コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです! 作:ペンギン3
「ヒフミも、ナギサから依頼されてるんだね」
「はい、補習授業部は正体不明の危険分子達を集めたものだと、ナギサ様は言っておられました。このままでは、全員退学だってことも……」
「そっか」
夜、先生の部屋、そこでヒフミは先生と二人で話をしていた。内容は、ナギサが伝えた補習授業部の真実について。あまりに重たい内容だったから、自分一人で抱えるにはあまりに重たかったもの。それを先生と共有できて、ヒフミは少しだけ肩が軽くなった気分になっていた。尤も、根本的にどうすれば良いかなんて、答えを出せそうにもなかったが。
「みんなの本当の姿を探って欲しい。ナギサからの依頼はこうだったけど、ヒフミはなんて言われてる?」
「似たような感じです。私の時は、誰がトリニティに対して隠し事をしているのか、企てがあるのか、それを探って欲しいと言われました」
ヒフミにとって、部員のみんなは合宿前から共に机を並べている仲。交流を重ねれば重ねるほど、補習授業部に悪人がいるとは思えなくなっていく。そしてそれは、先生も思っていることだ。だから、必然的に二人は同じ結論に辿り着く。即ち、ナギサの誤解を解かなければというもの。
二人で顔を突き合わせて、この難題について頭を悩ませる。彼女達は個性的過ぎるけれども、日常を見ている限りだと愉快で賑やかな女子生徒に過ぎない。だが、ナギサが何の確証もなくそんなことを言う筈がないのは、日頃から交流のあるヒフミはよく分かっていた。何かしら、補習授業部のみんなには、口にし辛い事情があるのだろうということも。
「私は先生とナギサ様のパイプ役で、先生の補佐としての役割を見込まれたそうですけど……」
「残りの4人、彼女達に何かあるのか、だね」
先生は、少なくともその中の内のメブキにだけは多少なりとも調査をしている。調べれば調べるだけ意味が分からなくなりそうだが、シミコも共に調査をしてくれている。なので先生は、メブキは一旦シミコに任せて、他の三人の優先順位を高めに設定した。時間は限られていて、メブキについては……最悪イマジナリーお姉ちゃんに事情を話して聞いてみるのが一番早そうだったから。
「取り敢えず、基本的な情報はこっちで集めておくね。ヒフミには、彼女達のことをよく見て、悪い子じゃないことをナギサに報告して欲しいかな。……勉強のこともあるのに、ごめん」
「いいえ、私こそ先生にお手間をお掛けしてしまって申し訳ないです。絶対、みんなの潔白を証明して、全員で補習授業部を卒業してみせますから!」
「うん、お願いするね」
ヒフミが部屋を出た後、先生はシッテムの箱へアクセスした。アロナと協力して、それぞれのデータを収集するために。その結果、集まったデータから誰の証明を最初にするかを決める。
アズサとハナコ、この二人には何か複雑な事情がありそうだと、データを参照して考えて。本当に裏が無さそうなコハルから、先生は更に情報を掘り下げ始めたのだった。
「あら、メブキちゃん?」
夜、みんなが寝静まっている時間帯。ハナコはアズサの姿が見えず、心配してその姿を探していた。そんな中で、メブキが合宿所を離れる後ろ姿を確認する。何かが変だ、と彼女の脳裏が訴えてくる。メブキの後ろ姿が、まるでメブキじゃないかの様に感じたから。
「もしかして……」
あの日の誰か、あの時はメブキではないということしか分からなかった。けれど、今はそれにもう一つ、情報が加えられる。どうやら、メブキの中には、もう一人誰かが居るみたいだと。もぬけの殻になったメブキのベッドを確認して、ハナコはより表情を暗くした。何が起こっているにしろ、それが良い方向の出来事だとは思えなかったから。
「……ハナコ?」
「アズサちゃん、お帰りなさい。お出かけしてたんですか?」
「違う、夜の巡回。そういうハナコは?」
そのハナコに、外から帰ってきたアズサは訝しげに声を掛けた。ハナコの表情を見て、不穏な気配を感じ取って。
「メブキちゃんと、夜をときめかせるお話をしようと思ったのですが、姿が見当たらなくて……」
