コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです! 作:ペンギン3
あれから、私は絶好調だった。
コハルちゃんとモモトークを交換し、私は地上最強生物と化していた。いや、それは流石に嘘だけど、それくらいルンルンな気持ちなのだ。スーパーモードといっても過言じゃない。だってベッドで携帯を触ることなく、心地よい眠りに沈めていたし!
きっと世界が平和であるのも、トリニティ総合学園がお嬢様学校なのも、私が転生できたのも、全部全部コハルちゃんのお陰! とっても寝起き良く翌日を迎えた私は……浮かれていた。
「おはよう、みんな!」
教室で元気よく挨拶する。いつもは、あっ、あっ、はよござます、で乗り切っていたというのに。そのお陰か、クラスメイトのみんながビックリした顔で私を見ている。それでいて、遠巻きながらもご機嫌ようと挨拶を返してくれて。そんなことすら嬉しくて、うん! と私は笑顔でお返事していた。
「ご機嫌よう、メブキさん。今日は溌剌としていらっしゃいますね」
そんな私に近付いて声を掛けてきてくれたのは、前に私を保健室に連れて行ってくれたお姉様じゃない人だった。教室で寝たふりしてる時に小耳に挟んだ話では、シスターフッドというメカクレの妹が12人いそうな部活動に参加したとか*1。恐らく、彼女にはお姉様どころか妹になる素質もあるのだと思う。
「うん、そうなんだよ!」
「何か、良いことでもありましたか?」
「えへへー、モモトークを家族以外の人と初めて交換したの!」
えっちな本……じゃなかった、保健の副読本のことは内緒にしないといけないので、その部分は伏せて。けれど嬉しくて、話したくてうずうずしてて、だからコハルちゃんとモモトークを交換したことだけは話していた。
だって聞いて欲しかったんだもん、凄く嬉しかったことを。
「まぁ、それは良かったですね」
「うん!」
何故か頭を撫でられつつ、私は快活に応えていた。ほにゃあとなりつつそれを受け入れてると、謎めいたことに何人もの生徒から頭を撫でられて。なんか距離の詰め方おかしいね? と初めて起こる出来事に困惑していた。
もしかして私、ビリケンさんか何かだと思われてる? だとしたら困っちゃう、撫でられすぎて毛根が死滅したらショックでおかしくなっちゃうよ。
「頭撫でても、ご利益なんてないよ?」
「急にどうされましたか?」
「それはこっちのセリフかな、みんな急にどうしたの?」
あれだけ頑張って、爆速で遠のいて行ったクラスのみんなとの距離。それが今日になって、急に縮まるなんて不可解だった。
……うん、本当に何で?
「ふふ、本当は皆さん、あなたと仲良くしたかったのです」
「でも、キャベツティーパーティー……」
「それは多分、犬の餌でしょう」
「違うよ!」
「今度、本当のお茶会に参加させてあげますからね」
やっぱり、私にお嬢様キャラは難しかった。本当のお嬢様のことなんて、一ミリだって知らなかったから。でも、そのお嬢様達との距離が近付いて、何となく今の状況が理解できてきた気がする。
――そうだ、きっと彼女達は私のこと、飼い犬の様に思っているんだ!*2
脳内に走った電流が、私に灰色の脳細胞を与えてきた。
お嬢様、お金持ち、おっきなお屋敷、そこまでくれば自ずと答えも見えてくる。そういう家には、やっぱり大きな犬がいるに違いないのだから! テンションの高い私が、偶々そんなワンちゃんと被って見えてしまったのだろう。お嬢様は人の心があるか怪しいし*3。我ながら完璧な推理だと頷いて、意図を理解した私は即座に行動に移った。
「わんわん!」
ヒソヒソ
「ねぇ、今度はどんな勘違いをされていらっしゃるのかしら?」
「わんわん、ということは犬なのでしょうが……」
「もしや、犬になりきろうと?」
「お嬢様キャラの次はそうきましたか、何故?」
「さぁ?」
こそこそとみんなお話ししてるけど、もしかすると何をさせるのか相談しているのだろうか? ちんちんともし言われても、生えてないからできないよ?
