コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです!   作:ペンギン3

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ちょっと主人公の倫理観がゆるふわキヴォトス人並みですが、優しく見守ってあげてください……。


一章 風のRhythm
高校デビュー


 透き通る青空を眺める、三角座りで。

 屋上から、みんながそれぞれに部活動に励む姿を眺めている。キラキラ、なんて擬音をつけたくなるのは、青春にノスタルジィを感じるからだろうか。そんなもの、一緒に楽しめる友達すら私にはいなかったけど。

 

「楽しそう……」

 

 年齢を引き合いに出したけれど、私の見た目は少女で、それも周囲の子達と比べても更に幼い。周りの子たちも、最近は遠くから生暖かい視線をくれている。……そう、遠くから。

 

「良いなぁ……」

 

 なんで、ボッチ村の住人(定住者1人)なったんだっけ?

 都合何度目の反省の回想へと、意識が旅立つ。別名現実逃避というらしい、くしょがよぉ。

 

 

 

 

 

 転生したよ!

 透き通る青空、下ろし立ての制服、動いても痛くない体!

 その全てに感動しながら、私は鏡に映る制服を着た私にウキウキしていた。

 地面に着きそうな黒髪、130cmほどの身長、あどけないまん丸な瞳、頭にあるヘイロー。以前と全く違う様相ながら、不思議と私なんだという強い自覚があった。

 

 ここはキヴォトス、多くの学生が多種様々な学校に通う学園都市。普通の世界ではない、何か別の法則性が存在する世界。多くの夢が混濁する、優しさの溢れた箱庭。知らないはずの知識が、スラスラと頭に浮かぶ。

 

 なんで? とも思ったけれど、答えの無い思索の迷路で彷徨い掛けたので、おいおい調べれば良いやと思考を放棄。それよりも、今は目の前に迫った学園生活にドキドキワクワクしていた。新しい家族のイマジナリーお姉ちゃんだっているし、これからが楽しみで仕方ない。

 早速纏った制服は、トリニティ総合学園のもの。そう、私は今日からお嬢様になるんだ!*1

 

 

 

 ……うん、ここまでは夢と希望は確かにあった。

 新しい何かが始まる予感、まるで恋みたいだねなんて思ったりしていて。前世を含めても、人生で一番楽しい時期だったかもしれない。ただ、その後が……。

 

「んんんんんーーーーーーーーっ!」

 

 自分のやらかした後のことを思い出して、屋上で一人悶絶する。おバカ、私のウマシカ!

 思い出したく無いことだけれど、人は良いことよりも嫌なことの方が覚えてしまいやすいらしい。思い出すよりも、フラッシュバックと言った方が正しい再生の仕方で脳内のメモリーが甦る。

 

 

 

 

 

 自分のキャラ、というものを考えてみたことはある?

 そう聞かれると大体の人は、曖昧にこうだと濁しながらも答えられるペルソナを持っている。けど、社交性のない私が持っているのは……。

 

 クソ陰キャエロゲーオタク!

 

 切れる手札がこれ一枚のみなのだ、言える訳ないでしょフザケないで!

 なので、即席で何かキャラを作る必要があった。少なくとも、周りから引かれることのない程度のキャラを。

 

 ……ただ、一つこの時の過ちを思い返すのなら、私は浮かれていて、謎の万能感に浸っていたこと。何やっても上手くいくはずだし、宝くじ買ったら3等くらい当たる自信しかなかった(当たらなかった)、おバカ。

 

 そんなガバガバで、謎に肥大化した虎にでもなれそうな自尊心を持って私は初登校を果たした。とっておきだと、この学校の校風にあっていると思い込んだ、必死に考えた自己紹介を胸に。そして――、

 

「オーホッホッホ、わたくしの名前は春風メブキ! どさんぴんの貧乏人、趣味は小銭拾い! この学校に何故入学できたかは謎ですけど、皆さんと仲良くしたいですわぁ!」*2

 

 決まった、とその場では思っていた。お嬢様らしい口調に、親しみを込めた貧乏人仕草。みんなと仲良くなりたい意志を発信し、鏡の前で一生懸命練習した笑顔も披露。声は甘くて子供っぽいけど、お陰でお嬢様成分のトゲは無くなっているはず。一分の隙もない布陣、勝ったなと確信していた。でも、その結果はといえば……。

 

 ヒソヒソ

 

「え、何者?」

 

 ヒソヒソ

 

「こ、小銭拾い?」

 

 ヒソヒソ

 

「顔が引き攣っておられましたが、誰かに言わされてるのかしら?」

 

 ……なんか、思っている反応と違った。女子高生は無敵理論でつっぱしっていた私は、ここらあたりの空気感で正気に戻りつつあった。

 あれ、私やらかしてね? と。

 その場の空気を殺して、私は静かに着席し、突っ伏する。

 

 あーーーーーっ、やらかした気がする!

