黒狼鳥女のヒーローアカデミア 作:極限獰猛傀異克服歴戦王辿異種黒狼鳥
戦闘訓練の翌日、私は機嫌よく鼻歌を歌いながら登校していた。試合終了後、幾つかダメ出しはされたものの、思っていたよりも良い評価を貰ってちょっと安心した。何もかもダメ出しされるよりは、褒められた方がずっと良い。
「〜〜♪、〜〜〜〜♪……──ん?」
校門を通る直前、前の人だかりに気がついた私はスキップを止めてその様子を見る。集団は端正にスーツを着こなして、手にはマイクやカメラ、集音器を携えている。どこの局なのかとかは分からないけど、ニュース関係の人達なのは間違いない。
「すいません、雄英生ですよね!? 教師としてのオールマイトはどのような感じですか!?」
マスコミ集団の横を通り過ぎようとすると、私に気がついた女の人が詰め寄ってきて、無遠慮にマイクを向けてきた。
「あえっ!? そ、その……」
あまりにも突然にマイクを向けられたせいで、私は返答に困ってしまう。他の人も私に気がついて、ずんずんと詰め寄ってくる。
「オールマイトの授業はどんな感じです!?」
「教師オールマイトについてどう思ってます!?」
次々と質問が──どれもこれもオールマイトについての質問だ──投げつけられる中、私は突破口を思いつく。
「私はあなた達のインタビューを受けるだなんて、ひとっっっことも言ってないですよ!! だからインタビューを拒否する権利がありますし、答えなきゃいけないなんて義務もないです!!! ……さよなら!!」
私が記者達に対して若干威圧も混ぜてそう言い放つと、さっきまでの勢いが嘘のように黙り込む。さっきまで上機嫌でいられたのに、全部吹き飛んでしまった。とんだ災難だ。
(っ! ……ここに居続けても嫌な気分になるだけだし、さっさと教室に行こう……)
クラスメイトのみんながインタビューを受けているのを見て、自己嫌悪に陥ってしまいそうになった私は、教室に向かう足を早めた。
しばらくして教室で相澤先生がHRを始めて、昨日の戦闘訓練について触れてきた。
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見せてもらった。爆豪、お前もうガキみてぇなマネするな。能力あるんだから」
「………わかってる」
相澤先生の指摘に、爆豪くんは俯きながら返事をする。あの喧嘩の後から、爆豪くんは緑谷くんに対して常に向けていた敵視とも呼べるものを殆ど向けなくなった。何故、何も知らない赤の他人だった私が感じる程の敵意を緑谷くんき向けていたのかは、知らない。けど、それが消えているって事は、私の知らぬ間に二人の間で何かあったのは確かなんだろう。
「……そんで、緑谷はまた腕を壊して一件落着か」
相澤先生の呆れも混じった声に、緑谷くんは肩をビクリと震わせた。緑谷くんはさっきの言葉が自分だけに対して言ってると思ったみたいだけど、私は気付いていた。相澤先生が僅かな間にこっちへ視線を向けていたのを。
「"個性”の制御……いつまでも『出来ないから仕方ない』じゃ通させねぇぞ。俺は同じ事言うのが嫌いだ。……だが、それさえクリアすればやれる事は多い。焦れよ緑谷、"時間は有限だ"」
「っ、はい!!」
緑谷くんが元気の良い返事をしている中、私は瞑目して先程の言葉を反芻していた。
……時間は有限、か。
「さてHRの本題だ。急で悪いが、今日は君らに───」
相澤先生の言葉に、私を含めた全員が気を引き締める。もしかして、また臨時テスト……!?
「学級委員長を決めてもらう」
「「「学校っぽいの来たーーーッ!!!」」」
予想外すぎる変化球だったけど、とりあえず臨時テストじゃない事が確定して、内心私はホッとする。周りのみんなはどっと湧き上がって、何人か今にも席を立ってしまいそうだ。
「委員長!!やりたいですソレ俺!!」
「ウチもやりたいス」
「オイラのマニュフェストは女子全員膝上30cm!!」
「僕のためにあるヤツ☆」
「リーダー!! やるやるー!!」
1人が手を上げたら、それに負けじとみんなが次々と手を上げる。あっという間に手を上げていない生徒は私だけになった。
目の前で広がる光景に、私は目を丸くしてボケっとしてしまう。
学級委員長という"不人気の象徴"とすら言える役職に、私以外の全員が我こそはと手を上げる。3年くらい前の自分にこれを見せたら、自分の目がおかしくなったと考えて、迷わず眼科に向かってたと思う……とにかく、それくらい自分の中では驚きがある。
「これは“多”を牽引する責任重大な仕事だぞ…! 『やりたい者』がやれるものではないだろう!! 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…! 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというのなら、これは投票で決めるべき議案!!!」
「……って、聳え立ってんじゃねーか!! なんで発案した!?」
飯田くんが投票で決めるべきと言いながら手を上げる、矛盾したような行動に総ツッコミが入る中、私は思考を巡らせる。
(……流石に余裕はないか)
正直な事を言えば、やってみたい気持ちもあるにはある。……ただ、皆を引っ張るような役職をやれる程私に余裕はないとも思っている。
「日も浅いのに信頼もクソも無いわ飯田ちゃん」
単純に私個人の課題が多すぎる。あれもこれもと抱えながら重要な役職を担えるほど、私はできた人間だと思ってない。
「だからこそ! ここで複数票を獲った者こそが、真に相応しい人間という事にならないか!?」
そもそも、本当に
昨日の反動なのか、戻ってきた理性が思考を悪い方向にばかり偏らせていく。朝からずっとこの調子で、気が滅入ってしまいそうだ。
今までも"抑え"を大きく外した後にしばらくすると、大なり小なり後悔が来ることはあった。けれど、それでもその日限りのものですぐに収まっていたし、ここまで強烈に影響される程ではなかった。
(……やめよう、これ以上は鬱になっちゃいそうだ)
私はますます鬱屈としていく思考を強引に振り払い、投票に使う配られた紙を見つめる。
結局、最後まで誰に投票するのか決めきれず、私の分は無投票という事にしてもらった。
その後もマスコミの侵入や委員長交代など、いくつかの騒ぎがあった。……結局、鬱屈な思考は一日中続いた。
……時々、思うことがある。"自分が戦いだけを求められていたら、どれだけ楽だったんだろうか"と。
とある地方都市。歓楽街で良く見かける、何の変哲の無い雑居ビルの一階。隠れ家的なバーの内装で整えられた部屋の隅。そこにあるソファーへもたれ掛かる、異形型と思わしき者が1枚の書類を読んでいた。
『ほう……こんな所にいるとはなぁ。こりゃあ棚ぼただ』
その者は凶悪さを感じる声でそう呟き、カウンター席にいる少年に視線を向ける。
『おいトムラ、気が変わった。俺も行く事にする。……なぁに、俺が狙うのは、元々お前の"先生"に特例で許可を貰ってる奴だけだ。興味も無いし、お前の邪魔はしねぇよ』
その者は少年に対して一方的にそう言い放ち、彼が睨みつけるのも何処吹く風で受け流しながら『ま、場合によっちゃ邪魔するかもしれねぇけどな』と付け加える。
「……ちっ、まぁいい。お前がいようがやる事は変わりねぇしな。勝手にしろ」
少年は再び舌打ちをして、カウンターに向き直る。
『俺は随分と運がいいみたいだな。ククク……待ってろよ、玄竜 烏姫サンよぉ……』
一体誰なんだ……