コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです! 作:ペンギン3
「次は……春風メブキさんですね。彼女は特に、勉学の面で苦労したと聞いています。……恨まれていても、仕方ありませんね」
「ナギサ様、メブキちゃんは恨んだりできる子じゃありません。だから、その点は大丈夫です」
「その点は? ヒフミさん、持って回った言い方をしますね」
「あはは、その……メブキちゃんは偉いお方、権力を持っている人に、その、ちょっと偏見がありまして」
「あのような目に合わせてしまったのです、それは仕方ないことでしょう」
「えっと、それとはまた違う感じなのですが……実際に会ってみれば、分かると思います。何というか、本当に悪い子ではないので、それだけは分かってあげてください!」
「えぇ、私が謝罪する側なのです。それくらいのこと、弁えていますよ」
余裕を持って紅茶で唇を潤すナギサに、ヒフミは不安そうな顔をしていた。ヒフミは、友達をヘンタイ呼ばわりする程の口さがない女の子ではなかったから。
ただ、結果として、ナギサは心の準備を整えられなかった。そんなもの、整えたところで馬鹿馬鹿しさばかりが降り積もるだけなのだが。
今日はね、なんか偉い人のところに呼ばれちゃった。お家に届いたお手紙には、難しめの言葉でごめんなさい、できれば直接会って謝りたいって書いてあったの。要するに、仲直りしたいよってことだよね、偉い人は。会ったことないけど。
それなら断る理由なんてないし、私もこの度はウマシカで申し訳ありませんでしたって言えるもんね。そういう訳で私は、その偉い人と会うことになったの。ティーパーティの桐藤ナギサ様、今トリニティで最もえっちが強い女の人だよ*1。
「こんにちは、春風メブキさん。こうしてお会いするのは、初めてですね」
「こ、こにゃにちは!」
……なんか、思ってたのと違うよ。私ね、ミカさんみたいな感じの人が出てきて、ハロハロハッピー仲良しよっぴーハメハメハッメーみたいなノリで、仲直りの握手みたいなのする予定だったの*2。
だけど、実際に会ったナギサ様はとってもお嬢様な感じ。何というか……お清楚すぎる。
ここで私が、"チンポポの花はね、男性器に咲き誇って年に何度も種子を飛ばすの。雄しべは一年中枯れない
「ふふ、緊張しているのですか? 落ち着いて、どうぞこちらを」
恐れ多いことに、ナギサ様が自ら紅茶を淹れてくれる。御付きの人とか居そうだけど、今日は私たちの2人きり。……私、もしかしてご奉仕させられちゃうのかな?
コハルちゃんの読ませてくれたえっち本に、こんな展開あったもんね。お嬢様がえっち心を抑えられなくなって、庶民の子に奉仕させちゃうの。存分にご奉仕できた人を気に入って、オナペットにしちゃう的なやつ。ここから私が逆転するには、ナギサ様を姫騎士アンジェリカして、民のためにみんなにご奉仕しなさいとえっちを強要することだけ*4。
でも、そんなことができる実力は私にはないし、ヒフミちゃんのお姉様でミカさんのお友達にそんな酷いことはしたくないよ。だからね、私──今日こそ舐めるべきなんだって、分かっちゃった*5。
「わ……」
「どうかしましたか?」
「私、2人きりで、び、びっくりしてて……」
「……なるほど、信用できない人物と2人きり、それは確かに落ち着きませんね」
「だから、足を舐め舐めできればって愚考しました!*6」
「はい、そうですね……はい?」
ナギサ様はおめめをパチクリとさせてから、カップに角砂糖を二つ入れて混ぜ混ぜし始めた。匂い的に、あれはお紅茶だね!
「それじゃあ、靴下失礼しますね?」
「え?」
私を蹴っちゃわないように、ピシリと固まってくれたナギサ様は、えっちな気持ちが強くても優しい女の子さんなんだね。だから、きっと我慢できるような気がするの。ナギサ様の靴下は、脱がす時に何だか甘い香りがした。流石はお嬢様、物理法則が全然違うんだね!
