじゃありませんし、反省する気がないのに形だけ謝られても腹立たしいだけですからね。
愚痴っぽくなってしまいましたが、今後も写真部の先輩方には挨拶しに行きたいなぁという気持ちと、あの子に会いたくないなぁという気持ちで、後者に傾きつつあります。
似たような例が茶道部の三年生の先輩のときもあったので、いくら私が気に入らないにしても、ばれたら謝って済む程度にしておいてくれないかな、とよく思います。勝手に盤外戦術仕掛けて自滅って、そんなのに苦しめられた私がバカみたいですし、私のせいで相手が不幸になったからとさらに逆恨みされたらたまりませんからね。
そして、そういう人たちを刺激するとまたあることないことばらまかれるので、写真部をいつまでも避けるわけにもいかないんですよね……。茶道部は問題の先輩が引退したのでちょくちょく遊びにお邪魔していますが……。
中学時代は仲間内で戯れにママ呼ばわりされていたこともありますが、実際のママと違って立場ではなく行動の評価に過ぎないので、同級生や上級生を諭したり叱ったりは逆効果になることもしばしばあるのが、難しいなぁと強く思わされます。
中学の頃、ゲーム仲間だった親戚やその家族に相談して、社会心理学や認知戦、情報工作やプロパガンダなどの本を色々読ませてもらったので、現状を理解できないまま一方的に封殺されるようなことにはならずに済んでいます。ですが、理解できたところで、デマをばらまく方が訂正するより圧倒的に容易で拡散力も高く、新天地で人間関係を構築するより早く初手で私の人格を捏造されてしまうと後手に回るしかないので、今の私は半分くらい学習性無力感に襲われている気がしてなりません。
相手はデマが広まって私が孤立すれば勝ち、私がデマを否定し回って疲弊しているうちに次のデマをばらまけば勝ち、そうして最終的に私が他人を信用できなくなれば大勝利、という邪悪な戦略ですよ。これで私がキレて怒ったり武力に訴えたらデマの補強材料になって、証拠を集めようにも口頭だから一度言えば証拠なんて残らず訴訟もままならない有様です。
…………現状を整理しているだけのはずなのに、自動的に私の性格まで悪く見えてくるのってどうしたらいいんでしょうね。相手の所業があまりにもあんまりなものですから、被害報告する私の印象まで悪くなるというか……。
ただ、まぁ、思い込めばいくらでも歪んで見える、と皆が自覚するだけでも、多少は違うでしょう。
お寺の事務などを、祖母が母にそうしたように母が次の代に任せないなら、私は結婚妊娠できるまでどこかでパートタイムジョブに出ないといけません。ですが、行った先でも似たようなことが起きかねないと思うと、人間関係って本当に運だなと思わざるを得ません。
♡♡♡
文芸部の部室は、一年生の教室の並びの一番奥まった、小さな部屋です。我が理数科のH組教室と、廊下突き当りの書道室の間、生徒会室に入る細い道を縫うような死角を突いたところに、人の気配がします。
文芸部の2年生はカップルばかりなので、こっちはこっちで私がサークルクラッシャーにならないように気をつけないといけないのですが、こちらは写真部と違って、みんなでTRPGやボードゲームに興じるような放課後を過ごす小さなコミュニティのため、歓迎されることが多いです。
窓から見えるのは、カップルではなく、web小説絶賛連載中のロープちゃん先輩と、ミスターの友人かつ戯津さんのお気に入りのケドーさんでした。めったに見ないケドーさんがいるとは、ハロウィーン号の小説のデータ提出とかでしょうか。
声が聞こえてくるので、ちょうどいいところで入るべきかどうか、一応様子を見ます。
「わたしも別にね、覚悟はしてたのよ。読者は作品を選べても、作者は読者を選べないって。だから書きたいように書いたんだけどさ……」
「まぁ結局読者なんて読みたいようにしか読まないっすからね」
「そう! 作者が一番伝えたかったことを恋愛の調味料扱いしたり、工夫を凝らした筋立てをごっそりばらしてチープな紹介に貶めたり、反省した成長キャラをざまぁ要員みたいにこき下ろしたり!」
ロープちゃん先輩はお怒りのようです。その感情が妥当か不当か私にはわかりませんけれど。
