コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです! 作:ペンギン3
「メブキちゃん、ですよね?」
朝起きると、なんか不安そうなお顔で、ヒフミちゃんがそんなことを聞いてきたよ。なんでだろね? ……触手になっちゃったりとか、してるのかな?*1
「ヒフミちゃん、私ってニュルニュルメブキになっちゃってる?」
「間違いありません、メブキちゃんですっ」
よく分からないけど、特に触手さんになっちゃってたわけじゃないみたい。良かった、朝からコハルちゃんに巻き付いて、モーニングビクンビクンをしなきゃいけないとかになってたら、カフカの変身みたいにイマジナリーお姉ちゃんから、疎ましく思われちゃってたかもしれないもんね。
あ、ヒフミちゃん、頭撫でてくれてる。内なるヒフミちゃんの愛猫としての私が、あくびと一緒に目覚めちゃいそう。猫さんは愛情表現としてネズミさんの死体とか持ってくるらしいけど、私には無理だからえっちな物で許して欲しいよ。ミレニアムに依頼したら、ウイ先輩棒みたいに、ペロロ様棒も作ってくれるかな?*2
「ヒフミちゃん、おはよう!」
「はい、おはようございます、メブキちゃん」
よく分かんないけど、ヒフミちゃんのお陰で今日も一日頑張れそうだよ! ありがとう、頑張るね!
そうして、ヒフミちゃんに頭を愛撫された私は、究極のメブキと化して試験に挑んでいた。
分かる、わかるよ! 問題が解けるの! 永遠のアセリアとかで、言語を理解してきたソゥユートもこんな気持ちだったのかな? 今なら、ファンタズマゴリアや異世界に飛ばされても生きていけるよ! ……あっ、やっぱり嘘、私キヴォトスが一番いいもん。ずっとずっと、みんなと一緒なんだもんね!
でも、これで終わりだよお勉強さん。ふへへ、今まで散々いたぶってくれたよね?*3 百倍返し、わからせの時間なんだよ!!!
第3次補習授業部模試、結果──
浦和ハナコ:100点
結果──合格
阿慈谷ヒフミ:79点
結果──合格
白洲アズサ:70点
結果──合格
下江コハル:62点
結果──合格
春風メブキ:60点
結果──合格
ここまで長かったね。私の中で、模試を提出後に何度も"やったか!?"って思ったことか。その度に屈辱を味合わされて、これが白濁カルピス液の味なんだねと苦い思いをしたの*4。
お勉強さん、今日からは私の足を舐めて暮らしてね、私の飼い犬になるの。私はヒフミちゃんの愛猫だから、その手下のワンちゃん。ヒエラルキーは、勿論最下位だよ?
「やりましたね、みなさん!」
「ヒフミちゃん、私60点!」
「メブキちゃん、本当に、ほんっとうに頑張りましたね!」
頭をまたナデナデしてくれるヒフミちゃん。もしかするとヒフミちゃんのおててには、頭を良くする分からせ効果があるのかもしれなかった。
私も分からせられちゃったし、分からせリフレを始められちゃうね? ヒフミちゃんに分からせられる全人類、世界がペロロ様で満ち溢れちゃいそうな感じ。大体ぬきたしみたいな世界だね!
「やった! メブキに勝ってるし、60点も超えてる! ちゃんと合格できてる!」
「コハルちゃんも、よく頑張りました。お祝いに揉んでいきますか?」
「え、エッチなお祝いはダメ、淫行!」
コハルちゃんも沢山喜んでるし、ハナコさんにナデナデされてる。頭叩かれるとバカになるって聞くけど、逆に撫でられると賢くなるのは新発見だね。今度、路地裏の野良猫さんたちに教えてあげなきゃ。時々、餌の生ゴミ分けてくれようとするし。食べられないから困るけど、猫さんたちもみんな優しいしね!*5
「ヒフミ、その、貰ってばかりで悪いんだが……」
「いえ、アズサちゃんはずっと頑張ってきましたし、メブキちゃんたちのお勉強もよく見てくれましたから。どうぞ、モモフレンズ人形を持っていってください。ほら、アズサちゃんにみんな、迎えられたがっている目をしてますよ?」
「……やっぱり、クスリ使ってる目にしか見えない」
アズサちゃんは、ヒフミちゃんに模試を合格する度に、お人形さんを貰ってたの。最初はペロロ博士、次にスカルマン様、今回は何を貰うのかな?