「あなたは……普通にしてくださっていたら、それで良いのですよ?」
「わん!」
お手をしようとすると、そのまま手を繋がれて保健室へと連行された。人付き合いって難しいね。
ミネ団長さん(救護騎士団という部活動の一番偉い人は団長って言うんだって)に、交感神経の高ぶりによる過覚醒でしょうと診断された。その原因を尋ねられた私は、待ってましたと言わんばかりに笑顔で答えた。
「家族以外の人と、初めてモモトークを交換したんです!」
そう告げると、ミネ団長さんは少し考えてから、処方箋は無くていいでしょうと診断して。そのまま、私は釈放された。噂ではミネ団長さんは怖い人だって言われてるらしいけど、全然そんなことないね。いつもお世話になってるし、今度なにかお土産持っていこう。
その後、私はお話しした人達全員に、コハルちゃんとモモトークを交換したんだと自慢しまくった。えへへ、とっても良い1日だったよ!
「コハル、少し良いですか?」
「は、はい!」
下江コハルは上擦った声を上げて、呼びかけられた人物の元へ行く。その人物は、正義実現委員会のNO.2であり、憧れの先輩として一年生達から尊敬の視線を一身に集めている羽川ハスミだった。コハルは緊張しながら、その人物の元へいく。それは憧れの先輩から声をかけられたから……という理由だけではなかった。
実は昨日、彼女はハスミから、屋上を見てくる様に指示されていた。最近、屋上で双眼鏡を構えた生徒が出没しているとの情報から、それを検挙するためのものだった。
そして実際、そこには不審な生徒がいた。問いただすと、頑張っている生徒はえっちだなどと供述もしている。明らかにクロだった。でも、コハルはその生徒を拘束しなかった。泣いてる彼女があまりに可哀想な気がして、そもそも死刑は言い過ぎだった……というよりも、キヴォトスに死刑なんて制度はない。言葉の綾、というのが一番近いだろう。
ただ、相手にしていた生徒が特級の馬鹿で、その死刑宣告を真に受けてしまったのが一番の誤算だった。錯乱したその生徒に巻き込まれて、コハルも錯乱してしまい、仕舞いには意味不明なインモラルな状況へと陥ってしまった。勢いで無罪放免にもした。それについて、処罰されてしまうのではという恐怖から、コハルはガチガチになりながら出頭して。
「良いことを、したそうですね」
だから、そう笑みをかけられた時に、意味が分からなすぎた。思わず首を傾げると、ハスミは更に微笑を溢した。
(え、良いこと? ハスミ先輩は何の話してるの?)
「聞きましたよ。昨日屋上にいた生徒は、友達になってくれそうな子を探していたのだと。そして、貴方がその友達になってあげたのだと」
(ナニソレ知らない)
「最後には、二人でキリエを歌っていましたね。あれはここまで聞こえてきました」
(待って待って! あのヘタクソなの、みんなにも聞こえてたの!?)
「わけを聞いて、皆も感心していました。その調子で、正義足らんと心掛けてください」
何か上手い具合に話が転びすぎて、コハルは目を回しそうになった。実際の絵面と天と地ほどの差があって、エッチな精神攻撃でも受けてるのではと疑ってしまった。けれど、現実はそうなっている。
「は、はい!」
でも正直に全部ぶちまける訳にはいかないから、取り敢えず都合の良いその話に同調したのだった。コハルはメブキより賢いのだ。
「その……どこでその話を聞いたんですか?」
「? みんな噂してますよ、当事者の春風さんが嬉しそうに話し回ってるそうです」
「な、何やってるのよ、あのバカーーー!!」
自分が嘘つきにでもなったかの様な罪悪感から、コハルは叫んだ。周りは照れ隠しと思って、微笑ましくそんな彼女を見守っていた。
コハルちゃんから鬼電が来てた。モモトークにも、大量のバカという文字列が並んでる。取り敢えず、正実のスカートってえっちでは? と送ると、即座に電話が掛かってきた。
『エッチな訳ないでしょ! 死刑!』
「殺さないで……」
『今どこ!?』
「屋上」