とりあえず、ご挨拶と参りましょう。
「どうもどうも。……なんか妙に盛り上がってますね」
「おーマイちゃん。大丈夫、わたしクールだよ頭は。ハートが熱くなりすぎてるだけで」
「それはそれで……。ケドーさん、珍しい」
「ようマイケル。実際にweb投稿してる人の話聞いてたんだ。やっぱリアルはリアリティが違うね」
「まぁリアルはリアリティが要らないせいで時として理不尽だけども。……あ、お話邪魔してしまって」
私は二畳未満の部室に入り、その半分を占める長机の下座に着きました。ちなみに私がマイちゃんだのマイケルだのと呼ばれているのは、ペンネームが舞いける寂存だからです。草凪和沙とはどの文字もかすってすらいません。
「いーよいーよ。なんか飲む?」
「あ、隣に水筒ありますので、構わず続けてくださいまし」
「そっか。じゃあ、どうしよ。ケドーくんに愚痴ってたのは、まぁまとめると気に入らない読者の話なのよ。悪意とかマナー違反とかじゃない、根本的なところを読めてないとか感想の出力がおかしいタイプの話ね」
「あー……」
私は反応を濁しました。私は部誌以外で世に作品を出したことがないので、わかります~と言えそうにないからです。
ケドーさんも投稿はしていなかったと思いますが、真面目に反応していました。
「ハンロンの剃刀ってやつっすか」
「ハンロン……ああ、無能で説明できることに悪意を見出だすなって」
「うん。わたしの今回書いた短編は『細部と全体のねじれ』をコンセプトに作られてるから、場面場面だけ読んでると本質的なところを読みそこなう、っていうすごいいやらしい仕掛けをしてるんだけどさ。感想がもう見事にほぼ全滅。2人しか言及無し」
「むぅ……それは私も引っ掛かりそうでなんとも……」
こればっかりは、読んでみないと何とも言い難いですね。バックナンバーを読んだ限りではロープちゃん先輩の作品はかなり凝っていますが、あんまり作品と関係ない凝り方をしている気がするせいです。文章が上手くて簡潔にまとまっているので表面的に読みやすいのは間違いないのですが、その表面的な出来の良さと、ロープちゃん先輩のいう本質的なところというのが、特に関係ない可能性が高いのです。テーマが重なっているとか、PerFEで言えば同じ方向を向いているとかではなさそうなので、難しいですね。
「マイちゃんは普通に読めると思うよ? ケドーくん一発で理解できたし」
「それはすごい」
「読解力っつーか……あ、これ言うとネタバレになるんすかね」
「まぁいいよ、マイちゃんだし言っても」
「それならぼんやりとだけ聞くけど」
「ぼんやりとね。読解力じゃなくて、コミュ力とか人間理解の話なんだよ。だからまぁマイケルもいけるだろ」
「作者としては想像力か経験の問題って感じなんだけど、やっぱ投稿する場所とか読者層が合ってなかったかな」
「場所。確かに私も、難しい話はアマチュア作品には期待してないので、思っても深読みしすぎかなと考えちゃったりはあります」
「だよね。……でもわたしがむかついてるのは、読めてないのに褒めてくる読者なんだよ」
「あ、さっき言ってた」
「そう! まぁネタバレはあれだから省くけど、いわば顔だけ見て好きって言ってるような態度ね。表面的にもよくできてると自分でも思うからそこを褒められるのは満足なんだけど、それが全てだと思ってやがるなこいつみたいなね。マイちゃんそういう経験しょっちゅうじゃない?」
「なるほど。なるほど!」
私はあえて大袈裟に頷き、ロープちゃん先輩は満足げにそうだろうそうだろうと言いたげな表情を浮かべました。
「わたしの場合はだけど、そういう経験しちゃうとなんかもう、崇拝とか感謝レベルの感想が侮辱に聞こえてくるんだよね。これだったら感想無しでスルーとか☆0の方がただの数字にできる分マシっていうか。……そういうの、マイちゃんどう思う?」
「贅沢な話だよな」
「それはそうなんだけどさ」
「む……」
無理解な好きと無理解な嫌いのどちらがマシかと言われると、私は率直な意見を述べざるを得ないでしょう。
「経験から言うと、☆0は☆0で、よそであることないこと触れ回って知らない人の印象下げるおそれがあるので、だったら褒めてもらえる方がマシと思っちゃいますね」