……個人的なことだけど、ヒフミちゃんが目を離した隙に繁殖活動をさせちゃって、アナルも開発しちゃった淫乱ペロロ様をお迎えしなきゃいけないから*6、その子は避けて欲しいかなって。
「はい、それではモモフレンズグッズの授与式を始めますっ! 今回はアズサちゃんだけでなくて、みんな貰えますからね!」
「っ!」
「わーい!!」
私とアズサちゃんはアイコンタクトをして、お互いの意思を確認する。私は淫乱ペロロ様を見つめて、アズサちゃんはウェーブキャット様を見てる。コクンと頷きあって、ここに密約は結ばれたの。
今度、アズサちゃんにもお人形さんに施す豊胸体操のやり方を教える約束をしたし、このまま同志としてアズサちゃんが覚醒する日も遠くないよね?
「私はいらないから」
「そう、ですね。私も辞退します」
「はい、はいはい! 私はいるから、止めちゃヤだよヒフミちゃん!」
「私も欲しい。この子たちは本当に可愛くて、ヒフミに毎日感謝してる」
コハルちゃんとハナコさんが遠慮しちゃって、ちょっと悲しそうなお顔になったヒフミちゃんに慌てて伝える。私、これまで頑張ったから、絶対欲しいの! ヒフミちゃんの優しさ、とっても嬉しいから! アズサちゃんも、同じ気持ちみたい。モモフレ同志の熱くて硬い友情、まるでバイブみたいだね!*7
「メブキちゃん、ずっと楽しみにしててくれましたからね。勿論、貰ってくれると嬉しいです! ……でも、エッチなことをしてはダメですよ?」
「うん、豊胸体操で、おっぱい大きくするだけだから、安心して!」
「はい、ちゃんと分かってくれて嬉しいです」
「ねぇ、ヒフミ、メブキに頭壊されてない?」
「大丈夫ですよ、コハルちゃん。メブキちゃんに調教されただけで、ちゃんと元のヒフミちゃんのままですから」
「大丈夫な要素どこよ!!」
コハルちゃんは、ハナコちゃんとイチャイチャしてた。モモフレンズより肉欲を選ぶなんて、コハルちゃんは本当にえっちだね?*8 でも、人の趣味はそれぞれだし、そんなえっちなコハルちゃんも好きだよ?
「ウェーブキャットさん……可愛い、細長くてうねうねしてる。冬場にはマフラーにだってなってくれそうだ」
「私は勿論ペロロ様! ついにお迎えできたね、これでペロロ様同士でヴァージンロード歩かせてあげられるよ!」
「あはは、メブキちゃん、ペロロ様には性別はないんです」
「大丈夫、ペロロ様はウェディングドレスもタキシードも、どっちも似合うから!」
「それはそうですが……あ、アズサちゃん、身体にウェーブキャットさんをグルグル巻き付けちゃダメです! つい最近、それで解けなくなって搬送された人がいるんですよ!」
「でもヒフミ、暑いけど気持ちいい感じがする」
「いけませんアズサちゃん、手遅れになりますよ!」
ヒフミちゃんがアズサちゃんを救助している内に、私は新しいペロロ様のお尻をこちょこちょとした*9。……うん、ほつれてないね、良かった! 今日からは爆乳アヘ顔ペロロ様にしてあげるから、お尻の心配はしなくて大丈夫なんだよ?
「メブキ、あんたがそれを好きなのって、エッチだから?」
「うーん……もしかすると、昔好きだったキャラに似てるからかも」
コハルちゃんの問いかけに、私はあの淫猥な鳥さんを想起する。青藍島のマスコット、YouTubeでも大人気の卑猥物。……うん、やっぱりペロロ様とハメドリくんは似てるね!