「い、いったい何を!?」
「足を舐めて、ナギサ様に許してもらおうと思って……」
「な、何の話ですか?」
「私、ウマシカだから、今日ナギサ様にペットにされちゃうんですよね? ペットは勝手に増えちゃダメだからって、去勢させられちゃうんですよね!?*7」
「一体何のことですか!!!」
ナギサ様の大きな声、まだペロペロしてないから絶頂なんてしない筈。びっくりして顔を上げると、お顔が真っ赤なナギサ様の姿があって。
「どうしたんですか?」
不思議に思ってそう尋ねたら、ナギサ様は遠い目をして角砂糖を更に三個、カップの中に放り込んだの。……甘党さん?*8
「お熱、大丈夫ですか?」
「そうですね……大丈夫ではないので、まずは着席してください」
「で、でも──」
「してください」
にっこりと、同じセリフを繰り返されて私はコクコクと頷いちゃってた。あれ、ナギサ様、なんか怒っちゃってる?
「あにょ、あにょあにょあにょ……ごめんなさいです?」
「謝罪をするということは、今の行為が何だったのか、理解してのものですね?」
「は、はい! ナギサ様のペットにされちゃうから、先手を打って待遇改善を図ろうとしたから怒ったんですよね?」
「どういう理屈が働いているのですか!!」
ナギサ様は頭を抱えちゃった後、またカップに角砂糖を四個も入れちゃってた。……紅茶じゃなくて、お砂糖好きなのかな?
「ち、違うんですか?」
「違います、一から十まで全てが違います。手紙、読んでいただけましたよね?」
「はい、仲直りえっちがしたいと*9」
「書いておりませんが!?」
ナギサ様はブチギレ気味に、角砂糖をカップに五つくらいぶち込んでいく。それ、もう紅茶じゃなくて砂糖水だね? 恋姫無双の美羽ちゃんみたいなキャラなのかな、ナギサ様って。
あ、カップに口をつけたね、ナギサ様。……目がキョロキョロしてる、どしたのかな? あ、ナギサ様すごい! ウイ先輩棒みたいにバイブレーションしてる!! あ、でも、お顔がしんどそう。やっぱり、お砂糖入れすぎだったんだよ!*10
「んくっ──はぁはぁ、何なんでしょうね、これは……」
「ナギサ様、お喉ベトベトして大変ですよね。待っててください、お水買ってきましゅ!」
「いえ、大丈夫です。まだポットに紅茶もありますので」
「でもナギサ様、生まれたての小鹿さんみたいにプルプルしてます……」
まるで、紅茶に媚薬でも入ってたみたいに、ナギサ様はバイブと化してる。お砂糖だけで、こんなになれるんだ。凄いね? もしかしたら、私に使う予定だった媚薬を、間違って自分に盛っちゃったのかもしれないね。あ、紅茶を入れ直してコクコク飲んでる。凄い、ぬるいとはいえ、紅茶を一気飲みしてるよ!
そうして、飲み終えてお顔を上げたナギサ様は、キリリって引き締まったお顔になってた。……別人さん?*11
「──失礼致しました、ようこそ春風メブキさん。私はティーパーティの桐藤ナギサです。ようこそ、私のお茶会へ」
それから、何事もなかったかのように、私はナギサ様に歓迎されてたの。やっぱり、偉い人だからフニャフニャな姿は周りに見せちゃダメなのかな? そうなら、私も何も見なかったことにしないとだね。ナギサ様がフニャってくれたお陰で、私も緊張さんがどっかいっちゃったし!
「はい、初めまして!」
「溌剌としていますね、噂通りです」
「私の噂? ……世界一可愛い猫って噂ですか?*12」
「色々とありますよ。小動物、保健室の主、妖怪カレー女、マインドクラッシャー、図書委員もどき。私が知ってるだけでもこれだけあり、探せばもっと出てくることでしょう」
思ってたより多いね? でも、私がセクシーすぎるとか、えっち本マニアだとか、スク水女神を信仰してるだとか、コハルちゃんの親友だとか、そんなドスケベ関連の話題は広がってないみたい。
日頃から清楚に暮らしてきた成果だね、インキャステルスモードだよ。この分だと、えっち過ぎてトリニティから追放されることなんてなさそうだし、ホッと一安心だね!
