コハルちゃんとは、えっち本を共有する仲なんです!   作:ペンギン3

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部活動

 

「どうしてチンゲンサイはあるのに、マンゲンサイはないのかな?*1

 

「あるわけ無いでしょバカじゃないの! 死刑!!」

 

 とある日のお昼休み、私は屋上でコハルちゃんとお弁当を食べていた。

 本当はいつも教室で食べていたんだけど、最近は私の猫まんまスターターキット(白いご飯と魔法瓶に入ったお味噌汁の2種)を見たクラスのみんなが、お弁当を色々と分けてくれるようになっていた。

 

 最初は嬉しかったけど、途中から申し訳なくなってきて。最終的に、私のお弁当をわざわざ買ってきてくれた子まで現れた。流石にそれはやり過ぎなので、今日から教室外で食べることにしたのだ。私は校舎を彷徨って、そうして便所飯をキメようとしたところで、コハルちゃんに捕まって一緒にご飯を食べている。

 コハルちゃんとご飯……えへへ、嬉しいね。青春だね!

 

「でも、チン毛はあるのにマン毛はないのって寂しいよね?」

 

「なっ、食べ物にそんな名前の付け方、おかしいじゃない!」

 

「でもほら、見て? 何か連想されてこない?」

 

 お味噌汁の具に入れていたチンゲンサイを意味深に咥えると、コハルちゃんは何かを察したかのような猫さんの目をして。プルプルと震える指先で私を指して、真っ赤になって叫んだ。

 

「ふ、不潔!?」

 

「不潔じゃないよ、チンゲンサイは野菜だよ?」

 

「そんなエッチな食べ物、口に入れたらおかしくなるわ!」

 

「おけけ生えたら、コハルちゃんに知らせるね?」

 

「いらないわよ、変態!」

 

 モグモグとチンゲンサイを食べると、コハルちゃんは手で顔を隠しながら私を凝視していた。普通に美味しくて、えっちな味は微塵もしなかった。ところで、えっちな味ってなんだろうね? イカ飯とか栗ご飯かな?

 

「ところでコハルちゃん」

 

「なによ」

 

「働いたことなくても働ける、淫靡じゃないアルバイトってあるかな?」

 

 ご飯も食べ終わって一息ついた時に、私は思い切ってコハルちゃんに相談していた。私のご飯が貧しいのはどうでも良いけれど、それで周りに心配させるのは違うと思ったから。そう、遂にどさんぴんを脱却する時が来たのだ!

 

「淫靡なアルバイトなんてある訳ないでしょ! それに、私は正義実現委員会で忙しいの。そんなの知らない」

 

「そっかぁ」

 

 確かに、部活動で忙しいとバイトなんてしてる余裕はなさそうだった。暇な時とか、屋上でコハルちゃんを見てると本当に精一杯やってるし。でも、それならどうしよう。私なんかを雇ってくれる、心優しいバイト先はあるのかな?

 

「……部活動でもしたら?」

 

「お金が必要なんだよ?」

 

「お金、出るから」

 

「そ、そうなの!?」

 

 何と衝撃の事実が発覚した。部活動はお賃金が出る、まさかの真実。なるほど、お賃金を沢山もらっているから、コハルちゃんは自分のことを正義実現委員会のエリートって言ってたんだ!*2

 

「私も正義実現委員会に入れば、お金持ちに?」

 

「あんたなんかがなれる訳ないでしょ。へなへなメブキの癖に」

 

「そんなことないよ! そこまで言うなら放課後に行くからね」

 

「あっそ、別に良いけど。周りに迷惑はかけないでよね」

 

 待っててね、私のお賃金。コハルちゃんを分からせて、私が迎えにいくからね!

 

 

 

 ……ダメでした。

 意気揚々と体験入部しに来た私を待ち構えていたのは、何キロにもわたる走り込みと、その後に行われる射撃訓練。そして最後に模擬戦だった。そして私は、走り込みでボロボロになり、射撃訓練は的外れで、模擬戦ではコハルちゃんにしばかれるという屈辱的な憂き目にあった。あんまりだね。

 

「まぁ、何事にも適性があるっすよ。体育会系より、文化系の方が得意っすよ、きっと」

 

 私についててくれた優しい先輩は、優しい声で私に戦力外通告を宣告した。その後ろで、コハルちゃんがだから言ったのにという顔をしていた。

 

