コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです! 作:ペンギン3
トリニティはとっても広い学園。だから時々迷子になっちゃうことも、恥ずかしいことじゃないよね? 建物にもたれ掛かってたらガコッて音がして、なんか狭い通路をゴロゴロと転がり落ちていって、気が付いたら地下にいたんだけど*1。
『コハルちゃん、私は今どこにいるの?』
とりあえずコハルちゃんにモモトークを送るも、圏外でお返事は返ってこない。この世は非情で、私はもしかするとこのまま死んじゃうのかもしれなかった。そうなったらイマジナリーお姉ちゃんみたいに、コハルちゃんの脳内に棲みついてASMRし続けるからね?*2 夢で会う度に、片耳ずつに話しかけてやるからね!
……あの、やっぱり生きたままがいいって言うか、生きたままASMRしてあげるから、助けてもらえないかなぁ。今なら囁きだけじゃなくて、耳かきまでついてお得だよ!
「あのぉ、誰かいませんかーぁ」
震える声を出して呼びかけても、返ってくるのは自分の声の反響だけ。薄暗い地下で、ひっそりと死んじゃったらどうしよう。コハルちゃん、泣いてくれるかな? 私のお墓に、ヒトカタノオウや蒼の彼方のフォーリズムの続編を供えてくれるかな……。待って、他にも色んなエロゲーの発売を待たされてた。
や、やっぱり死ねないよ! 太陽の子だって、緋星のバルトゥームだって、まだプレイしてないんだから! Angel Beats!や魔法使いの夜、月姫もエロゲーじゃないけど待ってる! DMMがキヴォトスに出店した暁には、全部買い占めてやるんだから!!
「絶対に死なないよ! 青春もエロゲーも、諦めなきゃ来てくれるんだから!!」
学校では、コハルちゃんが私と青春してくれた。エロゲーでも、”ふゆから、くるる”は発売してくれた。人生、諦めるなんて勿体無いもん!
「誰か、いるのか?」
私の想いが通じて、誰かの声がした。可愛くて美少女間違いなしの声、きっと天使さんだね!
「すみません、助けてください!」
曲がり角の影が揺れて、コツコツと足音がする。私は笑顔で駆けて、角でバッタリと声をかけてくれた人とご対面。――銃を構えているガスマスク美少女(仮)が、そこに立っていた*3。
……えっと、困った。ガスマスク萌えはちょっと私には早いのかもしれない。もしかしなくても、トリニティに潜入した強盗さんの可能性があった。今すぐに撃たれても、多分おかしくない。
「あ、あの、何も悪いことしてないのに、なんかコロコロして、気が付いたらここにいて。何も悪いことをしてないので、助けてください! 足だって、舐めちゃえます!」
もう、私にできることは、この人の足に縋り付いて命乞いをすることだけだった。足下に縋りつこうとすると、さり気なく距離を取られる。なんで?
「大人しくして、私の質問に答えて」
そして、銃口を向けられたままそう言われると、私は頷く以外の選択肢を持ち合わせていなかった。な、泣いてないよ!
「コロコロって何?」
「建物にもたれてたら、急に転がり落ちたの意です!」
「助けてくださいっていうのは、出口が分からないという意味?」
「はい……」
「足を舐めるというのは?」
「足を舐めて、貴方に隷属を誓うことで、命乞いしようとして……」
「知らない人に、隷属を誓うのは良くないと思う」
謎のガスマスクさんに、私はお説教されてしまっていた。おかしいね? でも、そっと銃を下げてくれたから、私が危ない人じゃないよっていうのは伝わってるみたい。よ、良かったぁ!
「えっと、じゃあ親愛?」
「今あったばっかり」
「でも、恋は唐突っていうらしいよ?」
「奇襲を仕掛けてきてたの?」
「ち、違うよ! 仲良くなりたいなって思って!」
チラリと銃に目をやる彼女に、私は必死に気持ちを伝えていた。正直怖いけど、私が奴隷になろうとしたのを嗜めてくれたから、悪い子じゃないのは分かってる。助けてって言ってるのを聞いて、来てくれたんだし。なら、きっと仲良くなれると思うんだ。だって私も、貧乳方正な女の子だし!
