コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです!   作:ペンギン3

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プレゼント

 私はミネ団長にお世話になってる。

 クラスの子に保健室送りにされているだけとも言えるけど、お陰で実質的な主治医の先生みたいになっていて。何時も私を診てくれているお礼に、何かお土産を持って挨拶に行きたい。

 

 でも、悲しいことに私の財布はずっと素寒貧のまま。お金の掛かるものは持っていけないので、何か別の方向性で喜んでもらえるものを見つける必要があった。

 

 取り敢えず考えを纏めて、祈りを、ううん、今回は感謝を捧げることに集中する。

 だって今は、朝の礼拝中なのだから。

 そうして、礼拝中にミネ団長への感謝を捧げまくっている最中――ふと閃きがはしった。

 

 手作り!

 そう、手作りのもの。エロゲーの中でも、ヒロインから物を貰って喜ばない主人公は少なかった。これなら、ミネ団長も喜んでくれると思う! 定番だとお弁当だけれど……。私のお弁当、きっとトリニティの子達には受けない気がする。だって犬のエサって言われたし。だから、別の手作りのものを作らないといけない。

 

 うーん、松茸?

 

 

 そうして私は、松茸を求めてトリニティ領内の山を彷徨った。そして夜まで掛かったけど、無事にキノコを手に入れることができた!*1 ……松茸はなかったけれど、これを栽培して増やしてミネ団長にプレゼントしよう!

 

 私はウキウキながら学校に登校した。学校のとある場所で、キノコを育てるために。

 キノコ育成キットっていうのがあったけど、高くて買えなかったからビニール袋で栽培してみようと思う。そして私は放課後、家に取りに戻ったキノコとビニール袋を持って――中央図書館へとやって来た。もっというと、バリケードが張り巡らされている古書館って所に立ち入る許可を貰いに来た。あそこの空気感がとてもジメジメジトジトで、キノコの栽培に向いていそうだと思ったから。

 

「ちょっと待ってください!」

 

「ふぇ?」

 

 けれど、そんな私に待ったを掛けた人がいた。どこかで見た顔と薄茶色のツインテール、確か何時も本を読んでいるクラスメイトの……。

 

「円堂さん?」

 

「春風さん、図書館では食べ物の持ち込みは禁止です。そのビニールに入ってるキノコ……キノコ?」

 

 円堂さん、確か円堂シミコさんってお名前。ここに居るということは、円堂さんの部活動は図書委員会で司書をしているのかな?

 

「直ぐ出ていくから安心して欲しいな」

 

 そもそも生では食べれないし。ただキノコを育てたいだけなんだ。そんな想いを込めて円堂さんを見つめても、彼女は難しい顔のまま私の用事について尋ねてきた。

 

「なら、図書館には何をしに?」

 

「古書館でしたいことがあってね、入りたいなぁって」

 

「そっちは先輩が封鎖してますから、難しいかと。そもそも、なぜ古書館にキノコを?」

 

「キノコ育てられる環境がなくて、古書館で育てさせて、ほし、くて」

 

 全部を言い切る前に、目の前の円堂さんの眼鏡がギラリと光っているのに気がついた。キラリではなく、まるで今からビームでも発射してきそうなレベルの威圧感があった。

 

「春風さん?」

 

「ひゃ、ひゃいっ」

 

 大きな声じゃないのに、凄く支配力のある声。エロゲーなら、絶対服従の能力でも持たせられていそうな気配。もしかすると、円堂さんの眼鏡には催眠アプリの類似品が仕込まれているのかもしれない。

 

「キノコはカビの温床になるんですよ? なら、分かりますよね。本を、傷付けるような真似をしてはいけません」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 考える前に口が勝手に動いていた、体もプルプル震えている。やはり、円堂さんは催眠アプリの使い手に違いなかった*2。考えてみれば、エロゲーでも確かに眼鏡の人が催眠アプリ持ってる確率高かったし! それに気がついて、震えてしまった。私が意に反することを言えば、えっちな命令をいつでも円堂さんは下せるのだ。そう考えると、この人には絶対に逆らってはいけないっていうのが分かる。

 

「もうしません、許して下さい……」

 