「……こいつみたいなのが、まだいるってこと?」
「そうなの! エッチなことをするのが、合法化されてる島のマスコット!」
「そ、そんなフザケた島がある訳ないでしょ! エッチなのはダメ! 死刑!!」
「でも、ハメドリくんはもう懲役を食らって牢屋行きになってるから、焼き鳥には出来ないの。判決は覆せないんだよ?」
「ほ、本当に……そんな島あるの?」
「あるよ!」
青藍島は、みんなの心の中にちゃんとあるから。目を閉じると、波と一緒に羽ばたくハメドリくんの羽音が聞こえるよね? ハーメハメハメって鳴き声と一緒に、誰かの嬌声も聞こえてきちゃう。コハルちゃんの心の中にも、きっとそんな原風景がある筈だよ!*10
「ふ、不潔!!」
コハルちゃんの心に何かが聞こえたのか、急にそんなことを叫んじゃってた。でも確かに、ハメドリくんが清潔なわけがないから、コハルちゃんの言うことも一理ある。泉に突き落としたら、アイブハメハメリンカーンちゃんに変わったりするかな? ハメイジンググレイスとか、歌ってくれるかにゃー。
「コハルちゃんも、青藍島に行く時は気をつけてね? 最近は大丈夫らしいけど、昔はえっちな要求をされたら応えなきゃいけないってルールがあったらしいから」
「行くわけないし、あんたも絶対行かせないから!!!」
「そだね、私達はえっち本見るだけで満足しちゃうし、初めては素敵なのが良いもんね。コハルちゃんは恋人さんが初めてなのか、レズ風俗が初めてなのか、どっちが良いの?」
「っ、バカバカメブキ! そもそもキヴォトスにレズ風俗なんてないし、脳内で風俗店を勝手に営んじゃダメ! 風営法違反で死刑!!」
コハルちゃんの口から、ありえない言葉が出てきちゃってた。レズ風俗がキヴォトスにない? こんなに女の子でいっぱいなのに? そんなの、あり得ないしウソっこだよ!
「そ、そんなの嘘だよ! どうしてそんな酷いこと言うの?」
「酷いのはあんたの頭の出来でしょ!」
「コハルちゃんとは2点の差だよ!」
「60点と58点じゃ、天と地の差なの!」
「60点と62点だよ!」
さらりと自分と私の点数を下げたコハルちゃんは、とっても凶悪なイジワル星人だった。私が赤点だと、コハルちゃんも連座で赤点なんだよ?
あ、でも、私も補習授業部のみんなとずっと一緒にいたいし──もしかして、これってコハルちゃんからの遠回しな告白なの!? ずっと一緒にいようねってことだもんね、赤点取っちゃえって。そういうことだよね!!*11
「分かった! コハルちゃんとなら、ずっと一緒にいられるよ! 不束者ですが、よろしくお願いします!!」
「いらない!」
「コハルちゃんのお嫁さんの、春風メブキだよ?」
「結婚してない!」
「でも、告白されちゃったから……」
「してない!」
コハルちゃんは、ことある度に私のほっぺをいじめるね。これを、離婚手続きの代わりにしちゃうつもりかな? でも、そんなことをしたら、バツイチコハルにバツイチメブキになっちゃうんだよ?*12 いいの? あっ、良いんだ、そうなんだ……。
「先生、私人妻からバツイチになっちゃった。やっぱり、お勉強さんと行為に及んだから、コハルちゃんは怒っちゃったのかな?」
「勉強をすることはエッチなことじゃないから、関係ないと思うよ」
「じゃあ、なんで?」
「告白も結婚も、してなかったんじゃないかな」
「そうなの!?」
「多分ね」
歴史は繰り返すっていうけど、なんか既視感がある展開だよ。ウイ先輩、私の初めての恋人さん……*13。な、なんか心が苦しくなってきちゃったね?
悲しみのあまり、私は涙と共に失禁して、シャワールームへと旅立つことになったの。いつか愛や希望が、世界を救うと信じて。……ウイ先輩、コハルちゃん、人の心を弄ぶのはダメなんだよ? 恋人さんや奥さんは、ちゃんと大切にしないとダメなんだからね!
『ウイ先輩、恋人はダメでも、愛人なら許してもらえますか?』
それから、ウイ先輩に久し振りにモモトークを送ったよ。最近、忙しくてお話しできていなかったから。もしかするとこのまま、"年上黒スト古書館少女~めんどくさくて本好きで昔の因縁ありな元カノダウナー系ツンデレなあの人と~"が始まっちゃうかもしれないし!*14
いつでもヨリを戻してくれて良いんだからね、ウイ先輩。バツイチメブキだけど、子持ちのメブキよりはお付き合いしやすいと思うの!