「君かわいいね? どこ住み? ていうかモモトークやってる?*4」
でも、ここはあえて三枚目なキャラ付けで仲良くなりにいくよ。実はエロゲーの親友キャラに、憧れがあったんだ! いいよね、普段はアホアホなのにいざって時には頼りになる親友。
「それを聞いてどうする気?」
「仲良くなれるかなって」
「それなら先に、名前を聞くものだと思う」
「…………確かに!」
もしかしたらこの子は、天才かもしれなかった。名前知らないと、呼びかけられないもんね。
「私は春風メブキ。将来の夢は、世界中のみんなに甘やかしてもらえるような赤ちゃんになることだよ! よろしくね、お母さん!*5」
「産んだ覚えがない、名字すら違う」
「多分だけど、複雑な家系なんだよ」
「本当?」
「うそっこだよ!」
ガスマスクで表情は見えないけど、はてなマークが頭に見え隠れしてる。分かる、何かよく分からないこと言われた時ってそうなるよね。聞こえてるかな、イマジナリーお姉ちゃん!*6
「何でそんな嘘を?」
「ちょっとした冗談?」
「面白さのツボが分からない」
「でも、可愛いって感じてくれなかったかな?」
「おかしいとは思った」
「冗談の出来が?」
「……頭?」
おかしいね。無茶苦茶仲良くなれる筈の三枚目計画が、既に何かを間違ってしまった感じ。ウマシカと思われてそうな気配もして、何だかとっても不可解極まりないよ。
「でも、春風メブキか……。知っていたのかな」
「え、私のこと、知ってるの?」
「知り合いが、君のことを話していたから」
誰のことだろ? もしかすると、私は全キヴォトスぺたんこ選手権大会で入賞しちゃってる? それで、いつの間にか有名人になっちゃって、密やかにみんなの間で噂される様になっちゃった? ……コハルちゃんが、勝手に応募しちゃったのかな?
「えっとね、私よりも格上のぺたんこなんて、世の中には沢山いるんだよ?」
「何の話してるの」
「お胸の話」
「……何故?」
「ぺたんこで有名なメブキさんだと思ったから?」
「有名なの?」
「有名じゃない方が嬉しいよ」
「……さっきから、言ってることが支離滅裂」
「そんなことないよ!」
ちょっと失礼な子かもしれなかった。頭脳明晰文武両刀エロゲーマスターなんだよ、私*7。読解力の鬼なのかもしれないのに!
「白洲アズサ、私の名前」
「よろしくね、白洲さん!」
「アズサでいい、メブキ」
「分かった、アズサちゃん!」
失礼かもしれないけど、アズサちゃんはとってもフレンドリーな子だった。最近は、下の名前で呼ぶのに抵抗がなくなってきてる。友達100人できちゃう日も、そんなに遠くないのかもしれない。
「ところでアズサちゃん、質問があります」
「何?」
「ここはどこなの?」
さっきから、ずっと気になってたこと。隠しブロックの壁から、どんぐりコロコロの要領で、謎のトリニティ地下ダンジョンへと招待されちゃった。私に力があれば、智代アフターのダンジョンみたいと楽しめたと思うけど、残念ながら生まれてこのかたクソ雑魚ナメクジの寝たきりウマシカだった。ヘタをすると、徘徊してるモンスターにしばき回されちゃうかもしれない。
嫌だよ、モンスターたちにえっちなことされちゃうのは! 触手プレイはしたいけど、されたくなんて微塵もないんだから!
「トリニティの動乱期に、シスターフッドが構築したと伝えられてる脱出路。複雑化し過ぎて、本人たちも地図がないと迷ってしまうと言われている」
「モンスターとか、いる?」
「いない。猟犬を飼うには、広過ぎてコストに見合わない。ゲリラをするなら、そんなものに頼らずに自分たちで行うはず」
少なくとも、このダンジョンにえっちなことをしてくる生き物は私だけみたい。本当によかった、一安心だね。
「アズサちゃんも、私とおんなじみたいにここに来ちゃったの?」
「…………まあ、そんなところ」
「そっか、大変だったよね。私なんか、怖くて漏らしちゃうかもって思ってたよ。紙パンツ穿いてるから、気持ち悪いだけで済むけどね!」
そう、もしもの時のために、お出かけと睡眠時には紙パンツを穿いてるの。これでお漏らししても、何の問題もない。パーフェクトで無敵なメブキちゃんになってしまったんだよ!
「アズサちゃんも、困ったら紙パンツあげるから言ってね?」
「確かに長期の任務には有用かもしれないけど、女子としては……」
「いつでも赤ちゃんに戻れる、素敵アイテムだよ?」
「用途が間違ってる」
「どんなものだって、使い方を決めつける必要なんてないよ!」
「……そう、なのか?」
「好きにしたらいいと思うな」
だから、紙パンツはもしもの保険でもあるけど、赤ちゃん還りする為の重要アイテムでもあって。慣れてないと、漏らしちゃった時にむず痒くて滅びそうになるけど、私はそこら辺のプロフェッショナルだからね!
ありがとう前世、数々のおもらしは確かに私を成長させてくれてたんだよ!
