黒狼鳥女のヒーローアカデミア   作:極限獰猛傀異克服歴戦王辿異種黒狼鳥

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唸る警鐘

 

 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見る事になった」

 

マスコミ騒ぎの翌日、HRで相澤が予定の変更を伝えてきた。

昨日のマスコミ侵入を重く見たのか、いつもと比べかなり念入りだ。

玄竜が、自分達が知らない何か重大な事があったのではないかと邪推する中、相澤は『RESCUE』と書かれたプレートを見せる。

 

「今回の内容は災害水難、なんでもござれの人命救助(レスキュー)訓練だ!!」

 

「レスキュー…今回も大変そうだな」

 

「バカおめー! これこそヒーローの本分だぜ!? 鳴るぜ!! 腕が!!」

 

「水難なら私の独壇場。ケロケロ」

 

「ッ……(レスキュー、か……私に出来るのかな)」

 

レスキューと聞いた周囲が沸き立つ中、玄竜は顔を顰める。どうしても自分がしっかりとレスキューを行えるイメージが出ず、不安がまた彼女の心によぎる。

 

「おい、まだ途中。……今回、コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうしな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

 

(……ダメダメ! こんな気持ちのままじゃ、できるものもできなくなる! 今は出来なくても、次できるようにする!! 今までだってそうしてきたじゃない!!)

 

相澤が騒いでいた何人かの生徒達に睨みをきかせ、再び説明を続ける中、玄竜は両頬をパチンと叩き、自身を奮い立たせる。

玄竜は他の女子より少し遅れてコスチュームの入ったアタッシュケースを取り、追いかけるように更衣室に向かった。

 


 

「スムーズに乗れるよう、番号順に二列で並ぼう!」

 

バスが待機している場所へ行くと、飯田がキビキビとした動きでクラスメイトを並ばせていた。元々真面目さが目立っていたが、学級委員長に選ばれてからはさらにそれが強くなっている。

しかし乗り込んでみると……

 

「こういうタイプだった、クソウ!!!」

 

「意味なかったなぁ」

 

座席の配置が彼のイメージしていた物とは全く異なるタイプだったようで、飯田は指示が完全に空回りだった事に落ち込んでいた。

芦戸からのトドメの一言で項垂れている彼を横目に、玄竜は窓から外の景色を眺めていた。普段は快活な彼女だが、やはり緊張が無くなっていないのか、今は殆ど口を開いていない。

()も仮眠をとっているのか、目を閉じたまま静かにしている。

道中、緑谷が個性がオールマイトと似ているという話で盛り上がり、そこから自分達の個性について話が移る。

 

「しっかし、増強型のシンプルな“個性”はいいな! 派手だし出来る事が多い! 俺の硬化は対人なら強えけど、いかんせん地味なんだよなぁ」

 

切島が嘆くように、個性で硬化させた左手を周囲に見せる。確かに地味だ。しかし、完全と言っていい程に精密なコントロールがされている辺り、並々ならぬ努力が見える。

しかし緑谷はそうは思わなかったようで、切島の個性を褒めちぎる。

 

「そんな事ないよ! プロにも十分通用する凄い個性だって!!」

 

「プロなぁ!でもよ、プロヒーローって人気商売な所あるじゃねぇか。そうすると地味なのはけっこう致命的なんじゃねぇかと思うんだよな─────」

 

そして今度は個性の派手さについてで盛り上がり、騒がしくなっていく車内。相澤先生が注意して黙らせる中、玄竜はまだ景色を見ていた。

 


 

「でっか……」

 

雄英の校舎と同じかそれ以上に大きなドーム状の建物の前で、私達の乗っていたバスが停止する。

相澤先生の引率で、これまた大きな扉を通って中に入ると、そこには小さなドームと災害現場の詰め合わせがあった。

 

「すっげぇーーー!! USJかよ!!?」

 

切島くんが目を輝かせて辺りを見回す。

USJ……あぁ、中学生の時に誰かがそこに行ったのを自慢してた気がする。……そういえば私、あんまり外に行ったこと無いなぁ。

足音を聞き取って中央の噴水の方を見ると、宇宙服を着たような人がこちらに近づいて挨拶をしてきた。

 

「皆さん、待ってましたよ。ここは水難事故、土砂災害、火事 エトセトラ…あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も……U(ウソの)S(災害や)J(事故ルーム)!」

 

「スペースヒーロー『13号』だ! 災害救助で目覚しい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

「わー! 私好きなの、13号!」

 

