コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです!   作:ペンギン3

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フラグメント4

 エデン条約、トリニティ-ゲヘナ間における争いを抑止するための平和条約。これを最初に提唱したのは現在失踪中の連邦生徒会長であるが、残されたアイデアの強力な推進者となったのは桐藤ナギサ。

 

 ティーパーティー現ホストである彼女は、ミカの起こした騒ぎを何とか揉み消し、ティーパーティーの権威を保持することに成功した現状にホッとしていた。トリニティで内紛騒ぎなど起ころうものなら、ここまでの努力が全て水泡に帰すのだから。

 

「ナギちゃん、ため息なんて吐いてどうしたの?」

 

「いえ、ミカさんの粗相の跡を掃除した疲れが出たのかもしれません」

 

「……うん、ごめんね、ナギちゃん」

 

 傍にいたミカに話を振られたナギサの目元には、大きなクマが存在していた。それは、この日まで超人的努力を重ねてきたが故のもの。だから、ミカはいつもの様に茶化せなかった。それも、自分が要因で幼馴染の親友に苦労させてしまったのだと思えば、しおらしくもなるものだった。

 

「ミカさん、反省している様で何よりですが、それならば手伝ってください」

 

 尤も、苦労をしているナギサ本人は、ミカのそんな顔が見たい訳ではない。彼女の爛漫とした顔こそが、ナギサの本当に求めているものだから。

 

「何すればいいかな?」

 

「こちらの書類を処理して、それからお茶でも淹れてきてください」

 

「はーい、えーと何々? ……ふーん、ナギちゃん、外からの団体入れちゃうんだ。大丈夫かな?」

 

「ええ、万全を期すためにも、万難を排さなくてはなりませんから。シスターフッドと古関ウイさんが割り出した地点を、確実に綺麗にしていただきます。それに彼女たちは、契約さえ守られているうちは誠実に仕事を果たすでしょう。それが労働だと、著作にも書かれています」

 

「著作?」

 

「こちらです」

 

 ミカが手にした書類は、エデン条約当日における会場の古聖堂への点検保守作業についての契約だった。そう言えば、セイアがメブキ顔で"当日にミサイルが撃ち込まれ、周囲に仕掛けられた爆薬のせいで被害が拡大する"としたり顔で話していたことをミカは思い出す。

 

 因みに、コハルがそんなメブキを見かけたら、当然エッチなことを語っていると断定するくらいのドヤ顔だった。

 

「"労働革命論 プロレタリアートとプリンアラモードは似ている"……ナギちゃん、これ本当に大丈夫?」

 

「大丈夫です、このバカの様なタイトルからは想像できないくらい、本の中身や内容はしっかりとしていました」

 

「ふーん」

 

 ナギサはとても落ち着いていたため、胡乱に思いながらもミカはペラペラと本を捲っていく。そうして目につくのは、労働条件は如何にして緩和されるのかということや、合理的な現場を作るための大まかな配慮などが綴られた内容──の他に、資本家や資産家へのバッシングが、わんこそばの様に飛び出してくる内容だった。

 

「ねえナギちゃん、本当にこれ大丈夫かな? 私、別の意味で心配になってきたんだけど。当日、アリウスと結託して暴れられたりしない?」

 

「大丈夫です、ミカさん。その本の本質は、自分たちは誠実に働いているのに報われきれていない、その点を改良していくためのものです。ならば、報われたと、搾取されていないと感じさせてしまえばいいのです」

 

「どうやって?」

 

「お金はもちろん相場以上出しますが、それ以外にもトリニティ内で使える様々な特権を付与します。例えば、プリン引換券を一年分供給することを始めに、プリンで有名な大衆店をレッドウィンターに出店するなどです。更には、プリンを作るための牛乳を一年、安価で輸出する条項も盛り込んでいます」

 

 他にも、ナギサは様々なものを用意して、徹底的に厚遇した。万が一、裏切られることのない様に。正直に、あなたたちの心は買えないので、働きたいと思える環境を用意したと伝えましたと伝えて。

 

 ナギサは依頼先のプライドと自尊心のあり方を見抜いたが故に、最大限の配慮をしていた。頭を下げて、是非にと頼み込みながら。彼女たちが、キヴォトスで一番のプロフェッショナルであると調査をして知っていたから。