 ごめんよ、コハルちゃん。コハルちゃんが行けるなら、私も才能が開花していけるんじゃって思ったんだ。微塵も私には反射神経的な才能はなかったみたいだけど。コハルちゃん、実は凄かったんだね。最初の日に組み伏せられたこと、今更ながらに思い出したよ。

 

「お世話になりましたー。コハルちゃんのこと、これからもよろしくお願いします!」

 

「ちょっ!?」

 

「任せるっす、大事な後輩だからね」

 

 努力していたコハルちゃんは凄かった。訓練できて、本当に偉いと思う。でも、それはそれとして謎の敗北感があったから、ちょこっとコハルちゃんが恥ずかしがる様なことを言って退散する。

 コハルちゃん、ごめんね? でも容赦しなさすぎるコハルちゃんも悪いんだよ?

 

 この後、コハルちゃんは口を利いてくれなかったけど、えっち本を見ているうちに有耶無耶になった。やっぱり、えろは世界を救うんだね!

 

 

 

 

 

「それで、ここに?」

 

「うん。正実の先輩に、圧倒的な文化系の才を見出されて*3

 

「運動ができないのと、文系であるかは別のような?」

 

「そんなことないって思ってるよ!」

 

 正実でしばかれた翌日、私は図書委員会にたどり着いた。他に行く宛てもなかった……だって、知らない人ばっかりだし。

 そう言った訳で、シミコちゃんに事情を話してお世話になろうとやってきたのだ。シミコちゃん優しいし、なんて下心はありまくってる。

 

「そうですね……メブキさんは、本はお好きですか?」

 

「物語は好きかな」

 

 シミコちゃんの問いかけに、私は朗々と答える。本は好きかどうか分からないけど、エロゲーは間違い無く好きだった。多種多様、様々な青春や世界を旅させてくれたから。なので自信を持って答えると、シミコちゃんはにこりと笑って。

 

「私の一存では決められないので、先輩とお話ししてもらいます」

 

 

 ……流れ的に、これからよろしくってことだと思ってたけど、そう簡単にはいかないね。トコトコと、シミコちゃんに案内されるままについていく。図書館から出て、ついていった先にあったのは、この前私がキノコの栽培予定地としていた古書館だった。中に入ると、古い紙とインクの匂いに、どこか遠くの場所に連れてこられたみたいな気持ちにさせられて。ちょっとした異界みたいで、ドキドキするね。

 

「図書室と、においが違うんだ」

 

「そうですね、籠もった匂いです」

 

 何故かシミコちゃんは呆れながら、閉め切られたカーテンと窓を次々と開けた。さっきまで感じていた異界の空気は祓われ、差し込んだ日光はまるでエロゲーの点滅するシーンみたいに私たちの目に入って。吹いた風が、本のにおいを薄れさせる。そういった空気が緩んだからか、辺りが衣類やら機材やらで散らかっていることに気がついた。

 え、ここに住んでるの?

 

「ウイ先輩、入部希望の方が来ましたよー」

 

 シミコちゃんは意に介さず、ドンドンと踏み入って。手慣れた様子で、テキパキと落ちているものを片付けたりもしている。

 

「シ、シミコ、勝手に外の人連れてこないで」

 

「これで全部かな」

 

 先輩さんの抗議は右から左へと流して、全ての窓を開けきった。多分、シミコちゃんがエロゲーにいたら世話焼き幼馴染になってることだろう。先輩さんは諦めたのか、突っ伏して滅びそうになっていた。

 

「それでウイ先輩、こちらが新入部員候補の春風メブキさんです」

 

「は、初めまして、先輩さん。物語の数だけ本を愛する予定の春風メブキです。よ、よろしくお願いします」

 

 身体を起こした先輩さんは、私をおずおずと見た。具体的には、私の顔をじっと。……もしかして、一目惚れ的なアレかな? 私、転生してから確かに美少女って思ってるし。

 

「偶、然? そういうことも、ある? ……様子見、した方がいい? 手元に置いても? ……どうせ、シミコが面倒見るし、良いか」

 

 私を見て何か呟いている先輩さんは、微塵も顔を赤くしない。もしかしなくても、一目惚れではなかった可能性が高かった。

 

「……わ、分かった。シミコに任せる」

 

「ウイ先輩、珍しいですね。もっと嫌がるかと思ってましたけど」

 

 エッ、シミコちゃん? 拒絶される前提で、私をここに連れてきてたりした? もしかしなくても、鬱陶しがられてる?