どうやら13号先生は災害救助で有名なプロヒーローみたいで、緑谷くんはいつものように早口で解説して、麗日ちゃんはぴょんぴょんとはしゃいでいた。

相澤先生が13号先生に何やら耳打ちした後、相澤先生がオールマイト抜きで授業を始めると伝えた。

 

「えー、では訓練を始める前に、お小言を一つ二つ…三つ……いえ、四つ……」

 

何やら凄い勢いで増えていく"お小言"に困惑しながらも、私達は先生の話に耳を傾ける。

 

「ご存知の方もいるでしょうが、実際に見てもらった方が分かりやすいでしょう。僕の“個性”は『ブラックホール』。このように───」

 

13号先生が何も無い方に指を向けた後、コスチュームの指先がめくれるように開き、それを見た相澤先生が投げたゼリー飲料のゴミが指先に吸い込まれ───塵になってコスチュームの中へ消えていった。

 

「どんなものでも吸い込みチリにしてしまいます」

 

「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

「えぇ…しかし同時に、簡単に人を殺せる力です。皆さんの中にもそういった"個性”が居るでしょう」

 

13号先生の、どこか実感のこもったような言葉は、私の心ににひどく突き刺さった。

紙より容易く人の肉を貫くクチバシ、傷口が閉じるのを許さず、悶え苦しませる尾の毒、一蹴りで骨など小枝のように砕けてしまう脚……そして何より、恐怖と倫理を圧倒的な本能で塗り潰す、制御困難な闘争心。

 

「超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく規制する事で一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せるいきすぎた“個性”を個々が持っている事を忘れないで下さい」

 

今までは、幸運なことに私を抑えられる誰かがいた。最後の一線だけは越えなかった。でもそれは薄氷の上でようやく成り立っていたもの。

敵を殺し、ただひたすらに勝つためだけとすら言える私の個性は、13号先生の"いきすぎた個性"そのものでしかない。

 

「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体感したかと思います。しかしこの授業では───心機一転! 人命の為に“個性”をどう活用するかを学んで行きましょう! 君達の力は傷付ける為にあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな」

 

……でも、13号先生がそんな私でも誰かを助けられると言ってるみたいで、どこか安心した。

チャンスは数え切れないほどもらっているんだ。なら、それに応えなきゃ!!

 


 

「そんじゃ、まずは………ん?」

 

13号の話も終わり、早速授業を始めようとした相澤が、何かに気が付いたかのように振り返る。

先程まで影も形もなかった黒い靄が、噴水を遮るように広がっていく。揺れ動くそれが人より大きくなった瞬間────

 

ぞわり。

 

恐怖か、嫌悪か、それとも本能か。靄から出てきた"奴"を感じ取った玄竜の毛が逆立ち、徐々に"抑え"がきかなくなる。

 

全身に手が張り付いた少年の瞳がこちらを覗いた瞬間、相澤は生徒達の方を向いて叫んだ。

 

「一固まりになって動くな!13号、生徒を守れ!」

 

 少年が出たのをはじめに、急激に増大した黒いモヤからは、この場に相応しくない物騒な雰囲気の人間が次々に姿を見せる。しかし、殆どの生徒は状況を把握できておらず、相澤の声に対して、これも訓練なのかと呆けたような反応を示す。

 

「動くな!! あれは"本物"の(ヴィラン)だ!!!!」

 

「……ん? はぁーー…どこだよ、オールマイト…せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ…子供を殺せば来るのかな?」

 

だが、相澤の気迫と、靄から出てきた底冷えするような少年の声がそれを完璧に否定する。これは雄英が課した"試練"などではない。正真正銘、純粋な悪意に塗れた"本物"が仕掛けた襲撃だと。

 

(ヴィラン)ンンン!? バカだろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!」

 

「いや…何にせよセンサーが反応してねぇのなら、向こうにそういう事が出来る個性の奴がいるって事だな。バカだが、アホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

轟の冷静な分析で、周囲の緊張が更に強まる。相澤も同じ考えに行き着き、すぐに的確な指示を飛ばす。

 

「13号避難開始! 学校に連絡試せ! センサー対策も頭にある相手だ。電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ!!」

 

「先生は!? まさか1人で戦うつもりじゃ!! いくら"個性"を消したって───」

 

「いいか緑谷……ヒーローは一芸だけじゃ務まらん! そっちは任せたぞ13号!!」

 

口を挟む緑谷の言葉を遮り、相澤先生は(ヴィラン)の集団へ飛び込んでいく。

だが、これだけじゃない。まだこの悪意は終わっていないと、玄竜の本能が訴えかける。靄から、いや。"靄の先"にいる存在から意識が離せない。

靄の端を掴み、這い出るようにその正体が顕になる。

 