「良かった、変なのなくて!」
「そ、そうですね」
「おかしな子って思われて追放されちゃったら、折角テストを乗り越えたのにって生き霊になっちゃうところだもんね!」
「追放……やはり、精神的な外傷を? だから、あんな狂った行動を……」
「ナギサ様?」
楽しくお話ししようとしたところで、ナギサ様のお顔が暗いことに気がつく。まるで、エロゲーは18歳未満はプレイしちゃいけないって約束事を破っていたのを、他の人に見つけられた時みたいに。……どうしたのかな?
「お腹、痛いですか? パンパンはできませんけど、ポンポン撫でますか? 赤ちゃん出来たみたいに、ナデナデしますか?」
「やはり、私のせいでヒフミさんのご友人がっ!?*13」
苦しそうなナギサ様のお腹を、優しい感じでナデナデする。生まれる時は、ちゃんと元気に生まれてくるんだよって気持ちで。多分、中に誰もいませんよ、だけど。
「だ、大丈夫ですよナギサ様、何にも怖いことなんて無いですからね……」
「こんなにお優しい方を、どうしてっ。ヒフミさんだけじゃなく、セイアさんにも申し開きすらできませんっ」
アワアワしちゃう、どうしようどうしようって。ナギサ様が、突如として壊れちゃったから。ポンポンだけでなくて、背中もサスサスするけど、中々治ってくれない。
でも、唐突に泣きたくなる時ってあるもんね。私も、ぼぉっと部屋から空を見てるだけで、なんか泣いちゃう日とかあるもん*14。寂しいと泣いちゃいやすいけど、ナギサ様もそうなのかな? だったらね、すごく簡単で手っ取り早い解決策があるよ。
「急にごめんなさい、ナギサ様。ぎゅーっ」
「は、え? 春風さん?」
「辛いの辛いの、とんでいけー! ナギサ様から、とんでいけーっ!」
ギュッてすれば、世の中大体のことは解決しちゃうの。泣いてても、コハルちゃんやお兄ちゃんにぎゅーしてもらったら、大分楽になったもんね。世の中、思い遣りとえっちがあったら救われちゃうんだよ、多分!*15 ナギサ様は、落ち込んでるだけで泣いてないけど、大した違いはないよね!
「……ふふっ、私のようなものにも、あなたは優しいのですね」
「えっと、目の前で誰かが困ってたら、助けてくれる人はいっぱい居るんです」
「そうですか──それが、あなたやヒフミさんが生きている世界なのですね」
「えっと……ここはキヴォトスで、ナギサ様と私はおてて繋げますよ?」
「そういう話では……いえ、春風さんの言う通り、ですか。少なくとも、私はヒフミさんの手を取ると、そう決めたのですからね」
「ナギサ様は、ヒフミちゃんと仲良しなんですね!」
「そう、ですね──お友達です」
そこで、ナギサ様はやっと笑ってくれた。ヒフミちゃんのことが出てからだから、ヒフミちゃん様々だね。
「ナギサ様、えっとね……」
「春風さん、談笑は後ほど。まず初めに、この度の自身の所業に対する謝罪をしなくてはなりません」
「ほえ?」
……そういえば、仲直りしよって手紙が来てのことだったね。私、何で自分がオナペットにされるって思ってたんだろ? ……コハルちゃんか、イマジナリーお姉ちゃんの陰謀かな?*16
「春風メブキさん、あなたに非礼を謝らせてください。私が行った、不当で不誠実な陰謀。その渦中にあなたを巻き込み、苦しめてしまいました。そのことについて、ここに謝罪します。……申し訳、ありませんでした」
深々と、ナギサ様は頭を下げて。私、びっくりして固まっちゃった。だって、トリニティの一番偉い人が、私なんかにそんなことしてくれてるから。私が思ってた、足舐め和解とは全然違う光景。こ、ここまでしてくれなくていいのに!