 

 

 

 そこから私は、自らの失敗を取り戻すべく奔走することになった。エセお嬢様キャラを次々とマイナーチェンジして真のお嬢様を目指す一週間の旅が始まったのだ!

 

「うふふ、お弁当が美味しい!」

 

 ヒソヒソ

 

「おにぎりにナイフ入れて、フォークで食べてる……」

 

 お嬢様らしく、テーブルマナーに拘り。

 

 

「オホホ、この本はとても面白いですわぁ」

 

 ヒソヒソ

 

「100万回長靴を履き潰して最強の脚力を手に入れた俺、最強の猫として101匹ハーレムを築く? ……なんでしょう、あの奇怪なタイトルは」

 

 お嬢様らしく、物憂げに読書を行い。

 

 

「皆様きいてくださいまし! 超新鮮なキャベツが手に入りましたの、具なしお好み焼きパーティの開催を宣言いたしますわぁ!」

 

 ヒソヒソ

 

「具なし、お好み焼き? キャベツだけでお好み焼きを作るのですか? え、こわ」

 

 お嬢様らしく、お茶会の開催を宣言して、すっと全員に目を逸らされた。

 

 そうして、私の周りからは誰もいなくなった。おかしいね?

 あまりの絶望に、朝の礼拝で神に祈りを捧げまくっている時、ふと閃きが走った。そうだ、流石の私もお嬢様はダメだったけれど、妹キャラならいけるのでは? と。

 

 生前、私の面倒を見てくれていたのはお兄ちゃんで、死んじゃうまでに沢山のエロゲーを貸してくれた。その中に、おとボクという男の娘がお姉様と慕われて百合の花(仮)を咲かせられる作品があった。そこで、お嬢様学校におけるお姉様と妹という概念を私は知ったのだ。

 

 私如きにはお嬢様やお姉様は荷が重かったけど、妹ならいける気がしてきた。無理をしてお嬢様やるより、難易度はとても低いに違いないよ、だって転生後はミニマムだし!

 

 ここはお嬢様学校で、シチュエーションも万全。礼拝の最中の閃きであり、まるで天啓にも感じられた。即座に頭でキャラを組み立てて、私はみんなに披露した。

 

「お姉様がた~、メブキはお姉様がたと仲良くしたいのですよ~!」

 

 ヒソヒソ

 

「え、同級生、ですよね?」

 

「高校デビューに失敗なされて、心が……」

 

 何故だか、痛ましい空気がその場に流れる。ついでに私の冷や汗もすごく流れた。みんなから、スッと視線を逸らされたことにショックを受けていると、一人の生徒が私の席まで来てくれた。

 あ、貴方が私のお姉様に? そんな期待を持って、胸キュンしつつその人を見つめると、彼女は優しく私の肩に手をおいてくれて、優しい声で告げられた。

 

「大丈夫です、このクラスに貴方の敵なんていません。信仰に厚い貴方を、神は見捨てるはずがありません」

 

 そのまま手を繋がれて、私はお姉様? と流離いの旅に出た。そして医務室に案内されて、私は静かに涙を流した。ものすごく親切だけれど、人の心を傷つけてくる人だった。医務室にいたミネさんという人に心因性の情緒不安定と告げられて、私の心は遂に折れた。処方箋の代わりに頂いたアドバイスは、無理をせずに自分らしくいなさいとのこと。

 

 こうして私は、夢と希望という魔法が解けて、元のクソ陰キャエロゲーオタクへと逆行し、ボッチ村の住人になった。心の中のイマジナリーお姉ちゃんに尋ねても、なんにも答えをくれない*3。もう成すすべなくて、良い案も全く浮かばない。

 

 Q.安西先生、バスケがしたいです

 

 A.諦めて試合終了ですね

 

 つまりは、そういう状況に私はあった。酷すぎる。でもどうしようもなかったので、私は帰って大人しくエロゲーでも購入しようとして……。そこで、衝撃の事実を私は知ってしまった!

 

「ない、DMMもDLsiteも、キヴォトスにはない!」

 

 そう、あれだけ前世で愛用していたサイトが存在せず、類似系のサイトすらない。なんで!