『おいおい、そう焦るなよトムラ。ターゲットが生きてるのは確実なんだ。なら、嫌でも来なきゃいけねぇようにすりゃいいだろ?』

 

「……チッ、ンなもん分かってる。いちいち癇に障る言い方しやがって」

 

『つれないねぇ……"先生"ならもっとユーモアを込めて返してるぜ?』

 

怪物に"トムラ"と呼ばれた少年は、揶揄いを隠そうともしない言葉に対して舌打ちする。嫌悪を隠そうともせず睨む彼に対し、怪物は飄々として受け流す。

怪物の姿に、教師の2人でさえ僅かに怯んだ。あれは異形型なんてものじゃ表現できない。そう思わせる程に人からかけ離れた姿の怪物。

痩せこけ、浮かび上がっている肋骨と張り付くように乾いた紫皮。それだけ聞けば病人のはずなのに、脆弱さなど欠片も思わせない。丸まったような姿勢でいて尚3mはある禍々しい巨躯。悪魔を連想させる赤い翼、鋼も噛み千切ってしまいそうな牙が並ぶアギト。何より目を引くのは、尾の先端にある大きく、鋭利な切っ先。理性の欠片も無さそうなのに、冷静に、淀みなく人語を発するその姿は様々な生物をまぜこぜにしたキメラ人間のよう。

 

『それに───俺からすれば、奴はいない方が好都合だしな』

 

怪物の怪しく光る黄色の目が、13号の先導で避難する生徒の方を見る。

まるで、誰かを探すように。

 

『もう出番みたいだぜ? 黒霧』

 

『言われなくとも。あなたも来ますか?』

 

怪物が靄に向けて話しかけると、朧気に人を形作った靄から黄色い目が出て、はっきりとした返事が返ってくる。

"黒霧"と呼ばれた靄の質問に、僅かに悩んだ素振りを見せた怪物は、獲物を見つけたことで口を歪めながら首を振る。

 

『いや、俺はここで待つさ。俺が行かなくても、向こうから勝手に来るだろうしな』

 

『…そうですか。では、また後ほど』

 

淡々とした返事をした黒霧は、13号達の方へ飛んでいく。

次々と相澤になぎ倒される(ヴィラン)を見世物のように眺めながら、怪物はその時を待つ。

 

『あぁ……楽しみだぜ、もうすぐお前と殺り合えるって思うと、身体が疼いてしょうがない!!』

 


 

「大丈夫か玄竜くん!! とにかく早く避難を!!」

 

「ッ…うん!!」

 

飯田の声掛けでようやく我に返った玄竜は、他より数歩遅れて13号の先導で扉へ向かう。

しかし、扉を塞ぐように広がった、黒い霧のような異形型の(ヴィラン)、黒霧に阻まれてしまう。

 

『初めまして、我々は(ヴィラン)連合。僭越ながら……この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは、平和の象徴オールマイト、彼に息絶えて頂きたいと思っての事でして。本来ならばここにいらっしゃる筈…ですが、何か変更があったのでしょうか? まぁ…それとは関係無く…私の役目はこれ』

 

黒霧が話を終えるよりも早く、13号が指先を向けて"個性"を使おうとした瞬間、その後ろから2人の影が飛び出す。

 

「その前に、俺達にやられる事は考えなかったか!?」

 

その正体である爆豪と切島が同時に攻撃を仕掛けたが、黒霧にはまるで効いていなかった。爆豪の起こした爆破で崩れた霧も、すぐに元の形になる。

 

「ダメだ! どきなさい2人とも!」

 

『危ない危ない…そうでした、生徒と言えど優秀な金の卵。散らして……嬲り殺す!!』

 

2人が射線上にいてブラックホールを使えない13号を見て、黒霧は一気に霧で生徒達を囲うように展開する。

 

「くっ……間に合わない──!!」

 

遅れて必死に霧を吸い込む13号だが、それよりも霧の広がる勢いの方が上回り、完全に霧で周囲が覆われる。

しばらくして黒いモヤは晴れた。だがその場には黒霧と13号、そして6人の生徒だけが残されていた。

そこに、玄竜の姿は無かった。




玄竜ビーク:普段は黄色がかった丸っこい普通のクチバシで、普通に喋れる。しかしひとたび抑えを外せば毒々しい紫色に変色、下顎が肥大化し、尖った形状になる。この状態は喉もクチバシに合わせた変化をするため、言葉を話せない。
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