 

「ナギちゃん」

 

 そんな深慮の判断を下したナギサに、ミカは優しく呼びかけた。まるで、病人を労る様に。

 

「プリンじゃ人の心は買えないよ」

 

 いそいそと、ミカはナギサを担ぎ上げた。今すぐ、ベッドでグッスリしてもらわないとと決意したから。

 

「み、ミカさん!? 違います、私は錯乱しておりません!」

 

「頑張り屋さんは、みんなそう言うよね。ごめんね、ここまで私のために頑張ってくれて」

 

「入念なリサーチの結果、プリンが一番だったんです!」

 

「プリン食べたいんだ。待ってて、買ってくるから。寝る前に一緒に食べよっか?」

 

「話を聞いてください、ミカさん!!」

 

 何故かナギサを担ぎ上げたままプリンを購入しに行ったミカは、真っ赤になって頭を抱えているナギサをベッドに運び込む。そこで二人でプリンを食べて、何かを言い募っているナギサにシーツをかけて子守唄を唄った。

 

 常時のナギサならば、バカにしているのですかと怒ったことだろう。ただ、本気で疲れ切っていたナギサは、スヤスヤと眠りの世界に旅立ってしまったのだった。

 

 二時間後、目をパッチリさせたナギサは、眠る前よりも格段に向上した事務処理能力で書類を捌いていく。それを見たミカは、やっぱり疲れてたじゃんねと確信し、ナギサを見ててあげないとと言う気持ちを強くしたのだった。

 

 ──なお、ナギサが提示した契約を工務部、レッドウィンターが誇る施工屋は、ブルジョワジーが云々言いながらも締結してしまっていた。ナギサが契約書に込めた、プリンに対する敬意をしっかり汲み取れていたから。ミカは、頭がハテナで埋め尽くされた。

 

 

 


 

 

 

「改めておさらいします、セイアちゃん」

 

 セイアとハナコは、改めてエデン条約についての話し合いを百合園家で行っていた。

 

 メブキはハナコの胸に沈んで、幸せのまま失神してセイアとバトンタッチ。こんなふざけた方法で呼びつけられたセイアは、妹と友人に対して、不適切な不純同性交友だと苦言を呈さざるを得なかった。メブキが無駄に幸せそうだったのが、どうやら癪に障った様だ。

 

「纏めると、こんな感じでしょうか?」

 

 ハナコが大体の要点をルーズリーフに纏めたものを見て、目を通したセイアは頷いた。おおよそ、これで間違っていなかったから。以下は、確率的に起こるであろう多くの並行世界で起こった出来事を、箇条書きしたものである。

 

・エデン条約締結当日、アリウスにより巡航ミサイルが発射される

・ミサイルは会場の古聖堂を直撃してナギサは昏倒、ゲヘナ代表の羽沼マコトはその場から逃げ出す(後に爆散、暫く行動不能に)

・条約の締結者が不在になったところをアリウスが襲撃、条約そのものを乗っ取る

・エデン条約の主人となったアリウスは、何らかの方法でかつてのユスティナ聖徒会の亡霊を呼び出す

・亡霊はアリウスに従いながら無限に湧いてきて、対処は非常に困難(※そのままトリニティ全土を席巻しなかったことから、行動範囲に制限があるものと推察)

・先生がアリウスに襲撃され、銃撃を受けて重体に

・両首脳陣と先生が指揮を執れず、事態は収拾不能に

・トリニティ間では、権力の空白が発生してゲヘナ強硬派が活発に

・ゲヘナ間でも、門戸を閉ざして籠城する形で冷戦状態に移行

 

 書き出している最中に、先生のところでハナコの手が一瞬止まった。だが、単なる文字だと振り切って書き出しを続けて。おおよそ、セイアが多くの世界で起こる共通の出来事を書き出し終えて、ハナコは思案した。

 

 既にセイアの暗躍によって、幾つかの出来事に対して対策を施されている。

 ミサイルは防ぎようがなくとも、被害を最小限に留められる様にナギサが手を加えている。マコトに対しては、最悪ヒナ風紀委員長辺りを代理人として立てても良い。ナギサの護身はミカが行うだろう、何ならミサイルを迎撃しかねない。きっと、ナギサは無事でいられる。

 