『メブキはいつも通り。……もし私に何かあったら、古書館はシミコに任せるから。勝手にはしゃいで、古書を破損させたら化けて出るからね』
『ウイ先輩、どうしたの?』
『何でもない、合宿頑張って』
何だろう、この。……何だろうね? なんか、主人公が出張に行ってる間に、奥さんが寝取られるNTRの文脈っぽい文章すぎる。
う、ウイ先輩、ウソですよね? 私以外の女の子と付き合ったりにゃんにゃんしてないですよね? そんなことになってたら、ウイ先輩にウイ先輩棒を突き立てて、愛を取り戻しに行くよ? 愛液溢れる合間に、私の顔がフラッシュバックするような、そんな関係になっちゃうんだよ?*15
『シミコちゃん、ウイ先輩は元気かな?』
『健康、ではあると思います』
いてもたってもいられずに、シミコちゃんにモモトークを飛ばす。すぐに既読がついて、それで返ってきた返事はなんか意味深。ほ、本当に大丈夫なの? ウイ先輩、アヘアヘしてオホ声出してないよね?
『何かあったら、シミコちゃんが助けてあげてね?』
『はい、今はシスターフッドの人たちと折衝してて疲れてるみたいですが、偶には人と関わった方がいいと思いますし』
『シスターフッドの人達はえっちじゃないから、きっと大丈夫だね!』
『メブキさん、世の中の大体の人はエッチじゃないですよ』
シミコちゃんは、相変わらずのピュアピュア文学少女で安心できるね。でも、何かあったらシミコちゃんには催眠があるし、きっとウイ先輩についた悪い虫さんも直ぐ追い払えるに違いないよ!
『合宿、頑張ってくださいね』
『模試で60点取れたから、自信満々元気もチンチン。無敵の私なんだよ!』
『良かった、でも油断しちゃダメですからね? メブキさんが帰ってくるの、ずっと待ってますから。やっぱり、メブキさんが居ないと寂しいですし』
シミコちゃんのメッセージに、胸がキュンとしちゃった。可愛すぎるね、目の前にいたら"それ、反則"って言ってぶちゅちゅってしちゃったかも。
『えへへ、シミコちゃんのために頑張るね!』
『はい、いつでも図書館で待ってますからね』
シミコちゃんは、本当に清楚だよ。時々、マナーの悪いお客さんが銃を使った時、発砲された銃弾を素手で掴み取ったりするヤンチャさもあるけど。やっぱり、シミコちゃんは貞淑な奥さん属性があるよね。図書館に戻ることになったら、いつでも助けになるからね!
よし、本試験も近いけどやる気満々モリモリだよ! よーし、頑張るぞー!
そんな決意をした、次の日のことだよ。試験会場と、テストの変更点が告知されたの。それでね……。
「試験会場、ゲヘナ自治区第15エリア77番街。合格点は90点?」
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?????*16
「ナギサ、君のことが少し分かった」
それは、試験告知がされる前日。ナギサとの会合で先生が口にしたのは、セイアと話して理解したこと。
ナギサが容易な状況にあらず、常に警戒しながらすごさなければならない現状。そういった、ナギサを雁字搦めにする鎖を断ち切らないと、彼女を覆う疑心の渦から逃れることはできない。補習授業部のみんなを助けるには、まず目の前の少女に手を差し伸べなければならない。それを、先生はより深く理解したから。
「まず、君の安全を確保する必要がある。正実なら、きっと助けになってくれると思うけど」
「なるほど、あの方から聞いたのですね、先生。私が命を狙われていると言うことを」
「うん、ちゃんと会ったよ、セイアに」
先生の言葉に、ナギサは視線を落とした。揺れるティーカップの水面を眺めて、ゆっくりと言葉を探す。自分の中でも整理がついていなくて、信じられないことをどう言語化しようかと模索しながら。
「──あの人は、本当にセイアさんなのでしょうか」
「ナギサ?」
そうして、何とか言葉にできたこと。事実として並べられそうなことを、ナギサは列挙し始める。
「救護騎士団から連絡があり、セイアさんが無事だと知らされた時はホッとしました。ですが、再び会った時の姿は、既に春風さんのものでした」