「は、はわわっ、ナギサ様ダメです! 偉い人は、下々の者にはスケベを命令する立場なんです! 私に屈服しちゃダメです!!」
「それから、その様にあなたの精神を破壊してしまったこと。……取り返しのつかない悪行です、本来ならばあなたの言う通りに足を舐めてでも許しを乞う立場なのでしょう、私は*17」
「違う違う、ナギサ様は舐められてる方が似合ってます!」
「優しい少女に、こんな支離滅裂で狂った発言をさせる様になってしまった罪、いずれ贖います。ですが今は、今だけは待ってください。全て、エデン条約を締結した折に、私の業を晴らしてくださって結構ですので」
「私、おかしな子じゃないよ!」
「救護騎士団にも依頼します。ですので、ゆっくりと心を整えてください」
「病院はもう懲り懲りです!」
ナギサ様は、なんか変な女の子だった。違うよっていってるのに、全然信じてくれないの。こうだって決めたら、とことん話を進めちゃう。頭が良すぎて、相手の会話を脳内シミュレートで終わらせちゃってるんだね、多分。なんか、脳が海綿体になっちゃってる時のコハルちゃんみたいだね?*18
「ナギサ様、もう許したからお顔上げて! 仲良くなりたいのに、そんなことしちゃヤです!」
「……本当に優しいですね」
頭をナデナデされて、何か変な感じでムズムズしてる、そんな時のこと。ガタガタと、どこからか音がして。クスクスと、誰かの笑い声もする。エッ、妖精さんか何か、この近くにいたりするの!?
「もう、本当に待って。我慢できない、こんなの。ナギちゃんもメブキちゃんも面白すぎ! どんな会話してるのかなって、気になってただけなのに!」
「ミカさん!?」
「ミカしゃん!?*19」
なんと天井裏から、ミカさんが降ってきた。急なことでびっくりしちゃって、紙パンツがちょっと湿っちゃった。忍者なの? 対魔忍なの? ……ミカさんが対魔忍な筈ないでしょ、ふざけないで!!*20
「二人とも、仲良さげで安心したよ」
「……立ち聞きとは、趣味が悪いですね」
「ナギちゃんは口が悪いから、おあいこだね」
「ミカさんほどではありません」
なんか、さっきまでと違う雰囲気、主にナギサ様が。ミカさんが現れた途端、急にお口が解れたみたいに軽くなってる。わたし相手とは違って、何だか楽しそうに会話をしている。……私も仲間に入れて欲しいなぁ。
「ミカさんミカさん、いつから忍者してたんですか!」
「ずっとだよ⭐︎」
「凄い!!」
つまり、ずっと天井に張り付いていたってことだよね。それとも、隠し小部屋とかあったのかな? どっちにしても、ミカさんってばお茶目なおてんばさんだよ! エロゲーのメインヒロインって言われても、私信じちゃうね*21。
「それで、デバガメしていたミカさんは、何が面白かったのですか」
それで、いま不満気なお顔になってるナギサ様は、ライバルヒロインなの。メインヒロインにボコボコにされすぎて苦しい時に、主人公が勝ちたいよねって手を差し伸べたらルート分岐! ナギサ様も綺麗だもん、清楚系エロゲーヒロインとして売り出せちゃう。イマジナリーお姉ちゃんは、実家のペット役をよろしくね?*22
「だってナギちゃん、メブキちゃんをこわしちゃったー、とか言い出すんだもん」
「ミカさん、元はと言えば、そうなった遠因は貴方にもあるんですよ! それを笑い飛ばすのは、流石に看過できません」
「待って待って、ナギちゃん違うよ。メブキちゃんはね、元からこんな感じの子」
「──正気ですか?」
「じゃなきゃ、事なかれ主義のセイアちゃんがああいう風にはならないよ」
「では、この春風さんのエキセントリックな言動は、元来のもの……?*23」
「因みに、私も足を舐められちゃいそうになったよ」
「えぇ……」
あれ、なんか私、もしかして悪口言われちゃってる? 変な子ーって言われてるんだったら、それは違うよって言いたいな。
コハルちゃんやハナコちゃんだって、トリニティには居るんだもん。補習授業部換算だと、私たち性春派が多数なんだって証明できちゃってるしね*24。みんな恥ずかしがって、内緒にしてるだけだもん!