 ならば、とハナコが気にしたのは一つだけ。ユスティナ聖徒会のことだった。

 

「エデン条約の乗っ取りと、ユスティナ聖徒会の亡霊。これらに対処する案を、セイアちゃんは持っていますか?」

 

 ハナコに問いかけられて、セイアは少し困った顔をした。ハナコは、それはメブキちゃんがエッチなことをされないか心配している時の顔ですね、と心の中で呟いた。

 

「乗っ取りを阻止する方向性で行くしかないと思ってる。受け身にならざるを得ないが、それしか思いつかなかった。当日までに、アリウスの中枢メンバーを叩く遊撃隊を編成してもらう予定だ」

 

「セイアちゃんではなく、別の……先生ですか?」

 

「ああ、シャーレに対処してもらう方が確実。それは確かな事実だからね……」

 

 何か引っ掛かるような言い方に、ハナコは少し眉を寄せた。それは、先ほど自分の手で書いた文字列の感触が、まだ手に残っていたから。

 

「危険、ではありませんか? 先生は銃弾を受ければ、簡単に傷つき倒れてしまいます。確かに、先生の指揮があれば戦いを有利に進められます。ですが、巡航ミサイルまで飛んでくる現場に先生を呼び込むのは、あまりにも無責任ではありませんか?」

 

 棘を持ったハナコの言葉が、セイアに向けられる。ハナコから見て、セイアは自分で解決できない事柄を先生に全て丸投げしたように見えたのだ。事実として、そういった側面が無いわけでない。先生は生徒と比べて、とても儚い存在だというのに。

 

「ハナコ、君の言いたいことも分かる。私も、先生を矢面に立たせるような真似はしたくない」

 

「なら、どうしてですか?」

 

 ハナコの硬い問い質しに、セイアはムッツリと答えた。

 

「先生にも相談をしたら、任せてと言われたんだ。生徒の危機があるなら、それは大人が何とかすることだからと。このまま、やはり危険だから来ないでくれといっても、先生は来るだろう。自分にできることを、できうる限り行う。彼はそう言う人だからね、迂闊だったよ……」

 

 後悔するようなセイアの言葉に、ハナコも悩ましげな顔で黙り込んだ。確かにその通りで、そんな人だからこそ自分達も救われてきているのだ。安易に否定は出来ず、だからこそ心配してしまう。

 

 ならばと、ハナコは口を開いた。彼女にできるのは、先生が傷つかないようになるような代替案を用意すること、それのみだったから。

 

「ナギサさんとマコト議長、もしくはヒナ委員長でエデン条約を締結する。それが不可能な場合は……」

 

 ハナコはそこで少し思案してから、一つの結論を出した。先生には、前線に出て指揮なんてしてもらう必要はない。当日に先生に指揮してもらうのは、先生が一緒に行動できない、そんな特殊戦のエリートの生徒をあてがえば良いのだと。そうすれば、先生は否が応でも後方から指揮せざるを得ないから。

 

「セイアちゃん、連邦生徒会──そうですね、防衛室に推薦状を書いていただけませんか?」

 

 

 


 

 

 

「こんにちは、先生。ご活躍はかねがね伺っています。本来ならば、手を取り合うべき仲だと言うのに、今日までご挨拶に伺えずに申し訳ありませんでした」

 

「始めまして、こちらこそ挨拶にも行けてなかったのに、急に押しかけてごめんね」

 

 エデン条約に向けて、協力依頼を出す生徒を選抜していた先生に届いた一通のメール。それはイマジナリーお姉ちゃんから届いた、とある学園への推薦状だった。何でも、ヴァルキューレ警察学校でも対処できない困難な案件を解決する、そんな学校があるらしい。

 

 専門家がいるなら、そちらに頼ってみようかと先生も判断して、サンクトゥムタワーの防衛室までやって来たのだ。そうして現在、防衛室で先生を出迎えたのは、ピンク髪の連邦生徒会の制服を纏った柔和な笑みを浮かべた少女だった。

 

「防衛室長の不知火カヤと申します、以後お見知り置きを」

 

「私はシャーレで先生をやっている──」

 

「はい、存じております。アビドスでのカイザーの摘発、お見事でした」

 

 カヤの常に柔和な笑顔は、先生に既視感を覚えさせた。それは、ナギサの上品な笑顔の仮面。いつだって本音を覗かせないようにする、身を守るためのペルソナ。

 