アズサはメブキのベッドに視線をやって、そっかと小さく呟いた。何がそうなのかハナコには分からなかったが、アズサが何かしらの事情を知っているのだということは感じ取れた。
「大丈夫、心配する必要はない」
「……アズサちゃんは、メブキちゃんと前からお友達でしたね」
「うん、ちょっと前からだけど」
僅かに疎外感を滲ませながら漏らしたハナコに、アズサは至って普通に返事をする。それで、とハナコは一つのことに思い至った。
メブキはここにくる前から、ハナコ以外の人物と交友があったことを。そのことを思うと、何だか胸の中にしこりが出来る。考えてみれば、自分だけさん付けにされている。そのことを思えば、何だか面白くないとハナコは感じてしまっていた。
「アズサちゃんは、知ってますか? メブキちゃんの中にいる、もう一人の彼女のことを」
「うん、知ってる」
「彼女が何をしているのかも、ですか?」
ハナコの問いかけに、アズサの視線がしっかりとハナコに向いた。探るように、覗き込むように。二人の視線が交差して、ハナコの目の中に心配が揺れているのを確認したアズサは、少し考えてから口を開いた。
「未来のための戦い」
相貌が掴めない言葉、靄が掛かって見透かせない。アズサの警戒心の強さから、それ以上は言えないのだろうとハナコは聞き出すのを諦めた。ただ、その言葉のニュアンスが前向きなことは理解できた。メブキの中の人が、アズサにとっての悪人でないということも。
「怪我をしたり、傷つくことはないんですね?」
「うん、それは大丈夫。あの人がしてるのは、言葉を交わすことだけだから」
アズサが安全を保証しているなら、これ以上自分がとやかく言うのは煩いだけかと判断して、ハナコは追及の矛先を胸の中に片づけた。但し、メブキとはもっと仲良くなろうと決意を込めて。
「アズサちゃん」
「何、ハナコ」
「私、メブキちゃんと親友になってみようと思います♡」
「もうそうじゃないの?」
アズサの指摘に一瞬虚をつかれて、ハナコは胸中に言葉が渦巻いた。自分は、そんなに曝け出してしまっていたのかと。
ここにいるみんなと仲良くなりたい、居心地が良い、学校が初めて楽しく感じる。ーー胸が、温かい。
「では、アズサちゃんともそうなんですね」
色々と渦巻いていた言葉の中で、ハナコの口から出たのはつい滑って出てしまった言葉だった。口に出してしまった時点で後悔していたが、ハナコは笑みを浮かべてアズサを見つめた。取り繕っていると評するのが、ここでは一番的確だろう。
「親友かどうかは分からない。でも、この学園で一番仲良くなったのは、ここにいるみんなだ」
「……ええ、そうですね」
だから、アズサがしみじみとそう言ったことに、ハナコの胸は微かに躍った。自分と同じだと、まるで心に触れられた感触がハナコに走って。その擽ったさから、ハナコはいつもの様に巫山戯ずにはいられなかった。
「では、もっと仲良くなるために、次はアズサちゃんと裸のお付き合いをしちゃいましょうか♡」
「? 別に良いけど」
ハナコの淫語、もとい隠語はアズサにはパスワードは割られていないようで、全く通用していなかった。そんなアズサがアズサっぽくて、ハナコはよくよくニコニコしてしまっていた。
距離を縮めるために、次はメブキにさん付けをやめさせようと、より強くハナコが思った瞬間でもあった。
その日、古関ウイは何事もなく1日を終えるはずだった。口煩いシミコは最近忙しそうに駆け回っていて、変人のメブキは赤点をとった挙句に補習部送り。いなければいないで寂しいが、それ以上に落ち着く時間をウイは愛していた。
だから、コンコンと響いたノックの音に、1度目は気が付かないフリをしようとした。今日をめでたしめでたしで締め括るのには、それが1番だと分かっていたから。けれども、再度のノックで、ウイは深いため息をついた。これはしつこいお客人だと、嫌々ながら理解できてしまったから。
ゆっくりと椅子から立ち上がったウイに、3度目のノックが浴びせられて苛立ちながらウイは扉を開けた。夜中のこの時間帯に、一体何の用事を持ってきた輩なのか、と。もしメブキが、ASMRの第二弾を求めてきてたのならば、塩を撒いて追い返そうとさえ決意して。