 思ってることが露骨に表情に出てしまったのか、シミコちゃんは慌てて違いますと否定してくれた。

 

「ウイ先輩は、関わる人を見極めようとします。どんな人か、本当は何を考えているのか。それを確かめるために、お使いだったり課題だったりを出してくるんです。メブキさんが、ここできちんと働けるかな、頑張れるかなって」

 

「言葉を選ばなくていいから。私は単なる人嫌い」

 

「正確には、本を粗末にする価値観が合わない人が嫌い、ですね」

 

 シミコちゃんの言葉に、モニョッと何かを噛み潰した顔をする先輩さん。もしかしたら照れてるのかもしれなくて、そう思うとこの先輩さんが可愛く見えた。黒髪だし、長いし、お揃いだしね!

 

「い、一応、条件をつけるから」

 

「何ですか?」

 

「ここ、古書館には近づかないで。それさえ守れるなら、どうぞお好きに入部していただいて結構です」

 

 突き放される様な言い方に、ちょっと寂しくなってしまう。トリニティ出会った人たちの殆どが、親身になってくれる人ばっかりだったから。けど、入部させてもらえるのはありがたくて。私は頭を下げてお礼する。

 

「あ、ありがとうございます。入館者一億人目指して頑張ります!」

 

「人数増やすと、その分騒ぐバカも増えるから……。騒がしいのは嫌いで、だから煩くしたら退部」

 

 先輩さんの一言で、私がこっそり図書館に七不思議を増やそうとしていた野望は一瞬で潰えた。あったりなかったりするえっち本、そういう噂を流せば来てくれる人増えるかなって思ったのに。

 

「うん、それじゃあ」

 

 先輩さんは、もうお話は終わったと言わんばかりに、視線を出入り口の扉にやった。いやらしい意味ではなく、もう帰ってのニュアンスということは、私にも何気なく分かった。

 

 ……仲良くなれなかったのは寂しいけど、仕方なしに出て行こうとする。けど、シミコちゃんに手を掴まれて、引き止められた。振り返ると、シミコちゃんは困惑した先輩さんに嗜めるように告げた。

 

「ウイ先輩、名前くらいは名乗るべきです」

 

「? ……あっ、考え事をしていて忘れてた」

 

 シミコちゃんに告げられた先輩さんは、ふと思い出したと言った感じで慌てていた。そういえば、自分のことで精一杯だったから気が付かなかったけど、まだお名前を聞いてなかった。

 

「こほん……古関ウイ。よ、よろしく」

 

「っ、はい!」

 

 単純だと思うけど、先輩によろしくと言われて嬉しく感じていた。無碍にされてない、またお話ししようねって言ってもらえたみたいで。

 

「良かったですね、メブキさん」

 

「うん、シミコちゃんありがとう!」

 

 古関先輩と、ちょっとだけ仲良くなれた気がした日だった。シミコちゃんとは、もっと仲良くなった気がする。仲間になれたみたいで、青春を感じちゃう。

 私、今日から図書委員会の一員だよ! 

 

 

 

 そして、後日のお昼休み。

 私とコハルちゃんは、やっぱり屋上にいた。

 

「それで、貧しくなくなった結果がソレなの?」

 

「えへへー、良いでしょ?」

 

 私の魔法瓶の中身は、お味噌汁からスープカレーへと華麗な変身を遂げていた。カレー、きっと最強だよね?*4

 

「コハルちゃんもいるー?」

 

「いらない、あっ、こっちに飛ばしたら怒るから」

 

 みんな、もっと羨ましがってくれてもいいんだよ? 何で距離とっていくのかな? カレーで人気者になれるはずだったんだけどね、おかしいね?

 

*1
言語それ自体を侮辱できるものなんだね、初めて知ったよ

*2
思い違いを訂正しておくと、公共性の高い部活動には部費の他に部員へ活動費が支払われるんだ。君が無意識に考えた、えっち本探究委員会なんて部費すら出したくないし、活動の承認すらしないよ

*3
誇大広告も甚だしい

*4
味噌汁よりも悪化してるじゃないか……





ウイ、シミコに対してタメ口で話してそうなので、図書委員会の後輩にはタメ口で話していることにしました(タグ、独自解釈)。
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