「あれはアビドスの子達が、必死に頑張っただけだから」

 

「……アビドスはこれまで、カイザーに虐げられる存在でした。そんな彼女達が立ち上がるには、何かキッカケがあるものです。それが先生だったのだと、私は考えています」

 

 カヤの糸目から、絡みつくような視線が先生に向けられている。どんな人物なのか、見極めようとするために。先生はそれに気が付きはしたが、特に咎めるものでもないと話を続けた。カヤの立場からして、必要なことだろうとも思ったから。

 

「生徒のために手助けする、それが先生だから」

 

「なるほど、今回の依頼も、その一環であると?」

 

「うん、カヤの方からSRT特殊学園の生徒に、協力してもらえるように依頼してもらえないかな?」

 

 カヤは少し考える──振りをした。結論は既に出しているが、そういうポーズが大事なのを知っているから。そうして、少し考えた振りをしてから、困ったような顔を浮かべたのだった。

 

「ですが先生、連邦生徒会はエデン条約に対しては、中立を保つために不介入の立場をとっています。ここで私が口利きするのは、その……困るのです」

 

「……政治的に?」

 

「はい、政治的に」

 

 カヤは先生を誘導していた、自責がないように。──それでいて、借りを作れるように。

 

「それなら、私の方からリンちゃんに話をするよ。責任は私にあるし、カヤは私に無理強いされただけだから」

 

 でも、先生のその言葉に、カヤは拍子抜けしてしまっていた。人は、責任という言葉をとかく嫌うタチにあるから。先生がこうもあっさりと、その言葉を口にしたのが意外で。

 

「……そういうことでしたら、私も協力いたします。平和のための条約ですから、元より厭う理由もありませんし──もう直ぐ閉校になってしまうSRT特殊学園を思えば、最後に華を持たせてあげたい気持ちもあります」

 

「え?」

 

 閉校という言葉に目を丸くした先生に、カヤは塗り込むようにして言葉を畳み掛ける。申し訳なさというのは心に残りやすく、借りを作るのにはそれが一番であることをカヤは知っていたから。

 

「ご存知ありませんでしたか、先生。SRT特殊学園は連邦生徒会長が運営していた学園でしたが、責任を負う会長が失踪し、誰もその責を負いたがらなかったがために閉校することになりました。こうなると分かっていたから、SRTの代替としてシャーレを設立する必要があったのでしょうね」

 

 残念ですと言いながら、カヤは先生の反応を窺って。

 

「……どうにかできないかな?」

 

 その言葉に、カヤは思わず笑みを浮かべそうな自分を律するのに必死になった。大人を手で転がす感覚が、何とも気持ちよく感じてしまえたから。まるで、自分が大人になった快感すら、その時のカヤにはあった。

 

「そうですね、当日に先生が危惧するような事件があり、そこで活躍すれば、或いは……」

 

 勿論ウソだった。もうSRTが閉校するのは既定のこと、覆しようがない。ただ、定例会議で形だけでも駄々を捏ねる。そうすることで、先生にポーズが取れて恩も売れる。とても安いことだと、カヤは判断して。

 

「分かった、ありがとうカヤ」

 

「いいえ、先生にはこれまで、負担ばかり掛けてしまっていましたから。これで、少しは恩返しが出来たのなら良いのですが」

 

 自分は猫を被り、先生には恩を着せながらの言葉。半ば、わざとらしくさえ聞こえるそれは、先生に苦笑と一緒に迎えられた。

 

「覚えておくから、何か困ったことがあれば言って」

 

「こちらの方こそ、先生が必要に感じた時、いつでもお声がけください」

 

 先生はまだまだ子供なのかもしれませんね、と内心で扱いやすさを感じながら、カヤは退室する先生の背中を見送って。

 

「──先生は、銃をお持ちでないと聞きました。理由はあるのでしょうか?」

 

 退室する直前に、自分に優位性があるという思い込みから、カヤはそんな質問を投げ掛けていた。先生は振り返ってから、少し考えて。

 

「手に、馴染まないからかな」

 

 そんな言葉を残して、先生は今度こそ退室した。そうして、部屋には取り残されたカヤは……。

 

「手に馴染まない、ですか」

 