「あー…………そうか。そうだったね。ガチでごめん」
ロープちゃん先輩は私が文芸部に入部した時からずっと、デマに否定的な態度を取っていてくれたので、今の言葉で通じたようでした。
ケドーさんはケドーさんで、ミスターの友人らしい思慮深さを持っているので、やはり通じたようでした。
「ケドーさんはどう?」
「オレの好きな漫画もヒットした途端カスみたいな考察が出回ったりしたから、良くも悪くも有名になる過程として避けて通れないんじゃね、という諦めが全てを支配している」
「言い方に対して内容がダウナー過ぎる……」
斜め下の返答に私が呆れると、ケドーさんはふっと苦笑しました。
「諦めろ、諦めれば違う景色が見えてくる、諦めた方がいい。座右の銘です」
「もっと幸せな生き方できると思うよ君……。……まぁ……そうだよね。信者じゃなくて理解者が欲しい、ってのも、贅沢だよね」
ロープちゃん先輩が変な方向に納得しようとしていたので、私はやんわりと軌道修正を掛けます。
「私の場合はですけど、期待が重いなぁがんばろう、と思えるかどうかは大事だと思います。小説で言うなら、読む人が増えればいろんな受け取り方が生まれる分、適切に読み取ってくれる人も出てくるでしょうし。質を確保するには結局量、っていうのは何においてもそうでしょうから」
「含蓄がある……」
「そうやって褒めてもらえるのもちょっと大げさっぽくはありますけどね」
「あ、そう? 許せよ後輩」
「別に許さない程ではないんですけれども。読者が増えるってことは無理解の数も増えるってことでもありますし、理解者と同じくらいだけ、嫌いだから好き勝手言ってやろうって人も出てくると思ってます」
「あーうん……その……ドンマイ」
「いい諦めだ。そのバランス感覚は貴殿の人生を豊かにするであろう」
「誰よ」
小芝居が終わり、私はまた話を続けます。
「読者目線に立った時、自分が好きな作品に対しても、作者としての自分が求める態度でいられるか、というのもありますしね」
「うーん……それ言われると弱い」
「分析って崇拝と相性最悪だもんな。いくら面白くてドハマリしてものめり込むな、なんて無茶な話で。信仰しないで批評の目を持てって言われても、教科書じゃなくて娯楽なら、そんな素養ないし必要ない、むしろ邪魔になる、って読者の方が多いでしょうしね。オレは面白かったら読み返したり頭の中で思い出して色々考えるタイプですけど、読んで読みっぱなしタイプには読後感が全てでしょうから」
「そうかー……。その辺頭になかったなー……」
「色んな読者層を取り込む弊害、ですよね……。作品ならタイトルとかタグとか文体やら絵柄やらで、事前に弾ける、っていいですよね」
「まぁ、そうね。どうしても売れ線とかランキング狙うと読者も固定観念じみた期待が先行しちゃうし……」
だいぶ煮詰まってきたようで、話をまとめたのはケドーさんでした。
「最終的には、読者に期待するな、じゃなくて、読者にどういう期待させるか、って感じっすかね。マシな結論に落ち着いてオレは正直感動してます」
「そんなに」
「まぁマイちゃん来なかったら愚痴って終わりだったろうしね……。そういえば2人は部誌には出してるけど、外部に投稿とかしないの?」
「私は、読者評価系のサイトはそもそも埋もれて読んでもらえないと思うので、するなら賞に応募とかがいいかなぁとは……。長編向いてないんで短編狙いになりそうですけど」
「ケドーくんは?」
「オレは……書きたいもの書くのに人の顔色窺いたくねぇ、というこの性格がどうしようもないので、現状はただ書いて、部誌とか気が向いたら人に見せる程度っすね。書きたいものと書けるものが違うので、読んでほしいものまで加わると無になるというか」
「あー…………」
「そういうのほどニッチ需要がめちゃくちゃ強かったりするんだけど……読者が巡り合えないタイプでもあるから難しいよね」
「オレは現状だとファンも信者もアンチもそもそもつかないし、ついても即振り払うタイプなんだろうな、と自覚はあるので、人格矯正が最優先っすね」
「そこは陶冶でいいんじゃない」
「ま、上手く諦めていきますよオレは」