 

 学生はエロゲーをしてはいけないとでもいうんですか!!!*4

 

 こうして私は、このキヴォトスにおいてクソ陰キャエロゲーオタクから、クソ陰キャになってしまったのだ、あんまりだ。

 

 そうして、自らの趣味すらも喪失した私は――闇堕ちした。

 

 

「ふ、ふへへ」

 

 屋上から見える、数々の青春。

 私はそういったものを経験できなかったからこそ、そういったものへの憧れがあった。でも、自分もそういったものに関われる機会は、自分のガバさ加減のせいでドブへと流れた。趣味に逃げようにも、それすらこの世界にはなかった。なら、と思ったのだ。

 

 ――こうなったら、この目の前に広がっている綺麗な青春劇を全部脳内でエロゲーだと思い込んで、物語として楽しめば良くない? と*5

 

 我ながら、とても良いアイデアに思えた。望んだ物語がないなら、こっちでそう定義してしまえばいいのだと。

 幸いにも、みんなの青春を心に留めるために双眼鏡が欲しいんです! とネット乞食をしていたら、レッドウィンターから気前の良い人が双眼鏡をプレゼントしてくれた。この双眼鏡で、今日も青春と愛が溢れるキヴォトスを観察するのだ。

 

 私の中では、手を繋いだ時点でもう恋人認定している。ハグなんて、もう妊娠ものだと断言してもいい。未だにキスもえっちなことも見掛けないために、そういうことにしなくちゃいけなくなった。だって、そうでないとエロゲーじゃないから。

 

 最近では、スイーツ片手にキラキラしている子たちがキテた。多分、しなやかで猫みたいな子のハーレムに見せかけて、ふんわりしている優しそうな子のハーレムなのだ。そっちの方が捗る。捗るのだけれど……。

 

 でも、やっぱり物足りない。

 

 そう感じるのは、エロゲーに肌色はどうしてもつきものだからか。肌色多めな水泳部を眺めてみれば、スク水はみんな可愛いけど、なんか全然泳いでない。むしろ、プールでバカンスしている。楽しそうだけど、青春感は全然なかった。青春とパトスは、セットで初めて迸る。それを考えると水泳部はパトスのみで、えっちだけど妄想できそうになかった。

 

 こうなれば、肌色がなくてもえっちに感じるようになれば良いのでは? とあるエロゲーの男の娘も、彼女たちは全裸に服を纏っているだけで、実質的には全裸ではないのか? と閃きを得ていた。そうだ、その通りなのだ。あまりに論理的な結論に達した私は、前から目を付けていた胸キュンとする部活動に目をやった。

 

 正義実現委員会、名前があまりにも厳ついこの部活動は、トリニティにおける警察力的な存在だ。けれど、だからといって鉄の掟で表情を殺したマシーン集団というわけでもなかった。屋上から観察しているだけで、案外楽しそうにやっている様子が目に入ってくるのだ。

 

 射撃練習で、的に当てて上級生に褒められている下級生。逆に外して項垂れているところを、頭ポンポンされて慰められている子。クソデカ巨乳の先輩が的を撃ち落としまくれば、黄色い歓声が高らかに上がる。部長さんが奇声と共に超機動を行えば、演習相手の子はグルグルと目を回して倒れる。……最後だけ、世界観違うね。

 

 うん、青春。

 汗があって、気持ちが揺れて、友情があって、涙もある。それって、やっぱり素敵な形。この部活動を見ていると、やっぱり胸キュンする。足りないのは色気だけど、一部の制服を改造している生徒のおかげでちょっとお色気はある。

 

 うん、いけそう!

 

 

「なに、してるの?」

 

「青春を見てるの」

 

 正実の制服をじっと見る。自分に暗示をかける、この子達は全裸の上に糸を巻いたものを羽織っているだけなのだと。

 ……なんかエロゲーはエロゲーでもヌキゲーみたいな感触がするけど、そのうち妄想との折り合いをつけていけば何とかなるはず。

 

「意味わかんない」

 

「んーと、頑張っててキラキラしてる女の子はえっちだなって……ううん、きっとえっちに違いないよ」

 

 あれ? とそのとき思った。今、私は誰と会話してるの?

 イマジナリーお姉ちゃんは、もっとペラペラと長ったらしく喋る。私の自問自答……でもない、間違いなく違う声だから。

 ギギギ、と凍りつきながら振り向くと、そこには真っ赤な顔をしたピンク髪の正実の制服を着た女の子がいて。

 

「あっ、あっ、あっ」

 

「え、エッチなのはダメ! 死刑!!」

 

 現行犯逮捕された私は、裁判を経ずに死刑を言い渡された。このキヴォトスにおいて、えっちなのは死罪に値するんだって。

 

 ――罪が重すぎるよ!!!

*1
お嬢様校に入学したら、途端にお嬢様になる訳じゃない。もう少し落ち着きを身に付ければ、あるいはそう見えるかもしれないが

*2
メブキ、君の愚かさには言葉がでないよ……

*3
君がもう少し眠気を覚えていてくれれば、話が出来る。また夢で会おう

*4
当たり前だよ

*5
まさかこのレベルで困った子だとは……君のコミュニケーション能力を人並みに見積もっていたこちらにも責任がある。すまない

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