 何故だか、先生への好感度がちょっとだけ上がっていた。子供っぽい人だという感想とは別に、先生が善人だということは認めていたから。

 

「やはり、銃器が心身を荒ませているのでしょうね」

 

 先生のあり方をチラ見くらいして、カヤはそんなことをボヤいた。統計すら取っていない、数字の裏取りの無いそれは、単なる感想と呼ばれるものだった。

 

 

 一方で、翌日のシャーレにて。

 

「七度ユキノ以下FOX小隊4名、着任致しました」

 

「もっと肩の力を抜いて良いからね?」

 

「いえ、これが最後の任務ですから、隙なく在りたいのです」

 

 堅物の隊長に、先生を警戒気味に観察している生徒達がやって来て、どう打ち解けようかと先生は悩むことになった。

 

 

「報告に目を通しました、当日はゲリラ戦が予想されます。先生は後方より、戦略的な指揮を執っていただきます」

 

「呼びつけておいて、ユキノ達に丸投げするのはね」

 

「では、言い方を変えます。邪魔になりますので、大人しくしていてください」

 

 にべもない正論に、ちょっと先生は傷ついて。体力の問題なのかなと、コソッとFOX小隊の訓練に混じり始めたりもした。当初、何だこいつみたいな目で見られていた先生は、頑張りすぎるあまりに訓練途中で気絶することもあって。

 

「ユキノちゃん、もうちょっと先生と仲良くしてもいいんじゃ無いかな?」

 

 気絶した先生を背負ってシャーレに連れ帰る最中に、小隊の隊員からそんな言葉を投げ掛けられた。それは、先生が頑張って歩み寄ろうとしてくれてるが故のことで、可愛い人だなとその隊員は認めてしまったが故の言葉。

 

「……そうだな、体力はないが根性は人一倍みたいだ」

 

 そうして、ユキノも自分たちのために精一杯やってる人を、あまり無碍に出来るほど冷たい女の子でもなかった。大人の男性、それにしては少し体重が軽いようにも感じたから。

 

「現場に連れて行くには、あまりにもお粗末だけれど……仲間として接するなら、まぁ」

 

 その日から、FOX小隊の方からも、先生にコンタクトを取ってくれるようになっていた。何だかんだで、先生は生徒と距離を詰めるのが上手かった。

 

 

 


 

 

 

 静謐の学園、アリウス分校。そこはかつて、トリニティの弾圧より逃れた生徒達が、復讐心を何代にも渡り継承して来た学校。それは最早、教義と言っても差し支えないところまで来た思想で。

 

 現在、その思想の源を掌握した一人の大人が、学校の奥底に潜んでいた。

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

 いくつかの報告書を片手に、その大人──ベアトリーチェは納得を示した。聖園ミカの裏切り、伏兵の存在、他にも様々な理由はあれど、明確に特異な点を挙げられるとすれば二つ。

 

 一つ目、シャーレの先生。寡兵を以て多数を撃ち破る、このキヴォトスにおいて一番の指揮官。だが、崇高の力を以てすれば勝てない相手ではない。先生自身には、規格外の力など存在しないのだから。

 

 二つ目、百合園セイア。未来を予知する神秘を持つ、ベアトリーチェが真っ先に消すことを選んだ生徒でもある。恐らく、自身と相対することになれば、一番厄介なのがこの神秘だと判断した故のこと。

 

 そのベアトリーチェの予感は、面白いほど的確だったと証明された。アリウスが仕掛けたこれまでの全ての計略は、百合園セイアの手によって振り払われたと言っても過言ではないのだから。

 

 ならば……どうするべきかなど、論ずるまでもない。更なる崇高を目指すための道筋を、ベアトリーチェは求めているのだから。

 

「色彩共々、取り込んでしまいましょうか」

 

 自身がその神秘を略奪できれば、敵は誰もいなくなると確信したが故の言葉。結局、暗殺は防げなかったらしく、全ての未来を見通せるわけでないにしてもだ。元の身体はどこにもないのならば、よりその神秘を取り出しやすくなっているに違いないのだから。余技と言えるもので、彼女を収奪してしまえばよい。

 

 ベアトリーチェの目は、怪しく一つの写真を見つめていた。春風メブキ、外から訪れたであろうエトランジェの写真を。

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