「メブキちゃんは、ナギちゃんの足舐めたい?」
「ナギサ様の足……」
チラリとナギサ様を見つめると、恥ずかしそうに身悶えする。私、もしかすると魅了の魔眼を手に入れちゃった? 型月世界で生きてけるみたいな。そうだったら、今からコハルちゃんにお家に帰ろうよっておめめを見ながら言いに行くけど*25。
「舐めて仲良くなれるなら?」
「だってさ、良かったねナギちゃん!」
「舐めなくても仲良くなれます!!」
「そうなの!?」
「そうなのです!!」
肩で息をしながら、ナギサ様は私に手を差し伸べてくれた。良く考えずにその手を握り返すと、ナギサ様はジーッと私と視線を合わせてくれたの。とっても綺麗だけど、何だか可愛い人。お姉様って感じがするね!*26
「春風さん、これは仲直りの握手です」
「……ナギサ様と、もう仲直りしましたよ?」
「あれは謝罪です、仲直りではありません。なので、その……いえ、やはり図々しいですね。私が口にするには」
良くわからないけど、なんかナギサ様はムズムズしてるって感じのお顔。ミカさんにヘルプを求める視線を向けると、面白そうに笑ってるだけ。なんだろ、悶えてるナギサ様がミカさんの性癖なのかな?
うーん、分かんないね! でも、分かんないから、自分の分かる範囲でナギサ様と仲良くしたいな。だって、ミカさんの友達で、ヒフミちゃんのお姉様なんだもん!*27
「ナギサ様!」
「は、はい、何でしょう」
「私と、お友達に、なってください!!」
思いっきり大きな声で、私はシャウトした。多分、ナギサ様は驚いちゃうかもしれないけど、それが一番気持ちがよさそう(えっちな意味じゃないよ!)だったから。
ナギサ様は、キョトンってなってた。可愛いね?
「……それは、どういう意図があるのですか」
「えっと、お友達になったら、喧嘩しても仲直りしなきゃってなりますよね? 友達と、ずっと喧嘩したまんまなのは嫌だから」
「そう、ですね……」
不思議そうなナギサ様は、小首を傾げたまま。どうしたのかな。
「良いのですか、春風さんは」
「にゃにがでしょうか!」
「あなたと、そのご友人を危機に陥れたのは私なのです」
「だから、仲直りしようって話なんですよね?」
「…………悪い子ではない。そういうことでしたか、ヒフミさん」
握手してた手を、そのままブンブン振ると、ナギサ様もちょっと振り返してくれた! 距離が近づいた感触、誰かと仲良くなれるのっていつになっても嬉しい。私はね、誰にだって好かれたいし、誰のことだって好きになりたい。そんな生き物なのかもしれないね?*28
「ふふっ、そういうことでしたら。よろしくお願いしますね、春風……いいえ、メブキさん」
「はいっ、ナギ様!」
「……ナギ様?」
「お友達だから、ナギ様です!」
「あー、ナギちゃん良いなぁ。メブキちゃんに渾名つけてもらったんだ」
「め、メブキさん、ミカさんを呼ぶ時のように、ナギサさんで良いのではないでしょうか?」
「ナギ様は、ナギ様なんですよ?」
「???」
ナギ様の妹のヒフミちゃんはナギサ様で、ナギ様の親友のミカさんはナギちゃんって呼んでる。そこでね、私も独自性を出した方が良いのかなって思って。二人の呼び方を交尾させたら、丁度いい感じにナギ様ってのになったの。可愛いのに敬意があって、素敵な呼び方だよね!*29
「ナギ様って可愛い呼び方だと思います、頭なでてください!」
「え?」
「ナギちゃんやらないんだったら、私がやるー!」
「わーい!」
「えぇ……」
ミカさんは、相変わらず春風メブキ甘やかし検定一級の所持者だね。ナギ様は、今から哺乳瓶を持って、私に牛乳を飲ませる訓練をして欲しいよ! ……でも、そんなこと言ったら、流石に友達でも粛清されちゃうのかな? 偉い人だもんね、ナギ様。それは怖いし、ちょっとマイルドな言い方にしないとだよ。えっとね、じゃあ……そうだ!