「こんばんは、古関ウイさん」
だから扉を開けて、自身の目の前に立っていた人物が、彼のシスターフッド代表である歌住サクラコであることを認識した瞬間、ウイは静かに扉を閉めていた。お、幻覚かな? といった具合に。
当然の如く、幻覚ではなかったので、再度扉がサクラコによってノックされる。ウイは、頭を抱えて蹲ってしまった。
「な、何故、歌住サクラコが? 陰謀? まさか、メブキが落ちた地下通路を探ってたのがバレた? 古の屠殺人について、興味を持ってしまったから? それが、シスターフッドの逆鱗に触れた……?」
ウイは中々のストーリーテラー振りを発揮して、次々と自分が謀殺されそうな理由を並べ立てていた。引き篭もりがちな癖に、とても好奇心が強いウイには、残念なことに心当たりは山ほどある。故に、1人でのたうち回って悶絶して。
「どうされましたか、ウイさん」
「ヘァっ!?」
耳元で、いつの間にか入室していたサクラコに囁かれたウイは、ビクンと体を跳ねさせた後に震えが止まらなくなってしまった。ここにメブキがいれば、バカバカしい茶々を入れてウイの怒りとサクラコの困惑を買ったことだろう。けれども、現実はウイとサクラコの2人きり。夜ということも相まって、とても冷たい空気がその場に流れていた。
「な、何が目的で、こんな場所に……」
「少し、確かめたいことがありまして」
「な、何を」
夏場であるのに、ウイは冷や汗が止まらない。軽いホラー展開すら、この状況と比べれば笑い飛ばせそうな心境。納涼肝試しどころか、脳髄肝晒しにでも合うんじゃないか。その恐怖から、サクラコに見つからないよう必死に、図書委員たちのグループモモトークにメッセージを飛ばしていた。
『タスケテ』
『コロサレル』
『犯人はウタズミ』
短文でメッセージを幾つも書き込む。しかし……、
『委員長、今度はホラーものですか?』
『私、体重が5キロも増えてました。これってホラー?』
『動きなさい、デブ』
『何が女の子はお砂糖とスパイス、素敵なものでできている、なのよ!』
『デブはお砂糖と油、美味しい食べ物で出来上がるんだから、大した違いはないかもね』
『クソがよ!』
『図書委員なら、もっと丁寧な言葉を使ったら?』
『おクソがよ!』
『貴女の品性、便意と結びついてるの?』
微塵も役に立つ気配がない。悪ふざけで、遊んでいると思われている。時折悪ノリでおかしなモモトークをすることがあったから、それが尾を引いてしまっていた。こいつらっ! と激怒しつつも、ウイはなす術なくサクラコと対話をする他に道は無くなっていた。
「ウイさん、ここには様々な資料があることと、貴女の知識量を見込んでのお願いです」
「き、聞くだけ聞きます」
「ありがとうございます、ウイさん。これは今後に必要な計算で、誤解なきようにあらかじめ伝えておきます。シスターフッドに他意はないと」
嘘だ、とウイは思ったが、口に出さない分別が彼女にはあった。生殺与奪を握られていると思っているからこその大人しさでもあった。
「――ミサイル一射で辺り一面を火の海にするためには、どれ程の爆薬が必要になりますか?」
ウイは思った、自分はテロの片棒を担がされるんだと。サクラコは、とてもニコニコと、意味深にも見える笑みを浮かべ続けていた。
「コハルちゃんコハルちゃん」
お勉強を終えて、夕ご飯休みの時間帯。夜にも勿論勉強さんは待ち受けているけれど、それまでの束の間の休憩。コハルちゃんの袖を引いて、できるだけ小さな声で話し掛けていた。
「……アレ?」
「そうだよ、いま大丈夫?」
「……うん」
コハルちゃんと2人で、おしっこに行く体で食堂から離れた。だって、誰にも見つかったらダメだもん。私たちは、これからえっち本を読むんだから!
「ここら辺でいいかな?」
「もっと端っこ、その辺り」
使っていない教室の片隅で、私達はいそいそとえっち本を広げた。最近、青春のキラキラが強すぎて、えっちなのが疎かになってたからね。だから、こうして本を広げるだけでワクワクしちゃう。おにゃにーをしばらくしてなくて、久しぶりにすると気持ち良い、みたいなお話と一緒なのかな?