再会した時、メブキの顔で、声で、自分は百合園セイアだと名乗った。ナギサもミカも、最初は信じられずに困惑……いいや、憤慨した。でも、彼女と話すうちに、この人はセイアだと分かってしまった。思い出も、隠し事も、考え方も。全部がセイアそのものだったから。ミカは、既にセイアが戻ってきたと信じている。でも、ナギサは……。
「確かに、セイアさんしか知り得ないことを口にしました。セイアさんの口調で、予言の力も振るって。ですが、人の中身は見えないのです。姿形が変わっても、セイアさんだと確信するなど不可能です。そんな無責任なこと、今トリニティを治めている私が行って良いはずがありません」
先生は、ナギサが話し終えるまで耳を傾ける。言い分を全て聞いてからでないと、ナギサに理解を深め合うことができないから。ただ、その胸の内にあるのは、少女一人が背負うにはあまりに重いものなのだろうことは理解する。自分が、信じたいことすら信じられない、そんなレベルの。
「証明が必要なのです、あの人がセイアさんなのだと。一瞬でも良い、春風さんがセイアさんになってくれたら。ですが、頑なにそれは拒まれてしまいます。だから、疑心ばかりが募って……」
葛藤が、ナギサの中にはあった。十中八九、そうだろうと信じている。でも、その信じることで生じる一割の虚。それを、ナギサという個人ではなくティーパーティとしてのナギサが許さない。如何なる齟齬も、隙も、エデン条約に持ち込むわけにはいかないのだから。
「……先生、今吐いた弱音は忘れてください。詮無いことを言いました、今はエデン条約のことと調査の結果を──」
「ナギサがそこまで気にしてるのは、エデン条約がミカの為のものだから?」
ナギサの動きが、ピシリと固まる。表情が驚きに満ちたままで、隠せそうにない。そんなこと、誰にも気にされることがなかったのにという思いが、ナギサの内で溢れかえる。
「どう、して?」
「ミカがアリウスと仲良くしたいってことを聞いて、もしかしたらと思ったんだ。ナギサは、何の憂いもなくアリウスと相対するために、エデン条約を結ぶ必要があった。ミカのアリウスとの和解案を蹴ったのは、物事の順序を守ろうとした。そういうことだよね?」
「──先生は、私的に権力を濫用する人間を、やはり軽蔑いたしますか?」
動揺から出たナギサの言葉は、仮面を被りきれなかった少女としてのもの。そのことに、先生はやっぱりそうだったんだと納得する。ナギサは、友達思いの優しい女の子だということも。
「しないよ。悪いことなら止めるけど、ナギサのそれはみんなのためのものでもあるから」
先生の言葉に、ナギサは胸が詰まりそうになる。理解者が、ずっと欲しかった。でも、ミカに重荷は背負わせたくなくて。ヒフミとは、そんなことを気にする仲にはなりたくなかった。だから、自身の裡に隠しておいたもの。それが溢れそうになって──何とか、為政者としての責任感でそれに蓋をした。
「ありがとうございます……弱みを握られてしまいましたね、先生」
「大丈夫、安心して。誰にも言わないよ」
「それも保証がありません、信じたいけれども信じられないのです。尤も、一番信じられないのは、簡単に弱みを曝け出してしまった私自身なのですが」
ため息一つ吐いてから、紅茶で気持ちを落ち着かせる。すると、ちょっとした爽快感と、果てしない後悔が胸に渦巻いているのを彼女は自覚した。幾ら先生相手でも、これは酷すぎると為政者のナギサが咎めてきているのだ。
「先生、証明はまだ終わっていません。終わられては困ります。それに、春風さんやセイアさん以外も、彼女たちは不穏分子に違いはありません。まだ、合宿を続けてもらわねば困ります」
「……ナギサ、何をするつもりなの?」
今まで垣間見えていた素のナギサが見えなくなって、いつもの微笑んでいるナギサがそこにいて。先生は、この仮面を被っているナギサは油断ならないことを知っている。だから、どうしても警戒するしかなくて。それが残念なような、けれども安心したような感覚を覚えながら、ナギサはそっと一言だけ告げた。
「次のテスト、合格できることをお祈りしています」
次回、ゲヘナでの旅路は2、3話前の焼き直しになりそうなのでスキップします。なんか、メブキが回想がてらにどんなことがあったか、と冒頭で触れるぐらいになりそうです。