「ナギ様は、将来赤ちゃんが欲しいですか?」
「急に何の話です、メブキさん」
「将来の赤ちゃんのために、私がナギ様の赤ちゃんにならないとって思って*30」
「は?」
ナギ様は言葉を失ったみたいに口をパクパクさせてた。急に自分がお母さんになっちゃうって思って、ビックリしちゃったのかな? でもね、急に母親になることもあると思うんだ。えっち本で見た、ヤリチン男と付き合った女の子もそんな感じだったし。
あ、ミカさん、お顔近いよ? 顔面偏差値がメインヒロインだから、ちょっとドキドキしちゃいそう!
「メブキちゃん、急にどうしちゃったのかな?」
「ナギ様は教育ママになる才能がきっとあるから、今ならイマジナリーお姉ちゃんがセットで養子になってくれるよ!*31」
「ナギちゃん、お母さんになるの?」
「なるわけ無いでしょう!! そもそも、イマジナリーお姉ちゃんとはなんですか!」
「セイアちゃんだよ」
「セイアさん!?」
頭を抱えながら、私をチラッと見てくるナギ様。多分、認知しようかしまいかで悩んじゃってるんだね。ミカさんにアイコンタクトされて、私は力強く頷く。畳み掛けて、自分が生んだんだってナギ様に認めさせれば良いんだよね!!
「思い出してください、ナギ様。私、あなたの産道を通ってきたんだよ。ほら、耳を澄ませてください、イマジナリーお姉ちゃんの声、聞こえますよね? バブゥって言ってます」
「待ってください、頭が痛いです。……毎日こんな情報を流されていたら、セイアさんも人が変わるというものですか*32」
「ママ?」
「ナギちゃんママ!」
「ナギ様、ミカさんも認知して欲しいらしいです!」
「私はあなた達のママではありません!!!!」
結局、ナギ様は私とイマジナリーお姉ちゃんを認知してくれなかったの。酷いね? でも、一日中ミカさんが笑ってくれてて、何だかこっちも嬉しかったなぁ。ナギ様、今度会う時はヒフミちゃんも一緒じゃないとダメって言ってたけど、姉妹の絆を見せつけてくれるのかな? だったら、私達も対抗して新型のイマジナリーお姉ちゃん棒の開発に着手しないとだね!*33
◯月☓日
今日はナギ様に親権も放棄されて、私もイマジナリーお姉ちゃんも親なき身の上となってしまいました。悲しいことですが、これは現実です。ナギ様はシングルマザーとなることを拒否して、経産婦であった過去を隠蔽しようとしているのです! そして、そこまで考えて、とんでもない事実に気が付いてしまいました。
ナギ様がお母さんということは、なんとヒフミちゃんが叔母様って事になっちゃうんです! 大好きな友達が親戚、それも叔母になるということ。このことに中々頭がついていきませんが、なんとかこの現実を受け止めて、ヒフミちゃんに叔母さんって言える日がくればいいなって思いました。
あなたの愛する妹より かしこしこ
◯月◇日
君がナギサをお母さんと思い込んでる過ち、それでも友達だと思い込んでいる図太さ、ナギサのティーセットからお菓子をひたすら略奪していった強欲さ、全てに物申したいところだがまず最初にこれだけは指摘させて欲しい。今までで一番惜しい! 一番原型が残っている、むしろ余計なものさえそぎ落とせば今度こそ”かしこ”として完成する!
あと一歩だメブキ、しこしこはしないでかしこしてくれ。君と文通しているような楽しい場だからね、その調子で学び続けていってほしい。
それからだが、私は真っ先にナギサに謝罪に行ったよ。ただ、ナギサ側も私に大変なのだろうと同情してくれてね。好きでやっているんだと言ったら、苦笑いされてしまったが彼女とミカの関係も似たようなものだろう。同病相憐れむといった風情だったが、ナギサと分かりあえた気がしたよ。
その後、シミコに捕まってね。探偵のごとく、様々なことを尋ねたり引き出そうと必死だったのは、好奇心や知識欲から来るものではなくて、君のために一生懸命なんだろうね。何とかはぐらかして逃げられたが、また君の方からフォローを入れてくれると助かる。悪いが、どうかよろしく頼むよ。
君の健やかな日々を願う姉より
追伸:そのイマジナリーお姉ちゃん棒なるゴミを作る資金を、直ぐに口座に戻してきなさい