「用途以外にも使い道はある、か」
「分かってくれたの!? はい、紙パンツどうぞ」
「……うん、貰っておく」
そっと、アズサちゃんは紙パンツを懐に仕舞い込んだ。すぐに穿かないってことは、人肌に慣れさせた紙パンツが好きなのかもしれない。中々に通だね、アズサちゃんは。
「あと、もう一つ聞いてもいいかな?」
「答えられることなら、幾らでも」
「アズサちゃんは、デスメタルでもしてる?」
「してない」
「じゃあそのガスマスク、ファッションじゃない、の?」
「機能性に優れてる」
「利便性だったんだ」
アズサちゃんは不思議な女の子だった。エロゲーにいたら、多分隠しヒロイン系。天然さん系統の、私が世の中から守ってあげないといけないかもしれない子だった。
「困ったら助けるから、いつでも言ってね!」
「メブキと出会って、困っていたら手を貸してあげてと私も言われている。ひとまず、ここから出るまでは同盟を組もう」
「うん! ところでアズサちゃんのお顔、見てもいいかな?」
「見ても面白いものじゃない」
「……怪我、してたりする?」
頑なに、お顔を見せてくれない。もしかすると、怪我が理由なのかも。無神経なことしちゃったのかなって、急に不安がゾワゾワと背中をさすってきて。落ち着かない気持ちで、アズサちゃんを見つめる。いつでも、ごめんねって謝れるように。すると、ちょっと迷ってから、アズサちゃんはガスマスクを取ってくれた。
――すごい、とっても美少女!
「か、可愛いっ!?」
「変なこと言わないで。お世辞だって分かるから」
「ウソじゃないよ! 私の100倍可愛い!*8」
昔のエロゲーで、眼鏡を取ると可愛く感じるって理屈、今まで微塵も理解できてなかった。けど、この瞬間なんか分かった気がする。イマジナリーお姉ちゃん、もしガスマスク萌えだったらごめんね? 私は今日から、ガスマスク着脱萌えに目覚めちゃったかも!*9
「やっぱり、いい加減なこと言ってる」
「本当だよ! 私が男の子なら、"それ、反則"って言いながら、チューしてるよ! 子供は何人欲しいかな?」
「勝手に結婚しないで。気になる人、他にいるから……ごめん」
「ふ、フラれた!?」
お兄ちゃん、それからイマジナリーお姉ちゃん、聞こえていますか? 私は人生で初めてフラれちゃいました、ビックリです。好感度が足りなかったのかな? 冗談半分だったけど、ちょっぴりショック。本気じゃなくても傷つくなら、本気の告白って本当に勇気がいる行為なんだね。また一つ、賢くなっちゃいました。*10
「メブキにも、きっと良い人がいる」
「因みにアズサちゃんの良い人って?」
「……ないしょ」
はにかみながらそう言ったアズサちゃんは、とってもとっても可愛かった。それ以上、無粋なことを言おうとも思えないくらいに。
「それより、そろそろ移動しよう。ずっとここにいる理由がない」
「あ、そだね。お話なら、お日様の下でカレースープ飲みながらだよね!」
「カレー、好きなの?」
「マジカル万能食なんだよ!」
お話ししながら、アズサちゃんについて行く。スラスラ進んでいくアズサちゃんは、まるで道を知ってるみたい。不思議っ子特有の謎パワーなのかな?
そうして、紙パンツを穿くのは大宇宙の誇りであることを話しているところで、風の匂いと日差しが差し込んでる場所まで来れた。私と同じで迷っていた筈なのに、流石にビックリだね。
……アズサちゃんはもしかすると、何かしらの訓練を受けたエージェントさんかもしれなかった。グリザイアの果実で見て、知ってる。本当にいるんだって、ちょっと感動もしてるよ。
「出口だね、アズサちゃんありがとう!」
「うん。私も気は散ったけど、退屈じゃなかった」
「仲良しさんになれた証だね!」
でも、正体がバレたのなら、アズサちゃんはエージェントをクビになっちゃうかもしれない。余計なことは言わずに、ありがとうって伝える気遣いは私にもできるんだよ。
「あ、あの! モモトーク! 交換! してもらえますか!!」
代わりに、私とお友達になってくださいと提案する。お胸がソワソワするのは、何時ももっと仲良くなってから提案してたことだから。断られちゃったら、さっきの告白モドキの時よりももっと傷ついちゃうと思う。でも、アズサちゃんはエージェントさんで、直ぐにどっかに行っちゃうかもしれないからって思うと、いても立ってもいられなかったんだ。
「いいよ。敵に襲われたら連絡して」
「敵に襲われて無くても連絡するね」
「それだと通信に秘匿性がなくなるから、ダメ」
「ダメじゃないよ?」
ダメって言いつつ、アズサちゃんはモモトークを交換してくれた。嬉しいね、えへへ。あ、でも、秘匿性が云々ってアズサちゃん言ってたね。送るメッセージ、全部ZIPファイルにすれば良いのかな? だったら、最初に送るのはASMRにしたいなぁ。助けてくれた人に、送るってイマジナリーお姉ちゃんと約束したし。……ASMRってどうやって作るんだろうね、ウイ先輩に聞けば分かるかな? 先輩のお声は落ち着いてて、脳に優しい感じするもんね。よし、頑張るよ!*11
「待っててね、アズサちゃん! 私、立派なASMRを作ってプレゼントするからね!」
「ASMR……何かの符丁?」
「えっちな音声!」
「…………??????」
私は勢いよく、ウイ先輩の元に駆け出していた。とっておきの一作を作るために。
次回は急にASMRを強要されるウイ先輩の回です。みんなも、ウイ先輩のASMRを買いましょう!(定期販促)