「いつもありがとう、コハルちゃん。偶には私が持ってこれたら良いんだけど……」
「あんたに持って来させると、頭が悪いのしかないから嫌」
「そかな?」
私は中納言の屈辱から数回、ブラックマーケットで買ったえっち本を持ってきていた。でも、コハルちゃんにはとっても不評。シリーズ化していた中納言シリーズ、"中納言の屈服""中納言の懇願"、どっちもとっても面白かったのに、おかしいね?*1
「そうなの! だから、仕方なく合宿にまで持ってきてあげてるんだから。あんたのためなんだからね、勘違いしないで!」
「えへへ、だからコハルちゃんって好き!」
「メブキの好きなんて、もやしくらい安いし、別に嬉しくない」
コハルちゃんは、何かを間違ってしまったツンデレさんなのかもしれなかった。"あんたのためじゃないんだからね!"ってセリフなら、エロゲーで何回も聞いたけど、"あんたのためなんだからね!"はとっても新しい。私のこと大好きなの隠せてなくて、とっても可愛いね?
「どうしようコハルちゃん。私ね、私が好きな子が大好きだから、このままだとコハルちゃんを好きになっちゃう!」
「別にメブキなんて好きじゃないし……友達なだけだし」
「えへへ、えへへへへ」
コハルちゃんに、だいしゅきホールドを仕掛けようとしたら、避けられちゃった。こけちゃった私の隣に、コハルちゃんも寝そべってえっち本を開いてくれた。最近は、寝っ転がりながらえっち本を読むことが多いんだよ! イマジナリーお姉ちゃんも、いつか一緒にやろうね!*2
「ねぇ、コハルちゃん」
「何?」
「私ね、コハルちゃんが最初のお友達だったんだ」
コハルちゃんの、えっち本を捲る手が止まる。お手てで潮吹き絶頂させられた姫騎士の人がブリッジをして、竿役オークに"ククッ、股にも腰にも橋が掛かっちまったな"と告げられ、屈辱で顔を歪ませてるページだった。*3
「初めてがコハルちゃんで、それからね、少しずつ新しい世界が広がっていったの」
「ふーん」
また、コハルちゃんがページを捲り始めた。でも、お耳は私の言葉を拾ってくれてるみたいで、ピクピクと気持ちよくなってくれてる女の子みたいに動いてる。……コハルちゃんにも、いつか自作ASMRを聞かせてあげたいね?*4
「友達が出来るたびに世界に青色が広がって、キラキラした宝石みたいになっていってね。それに触る度に、とっても嬉しくて、楽しくて、幸せなの」
キヴォトスに来てから……ううん、コハルちゃんと出会ってから、毎日がとっても華やかで煌びやか。ずっと憧れてて、空想しているだけだったのに。幸せは定数以上にあるんだって、そこで初めて知ったんだ。
「だからね、コハルちゃん。いつもありがとう!」
「……うるさい、誰かここに来ちゃったらどうするつもりよ」
「えへへ、ごめんね?」
ペラリと、またページが捲られる。姫騎士の人が、遂に本番に挑むシーン。"クッ、殺してやるぞオーク風情がっ! だが、残念だったな。私の膣にはオークの肉棒を受け付けない加護が授けられている。貴様は万年童貞オークだ!""クク、クククッ、残念だったな、俺の種族はポークだよ"なんて熱い展開で、姫騎士の人は処女を散らすことになっていた。
二足歩行で言葉が喋れる豚さんなんて、世の中にいるんだね。……転生だってあるし、そんな豚さんも探せばいるかもしれないね?*5
「急にどうしたのよ」
「何か幸せだなって思って」
「……変なの」
まるで、死んじゃう前のヒロインみたいなセリフ。けど、私はもう一回死んじゃってるから無敵なんだよ? だから、嬉しいなって感じた時に好きなセリフを言えちゃうの。
なんてね!
