黒狼鳥女のヒーローアカデミア 作:極限獰猛傀異克服歴戦王辿異種黒狼鳥
試合開始の合図が出た瞬間、パキパキと何かが迫り来る音がしてビル全体が凍りつく。不意打ち気味に来たせいで避ける間も無く、巻き込まれるように足下ごと凍結された。
轟くんが氷を操る個性なのは分かっていたけど、まさかここまでとは……流石に予想外だった。
「さ、寒いーー!!!」
「やられたっ……!!」
葉隠ちゃんと尾白くんも避けられなかったみたいで、完全に無力化状態。足の凍結をどうにかしないと、まともな遠距離攻撃の手段を持たない2人を捕まえられて負ける。放っておくのは論外だ。
「今から変身して氷を壊してみる。壊せたら作戦通り、ダメだったら仕方ない。ここで迎え撃とう」
私は白衣を脱ぎながらそう言って"抑え"を外す。全身の構造が作り替えられ、脚を覆っていた氷も内側からの圧力に耐えきれず、静かに割れる。衣服を簡単に引き裂く程の圧力を加わったのだから、壊れない方がおかしいだろう。
解放されたのを確認した私は脚を軽く振り、まだ付着していた氷を振り落とす。そして少し歩いた後、さっきまで立っていた場所に嘴の下顎を振り下ろす。
「うぅー……まだ寒いよー……」
「さっきまでビクともしなかったのに、こんな呆気なく……」
ヒビで強度の落ちていた氷は呆気なく砕けて、2人とも一応動けるようにはなった。葉隠ちゃんが震えていたので、着ていた白衣を嘴で咥えて被せる。
その直後、発達した聴覚が2人分の足音が止まるのを感じ取り、数秒して走るような音になった。轟くんは索敵できるような個性じゃないだろうし、障子くんが異変を感じ取ったんだろう。
私は"抑え"を戻して、相手に指示を聞かれないよう唇に左手の人差し指を当て、右手で簡単なハンドサインで2人にこの部屋で留まるように促す。意図がちゃんと伝わったみたいで、2人とも静かに頷くだけに留まった。
玄竜が最上階から4階に降りると、ちょうど3階に繋がる階段から轟が出てきた。
「…障子、作戦変更だ。先に単独で行ってくれ。どんな手品で抜け出したのか知らねぇが……まぁいい。もっかい捕まえれば変わらねぇ」
「尾白くん、こっちは轟だけっぽいから片方よろしく。さっ、やろっか!!」
互いに無線でここにいないもう片方の対処を味方に任せ、戦闘を始める。
先手必勝とばかりに轟が氷結を床に走らせ、一時的な拘束を狙う。しかし、今までの何倍もの速さで"抑え"を外しきった玄竜は、嘴から火球を吐いて氷結の進行を阻害する。
『──────ッ!!!』
「チッ……」
間髪入れず玄竜は獣の雄叫びを上げながら馬力にものを言わせ突進してくる。轟は氷の壁で止めようとするが、分厚く堅牢な氷は彼女の鋭利な嘴で砂糖菓子のように容易く砕かれる。
轟は咄嗟に横に跳ぶことで突進を避けるが、彼女はこちらの行動を予測していたかのように同時に足の爪でブレーキをかけ、追うように横跳びで翼によるタックルを仕掛ける。
「イカれてやがる……」
足下に生成した氷で滑る事で軌道を変え、タックルを紙一重に回避する。続けざまに氷結を放ち、何とか距離を取った轟は悪態を吐く。彼は今まで散々叩き込まれた戦闘経験──彼にとって思い出したくないものではあるが、この時ばかりはそうも言っていられなかった──で、彼女が『こちらの致命傷とならないスレスレの威力で常に戦う』という離れ業をしている事を察した。
初撃の火球から寸分の互いも無く、死にはしないが1度喰らえば確実に負けるギリギリを攻めるような攻撃。それを絶え間なく仕掛けてくる。
「くっ……」
『─ッ!』
突進から突然派生した啄き──小技にも満たないただの啄く行為でさえ笑えない威力で飛んでくる──をスレスレで避けつつ、彼女の顔に手を当てて氷結で視界を塞ごうとするが、玄竜は轟の心を読むように嘴を横にぶん回して彼を払い飛ばす。
轟はこれ以上長引かせるのは不味いと考え、追撃の火球を氷の壁で防ぎつつ最上階へ繋がる階段を目指す。その意図を察した玄竜は逃がさんとばかりに階段へ火球をマシンガンのように飛ばし、着弾による爆風で轟が怯んだ隙に嘴で階段を崩してしまう。逃げる事も許されなくなった。
互いに突破への決定打となる一撃を当てられず、されどもじわりじわりと追い詰めているのは玄竜の方。
仮にこれが互いに撃って撃たれてを繰り返す互角の戦いだったとしても、数の差と制限時間による外的要因がヒーローチームの首を絞めていく。
『───!!』
(今までのは本気じゃなかったのか……!?)
轟に打開策を考える暇も与えられず、玄竜の苛烈な攻めが再び押し寄せる。更に彼女にとっては狭苦しい室内にも関わらず、ホバリングによる3次元的な機動と蹴りも混じり始め、明らかにこちらを確実に仕留める動きになっていた。
防戦一方で遂に壁際まで追い詰められた轟に、玄竜が突進をしようとした瞬間────
『TIME UP!!!
オールマイトが時間切れを告げ、玄竜はブレーキをかける。完全に止まった後に"抑え"を戻した彼女は息を整え、轟にVサインをする。
「ふぅー。私の……いや、