 恐怖に包まれながら謝罪を繰り返すと、彼女はハッとしたように首を振って。

 

「こちらこそ、まだしていないことに対して、きつく言い過ぎました。ごめんなさい」

 

「ううん。それとマナーを教えてくれてありがとうございます」

 

 キノコ、どうしよう。育てられる場所、湿気がありそうな場所が思いつかない。大聖堂でなら、何とか行ける気がするけど、あそこは人通りが多くてキノコ踏まれちゃいそうだし……。

 

「どうして、キノコを育てようって思ったんですか?」

 

 円堂さんの声にビクッとしつつ、私は正直に答えた。この人に隠し事するなんて無駄だろうし、そもそも隠すほどの事ではないから。

 

「えっと、お世話になっている人に、何かプレゼントしたくて。私、貧乏の三一侍(さんぴんざむらい)だから、何か買えるお金もなくて……」

 

 トリニティには、お嬢様がたくさんいる。お嬢様でなくとも、貧乏人の数なんて殆どいない。だから最近、もしかしてトリニティでは貧乏は恥ずかしいことなのではと思っていて。少し口にするのが怖かった。けれど、円堂さんは納得した顔をして。さっきの怖い無表情じゃなくて、軽く笑いかけてくれながらこんな提案をしてくれた。

 

「私と一緒に、プレゼントを作ってみませんか?」

 

 円堂さんと一緒にプレゼントを……催眠眼鏡かな?

 

「眼鏡は、多分いらないと、思い、ます」

 

「眼鏡じゃないです、これを作ります」

 

 円堂さんがポケットから取り出したのは、花柄のしおりだった。

 

「それって自分で作ったんですか?」

 

「はい、しおりは見た目も良いですし、ちょっとしたプレゼントに最適なんです! ……そっちのキノコより、きっとプレゼントに向いていますよ」

 

 円堂さんに言われて、確かにと思った。お嬢様学校だし、キノコよりもしおりの方が好きそうだし。うん、ミネ団長はキノコを丸かじりしている姿より、本に花のしおりを挟んでいる姿の方が想像しやすい。眼鏡で洗脳してくるけど、円堂さんはとても頭の良い人なんだ。

 

「えっと、でも、良いんですか?」

 

「はい、しおりを作るのは趣味なので、付き合ってくれるととても嬉しいです」

 

「それじゃあ、お願い、します」

 

 柔らかくいう円堂さんに、私は素直にお願いしていた。洗脳をされている気配がないから、これは円堂さんの好意だと思って。……私、本当にされてないよね?

 

 

 

 そうして、図書館の中にある司書室という場所に案内される。ここに材料とか、色々とあるんだと言って。材料、私は手元のビニールに目を落とした。

 

「キノコ、使え、ますか?」

 

「これはデカすぎて無理です」

 

 さり気なく、円堂さんにキノコの袋を取り上げられた。遠く離れた場所に、隠すように片付けられる。それから、さて、と明るく言った円堂さんの言葉によって、しおり作成教室が開催されたのだった。

 

「たんぽぽ柄にしたんですね。たんぽぽの花言葉は「幸せ」で、贈る人に良いことが沢山ありますようにって願いが込められます。良いセンスですね、春風さん」

 

「そ、そう、ですか?」

 

 作業に入って、気がついたことがあった。

 

「そうそう、そこの折り紙を、そう! 綺麗に折れましたね」

 

 それは、円堂さんがすごい褒めてくれること。

 

「この絵は……野良えもん、ですか?」

 

「うん! あ、そうです」

 

 お陰で、私はもしかするとしおり造りの天才だったのかもしれないって思うくらいだ。もし私に才能があったのなら、円堂さんが開花させたに違いなかった。もしかすると、円堂さんは催眠眼鏡でも良い催眠眼鏡の人かもしれなかった。

 

「で、できた?」

 

「上手にラミネート出来ましたね! ズレもなくて完璧です、春風さんは器用ですね」

 

「え、えへへ」

 

 訂正、”しれない”じゃない。円堂さんは良い催眠眼鏡さんだった。凄く褒めてくれて、多分そのうち生きてるだけでも褒めてくれるようになりそう。最初に怒って眼鏡の能力を使ってきたのは、私が本を傷付ける可能性があったから。それさえ気をつければ、きっと円堂さんはとっても優しい人なんだって分かって、少しホッとした。