「ところでコハルちゃん」
「何?」
「ポークで思い出したんだけどね、メスの豚さんのお肉、スーパーでは乙女豚って呼んでるらしいの。メス豚と分けてあるのって、年末とかに調教された女の人を出品するための差別化なのかな?」
「そんなスーパーあるわけ無いでしょ! 大体、何でスーパーで女の人が販売されるのよ、死刑!!」
「きっと店名は、奴隷市場だね」
「聞いてない! 頭の中が空っぽメブキ!」
「お待たせ、要件を聞いても良いかな?」
「うん、先生は上手くやれてるかなって。気になっちゃって、来ちゃった」
綺麗に清掃されたプールサイドで、先生は一人の生徒と向かい合っていた。一目で目を奪われてしまいそうな可憐さ、爛漫さを感じる少女。思わず特別扱いをしてしまいそうな生徒に対して、先生は至って落ち着いて話をしていた。そんな先生に彼女、聖園ミカはフラットな笑みを浮かべた。
「合宿の方はどうかな? みんな、楽しんでやれてる?」
「うん、それなりにね」
「ここ、こんなに綺麗にしたんだね。何時だって、水着パーティーが出来ちゃいそう」
「……」
間合いを計り合う様にして、二人は会話をしている。手探りで、相手の様子を確かめるように。
「――ごめんミカ、勝手に身構えてた」
そんな緊張を、最初に緩和させたのは先生の方だった。肩の力を抜いて、柔和な笑みを浮かべる。ミカは、そんな先生に目を丸くしてから、同じくクスッと笑った。
「アイスブレイク、先生にされちゃったね」
「ミカの後ろに、勝手にナギサの影を見てた。君はミカなのにね」
先生の正直さに、ミカは可愛い人だなと思った。包み隠さず正直に、それでいて心を開こうと努力してくれている。ミカは心にくすぐったいものを感じつつ、脇道に逸れそうな心を律して本題へと移った。
「先生はさ、どうしようもなく手遅れだって思ってたのに、どうにかなっちゃったことってあるかな?」
もっとも、ミカの口から出てきたのは、本題というには抽象的すぎる言葉。ミカが、話をするための前提の内容。先生は特に考えることなく、自分の経験則を振り返って。
「あるよ」
「そっか、なら分かるよね? そういう時、戸惑っちゃって、でも何が正しいのか分からなくて。引っ込みが付かなくなりそうなのに、尻込みしちゃう感覚」
全てがぼやかされている言葉の数々。でも、その中でミカが困惑していることと、躊躇していることを引き止めて欲しいという、明け透けて見える願望を、先生は汲み取れていたから。
「私は生徒の味方だから、ミカが困っているなら助けるよ」
「……ありがとう、先生。けど、決めた。私よりも、助けてあげて欲しい子達がいるの」
先生の言葉が嬉しくて、頼りたくなって。でも、その前に自分だけが助けてもらおうなんて、虫の良さを感じて。無理という感情を笑顔で蓋して、ミカは先生の前で格好を付けてしまっていた。自分の見栄っ張りさに、心の中で苦笑いしながら。
「1人目は白洲アズサ。先生も調べたかもしれないけど、あの子はトリニティから分たれた分派、アリウス分校の生徒なの。かつて道を違えてしまった私達が、再び赦し合うための象徴。この子が上手く溶け込めれば、他のアリウス分校の生徒もトリニティで受け入れられる証明になる。その為に、私が手引きして入学してもらった子」
「ミカは、そのアリウスと仲直りがしたいんだね」
「そう、だね。でも、その為に私は、色々とボタンを掛け違えちゃったの。だから、先生はあの子を守ってあげて欲しいな。エデン条約が結ばれるまでで良いから、そうしたらナギちゃんも認めてくれるだろうし」
ナギサとは違う種類の笑みで、けれども同じくらい底を見せない厚みがミカを覆い隠していた。先生は彼女に何か声を掛けようとして、けれどもミカは先生の唇に人差し指を当てて、言葉を遮った。
あれ、私すごいことしちゃってない? と笑みの裏側で、内なる女の子が暴れ出そうとするのをしばき倒しながら。
「それからもう1人、こっちはナギちゃんの不信を買っちゃった子。――春風メブキ、私とは別口で、サンクトゥス分派が秘密裏に入学を決裁してた子。ちょっと事情があって、相当睨まれちゃってる。ナギちゃんって、ご都合主義には裏があるって思うタイプだから」
ミカがメブキを語る様は、とても複雑そうだった。ただ、そこに僅かな安堵が滲んでいる。少なくとも、ミカはメブキを敵視していないと感じ取れるくらいのもの。
「任せて。アズサもメブキも、それからミカとナギサも、私の大切な生徒だから」
「そっか、私やナギちゃんまでなんだ。……先生は欲張りだね、両手に花束も良いところ。ウエディングブーケに刃物が仕込まれちゃいそう」
憎まれ口を叩いてしまったのは、先生の言葉がやっぱり嬉しかったから。この人を補習授業部の顧問に捻じ込んで本当に良かったと、ミカは心から思った。いなくなったと思ってた友達から聞いた様に、この人ならというものを感じて。
「刺されないでね、先生。補習授業部のみんなのこと、頼んだよ」
「うん、ミカもいつだって相談に来て。ミカの力にだって、なりたいから」
「……わーお」
胸がときめいちゃって、ちょっと悔しいミカだった。
それでは皆様、良いお年を。