伝えた瞬間、電話はぷつりと切られた。もしかすると、コハルちゃんは私を殺しにくるのかもしれない。ウソ、流石にもう分かってきた。コハルちゃんの死刑は、お前を殺すくらいの意味合いなんだって。
勢いよく屋上の扉が開いたのは、それから3分後のことだった。
「バカじゃないのあんた! エッチな本を読んでるのが分かったら、私たちは破滅するのよ!」
「そう、なの?」
「そうなの! あんなに目立って、どうするつもり!!」
キレ気味に屋上へ乗り込んできたコハルちゃんは、今すぐ地団駄でも踏み出しそうで。もしかすると、ブチギレているのかもしれない。
「でも、保健の副読本だし……」
「保健の勉強だなんて、エッチに決まってるでしょ!」
……確かに、保健の勉強というフレーズはえっちな響きだ。上級生の女の子に、保健の勉強しましょう? と言って手を握られたら、もうそれは妊活みたいなものだし。深く納得した私は、大人しく頭を下げた。
「ごめんねコハルちゃん。家族以外と連絡先交換したの、初めてだったから、嬉しくて……」
「そ、そうなんだ。あんた友達いなさそうだもんね」
「……酷いね?」
事実なだけに、ちょっと落ち込む。すると、コハルちゃんはおバカさんを見るような目を私に向けて。
「だって、本当のことでしょ」
「むぅ、コハルちゃんが居るもん」
「誰が友達よ、誰が!」
「モモトーク交換したもん!」
「そんなの、友達以外ともするわよ!」
「じゃあコハルちゃんは私の家族ですぅ。だって私、家族以外とはそんなのやったことないもん」
「そんなわけ無いでしょう! あんたみたいな妹、こっちから願い下げよ!」
「コハルちゃん、実は私の方が年上なの。だから私がお姉ちゃんなんだよ?」
「そんなにちっさいくせに、何言ってるの?」
「ちっさい!? おっぱいはおんなじくらいのくせに!」
「おっぱい!? エッチなのは駄目って言ってるでしょ! 死刑!!」
友達とは一体どうやったらなれるのか。すごく難しい問題だった。でも、分かりあえる瞬間はあるはず。
私は自分のお胸にペタペタ触れた。……おかしいね、あるはずの出っ張りがないね? 次にコハルちゃんを、正確にはコハルちゃんのお胸を見る。彼女は咄嗟にお胸を手で隠すけど、押さえつけられた筈の胸に手は微塵も沈まなかった。
「うん、やっぱりコハルちゃんと私は友達!」
「どこ見て言ってるのよ、バカァ!」
私達の間に勝ち負けは無く、だからこそお互いを尊重しあえる関係性が築ける。それって素敵なことだよね? そんな感じの微笑みが漏れると、コハルちゃんはツカツカとこっちに近付いてきて。
「えいっ」
「うにゃ?」
ほっぺたを摘まれて、ふに~と伸ばされる。おー、思ってたより伸びるね、私のほっぺ。
「参った?」
「ほえ?」
急にどうしたんだろうと思ったけど、なんとこの行為は実力行使だったみたいだ。痛くないけど、このままずっと続けられるとほっぺが赤くなっちゃう。
「
「そうよ、メブキが私に勝てるはずないんだから!」
素直に参りましたというと、お手々が離される。ほっぺには痛いよりも熱いと言った感覚が残っている。そして何故か、胸の大きさまで負けたことにされてそうな言い方をされていた。……まぁ、良いけど。
「もう今後は、目立つ真似しちゃ駄目なんだから。私とあんたの関係は秘密で、誰にも内緒なの。分かった!?」
「うん、二人だけの秘密だね」
口に出すと、こそばゆい言葉の響き。何かもじもじしちゃう、いやらしくないのに落ち着かない感じがする。
それに畳み掛けるように、コハルちゃんは言葉を続けた。
「そ、それから……別に、友達じゃなくないというか、なってあげてもいいというか……」
声が段々と小さくなっていった彼女の言葉は、けれども私の耳にしっかり届いて。ギュウっと、心の何かが締め付けられて、弾けそうになった!
嬉しい! 可愛い! 青春! 友達!!
言葉の羅列が脳裏を過ぎって、ぷるぷるしてしまう。
「それだけ! じゃあね」
コハルちゃんは足早にこの場をあとにして、残された私は意味もなくその場で徘徊しまくった。帰ってからも、ベッドの上でもゴロゴロしまくって小指を強打した。痛いよぉ……。