 

「あの、もっと作っても良い、ですか?」

 

「はい、どうぞ。……それから、無理して敬語を使わなくても良いですからね?」

 

「う、うん」

 

 無理なんかしていません、勝手に喋ってしまいます。そう口走れたら、何かから解放される気がする。けど、口はそう言う前に勝手に喋っていて。あ、催眠眼鏡を使われちゃったんだって自覚できてしまった*3。下の口は正直って言葉はあるけど、上の口も正直にされてしまった、やっぱり怖い能力だよ!

 

 でも、優しい円堂さんがこうするということは、クラスメイトに敬語を使われるのは性癖でなかったのかな。そうなら、私も頑張ってタメ口で話さないとね!

 

「くく、くはは、わらわのしおりが完成したぞ!」

 

「春風さん?」

 

 円堂さんの性癖に合わせようとロリババア的なキャラを作ったら、何故かドン引きした視線を向けられていた。

 なんで? 敬語じゃないよ?

 

「よく出来ていますけど……どうしちゃったんですか?」

 

「何を言っているのかのぅ、こっちの方が良いのであろう?」

 

「いえ、普通の喋り方でお願いします」

 

「う、うん」

 

 多分、性癖からズレてたんだろう。私は再び催眠眼鏡を使われて、元の話し方に戻されてしまっていた。普通の女の子、恐らくそれが円堂さんのヘキなのだと理解した瞬間でもあった。

 

 けど、そんな彼女は、とても優しい女の子だ。だって部活動中なのに、こうして私に付き合ってくれて、ミネ団長へのプレゼント作りを手伝ってくれたから。多分、えっちな命令を下すために催眠眼鏡を掛けているわけではない。偶々すごい力を手に入れてしまっただけの女の子なんだって、もう気がついたから。

 

 気がつけた私は、怖いという感情が溶けていって。素直に笑顔を浮かべられた。

 

「円堂さん、プレゼント作ってくれるの、手伝ってくれてありがとう!」

 

「いいえ、どういたしまして。少しでもお役に立てたのなら幸いです」

 

 円堂さんの笑顔は素敵で、何の裏側も感じさせない。もしこれで、彼女が私にえっちな命令を立てる算段をしているのなら、もう世の中はコハルちゃんしか信用できなくなっちゃう。つまりは、えっと、彼女に対して、私は気を許しちゃってた。

 

「今日はありがとう、円堂さん。これ、私が作ったの……どうぞ!」

 

 だから他にも何枚か作っていたしおりを一枚、円堂さんに差し出した。円堂さんは虚を突かれたように目をまん丸にして、それから優しいお顔でしおりを受け取ってくれた。

 

「私の分まで、作ってくれてたんですね。ありがとうございます、メブキさん」

 

「どういたしまし、て?」

 

 あれ、何か今、名前で呼ばれたような?

 思わず円堂さんを見ると、優しいお顔のまま私の頭をスッと撫でて。

 

「私のことも名前で、シミコと呼んで下さい、ね?」

 

「う、うん、シミコちゃん」

 

 何だか嬉しいよりも、頭を撫でられているからか照れくさくて。俯いて答えちゃった私を、円堂さん……シミコちゃんは優しく撫で続けてくれていた。えへへ、えへへへへ。

 

 

 その後、正実の活動が終わったコハルちゃんと合流した私は、彼女にもしおりをプレゼントした。シミコちゃんみたいに喜んではくれなかったけど、フンって言いながら受け取ってくれた。時々、えっちな雑誌に挟まってるのを見ると、ちゃんと使ってくれてるみたい。やったね! 今度はミネ団長へわたすぞー!

*1
君は何を考えている、そんなフザケた見た目のキノコが食べられる筈ないだろう!

*2
君の常識は他人の常識とは一線を画している。それにそろそろ気がつくべきだ

*3
思い込みだけで、よくここまで錯乱できるね





※シミコの眼鏡に催眠機能はありません。

メブキの拾ってきた謎のハワイ辺りにありそうな明るいオレンジ色のキノコは、シミコがキチンと捨ててくれました。
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